利根川図志

幕末に赤松宗旦が著した利根川流域の地誌

利根川図志』(とねがわずし)は、江戸時代末期に赤松宗旦(あかまつそうたん)が著した利根川中・下流域の地誌である。

解題

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執筆時期については、序文に江戸時代末期の安政2年(1855年)と記されている[1]。また、『利根川図志調帳』には、「安政4年(1857年)10月に『利根川図志』が完成し、取材協力者に送った」とあるので、この頃には製本が完了したことが分かる[2]。安政5年(1858年)4月、幕府から正式に出版が許可され、頒布されるようになった[3]

執筆者の赤松宗旦(赤松義知)は、下総国相馬郡布川村(現在の茨城県北相馬郡利根町布川)の医師。文化3年(1806年)生まれ。父の恵も宗旦と称しており、義知は二代目であった[4]

紹介されている地域は利根川中・下流域。現在の渡良瀬川合流地点から太平洋河口まで、すなわち、茨城県古河市から千葉県銚子市までの広い流域を対象とし、各地の名所・旧跡・名産品・風土・風習などを、多数の挿絵を交えて紹介している[5]

挿絵を描いた絵師も多彩で、宗旦自身が残した『雑話』には、葛飾北斎[6]葛飾為斎山形素真湖城喜一玉蘭斎貞秀一立斎広重の名が見える[7]

続編については凡例に、「而して上利根川の方、亦継で筆を起こさむとす、その考察においては、亦上武諸哲の教を期つ」とあり、宗旦は上流域を対象とした続巻の構想を持っていたことが分かる[1]。実際に、『利根川図志後篇 草稿巻一』、および、「利根川水源并支流名称」・「利根川御用御船印」・「木下シ旅人船御定」の記載がある史料が残されている。しかし執筆途中の文久2年(1862年)、宗旦は57歳で死去し、続編は完成しなかった[8]

構成

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本書の構成は下記の通り[9]

巻数 項目名 分類 現在の市町村 大字等の位置情報 挿絵
巻一 序・自序・凡例 利根川全図(1~12)(絵地図
上利根川余五橋図(風景画
総論
運輸 鯛魚(動物画
天候 布川魚市之光景(鳥瞰図
物産 鮭魚(動物画)
サカベツタウ考(動物画・植物画
鰱魚大網の図(鳥瞰図)
カツパ(動物画)
巻二 利根川上中連合
鳥喰 町村 茨城県
古河市
鳥喰
茶屋新田 町村 茶屋新田
中田 町村 中田 古利根川図(絵地図)
静女舞衣 工芸品 中田・光了寺 静女舞衣(写生画
弘法大師鈐(写生画)
大桜 植物 大山・大光院(原文)
熊沢蕃山 史跡 大堤・鮭延寺
三島大明神社 寺社 水海
五ヶ村島 地名 猿島郡五霞町
川妻 町村 川妻 古文書(複写)
川妻隠里膳椀(写生画)
古河城舊址(栗橋城旧祉) 史跡 元栗橋 古河城舊址図(絵地図)
沙山 景勝 元栗橋 幸館村薬師堂生月塚(物語画)
富士見ノ渡 景勝 江川と関宿向河岸の間
六国山東昌寺 寺社 山王山
関宿城 史跡 千葉県
野田市
関宿
古河晴氏朝臣墓 史跡 関宿・宗栄寺(宗英寺) 古河晴氏朝臣墓(写生画)
大柳 植物 関宿・葦場 蛇柳(植物画)
掘割 逸話 関宿
おゝ腹くつて明神 寺社 水堀
我慢 地名 水堀
布施弁才天社 寺社 柏市 布施 布施弁才天社(鳥瞰図)
蟠龍石(写生画)
日天子社 寺社 我孫子市 青山
御療法性墓 史跡 都部・大龍山正泉寺
下利根川 河川 小貝川合流以降
堺町 町村 茨城県
猿島郡境町
女夫松 植物 坂東市 長谷・香取神社
鵠戸沼 湖沼 境町・坂東市 歩掛(鳥瞰図)
保地沼 湖沼 坂東市・常総市
衣川落口 河川 守谷市 大木
普門山禅福寺 寺社 つくばみらい市 筒戸
平将門舊祉 史跡 坂東市・常総市など 平新皇将門城址図(絵地図)
真王山延命寺 寺社 取手市
大鹿城 史跡 白山
大鹿山弘経寺 寺社 白山
大鹿山長禅寺 寺社 取手
取手宿 町村 取手
本多氏城址 史跡 井野
小堀河岸 河岸 井野
第六天山 地名 小文間
御墓松 植物 小文間
一色氏城址 史跡 小文間
戸田井ノ渡 景勝 小文間・小貝川両岸間
書巻川(ふみまきがわ) 河川 小貝川 蠶養川の落口(鳥瞰図)
水神社 寺社 北相馬郡利根町 押付
巻三 新利根川 河川
奥山 地名 北相馬郡利根町 新利根川と小貝川の間
文間明神ノ社 寺社 立木
布川 町村 布川
海珠山徳満寺 寺社 布川 地蔵市(鳥瞰図)
金毘羅社 寺社 布川
瑞龍山来見寺 寺社 布川
布川大明神 寺社 布川 布川大明神宵祭の図(鳥瞰図)
布川大明神帰輿并ツクマヒ図(鳥瞰図)
布佐 町村 千葉県
我孫子市
布佐 無相仕掛ノ図(鳥瞰図)
六軒掘 河川 手賀沼下流
手賀沼 湖沼 我孫子市・柏市など 手賀沼全図(絵地図)
大森 町村 印西市 大森 川菜(植物画)
雲冷山長楽寺 寺社 大森 荒井氏古文書(複写) [10]
長楽寺鐘銘(写生画)
鹿黒橋 橋梁 大森と鹿黒の間
竹袋城 史跡 竹袋
水神社 寺社 竹袋 水神社板碑(写生画)
木下河岸 河岸 竹袋 木下河岸(鳥瞰図)
狢池 湖沼 竹袋
稲荷山神宮寺 寺社 竹袋
地蔵堂 寺社 別所 月岡家矢筒(写生画)
石神社 寺社 別所
雲林山瀧水寺 寺社 瀧水寺鐘銘(写生画)
鳴沢 河川
天龍山龍腹寺 寺社 滝腹寺 棟札破片(写生画)
草深野 地名 草深など 貞直卿歌碑(写生画)
印西合戦 逸話 小林・小林城跡など 印西合戦(鳥瞰図)
埜原新田 町村 埜原
吉次沼 湖沼 埜原
巻四 印旛沼 湖沼 印西市・佐倉市など 印旛沼全図(絵地図)
印旛沼図(風景画)
佐久知穴 地形 印旛沼
鳥見ヶ丘 地名 印西市 萩原
松虫皇女廟 史跡 松虫
松虫の陣場 逸話 松虫
吉高代介城跡 史跡 吉高
吉高鮒 物産 吉高
カハボタル 俗信
花鳥山 地名 印旛沼の島
雨祈 伝承
瀬戸渡 地名 瀬戸と佐倉市土浮の間
印西産物 物産
師戸渡 地名 師戸と佐倉市臼井の間
巌戸塁 史跡 岩戸
吉田渡 地名 吉田と八千代市保品の間
源頼政 史跡 結縁寺 結縁寺村(鳥瞰図)
神崎橋 橋梁 船尾と八千代市佐山の間
平戸橋 橋梁 八千代市 平戸
米本城 史跡 米本
村上綱清 史跡 米本・長福寺
臼井城 史跡 佐倉市 臼井田 臼井古城図(絵地図)
大楠樹 植物 臼井田・臼井城跡 臼井大樟風俗画
太田図書 史跡 臼井田・臼井城跡
おたつ様 [11] 寺社 臼井田
臼井八景 景勝 臼井八景(鳥瞰図)
鹿島橋 橋梁 角来と田町の間
物井川 河川 佐倉市など 印旛沼流入
高崎川 河川 印旛沼流入
佐倉 町村 佐倉市 佐倉
土産 物産
本佐倉 史跡 佐倉市など 大佐倉など
将門大明神 寺社 佐倉市 大佐倉
稲荷籐兵衛 人物 印旛郡酒々井町 稲荷藤兵衛(風俗画)
酒々井町 町村 酒々井町
中川 河川 印旛沼流入
大仏頂寺 寺社 下岩橋
野馬取 風習
三度栗 植物
成田山新勝寺 寺社 成田市 成田 成田山新勝寺(鳥瞰図)
祐天上人(物語画)
巻五 麻賀多大明神 寺社 成田市 台方・船形
榊津八十墓 史跡 台方
超林寺 寺社 台方
平貞胤 史跡 台方・超林寺
公津宗吾 史跡 公津村台の山中(原文)
鷺山塁 史跡 下方
薬師寺 寺社 船形
船形神社 寺社 船形
根山神社 寺社 北須賀
谷原イボ 動物 ヤハライボ(動物画)
ポンポン鳥 動物
天竺山龍角寺 寺社 印旛郡栄町 龍角寺
駒形明神 寺社 安食
鷲宮 寺社 安食
布鎌新田 地名 将監川と北利根川の間
藤蔵河岸 河岸 茨城県
稲敷郡河内町
生板、奥山新田
龍ヶ崎 町村 龍ケ崎市 龍ヶ崎
稲敷郷 町村 八代町
栗林義長 伝承 稲敷市 上根本 女化原物語(物語画)
慈雲山逢善寺 寺社 小野
高田権現 寺社 高田
大杉大明神 寺社 阿波 阿波大杉殿(鳥瞰図)
信太の浮島 地名 霞ヶ浦の島 湖水眺望の文(古文書複写)
霞ヶ浦船軍 逸話 霞ヶ浦
一ノ宮大明神 寺社 千葉県
印旛郡栄町
矢口
二ノ宮大明神 寺社 成田市 松崎
三ノ宮大明神 寺社 郷部
三熊野大明神 寺社 南羽鳥
おはつ稲荷社 寺社 竜台
長沼 湖沼
新妻川 河川 長沼流入
飯岡川 河川 長沼流入
水掛川 河川 長沼流入
長沼ノ城跡 史跡 長沼
源太河岸 河岸 猿山 源田河岸(鳥瞰図)
滑川観世音 寺社 滑川
朝日ヶ淵 地名 滑川・観音堂近く 朝日ヶ淵の柳(風景画)
菊水井 名水 滑川
菊水山城 史跡 滑川
耀窟大明神 寺社 西大須賀
八幡大明神 寺社 西大須賀
東三井寺 寺社 西大須賀 東三井寺千手院什物鏡と剣(写生画)
西大須賀城 史跡 西大須賀
児塚 史跡 西大須賀 児塚(風景画)
助崎城 史跡 名古屋
公家塚 史跡 名古屋
高岡 藩名 高岡
龍安寺 寺社 大和田
迎接寺 寺社 冬父
名木古城 史跡 名木
神宮寺 寺社 香取郡神崎町
神崎明神 寺社 神崎明神(風景画)
山桂・ナンジャモンジャ(植物画)
押砂河岸 河岸 神崎町対岸 押砂河岸(鳥瞰図)
大須賀川 河川 香取市 利根川合流
大戸神社 寺社 大戸
佐原川 河川 利根川合流
津宮河岸 河岸 香取神宮入口 津の宮河岸(鳥瞰図)
香取大神宮 寺社 香取 香取大神宮大鳥居(鳥瞰図)
巻六 香取浦 湖沼
十六島 地名 香取浦の島 十六島全図(絵地図)
牛堀 地名 茨城県
潮来市
霞ヶ浦入口
潮来 町村 潮来(鳥瞰図)
海雲山長勝禅寺 寺社 潮来
小里姫の塚 [12] 史跡 潮来
園辺川 河川 潮来 水雲老人書(古文書複写)
なまづ川 河川 浪逆海流入
浪逆海 湖沼
大船津 地名 鹿嶋市 鹿島神宮・一の鳥居 鹿島大船津(鳥瞰図)
鹿島の故城 史跡 鹿島神宮
鹿島大神宮 寺社 鹿島神宮(鳥瞰図)
経石 俗信 鹿島神宮・御笠山(原文) 発掘銅碑の図(写生画)
息洲神社 寺社 神栖市 息栖 息洲明神(風景画)
神の池 湖沼
苅野橋 伝承 神の池ほとり・軽野(原文)
童子女松原 地名 軽野以南(原文)
手子崎明神 寺社 波崎
羽崎 町村 波崎
側高明神 寺社 千葉県
香取市
大倉
粟飯原氏城跡 史跡 分郷
木内大明神 寺社 木内
小見川 藩名 小見川
黒部川 河川
七本木 植物 小見・冨光院徳聖寺(原文)
清水観音 寺社 虫幡
夕顔観世音 寺社 五郷内・樹林寺
四季咲の桜 植物 五郷内・樹林寺
千丈ヶ谷 地名 五郷内・樹林寺近く
椿の海 湖沼 旭市匝瑳市など
石出 景勝 石出より常陸の砂山を見る(風景画)
岩井不動 寺社 旭市 岩井
猿田大権現 寺社 銚子市 猿田
高田川対陣 逸話
海上八幡宮 寺社 柴崎
松岸 河岸
銚子 町村 銚子浜磯巡の図(絵地図)
飯沼観世音 寺社 馬場町
名物 物産
清水の井 名水
和田不動堂 寺社 植松町
川口明神 寺社 川口町
千人塚 史跡 川口町
川口 景勝
目戸ヶ鼻 景勝
葦鹿島(あしかじま) 景勝 海獺島町眺望(風景画)
海獺島を望遠鏡で見たる図(写生画)
海獺(動物画)
カン石 物産 カン石の図(写生画)
犬吠ヶ崎 景勝
長崎ヶ鼻 景勝
外川の浜 景勝
仙ヶ岩屋 景勝
犬若 景勝 銚子浦犬若島千騎岩(鳥瞰図)
名洗浦 景勝 銚子名洗浜(鳥瞰図)

脚注

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  1. ^ a b 赤松 宗旦『利根川図志』(柳田國男 校訂、岩波文庫)、1938年、28-33頁(自序、凡例)
  2. ^ 川名 登 『評伝 赤松宗旦-『利根川図志』が出来るまで』 彩流社、2010年、157-161頁(『利根川図志』の完成)
  3. ^ 川名 登 『評伝 赤松宗旦-『利根川図志』が出来るまで』 彩流社、2010年、184-197頁(諸国売弘めの許可)
  4. ^ 川名 登 『評伝 赤松宗旦-『利根川図志』が出来るまで』 彩流社、2010年、30-39頁(『利根川図志』の著者-宗旦義知)
  5. ^ 赤松宗旦『利根川図志』(柳田國男校訂・解題、岩波文庫、初版1938年)、3-14頁
  6. ^ 巻一の凡例にも「巻中の画図名印無きは葛飾北斎なり」とあるが、葛飾北斎は嘉永2年(1849年)に90歳で没している。そこでこれは二代目北斎だろうといわれている(川名登『評伝 赤松宗旦-「利根川図志」が出来るまで』208頁)。また岩波文庫版『利根川図志』の解題には、「土地の人の言つて居るのは、北斎は一時師匠の許をしくぢつて、爰へ来て匿れて居たことがある。其間に描いたものだから落款を入れていない」という真偽不明の話を伝えており、「或はその又弟子の一人などが、中に立つて何か策略したことが、斯ういふ風に誤り伝へられたのであらう」と述べている。
  7. ^ 川名 登 『評伝 赤松宗旦-『利根川図志』が出来るまで』 彩流社、2010年、207-223頁(『利根川図志』に画いた絵師たち)
  8. ^ 川名 登 『評伝 赤松宗旦-『利根川図志』が出来るまで』 彩流社、2010年、198-202頁(「続編」の執筆と死)
  9. ^ 赤松宗旦『利根川図志』(柳田国男 校訂、岩波文庫)、1938年
  10. ^ 本文では新井氏と表記
  11. ^ 祠の通称
  12. ^ 「名物」「潮来曲の唄」を含む

参考文献

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