ヤシ目・ヤシ科
ココヤシ Cocos nucifera
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: ヤシ目 Arecales
: ヤシ科 Arecaceae
学名
Arecales Bromhead
Arecaceae Schultz-Schultzenstein
シノニム

Palmaceae

和名
ヤシ(椰子)
英名
palm, palm tree
亜科

ヤシ(椰子)は、単子葉植物ヤシ目ヤシ科に属する植物の総称である。熱帯地方を中心に亜熱帯から温帯にかけて広く分布する植物で、独特の樹型で知られている。実用価値の高いものが多い。ヤシ科は英語でパルマエ (Palmae) といい、ラテン語のpalma(掌、シュロ)の複数形に由来する[1]。基準属Arecaに基づくArecaceaeも科名として用いられる[1]

特徴

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ヤシは、単子葉植物ヤシ科に属する植物を広く指して言う呼称である。単子葉植物としては珍しく木本であり、多くは幹は木質化して太くなるか、つる状となり、一部の種では小型で草質の茎をもつものもある[1]。高木で大きいものでは30 mになるが、低木のものや茎が立ち上がらないもの、草本並みの大きさのものもある。茎全体に横縞や菱形などの葉痕がよく見られ、直径は一定であるものが多く、しばしば見られる不規則性やくびれは、成長過程における気候変化などの影響に起因する[2]

はふつう常緑で互生し大型のものが多く、羽状複葉か掌状、あるいは扇状に裂けており、小葉はしばしば山型あるいは谷型に折りたたまれている[1]。基部はを抱き、鞘が茎を包んだり、繊維を茎にまといつかせる。茎に沿って多数の葉を並べるものもあるが、茎の頂部に輪生状に葉が集まるものが多く、ソテツ類に似た独特の樹型を見せる。樹皮は、他の木とは異なるpseudobarkと呼ばれるものである。また、木の成長は一次成長で幹の太さが決まり、それ以上は直径が大きくなることがなく上に伸びていく、他の木が持つようなコルク形成層英語版を持たず横方向への成長がないことから傷に弱い[3]

両性、または単性で雌雄異株[1]。花はふつう小型で、穂になって生じる。花序の基部には大型の鞘状の総包があり、多くは円錐状である[1]花びら(花被片)は6個あり、小さく目立たず、雄しべが6個ある[1]子房は上位につく[1]果実液果または核果で、大型になるものがある[1]。なかでも種子の重さが25–30 にもなるオオミヤシ(フタゴヤシ)は、植物界最大のものとして知られており、成熟するまでに8–10年かかる[4]

熱帯地方を中心に253属、約3333種がある。日本にもシュロなど6属6種が自生する[1]観葉植物としての栽培が多く、見かける種数は多い。

生育環境は日陰にも耐えるが、日当たりの良いところを好み、単幹性の種類は日光が当たる方向へと生長していく[5]。多くの種は約20–25℃前後の環境下で生育するが、耐寒性は種類によってかなり差があり、カンノンチク属などの一部の種は0℃以上で越冬できる[5]。栽培されているヤシは美観を保つため、下部から葉が枯れてきたものは葉柄の基部から切り取られ手入れされる[5]

大型になる点に関して

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ヤシ科植物の葉は大きくてしっかりしているのが普通で、芽の中では葉身が折りたたまれており、展開するに従ってあらかじめ決まった位置で裂けて複葉となる[6]。単葉のものもあるが、その場合でも葉の縁には裂けるべき位置に短い切れ込みがあるのが普通である。裂け方としては掌状、羽状、2回羽状があり、また小葉の折れ方にもV字、Λ字などがある。顕花植物でその葉が折れ目に従って裂ける性質を持つのはヤシ科以外ではパナマソウ科の多くとキンバイザサ属のごく一部のものがあるに過ぎない。

またヤシ科の葉には大きいものが多く、ニッパヤシでは13~15mにも達するが、これに並ぶ大きさの葉を持つ種はヤシ科には少なくない[7]。更にヤシは木質化して巨大化するが、その茎には形成層はなく、つまり肥大成長しない。ヤシ科の苗は地表で生長する間はあまり背丈を伸ばさず、地下の茎が十分に太くなって後に地上の茎を伸ばして葉を展開する。葉の大きさも茎が太くなるにつれて大きくなる。ヤシは分枝するものが少なく、あっても葉腋から出る側芽に由来するものではなく頂端の成長組織が分裂する、といった形を取る。ヤシの樹形は「単子葉植物なのに木本化して、枝を出す代わりに葉を巨大化するという方向に進化」したという見方もある[8]

利用

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熱帯地域では資源植物として重要であり、古来より多くの種がさまざまな方法で利用されている[1]。最も有名なのはココヤシで、ヤシ油をとって食用や石鹸に利用したり、果実の中心にある透明な液を飲料としたりする[1]。また、アブラヤシの実からはパーム油を採取したり、そのほかの種でも食用、デンプンや砂糖の採取、タバコ代わりの嗜好品、条虫駆除薬、繊維利用、屋根葺きの材料など利用法は多岐にわたる[4]。また、ヤシ科植物は鑑賞用の植物としてなくてはならないものとなっていて、庭園樹や室内観葉植物として利用されているものもたくさんある[9]

食用など

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多くの種の果実が食されている。また、アブラヤシ属等の果実からは、食用油・工業油も採れる。

ココヤシアサイーなどの新芽は、ハート・オブ・パーム(ヤシの芽、パルミート、パルミット)と呼ばれ、野菜としてサラダなどに利用される。ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシなどの樹液を煮詰めると、パームシュガー(ヤシ糖)ができる。また、樹液を醗酵させて酒を作ることもできる。

園芸

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観葉植物として仕立てられたヤシ

薬用など

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  • ビンロウ(ビンロウジュ)は、果実を染料として利用するほか、コショウ科のキンマの葉に包んでから口の中で噛む習慣があり、タバコに代わる嗜好品とする[1]生薬の檳榔子(ビンロウジ)は熟した種子を乾燥したもので、条虫駆除薬として用いられており[1]中華人民共和国湖南省では、煮て甘草などで味付けし、虫下しの効果がある嗜好品としている。
  • ノコギリパルメット(ソー・パルメット)の果実はインディアンが強壮作用のある食料として用いていたが、エキスには前立腺肥大の抑制作用があることが知られている。
  • キリンケツヤシ(Daemonorops draco)の実を加工したものを麒麟竭(きりんけつ)といい、漢方薬に用いるほか、民間薬としては外用にも用いるという。

建材、工芸材料など

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木炭

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  • ココヤシなどの果実の殻を、水蒸気賦活し、椰子殻(やしがら)活性炭が作られ、脱臭タバコタール等の除去、浄水、の吸着分離などに用いられる。また、椰子殻を原料とした木炭であるヤシガラ炭は東南アジア全般で広く製造されている。ヤシ殻の丸まった形では燃料として扱いにくいため、木炭化したものを粉砕し、タピオカ澱粉などで固めてオガ炭のような薪状に成形されて販売されている。

街路樹など

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街路樹として植栽されているヤシ(千葉県館山バイパス
  • 1960年代、日本では新婚旅行ブームが起こり、宮崎県に多くのカップルが訪れたことから、地元の実業家が南国ムードを醸し出そうと道路沿いなどにヤシを植え始めた。これが徐々に広がりを見せ、高知県山口県などの一部地域では街路樹としても植えられるようになった。2010年代においては、樹高が高くなってきたことから各地で伐採や植え替えが進められている[10]

その他

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  • ヤシの実を穿孔して土笛のようにし、楽器とされている。一例として兵庫県神戸市玉津田中遺跡から弥生時代のものが出土している。
  • キリンケツヤシから採った麒麟竭(上述)は赤い色をしており、各種塗料や紙の着色などに用いる。
  • 日本においては、「台湾季語」として水牛と並んで特に人気の高い題材であったが、「椰子の花」は台湾ではをイメージさせるものであったのに対して[11]島崎藤村が「名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実一つ 故郷の岸を離れて汝(なれ)はそも波に幾月」と詠んだように晩夏の季語のように使われることが多かった[12]

分類・系統的位置づけ

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ヤシ科はほとんどの分類体系で、単独でヤシ目を構成する。分類の難しい科で、研究者により種や属の捉え方に差があり、150属1500種から236属3400種と幅がある[1]

新エングラー体系は、ヤシ科が単子葉植物の中で最初に分岐したという説から、ヤシ科が(単独で)属する目を Principes (直訳すると「第一」)と名づけた。

しかしAPGでは、ヤシ目より先にショウブ目オモダカ目キジカクシ目ヤマノイモ目ユリ目タコノキ目が分岐しており、ヤシ目は進化した単子葉類であるツユクサ類に含まれる。また2016年に公表されたAPG IVではそれまで所属目が設定されていなかったダシポゴン科がヤシ科の姉妹群としてヤシ目に置かれた[13]

分類

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亜科・連[14]

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ヤシ科は5亜科に分かれ、それぞれがいくつかのに分かれる。連によっては数十の属が属する。

主な種

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日本産

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日本国内には以下のような種を産する。

外国産

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他にも、有名なものが多々ある。

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 土橋豊 1992, p. 183.
  2. ^ セルジュ・シャール 著、ダコスタ吉村花子 訳『ビジュアルで学ぶ木を知る図鑑』川尻秀樹 監修、グラフィック社、2024年5月25日、21頁。ISBN 978-4-7661-3865-8 
  3. ^ Hodel, Donald R. (2009-01). “Biology of Palms and Implications for Management in the Landscape”. HortTechnology 19 (4): 676–681. doi:10.21273/HORTTECH.19.4.676. ISSN 1063-0198. https://journals.ashs.org/view/journals/horttech/19/4/article-p676.xml. 
  4. ^ a b c d e f g h i j k 土橋豊 1992, p. 184.
  5. ^ a b c 土橋豊 1992, p. 187.
  6. ^ 以下、ドランスフィールド(1997) p.102
  7. ^ 堀田(1997)p.111
  8. ^ 以上、引用も堀田(1997)p.111
  9. ^ a b c d e 土橋豊 1992, p. 185.
  10. ^ 育ちすぎたヤシの木伐採決断、周南市 かつてのあこがれ、宮崎県では観光資源”. 中国新聞 (2020年5月10日). 2020年5月10日閲覧。
  11. ^ 台湾俳句史(1985 ~ 2013)(2) ~季題、季語、虚子の「熱帯季題論」と台湾の歳時記~『交流』15-19頁 呉昭新 2015年11月号
  12. ^ 毎日新聞「新季語拾遺」 1993年8月23日
  13. ^ Angiosperm Phylogeny Group (2016). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV” (PDF). Botanical Journal of the Linnean Society 181 (1): 1–20. doi:10.1111/boj.12385. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/boj.12385/epdf. 
  14. ^ DDBJ TXSearch、NCBI taxonomy database、UniProt Taxonomy による。
  15. ^ wikispecies
  16. ^ a b c d e f g 土橋豊 1992, p. 186.

参考文献

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  • 土橋豊『観葉植物1000』八坂書房、1992年9月10日。ISBN 4-89694-611-1 
  • ジョン・ドランスフィールド、「ヤシ科」:『朝日百科 植物の世界 11』、(1997)、朝日新聞社、:p.102
  • 堀田満、「巨大なヤシの葉」:『朝日百科 植物の世界 11』、(1997)、朝日新聞社、:p.11

関連項目

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外部リンク

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