平成17年台風第14号
平成17年台風第14号(へいせい17ねんたいふうだい14ごう、アジア名:Nabi[注 1])は、2005年(平成17年)8月に発生し、日本に大きな被害を与えた台風である。広い暴風域を維持したままゆっくりとした速度で進んだため、各地に甚大な被害をもたらし、後に激甚災害に指定された。
台風第14号(Nabi、ナービー) | |
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カテゴリー5の スーパー・タイフーン (SSHWS) | |
衛星画像(9月2日) | |
発生期間 |
2005年8月29日 21:00 ~9月8日 15:00 |
寿命 | 9日18時間 |
最低気圧 | 925 hPa |
最大風速 (日気象庁解析) | 50 m/s (95 knot) |
最大風速 (米海軍解析) | 140 knot |
被害総額 |
農林水産被害 695億円 |
死傷者数 | 死者28人・行方不明者1人・負傷者177人 |
被害地域 | マリアナ諸島、日本 |
プロジェクト : 気象と気候/災害 |
概要
2005年8月29日21時に、マリアナ諸島付近で台風14号が発生し、アジア名「ナービー(Nabi)」と命名された。命名国は韓国で、朝鮮語で「チョウ(나비)」を意味する。台風は西進しながら大型で非常に強い勢力にまで発達し、沖ノ鳥島から日本の南を北北西に進んだ。 9月4日には、大東島地方や奄美地方などが風速25メートル以上の暴風域に入った。5日には首相官邸の危機管理センターに連絡室が設置された。その後台風は進路を次第に北寄りに変えて九州の南海上に接近し、広い暴風域を維持したまま九州地方の西岸に沿って北上して、6日13時頃熊本県天草下島を通過し、14時過ぎに長崎県諫早市付近に上陸。 九州北部を通過し、6日夜には福岡県岡垣町付近から山陰沖に抜け、速度を上げて日本海を北東進した後に、7日夜に北海道檜山支庁せたな町に再上陸した。そして北海道北部を通過し、8日朝にオホーツク海へと抜けた[1]。
この台風は、大東島地方に接近してから山陰沖へと抜けるまで、広い暴風域を維持したまま比較的遅い速度で進んだため、長時間にわたって暴風や高波、大雨が続いた。 3日から8日までの総雨量は、九州・中国・四国地方の各地で9月の月間平均雨量の2倍を上回り、宮崎県では1,000mmを超えた。宮崎県南郷村神門では1,322mm (月間平均雨量比2.9倍) 、えびの市で1,307mm (月間平均雨量比2.8倍)、鹿児島県肝属郡肝属町肝属前田で956mm (月間平均雨量比3.2倍) に達した。 また、九州・中国・四国の各地方と北海道の62地点では、それまでの日雨量の記録を更新したほか、台風の接近・上陸に伴い各地で暴風、高波となった。 4日には南大東島で最大瞬間風速55.6m/s、6日には鹿児島県種子島で同59.2m/s、屋久島で同58.1m/sが観測された[1]。
この台風によって、熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県を中心に九州~東北地方で土砂災害、大雨による浸水などが起きた。 また、岡山県・広島県・香川県では高潮による床上・床下浸水も発生した。人的被害は、宮崎県を中心に全国で死者・行方不明者29人に達した[1]。 台風が日本の南海上を移動中の3日から4日にかけ、台風から本州上に停滞する秋雨前線に向かって暖かく湿った空気が流入。 3日には鳥取県(鹿野)・新潟県(十日町・松代)・福島県(郡山市湖南)で1時間に約50-60mmの非常に激しい雨が降り、鳥取県の鹿野では3日の、大山と関金では4日の日雨量が100mmを超えた。 4日夕方から5日未明にかけては東京都・埼玉県・神奈川県など首都圏でも、大気の状態が不安定となって雨雲が急速に発達し、東京都と埼玉県では局地的に1時間に100mmを超える猛烈な雨となった。 この期間の降水量は、東京都が設置した雨量計によるデータでは杉並区下井草で264mm、久我山で240mm、練馬区上石神井で240mmに達した[1]。
記録
※各種報道、気象庁発表のデータを元に作成
雨量
- 1時間雨量(上位3地点)
- 日降水量(上位3地点)
- 降り始めからの雨量(上位3地点)
風速
高潮
被害
日本各地の被害状況
※死傷者が出た被害、その他主な被害のみ記載
- 九州地方
- 宮崎市で竜巻が発生、家屋や車などを破壊。
- 鹿児島県垂水市でがけ崩れと鉄砲水で4人死亡。
- 熊本県阿蘇市の豊肥本線が倒木にぶつかりガラスにひびが入る。
- 宮崎県三股町で土砂崩れ、住宅が倒壊。2人死亡。
- 宮崎県北部の高千穂鉄道高千穂線にある五ヶ瀬川に架かる二つの鉄橋が崩落。復旧を断念し、3年後の2008年12月で高千穂鉄道が廃線となった。
- 宮崎県椎葉村で土砂崩れ、民家3棟が全半壊。1人死亡、2人行方不明。
- 宮崎県高千穂町で土砂崩れ、家屋が倒壊。3人死亡、1人行方不明。
- 宮崎県の大淀川・五ヶ瀬川・小丸川流域で浸水が多数発生。宮崎県内の床上・床下浸水は2,253戸。特に高岡町、宮崎市小松、延岡市での被害が大きい。
- 熊本県五木村築切の国道445号が数ヵ所で損壊した。
- 四国地方
- 中国地方
- 近畿地方
- 北陸地方
- 関東地方
インフラへの影響
その他
韓国での被害
韓国南部でも記録的な大雨となり、各地で洪水、浸水、土砂崩れがあった。
その他
- 災害救助法が適用された地域
- 宮崎県 - 東諸県郡高岡町・国富町、北諸県郡高城町、東臼杵郡北方町・東郷町・諸塚村・椎葉村・西郷村・北川町、宮崎市、延岡市、西都市、西臼杵郡日之影町
- 山口県 - 玖珂郡美川町、岩国市
- 東京都 - 中野区、杉並区
- 鹿児島県 - 垂水市
- 高知県 - 四万十市
- 被災者生活再建支援法が適用された地域
- 宮崎県、山口県、鹿児島県、高知県の17市町村
- 台風直前の貯水率が0%であった高知県の早明浦ダムが大雨により一気に100%まで回復。水不足が解消した。しかし、この事実を逆に見れば、通常の渇水期水位程度の貯水率が同ダムにあった場合、ダムによる調整が追いつかず下流域にさらなる被害をもたらしていた可能性が高かった[2]。
- この台風のアジア名Nabiは、この台風限りで使用中止となり、次順からはDoksuriというアジア名が使用されることになった。ただし、除名の原因は大多数の引退名と異なり、イスラム教のナビーと同音になってしまったためである[3]。なお、平成時代に日本本土に被害をもたらした台風で、アジア名が使用中止になるのはこれが唯一の事例である。中国・韓国・香港・マカオなどではアジア名基準のため、その地域で被害をもたらした台風については、使用中止の措置が取られている。フィリピンでは本国名が基準であるが、被害をもたらした台風については本国名とアジア名の使用中止の措置を取られている。また、台湾は台風委員会の非加盟国であるため、使用中止の申請を提出できない。
関連項目
- 東海豪雨 - 本州南海上の台風と停滞前線との組み合わせで発生した都市型水害。
- 平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害 - 政令市で1時間100mm以上の猛烈な雨。
外部リンク
- 平成17年9月台風14号と前線豪雨について(最終報) (PDF) - 国土交通省
- 平成17年 台風第14号と豪雨による被害状況(第21報) (PDF) - 総務省消防庁
- 【災害時気象速報】平成17年台風第14号による9月3日から8日にかけての大雨と暴風(対象地域 全国) (PDF) - 国土交通省気象庁
- 台風第14号による被害状況及び対応について【第15報】 (PDF) - 総務省
- 平成17年台風第14号による被害状況について(第13報) (PDF) - 内閣府防災担当
- 台風14号と前線豪雨関連ページ - 国土交通省国土地理院
- 災害をもたらした気象事例(台風第14号、前線) - 気象庁ホームページ
- デジタル台風:台風200514号(NABI)- 総合情報(気圧・経路図) - 国立情報学研究所(北本朝展)
- 2005年 台風14号 - NHK災害アーカイブス
- 韓国のテレビニュース
- KBSニュース9 (2005年9月6日)
- MBCニュースデスク (2005年9月6日)
- SBS8ニュース (2005年9月6日)
- ウィキメディア・コモンズには、平成17年台風第14号に関するカテゴリがあります。
注釈
出典
- ^ a b c d “気象庁 | 台風第14号、前線”. www.data.jma.go.jp. 2020年4月16日閲覧。
- ^ 吉野川水系に係る水問題について - 四国地方整備局 p.5-172
- ^ “List of Retired Tropical Cyclone Names | Typhoon Committee” (英語). www.typhooncommittee.org. 2018年9月16日閲覧。