年収の壁
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年収の壁(ねんしゅうのかべ)とは、所得が一定額を超えると、本人、あるいはその扶養者に税負担や社会保険料等が発生し、本人、あるいは世帯全体で実際に受け取ることができる金額(手取り)が減少するとされる現象のことである[1][2]。福祉の罠の一つ[3]。
2024年時点で税制による103万円の壁と、社会保険料による106万円の壁、130万円の壁が存在する[4]。
税制における控除において、所得が一定の額を超えると超えた分の所得に税金が発生することも「年収の壁」と呼ぶことがあるが、この用法については誤解だとされることも多い[5]。(→#年収の「壁」とされるもの)
社会保険料と税を一体化し、控除による税額軽減に代えて給付付き税額控除、あるいは給付を導入すること等で解消が可能とされる[6]。
税制における壁
編集2024年時点で、扶養控除によるものが存在する[7]。一部、2025年度税制改正大綱で解消されることとなった[8]。
扶養控除
編集103万円の壁
編集2024年時点で、扶養を受ける者の年収が基礎控除額と、扶養控除の扶養者への適用基準額の合計である103万を超えた場合、扶養者の扶養控除が消失し税負担が発生する現象[7][9]。
2025年度税制改正大綱で、特定扶養親族(扶養を受ける19歳以上23歳未満)の被扶養者について、配偶者控除と同様、年収が150万円を超えた場合は段階的に扶養者の控除額を減らしていくものとされた[10][11]。これにより(特定扶養親族については)世帯単位での手取りが急減する現象は解消されるとされる[12]。一方で、特定扶養親族についても、社会保険料による130万円の壁は残るという指摘がある[12]。
社会保険料における壁
編集2024年度時点で、社会保険料において、扶養判定による106万円の壁と、130万円の壁が存在する[13]。
106万円の壁
編集学生以外の被扶養者(配偶者)において、一定の条件を満たした上で、年収が106万円を超えると、厚生年金保険料と健康保険料がかかり始める[14][15]。厚生年金における年収要件については、撤廃が検討されている[15]。
健康保険(被用者保険)適用事業所において、保険加入義務が生じる[16]。年収106万円以上の週20時間以上労働になると(勤務期間1年以上で従業員数51人以上の企業に限る、学生は対象外)、会社の被用者保険(健保・年金)への加入義務が生じることとなった(2016年10月から)[17]。
130万円の壁
編集被扶養者において、特定の条件下で年収が130万円を超えると、国民健康保険料と国民年金保険料がかかり始める[14][18]。
国民健康保険の扶養対象ならびに国民年金第3号被保険者から除外される [17]。扶養対象者の年収が130万円以上(60歳以上や障害者は180万円以上)、或いは被保険者の年収の1/2以上だと、被用者保険からの扶養資格から外れ、自ら国民健康保険や国民年金第1号に加入することにより、逆に社会保険料の負担が増えてしまう(130万円の壁)。このため年収が160万円を超えないと、手取り額が増えない(160万円の壁)[要出典]。
そのほかの「壁」
編集配偶者控除
編集103万円の壁(150万円の壁)
編集財務省によれば、既に「壁」はなくなったものと説明される[19]。一方で、パートタイマーやアルバイトで働き、配偶者が配偶者控除を受ける者には「心理的な壁」が残り、働き控えにつながっているとされることがある[20]。
配偶者の所得税における配偶者控除から除外され、配偶者特別控除の対象となる[17]。かつて[いつ?]は103万円を超えると配偶者控除の対象から外れため、給与収入を103万円以内に収めようとする行為が見られた(103万円の壁)[17]。しかし現在[いつ?]は、税法上給与収入が103万円を超えても141万円までは、配偶者特別控除(最高38万円)の対象となって段階的に控除が受けられる仕組みになっており、141万円を超えて初めて控除が無くなる[17]。
もっとも、企業側が家族手当の支給対象を控除対象配偶者に限っている場合、103万の壁を超えると総合収支では家族の収入が減少する可能性があるため、必ずしも年末の就労調整が非合理的とはいえない。しかも、住民税では控除対象配偶者でなくなると、均等割・所得割の非課税基準の加算額の人数に算定されないため、配偶者控除であれば住民税非課税又は均等割課税であったものが、住民税の均等割課税又は所得割課税の対象となることがある[要出典]。
1億円の壁
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年収の「壁」とされるもの
編集2024年度時点で、所得が基礎控除と給与所得控除の合計である103万円を超えると、超えた分の所得に所得税がかかり始めることも「103万円の壁」と呼ばれることがある。
一方で、この場合控除された所得に課税は行われないため、収入の逆転現象は生じない[5][21]。したがって、これを「壁」と呼ぶこと自体が誤解だという見解が存在する[22]。一部ではこれを「坂」と呼ぶ場合がある[23]。
各種控除の壁
編集98万円(100万円)の壁
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住民税の課税対象となる
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103万円の壁 | 所得税の課税対象となる |
141万円の壁 | 配偶者特別控除からも除外される[17] |
批判
編集日本総合研究所の西沢和彦は、社会保険料制度について「正社員の夫とそれを支える専業主婦の妻」という過去の価値観に基づいた制度の抜本的な見直しが必要だとしている[13]。
東京財団政策研究所の森信茂樹は、英国の世帯単位の手取り所得に応じて額が決まるユニバーサルクレジットを例に挙げ、中低所得者に対して給付付き税額控除を行うことで、社会保険料の106万円や130万円の壁の対策になるとしている[3]。
高橋洋一は、106万円の壁のような収入の逆転現象・就労控えが生じないように、欧米では税額控除などの制度を導入していることを指摘し、マイナンバーを利用することで、把握した世帯の収入に応じて社会保障給付を逓増・逓減させたりする制度が求められているとしている[30][31]。
脚注
編集- ^ “年収の壁”. 野村総合研究所(NRI) (2023年12月12日). 2025年1月9日閲覧。
- ^ “配偶者特別控除「150万円の壁」突破 上限160万円に引き上げへ”. 毎日新聞. 2025年1月11日閲覧。
- ^ a b “問題は「103万の壁」より「貧困の罠」、根本的な対策は給付付き税額控除で(森信茂樹) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2025年1月11日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年11月8日). “103万の壁って?106万、130万も…違いは?年収の壁を詳しく | NHK”. NHKニュース. 2025年1月8日閲覧。
- ^ a b “「年収の壁」の“誤解” 103万円は本当に壁と言えるのか?本丸は「社会保険料の壁」 緩和ではなく実態は基準強化か”. TBS CROSS DIG with Bloomberg (2024年11月23日). 2025年1月9日閲覧。
- ^ “「103万円の壁」の問題は、大きなビジョンの下で、給付付き税額控除などの議論を—連載コラム「税の交差点」第124回 | 研究プログラム”. 東京財団政策研究所. 2025年1月18日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2024年11月8日). “103万の壁って?106万、130万も…違いは?年収の壁を詳しく | NHK”. NHKニュース. 2025年1月8日閲覧。
- ^ 内政部, 時事通信 (2024年12月21日). “特定扶養控除の年収要件大幅緩和 国民民主の要求丸のみ―税制改正:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2025年1月9日閲覧。
- ^ “No.1180 扶養控除|国税庁”. www.nta.go.jp. 2025年1月12日閲覧。
- ^ “特定扶養控除、150万円に緩和 学生バイトの「年収の壁」で政府・与党”. 日本経済新聞 (2024年12月12日). 2025年1月12日閲覧。
- ^ 内政部, 時事通信 (2024年12月21日). “特定扶養控除の年収要件大幅緩和 国民民主の要求丸のみ―税制改正:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2025年1月9日閲覧。
- ^ a b 平石隆太. “2025 年度税制改正大綱解説 大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか”. 大和総研 金融調査部. 2025年1月12日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2023年7月3日). “「年収の壁」対策どうなる 106万円 130万円…支援強化パッケージは | NHK”. NHK首都圏ナビ. 2025年1月12日閲覧。
- ^ a b “「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?”. 政府広報オンライン. 2025年1月12日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会. “「106万円の壁」撤廃案 審議会部会で了承 厚生労働省|NHK 首都圏のニュース”. NHK NEWS WEB. 2025年1月12日閲覧。
- ^ 健康保険法 第3条9のロ
- ^ a b c d e f 永由裕美「女性の活躍」 と税・社会保障制度」『DIO』第297巻、連合総研、2014年、NAID 40020236433。
- ^ “た行 第3号被保険者”. www.nenkin.go.jp. 2025年1月12日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年11月7日). “年収の壁 見直すとどうなる 減税額 年収による違いは? 基礎控除 給与所得控除 課税所得 103万円の壁の仕組みとは| NHK”. NHK首都圏ナビ. 2025年1月11日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年11月7日). “年収の壁 見直すとどうなる 減税額 年収による違いは? 基礎控除 給与所得控除 課税所得 103万円の壁の仕組みとは| NHK”. NHK首都圏ナビ. 2025年1月11日閲覧。
- ^ “年収103万円の壁、実は大したことない!?手取りがガクッと減る「本当に怖い壁」とは”. ダイヤモンド・オンライン (2024年11月7日). 2025年1月9日閲覧。
- ^ “「年収の壁」の“誤解” 103万円は本当に壁と言えるのか?本丸は「社会保険料の壁」 緩和ではなく実態は基準強化か”. TBS CROSS DIG with Bloomberg (2024年11月23日). 2025年1月11日閲覧。
- ^ “労働力不足が主婦の労働を減らす「130万円の壁」の恐怖 | 株予報コラム”. 2025年1月11日閲覧。
- ^ 大阪市市税条例第19条
- ^ 京都市市税条例第17条の3
- ^ 個人住民税均等割の非課税限度額制度(総務省)
- ^ 地方税法第24条の5第3項
- ^ 地方税法第295条第3項
- ^ 南山城村税条例第24条第2項
- ^ 高橋洋一 (2024年5月31日). “【日本の解き方】「配偶者控除」の見直し論相次ぐ 日本に「年収の壁」問題 欧米方式への移行は一案だが…〝便乗増税〟に警戒すべき(1/2ページ)”. zakzak:夕刊フジ公式サイト. 2025年1月11日閲覧。
- ^ “教育無償化や「106万円の壁」の解消、誰もが納得する方法はある”. ダイヤモンド・オンライン (2017年12月8日). 2025年1月11日閲覧。