スイレン目(スイレンもく、学名: Nymphaeales)は被子植物の1つであり、スイレン科スイレン属コウホネ属オオオニバス属など)、ハゴロモモ科ジュンサイなど)、ヒダテラ科の3科、約80種が含まれる(図1)。全て水草であり、沈水植物浮葉植物または抽水植物である(下図2)。現生被子植物の中では、アンボレラ目に次いで2番目に他と分かれた植物群であると考えられている。

スイレン目
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
学名
Nymphaeales Salisb. ex Bercht. & J.Presl (1820)[1]
シノニム

特徴

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スイレン目に属する植物は、地下茎をもつ水生の草本である[2][3]。水底の地下茎からを生じるものが多いが、ハゴロモモ科は地下茎から水中に伸びる茎に葉がつく[2][3](下図2a)。維管束形成層による二次成長を行う種はいない[2][3]表皮皮層の外層に由来する[2]維管束厚壁組織を伴わない[2]。しばしば通気組織をもつ[2][3]幼根は消失し、地下茎から生じた不定根が発達する[2]。また菌根を欠く[2]。茎中の維管束はふつう散在している[2][3]はふつう互生で螺生する[2]ハゴロモモ属の沈水葉は対生または輪生)。葉はふつう広葉であるが、ヒダテラ科は線状の細長い葉をもつ[3](図1b)。気孔はふつう不規則型[2]

2b. オオオニバス属(奥)とスイレン属(手前)はふつう浮葉性(いずれもスイレン科
2c. コウホネ(スイレン科)はふつう抽水性

の形態はグループによって大きく異なる。ヒダテラ科の花は花被を欠き、雄花は1個の雄しべ雌花は1個の雌しべのみからなる[2][4](下図2d)。ハゴロモモ科の花は基本的に3数性であり、離生心皮(複数の雌しべ)をもつ[2][3](下図2e)。一方、スイレン属スイレン科)の花は大きく、多数の花弁と雄しべがしばしばらせん状についており、合生心皮をもつ[2][3](下図2f)。花粉は基本的に単溝粒[2]胚嚢は4核4細胞性(1個の卵細胞、2個の助細胞、1個の1核中央細胞)[2][3]胚乳(内乳)形成の最初の分裂は横分裂[2]種子は蓋をもつ[2][3]。成熟した種子では内乳は退化し、デンプンを含んだ周乳(胚珠において胚嚢内ではなくそれを囲む珠心に養分が貯蔵された構造)が発達する[3]。種子中の胚は合着した子葉をもつ[2][3]。子葉は地下性[2]

2d. Trithuriaヒダテラ科)の茎頂には、1個の雄しべのみ、または1個の雌しべのみからなる小さな花が多数集まって花序を形成している
2e. ジュンサイハゴロモモ科)の花は3+3枚の花被片をもつ
2f. セイヨウスイレン(スイレン科)の花はらせん状に配置した多数の花弁雄しべをもつ

スイレン目に属する種は、基本的に全て淡水産の水生植物であり、多くは多年生、一部は一年生沈水植物浮葉植物、または抽水植物であるが、水にはつかっていない湿地に生育することもある[2][3][4][5]

系統と分類

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系統

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20世紀末以降の分子系統学的研究により、スイレン目は現生被子植物の中で極めて初期の頃に他と別れたグループであることが示されている[2][3][6]。2020年現在では、現生被子植物の中でアンボレラ目が最初に分岐し、次にスイレン目が分岐したとする仮説が示されることが多い[2][7][8](下図3a)。一方、アンボレラ目とスイレン目が単系統群を形成し、これが現生被子植物の中で最初に分岐したとする仮説が示されることもある[9][10](下図3b)。

3. スイレン目の系統的位置に関する仮説2例
被子植物

アンボレラ目

スイレン目

アウストロバイレヤ目

その他の被子植物

3a. 被子植物の中で2番目に分岐[7][8]
被子植物

アンボレラ目

スイレン目

アウストロバイレヤ目

その他の被子植物

3b. アンボレラ目の姉妹群[9][10]

分類

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20世紀後半に一般的であった植物の分類体系である新エングラー体系では、スイレン科は、その花の特徴などからキンポウゲ目に分類されていた[11](下表1)。その後に一般的となったクロンキスト体系では、スイレン科はスイレン目に分類されるようになった[12](下表)。新エングラー体系では、ハス科ハゴロモモ科の植物はスイレン科に分類されていたが、クロンキスト体系ではこれらの植物はそれぞれ独立の科とされたが、スイレン科と同様にスイレン目に分類されていた(下表1)。また同じ水生植物であるマツモ科もスイレン目に含められていた(下表1)。

表1. スイレン目に属する科の異動
新エングラー体系[11] クロンキスト体系[12] APG体系(APG III)[6]
マツモ科 キンポウゲ目 スイレン目 マツモ目
ハス科[注 1] ヤマモガシ目
スイレン科[注 2] スイレン目
ハゴロモモ科[注 1]
ヒダテラ科[注 3] ツユクサ目 ヒダテラ目


やがて20世紀末頃からの分子系統学的研究により、被子植物の分類体系は大きく変動した。スイレン科ハゴロモモ科は近縁であることが確認され、ともにスイレン目に分類されている[2][6](上表1)。マツモ科も被子植物の初期分岐群の1つであることが示されたが、スイレン科との近縁性は支持されず、スイレン目からは除かれた[6]。またハス科もスイレン科とは縁遠く、真正双子葉類に含まれることが明らかとなり、スイレン目からは除かれた[6]

スイレン目

ヒダテラ科

ハゴロモモ科

スイレン科

4. スイレン目の系統仮説[2]

一方、ヒダテラ類はその形態から、単子葉植物に分類されていた。しかしその分類学的位置は一定せず、新エングラー体系ではツユクサ目のカツマダソウ科(現サンアソウ科)に分類されていたが[11]クロンキスト体系では独立のヒダテラ目、ヒダテラ科とされた[12](上表1)。しかし21世紀になってからの分子系統学的研究によって、ヒダテラ科はスイレン科ハゴロモモ科に近縁であることが示され、スイレン目に分類されるようになった[2][6](上表1)。

以上の経緯を経て、スイレン目にはヒダテラ科ハゴロモモ科スイレン科の3科が含まれるようになり、8属80種ほどが知られる(下表2)。スイレン目の中ではヒダテラ科が最初に分岐し、ハゴロモモ科とスイレン科が姉妹群であることが示されている[2](図4)。

表2. スイレン目の分類体系[2]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b 新エングラー体系ではスイレン科に分類されていた。
  2. ^ クロンキスト体系では、バルクラヤ属はバルクラヤ科に分けられていた。
  3. ^ 新エングラー体系ではカツマダソウ科(現サンアソウ科)に分類されていた。
  4. ^ ただしオニバス属とオオオニバス属は系統的にスイレン属の中に含まれる可能性があり、分類学的にオニバス属とオオオニバス属の種をスイレン属に移すことが提唱されている[2](この場合、スイレン科は3属になる)。

出典

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  1. ^ a b WFO. “Nymphaeales Salisb. ex Bercht. & J.Presl.”. World Flora Online. 2021年6月13日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af Stevens, P. F.. “Nymphaeaceae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年6月12日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Nymphaeales”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 245–248. ISBN 978-1605353890 
  4. ^ a b c Hamann, U. (1998). “Hydatellaceae”. In Kubitzki, K. (eds). Flowering Plants · Monocotyledons. The Families and Genera of Vascular Plants, vol 4.. Springer. pp. 231-234. doi:10.1007/978-3-662-03531-3_23 
  5. ^ Simpson, M. G. (2005). “Cabombaceae”. Plant Systematics. Academic Press. p. 143. ISBN 978-0126444605 
  6. ^ a b c d e f APG III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 
  7. ^ a b Simmons, M. P. (2017). “Mutually exclusive phylogenomic inferences at the root of the angiosperms: Amborella is supported as sister and Observed Variability is biased”. Cladistics 33 (5): 488-512. doi:10.1111/cla.12177. 
  8. ^ a b O.T.P.T.I. [= One Thousand Plant Transcriptomes Initiative] (2019). “One thousand plant transcriptomes and the phylogenomics of green plants”. Nature 574: 679-685. doi:10.1038/s41586-019-1693-2. 
  9. ^ a b Bell, C. D., Soltis, D. E. & Soltis, P. S. (2010). “The age and diversification of the angiosperms re‐revisited”. American Journal of Botany 97 (8): 1296-1303. doi:10.3732/ajb.0900346. 
  10. ^ a b Xi, Z., Liu, L., Rest, J. S. & Davis, C. C. (2014). “Coalescent versus concatenation methods and the placement of Amborella as sister to water lilies”. Systematic Biology 63 (6): 919-932. doi:10.1093/sysbio/syu055. 
  11. ^ a b c Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  12. ^ a b c Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  13. ^ GBIF Secretariat (2021年). “Hydatellaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月11日閲覧。
  14. ^ GBIF Secretariat (2021年). “Cabombaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月11日閲覧。
  15. ^ GBIF Secretariat (2021年). “Nymphaeaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月11日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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  • スイレン目”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所生物進化研究部門 (2015年10月9日). 2021年7月20日閲覧。
  • Stevens, P. F.. “Nymphaeales”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年6月12日閲覧。(英語)