セイウチ科(セイウチか、学名Odobenidae)は、哺乳綱食肉目イヌ型亜目クマ下目鰭脚類の1。海棲の小動物を捕食する海棲肉食動物の1タクソン(分類群)である。

セイウチ科
生息年代: 20.43–0.000 Ma
[注 1] 前期中新世英語版現世
地質時代
約2043万年前 – 現世
新生代新第三紀中新世前期〈前期中新世英語版〉後半バーディガリアン第四紀完新世メガラヤン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ型亜目[3] Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
階級なし : 鰭脚類 Pinnipedia
上科 : アシカ上科[4] Otarioidea
: セイウチ科 Odobenidae
学名
Odobenidae Allen1880 [1][5][6][7]
タイプ属
Odobenus Brisson1762 [1]
シノニム
本文を参照
和名
セイウチ科[8]
英名
walruses [9][5]
下位分類(亜科等、†は絶滅群)

新生代新第三紀中新世前期の北太平洋沿岸地域(日本列島周辺地域とアメリカ合衆国西海岸南部周辺地域のいずれか)に出現し、中新世のうちに北太平洋で多様性を遂げたが、鮮新世に入ると衰退を始め、更新世にはわずか2しか確認できなくなり、そして現世では、セイウチ(学名:Odobenus rosmarus)の1属12亜種[10](異説では3亜種)が命脈を保つばかりで、その1属も絶滅危急種になっている[11]

かつて多様性があったセイウチ科の棲息域の広がりと頭蓋骨のバリエーション[12]
黄色い丸は各化石属の産出地。番号付きの赤い四角は、各化石属のタイプ種の産出地。黒い星印は、この画像の原典たる論文が主題とする Titanotaria orangensisティタノタリア・オランゲンシス) の化石産出地を示す。頭蓋骨は大小さまざまに描かれているが、実寸が反映されている。頭蓋骨が右を向いている属は西太平洋沿海に、左を向いている属は東太平洋沿海に棲息していたことを表している。正面を向いている形でベーリング海峡沿海に描かれているのは、唯一の現生種であるセイウチ

分類

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属などの化石産出年代については、特に言及しない限り Fossilworks を出典としている。属の記述は化石産出年代の早い順。産出年代が同じものの中ではアルファベット順

鰭脚類の下位分類として アシカ上科(Otarioideaを設け、その下位にアシカ科(学名:Otariidae)とセイウチ科を置く考え方もあるが[4][13]、鰭脚類全体を上科相当とみなしてアザラシ上科(Phocoidea)に含める考え方もある[14]。「系統分類」節で示した Boessenecker et Churchill, 2013 の系統図がそうであるように、異説もある。

セイウチ科で現存する系統はセイウチ属のみである[15]

セイウチ科の直下の分類は、長い牙を具えているかいないかで二分することができ、長い牙を発達させたグループには「新セイウチ類」を意味するネオドベヌス類[要出典](学名:Neodobenia)の名が与えられている。長い牙を発達させる以前の古い形のセイウチ類(イマゴタリア属など)をここでは「古代セイウチ類」と仮称するが[独自研究?]、学名は与えられていない。亜科も設けられていない。「新セイウチ類」ことネオドベヌス類の下位分類としては、上顎にも下顎にも長い牙を具えているデュシグナトゥス亜科[要出典](学名:Dusignathinae)と、上顎にだけ長い牙を具えている属とその近縁属とで構成されるセイウチ亜科(学名:Odobeninae)がある。

下位分類(2020年代)

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(和名)プロネオテリウム[要出典]学名の原義)先ネオテリウム、前ネオテリウム[ prō + Neotherium ]。(備考)化石産出年代 20.43 to 15.97 Ma(前期中新世後半バーディガリアン)。目下のところ最も古い年代(約2043万年前)から化石を産出している属である[16]。化石産出地は、米国オレゴン州)。
(和名)ナノドベヌス[要出典](学名の原義)矮小なオドベヌス(矮小なセイウチ)[ nānō + Odobenus ]。(備考)化石産出年代 15.97 to 7.246 Ma(中期中新世前半ランギアン – 晩期中新世前半トートニアン)。セイウチ科の進化史上、最も小さな属[16]。化石産出地は、メキシコバハ・カリフォルニア)。
(和名)ネオテリウム[要出典](学名の原義)新たな獣(新たな哺乳類)[ neō[注 2] + -thērium ]。(備考)化石産出年代 15.97 to 11.608 Ma(中期中新世前半ランギアン – 後半サーラバリアン)。化石産出地は、メキシコバハ・カリフォルニア)、米国(カリフォルニア州)、日本鳥取県)。
(和名)ペラギアルクトス[要出典](学名の原義)外洋のpelagī + arctos ]。(備考)化石産出年代 15.97 to 13.65 Ma(中期中新世前半ランギアン – 後半サーラバリアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)。
(和名)プロトタリア[要出典](学名の原義)初期オタリア、あるいは、初期アシカproto- + Otaria ]。(備考)化石産出年代 15.97 to 13.65 Ma(中期中新世前半ランギアン – 後半サーラバリアン)。進化系統上、基部系統の中にあって最も基部に近いか基部そのものと考えられている[16](『系統分類』を参照のこと)。化石産出地は、日本。
(和名)カムチャタルクトス(カンチャタルクトス属)[要出典](学名の原義)カムチャツカKamtschatkaKamchatka〉+ arctos ]。(備考)化石産出年代 15.97 to 11.608 Ma(中期中新世前半ランギアン – 後半サーラバリアン)。化石産出地は、ロシアカムチャツカ半島)。
(和名)アルカエオドベヌス(アーケオドベヌス属)[要出典](学名の原義)始まりのオドベヌス(始まりのセイウチ)、古代のオドベヌス(古代のセイウチ)[ archaeo- + Odobenus ]。(備考)化石産出年代 11.608 to 7.246 Ma(晩期中新世前半トートニアン)。化石産出地は、日本(北海道)。
(和名)イマゴタリア[要出典](学名の原義)祖先形(祖先イメージ)オタリア[ imāgō + Otaria ]。(備考)化石産出年代 11.608 to 10.3 Ma(晩期中新世前半トートニアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)、日本(福島県喜多方市)。
(和名)ポントリス[要出典](備考)化石産出年代 11.608 to 7.246 Ma(晩期中新世前半トートニアン)。セイウチ科の進化史上で突出して巨大な属であった[16]。化石産出地は、米国(カリフォルニア州、オレゴン州)。
(和名)プセウドタリア(シードタリア属)[要出典](学名の原義)オタリア(オタリアもどき)、あるいは、偽アシカ(アシカもどき)[ pseudo- + Otaria ]。(備考)化石産出年代 11.608 to 7.246 Ma(晩期中新世前半トートニアン)。化石産出地は、日本(北海道)。
(和名)ティタノタリア(タイタノタリア属)[要出典](学名の原義)ティーターン巨人、巨大)オタリア、あるいは、ティーターン・アシカ[ Titan + Otaria ]。(備考)化石の産出年代と産出地については情報未確認。
(和名)ゴムポタリア属(ゴムフォタリア、ゴンフォタリア属)[要出典](学名の原義)/のオタリア、あるいは、楔/爪のアシカ[ gomphō + Otaria ]。(備考)化石産出年代 7.246 to 5.332 Ma(晩期中新世後半メッシニアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)。
(和名)デュシグナトゥス[要出典](学名の原義)悪夢/怪物/悪霊を具える者[ dusī + -gnathous ]。(備考)化石産出年代 7.246 to 2.588 Ma(晩期中新世後半メッシニアン – 鮮新世後期ピアセンジアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)。
(和名)オントケトゥス(オントケタス属)[要出典](学名の原義)なる者[ onto- + cētus ]。(備考)化石産出年代 10.3 to 0.012 Ma(晩期中新世前半トートニアン第四紀後期更新世)。化石産出地は、米国(フロリダ州ジョージア州サウスカロライナ州)、ベルギーイギリスニュージーランドメキシコ
(和名)アイウークス属(アイヴークス[要出典](学名の原義)aiviq(アイヴィック;イヌピアック語でセイウチのこと)なる者[ ipk: aiviq(セイウチ)+ la: -us ][ wikt:en:Aivukus ]。(備考)化石産出年代 7.246 to 5.332 Ma(晩期中新世後半メッシニアン)。化石産出地は、メキシコバハ・カリフォルニアアルメッハス層英語版〉)。
(和名)プリオペディア[要出典](学名の原義)鮮新世においてペディオン(解剖学用語:一面しか持たない非対称三斜晶系)を具える者[ Pliocene + pedia ]。(備考)化石産出年代 5.332 to 3.6 Ma(鮮新世ザンクリアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)。
(和名)プロトドベヌス[要出典](学名の原義)初期オドベヌス(初期セイウチ)[ proto- + Odobenus ]。(備考)化石産出年代 5.332 to 3.6 Ma(鮮新世ザンクリアン)。化石産出地は、日本。
(和名)ワレニクトゥス属(ヴァレニクトゥス、ヴァレニクタス属)[要出典](備考)化石産出年代 3.6 to 2.588 Ma(鮮新世ピアセンジアン)。化石産出地は、米国(カリフォルニア州)。
(和名)セイウチ(オドベヌス属[要出典])。名)walrus (cf. wikt:en:). (学名の原義)を有し、歩く者[ Odobenusodonto- + benus ]。(備考)化石産出年代 1.806 to 0.000 Ma(約180.6万年前 – 現世第四紀更新世カラブリアン完新世メガラヤン)。唯一の現生絶滅危急種)。化石産出地は、カナダ、米国(アラスカ州カリフォルニア州メイン州ミシガン州ニューハンプシャー州ノースカロライナ州サウスカロライナ州バージニア州)、グリーンランドロシア、日本、メキシコ、北大西洋オランダドイツベルギーイギリス。現生棲息域は、ベーリング海峡周辺、北極海周辺(グリーンランドおよびバフィン湾周辺、スヴァールバル諸島およびバレンツ海周辺、セヴェルナヤ・ゼムリャ諸島周辺)。

系統分類

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系統分類について、2013年に発表されたロバート・W・ブーセネッカー (Robert W. Boessenecker) とモーガン・チャーチル (Morgan Churchill) の論文[20]に基づけば以下のとおりである。

Enaliarctos emlongi エナリアルクトス・エムロンギ   

Pteronarctos goedertae プテロナルクトス(プテロンアルクトス)・ゴエデルタエ

Desmatophocidae
デスマトフォカ科

Allodesmus gracilis アロデスムス・グラキリス

Desmatophoca oregonensis デスマトフォカ・オレゴネンシス

Otariidae
アシカ科

Callorhinus ursinus キタオットセイ   

Phocidae
アザラシ科

Monachus monachus チチュウカイモンクアザラシ

Erignathus barbatus アゴヒゲアザラシ   

Imagotariinae[21]
イマゴタリア亜科

Prototaria primigenia プロトタリア・プリミゲニア

Proneotherium regenningi プロネオテリウム・レゲンニンギ(レゲニンギ)

Neotherium mirum ネオテリウム・ミルム

Kamtschatarctos sinelnikovae カムチャタルクトス・シネルニコワエ(シネルニコヴァエ)

Pseudotaria muramotoi プセウドタリア・ムラモトイ

Pelagiarctos sp. ペラギアルクトス

Imagotaria downsi イマゴタリア・ドウンシ(ダウンシ)   

Pontolis magnus ポントリス・マグヌス

Dusignathinae
デュシグナトゥス亜科

Dusignathus santacruzensis デュシグナトゥス・サンタクルゼンシス   

Gomphotaria pugnax ゴムフォタリア・ペグナクス   

Dusignathus seftoni デュシグナトゥス・セフトニ

Odobeninae
セイウチ亜科

Aivukus cedrosensis アイヴークス・セドロセンシス

Protodobenus japonicus プロトドベヌス・ヤポニクス(ジャポニクス)

Ontocetus オントケトゥス

Valenictus chulavistensis ヴァレニクトゥス・クラヴィステンシス

Odobenus rosmarus セイウチ   

シノニム

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Odobenidae Allen1880(セイウチ科)のシノニムには以下のものがある。

脚注

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注釈

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  1. ^ Fossilworks のセイウチ科[1]は「既知で最古の地層から化石が発見された属」(※基部系統と見做されているのは別属のプロトタリア)であるプロネオテリウム[2]が反映されていない(2022年12月時点)ため、ここでは反映させる。
  2. ^ 間違った位置に案内されるので正しい位置を示せない。"Latin" 節を参照のこと。

出典

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  1. ^ a b c Fw.
  2. ^ a b Fw: Proneotherium.
  3. ^ 横畑 (2003), p. 130.
  4. ^ a b 田中ほか (1995).
  5. ^ a b ITIS.
  6. ^ WoRMS.
  7. ^ W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
  8. ^ 川田ほか (2018).
  9. ^ EoL, names.
  10. ^ ITIS, 2022年12月閲覧.
  11. ^ Lowry, L. (2016). Odobenus rosmarus. IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T15106A45228501. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T15106A45228501.en. https://www.iucnredlist.org/species/15106/45228501 2022年12月26日閲覧。. 
  12. ^ a b Magallanes et al. (2018).
  13. ^ 米澤ほか (2008).
  14. ^ 遠藤・佐々木 (2001).
  15. ^ Berta, Sumich & Kovacs (2005).
  16. ^ a b c d Velez-Juarbe & Salinas-Márquez 2018
  17. ^ Mindat: Neodobenia.
  18. ^ Fw: Dusignathinae.
  19. ^ Mindat: Odobeninae.
  20. ^ Boessenecker & Churchill (2013).
  21. ^ Fw: Imagotariinae.

参考文献

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書籍、ムック
  • Berta, Annalisa; Sumich, James; Kovacs, Kit (December 2005) (英語). Marine Mammals: Evolutionary Biology (2nd ed.). Elsevier / Academic Press. ISBN 978-0-08-048934-6 
論文

関連項目

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外部リンク

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データベース

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