DVB-T
DVB-T(Digital Video Broadcasting - Terrestrial)とはDVB規格の中の地上デジタルテレビジョン放送の規格である。デジタルの音声と動画の信号を直交周波数分割多重方式(OFDM)のデジタル変調(COFDM)で送信する。情報源符号としては MPEG-2、さらに最近では H.264/MPEG-4 AVC を採用している。
DVB-Tは送信規格であり、特にデジタルテレビジョン放送で採用されている。例えばイギリスではFreeviewがある。OFDMは広帯域のデジタル信号を多数の比較的低速なデジタルストリームに分割し、それらを互いに直交し近接する搬送周波数で送信する。発信局が何マイルか離れていれば同じ周波数で発信可能で、中間にある受信機は両方の局の信号を正しく復調可能である。
DVB-T 送信機の概要
編集この図に基づいて、個々のブロックの信号処理について以下に解説する。
- 情報源符号とMPEG-2多重化(Source coding and MPEG-2 multiplexing)
- 圧縮された動画、圧縮された音声、データストリームがPS(Programme Stream)として多重化される。1つ以上のPSをまとめて、MPEG-2 TS(Transport Stream)にする。基本的にこのデジタルストリームが送信されセットトップボックスで受信される。転送されるデータのビットレートは符号化および変調のパラメータで変化し、5Mbit/sから32Mbit/sとなる(詳しくは下記の表を参照)。
- スプリッタ(Splitter)
- Hierarchical Transmissionと呼ばれる技法を使うと、2つの異なるTSを同時に転送できる。これは例えば同じ搬送波でSDTV信号とHDTV信号を送信するのに使われる。一般にSDTV信号の方がHDTV信号よりも頑健である。受信機では受信信号の状況によって、可能ならばHDTVを使い、電波が弱い場合はSDTVを使う。
- MUX適応とエネルギー拡散(MUX adaptation and energy dispersal)
- MPEG-2 TSは固定長(188バイト)のパケットの並びとなる。エネルギー拡散と呼ばれる技法で、バイト列が非相関化される。
- 外部エンコーダ(External encoder)
- 第一段階の誤り訂正符号化を行う。非2元ブロック符号、リード・ソロモン RS(204, 188)符号を使い188バイトのパケットのうち最大8バイトを訂正可能とする。
- 外部インターリーバ(External interleaver)
- 畳み込みインターリーブによって転送データの並びを再配置する。これにより、誤りが長期間に渡って発生した場合に対処する。
- 内部エンコーダ(Internal encoder)
- 第二段階の誤り訂正符号化を行う。畳み込み符号を使う。符号化レートとしては1/2、2/3、3/4、5/6、7/8の5種類がある。
- 内部インターリーバ(Internal interleaver)
- 再びデータストリームを再配置し、バーストエラーに対する耐性を強化する。ここではブロック単位の入れ替えが行われる。
- マッパー(Mapper)
- デジタルビット列をベースバンド変調された複素シンボルの列にマッピングする。ここではQPSK、16-QAM、64-QAMという3種類の変調方式が使われる。
- フレーム適応(Frame adaptation)
- 複素シンボル列が固定長(1512シンボル、3024シンボル、6048シンボル)のブロックにグループ化される。68ブロックを1フレームとし、4フレームを1スーパーフレームとする。
- パイロット信号とTPS信号(Pilot and TPS signals)
- 受信を容易にするためにブロック間に信号を挿入する。パイロット信号は同期に使われ、TPS(Transmission Parameters Signalling)信号は送信信号のパラメータを含んでいる。なお、信号を受信して同期し復号するにはそれらのパラメータを受信機側で事前に知っている必要がある。従って、TPS信号は途中でパラメータが変更される場合や再同期が必要な場合などにのみ使われる。
- OFDM変調(OFDM Modulation)
- ブロック列をOFDM方式で変調する。キャリアは2048本(2k)、4096本(4k)、8096本(8k)が使われる。キャリア本数を増やしてもペイロードのビットレートは増加せず、一定である。
- ガードインターバル挿入(Guard interval insertion)
- 受信しやすいようにOFDMの各ブロックの前にcyclic prefixを挿入する。ガードインターバルの幅は元のブロック長の1/32、1/16、1/8、1/4のいずれかである。単一周波数ネットワークでは、符号間干渉を除去するためにcyclic prefixによるガードインターバルが必須である。
- DACとフロントエンド(DAC and front-end)
- デジタル-アナログ変換回路(DAC)でデジタル信号をアナログ信号に変換し、RFフロントエンドで放送周波数(VHF、UHF)に変調する。帯域幅はチャンネルとして割り当てられている5, 6, 7, 8MHzである。DACの入力におけるベースバンドのサンプリングレートはこのチャンネルの帯域幅に依存する。 サンプル/秒であり、 はチャンネルの帯域幅をHzで表した値である。
DVB-Tシステム 8 MHz チャンネルのビットレート(Mbit/s) | |||||
---|---|---|---|---|---|
変調方式 | 符号化レート | ガードインターバル | |||
1/4 | 1/8 | 1/16 | 1/32 | ||
QPSK | 1/2 | 4.976 | 5.529 | 5.855 | 6.032 |
2/3 | 6.635 | 7.373 | 7.806 | 8.043 | |
3/4 | 7.465 | 8.294 | 8.782 | 9.048 | |
5/6 | 8.294 | 9.216 | 9.758 | 10.053 | |
7/8 | 8.709 | 9.676 | 10.246 | 10.556 | |
16-QAM | 1/2 | 9.953 | 11.059 | 11.709 | 12.064 |
2/3 | 13.271 | 14.745 | 15.612 | 16.086 | |
3/4 | 14.929 | 16.588 | 17.564 | 18.096 | |
5/6 | 16.588 | 18.431 | 19.516 | 20.107 | |
7/8 | 17.418 | 19.353 | 20.491 | 21.112 | |
64-QAM | 1/2 | 14.929 | 16.588 | 17.564 | 18.096 |
2/3 | 19.906 | 22.118 | 23.419 | 24.128 | |
3/4 | 22.394 | 24.882 | 26.346 | 27.144 | |
5/6 | 24.882 | 27.647 | 29.273 | 30.160 | |
7/8 | 26.126 | 29.029 | 30.737 | 31.668 |
受信機の概要
編集受信機は送信機で使われている技術と対になる技術を使っている。
- フロントエンドとADC
- アナログ信号をベースバンドに変換し、アナログ-デジタル変換回路(ADC)を使ってデジタル信号に変換する。
- 時間同期と周波数同期
- デジタルのベースバンド信号を調べ、フレームとブロックの先頭を見つける。信号の周波数成分についての問題もここで訂正される。
- ガードインターバル除去
- cyclic prefixを除去。
- OFDM復調
- 周波数均一化
- パイロット信号で受信信号を均一化。
- 逆マッピング
- 内部逆インターリーブ
- 内部復号
- ビタビアルゴリズムを使用。
- 外部逆インターリーブ
- 外部復号
- MUX適応
- MPEG-2 逆多重化と情報源復号
DVB-Tを採用している国と地域
編集出典[1]
ヨーロッパ編集
|
|
アジア / オセアニア編集
アフリカ編集
|
DVB-T2
編集2006年3月、DVBプロジェクトはDVB-Tの更新の検討開始を決定した。2006年6月、正式な研究グループ TM-T2 (Technical Module on Next Generation DVB-T) が結成され、第二世代の地上デジタルテレビジョン放送にふさわしい方式 DVB-T2 を検討することになった[3]。
シリアがDVB-T2を採用している。
2007年4月に発表された要求仕様によると[4]DVB-T2の第一フェーズでは既存のアンテナを使って固定の受信機と可搬型受信機(モバイルではない)向けに最適な方式とし、第二および第三フェーズではより多くのペイロードを送信し(アンテナも新たなものにする)モバイルでの受信も検討することになっている。既存のDVB-Tと同等の帯域条件でペイロードを最低でも30%増加させることが求められている。期待されている技術としては、以下のものがある。
- LDPC/BCH符号による前方誤り訂正。衛星デジタルテレビジョン放送の規格 DVB-S2 などで既に採用されている技術。
- オプションとしてMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)などのダイバーシティシステムを利用。
- アンテナのピーク対平均電力比を低減する手法(PAPR低減)の改善。
- 8k以上のサイズのFFTを使う。16kや32kのFFTを使うことで単一周波数ネットワーク(SFN)を使ったときのオーバーヘッドを最小化する。現在のSFNに比較して50%以上のビットレート増が見込まれる。
- チャネル推定の改善。パイロット搬送波が少なくて済むようにする。
- SFNにおいて発信局間の距離を30%増大させる。
- 可変符号化と可変変調
- 柔軟な多重化
- 新たなDVB-T2受信機はDVB-Tの放送も受信できることが期待されるが、DVB-T受信機はDVB-T2を受信できない。ファームウェアの更新でも対応できない。
DVB-T2の検討作業は近々完了し、2008年中にETSIにて規格案として提出される予定である。市場への展開は2009年になる予定。
BBC、ITV、チャンネル4、Fiveは規制機関・OfcomとDTTによるHDTV用帯域を増やすために帯域を明け渡すことに合意した[5]。DVB-T2を使った放送は2009年11月に開始された。
2008年4月、OfcomはDVB-T2とMPEG-4を使ったHDTVの周波数割当を決定した[6]。
脚注
編集- ^ DVB websiteの公式情報より
- ^ Lankanewspapers.com, Dialog TV launches another South Asia`s first DVBT, 2008-01-24. Retrieved on 2008-01-26.
- ^ TM-T2. Second Generation DVB-T, DVB.org
- ^ DVB - Digital Video Broadcasting - DVB-T2, DVB.org
- ^ “3 Freeview HD channels will start 2009 – ukfree.tv – independent digital television and switchover advice, since 2002”. 2007年11月25日閲覧。
- ^ “Ofcom Statement on DTT future, announced on April 3, 2008”. 2008年4月9日閲覧。
- ^ “NECプレスリリース”. 2009年12月10日閲覧。
関連項目
編集- ATSC(Advanced Television Systems Committee, North American Standard)
- DAB(Digital Audio Broadcast)
- 双方向番組
- 地上デジタルテレビジョン放送
- OFDMシステム比較表
- スペクトル効率比較表
参考文献
編集- ETSI Standard:EN 300 744 V1.5.1, Digital Video Broadcasting(DVB); Framing structure, channel coding and modulation for digital terrestrial television, ETSI Publications Download Area から入手可能(検索画面が表示されるので、適当な文字列を入力して検索。PDFのダウンロードは無料だが登録が必要)