脱ユビキチン化酵素(だつユビキチンかこうそ、: deubiquitinating enzyme、略称: DUB)は、タンパク質からユビキチンを切断除去するプロテアーゼのグループである[1][2]。他にdeubiquitinating peptidase、deubiquitinating isopeptidase、deubiquitinase、ubiquitin protease、ubiquitin hydrolase、ubiquitin isopeptidaseなどとも呼ばれる。ユビキチンは、プロテアソームリソソームを介したタンパク質分解の調節や、タンパク質の細胞内局在の調整、タンパク質の活性化や不活性化、タンパク質間相互作用の調節のためにタンパク質に付加される[3][4][5]。DUBはユビキチンと基質の間のペプチド結合またはイソペプチド結合を切断することで、ユビキチン化による効果を逆転させる。ヒトには約100種類のDUBの遺伝子が存在し、システインプロテアーゼメタロプロテアーゼという2つの主要なクラスに分類される。システインプロテアーゼグループのDUBは、USP(ubiquitin-specific protease)、UCH(ubiquitin C-terminal hydrolase)、MJD(Machado-Josephin domain protease)、OTU(ovarian tumour protease)ファミリーなどからなる。メタロプロテアーゼグループのDUBは、JAMM(Jab1/Mov34/Mpr1 Pad1 N-terminal+)ドメインプロテアーゼのみが含まれる[2]

直鎖状ジユビキチンアルデヒド(緑)と共有結合的に連結されたUSP21(青)。ユビキチンのC末端がUSP21の活性部位を通って伸びている(右下)。
幅広いDUBの蛍光基質となるUb-AMC英語版

クラス

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ヒトには95個のDUB遺伝子があると推定され、システインプロテアーゼとメタロプロテアーゼの2つの主要なクラスに分類される。58種類がUSP、4種類がUCH、5種類がMJD、14種類がOTU、そして14種類がJAMMドメインを含んでいる。そのうち90種類が発現しているが、11種類には活性がなく、残りの79種類が機能的な酵素であると考えられている[6]

システインプロテアーゼ

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システインプロテアーゼ型DUBには4つの主要なスーパーファミリーが存在する[7]

また、近年新たなファミリーが発見されている。

UCH
 
ユビキチンと複合体を形成したUSP2
識別子
略号 UCH
Pfam PF00443
Pfam clan CL0125
InterPro IPR001394
PROSITE PDOC00750
MEROPS C19
SCOP 1nb8
SUPERFAMILY 1nb8
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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さらに、PPPDE(permuted papain fold peptidases of dsDNA viruses and eukaryotes)スーパーファミリーと呼ばれる、理解は進んでいないもののDUBと推定されるグループも存在し、実際にDUBであることが示されれば7番目のクラスとなる[10]

メタロプロテアーゼ

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JAMMドメインスーパーファミリーのタンパク質は、亜鉛を結合するメタロプロテアーゼである[7]

脱ユビキチン化酵素の役割

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DUBの機能の模式図

DUBはユビキチン経路でいくつかの役割を果たす。DUBの最もよく特徴づけられている機能は、タンパク質からのモノユビキチンとポリユビキチン鎖の除去である。ユビキチン化は翻訳後修飾(タンパク質の合成後に付加されたもの)であり、基質タンパク質のリジン残基に1つのユビキチンまたはユビキチンの鎖が付加される。ユビキチンは、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチンリガーゼ(E3)からなるユビキチン化装置によってタンパク質に付加され、最終的にはリジン残基にイソペプチド結合で付加されたユビキチンとなる[11]。ユビキチン化は多くの方法でタンパク質に影響を与え、プロテアソームとリソソームを介したタンパク質の分解を調節し、タンパク質の細胞内局在を調整し、タンパク質を活性化したり不活性化したりし、タンパク質間相互作用を調節する[3][4][5]。DUBはユビキチン化修飾を除去することでこれらの作用に対抗する役割を果たし、タンパク質の運命を逆転させる[2]。さらに、あまり理解は進んでいないものの、DUBはSUMONEDD8などのユビキチン様タンパク質の除去にも関与しており、一部のDUBはこれらのタンパク質と基質タンパク質の間のイソペプチド結合を切断する[12]

DUBは、不活性型として発現するユビキチンをタンパク質分解によって活性化する。哺乳類ではユビキチンは、UBA52英語版RPS27A英語版UBB英語版UBC英語版の4つの異なる遺伝子にコードされている。酵母など他の真核生物でも同様の遺伝子セットが発見されている。UBA52RPS27A遺伝子はリボソームタンパク質に融合した形でユビキチンを産生し、UBBUBC遺伝子はポリユビキチン(C末端N末端で連結されたユビキチンの鎖)を産生する[13][14]。DUBはこれらのタンパク質からユビキチンを切断し、活性のあるモノユビキチンを産生する[2]

DUBは、意図せずC末端テールが細胞内の求核性低分子と結合したモノユビキチンタンパク質の切断も行う[2]。こうしたC末端テールで結合したユビキチン-アミドやユビキチン-チオエステルは標準的なE1-E2-E3カスケードによるユビキチン化反応でも形成される場合があり、グルタチオンポリアミンはユビキチンとこれらの酵素の間のチオエステル結合を攻撃する可能性がある。ユビキチンC末端ヒドロラーゼ(UCH)は、こうした意図しない結合を広い特異性で加水分解するDUBの例である[12][15]

またDUBは、遊離ポリユビキチン鎖を切断してモノユビキチンを産生する。こうしたポリユビキチン鎖は、基質タンパク質がない場合でもE1-E2-E3装置によって形成される場合がある。遊離ポリユビキチン鎖の他の発生源は、ユビキチン化基質の切断産物である。DUBがタンパク質に付加されたポリユビキチン鎖をその基部で切断した場合にはポリユビキチン鎖が遊離し、DUBによるモノユビキチンへの再生が必要となる[2]

ドメイン

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USP7の触媒ドメイン。USPの触媒ドメインの構造は、fingers、palm、thumbという領域に分けられる。ユビキチンのC末端はthumbとpalmの間を通る。

DUBは多くの場合、触媒ドメインが1つまたは複数の付属ドメインに囲まれた構成をしており、それらの一部は標的の認識に寄与している。こうした付加的ドメインには、DUSP(domain present in ubiquitin-specific proteases)ドメイン、UBL(ubiquitin-like)ドメイン、MATH(meprin and TRAF homology)ドメイン、ZnF-UBP(zinc-finger ubiquitin-specific protease)ドメイン、ZnF-MYND(zinc-finger myeloid, nervy and DEAF1)ドメイン、UBA(ubiquitin-associated)ドメイン、CS(CHORD-SGT1)ドメイン、MIT(microtubule-interacting and trafficking)ドメイン、ロダネーゼ様ドメイン、TBC/RABGAPドメイン、B-boxドメインなどがある[6][16]

触媒ドメイン

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DUBの触媒ドメインは、 USP、OTU、MJD、UCH、MPN+/JAMMなどのグループに分類される。最初の4つのグループはシステインプロテアーゼであり、MPN+/JAMMは亜鉛メタロプロテアーゼである。システインプロテアーゼ型のDUBはパパインに類似しており、同様の作用機構を有する。ユビキチンと基質の間のアミド結合加水分解の触媒には、触媒二残基または触媒三残基のいずれかが利用される。システインプロテアーゼ型のDUBの触媒活性に寄与する活性部位の残基は、システインヒスチジン、そしてアスパラギン酸またはアスパラギン(触媒三残基のみ)である。ヒスチジンは、触媒三残基ではアスパラギン酸またはアスパラギンによって、触媒二残基では他の方法で極性化される。この極性化はシステインのpKaを低下させ、ユビキチンのC末端と基質のリジンの間のイソペプチド結合への求核攻撃を可能にする。メタロプロテアーゼ型DUBでは亜鉛イオンがヒスチジン、アスパラギン酸、セリン残基に配位しており、水分子を活性化してイソペプチド結合への攻撃を可能にする[17][18]

UBLドメイン

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UBLドメインは、末端のグリシン残基を欠いていることを除いて、ユビキチンと同様の構造を持つ。18種類のUSPがUBLドメインを持つと考えられており、USP以外でUBLを持つのはOTUB1とVCPIP1英語版のみである。USP4、USP7、USP11、USP15、USP32、USP40、USP47には複数のUBLドメインが存在する。UBLはタンデムに並んでいることもあり、USP7のC末端には5つのタンデムなUBLドメインが存在する。 USP4、USP6、USP11、USP15、USP19、USP31、USP32、USP43では、UBLドメインは触媒ドメインに挿入されている。UBLドメインの機能にはUSP間で差異が存在するが、一般的にはUSPの触媒活性を調節する。また、プロテアソームへの局在を調節したり(USP14)、USPの触媒部位で競合することでUSPを負に調節したり(USP4)、触媒活性を増すためにコンフォメーション変化を誘導したり(USP7)することもある[16][19][20]。他のタンパク質のUBLドメインと同様、USPのUBLドメインもβ-graspフォールドをとる[21][22]

DUSPドメイン

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DUSP domain
 
ヒトUSP15のDUSPドメインの溶液構造
識別子
略号 DUSP
Pfam PF06337
InterPro IPR006615
MEROPS C19
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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6種類のUSPには、約120残基からなるDUSPドメインが1つ、または複数個がタンデムに並んで存在している。DUSPドメインの機能は現在のところ不明であるが、タンパク質間相互作用、特にDUBの基質の認識に関与している可能性がある。この予測は、USP15のDUSPドメインには疎水的な溝が存在すること、そしてDUSP含有USPで観察されるタンパク質相互作用の一部はDUSPドメインがなくなることで生じなくなることに基づいている。DUSPドメインは3本のαヘリックスと3本のストランドからなる逆平行βシートから構成され、三脚のような形へフォールディングする。αヘリックスが脚の部分、βシートが座面に相当する。USPのDUSPドメイン内にはPGPIモチーフと呼ばれる保存されたアミノ酸配列が存在し、3ヘリックスバンドルに対してパッキングすることで高度に安定した構造となる[6][23]

疾患における役割

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疾患におけるDUBの役割は完全には解明されていない。しかし、がん神経疾患などに関与する生理的過程での役割が知られていることから、疾患に関与していることが予測されている[24]

USP28は結腸がん肺がんなど、さまざまなタイプのがんで過剰発現している。さらに、USP28はc-MycNotch 1英語版c-junΔNp63などの重要ながんタンパク質を脱ユビキチン化して安定化する[25][26]扁平上皮癌では、USP28はΔNp63-ファンコニ貧血経路を介してDNA修復を調節し、化学療法抵抗性を調節する[27]。UCHL1のレベルもさまざまながんで上昇している[28]

出典

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