群馬パチンコ店員連続殺人事件
群馬パチンコ店員連続殺人事件(ぐんまパチンコてんいんれんぞくさつじんじけん)とは、2003年(平成15年)2月 - 4月に群馬県で相次いで発生した2件の強盗殺人事件[11]。群馬県勢多郡宮城村柏倉(現:前橋市柏倉町)と同県太田市でパチンコ店員が相次いで殺害され、被害者の死体はいずれも埼玉県行田市の福川に遺棄された[12][13][14]。
群馬パチンコ店員連続殺人事件 | |
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![]() 福川水門(埼玉県行田市北河原) | |
場所 | |
標的 |
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日付 | 2003年(平成15年)2月23日 - 4月1日[1] (UTC+9) |
概要 | 男2人が共謀してパチンコ店に侵入し、パチンコ店員を絞殺して現金300万円を奪い、遺体を福川水門付近に遺棄した[1][2]。その後、同様にパチンコ店員を殺害して現金11万9000円を奪い、遺体を福川水門付近に遺棄した[1][2]。 |
攻撃手段 | 絞殺 |
攻撃側人数 | 2人 |
死亡者 | 2人 |
損害 | |
犯人 |
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容疑 | 強盗殺人・死体遺棄・建造物侵入・窃盗・窃盗未遂 |
動機 | 遊興費を得るため[3][4] |
対処 | TとOを埼玉県警・群馬県警合同捜査本部が逮捕・さいたま地方検察庁が起訴[3][5] |
刑事訴訟 | |
管轄 |
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事件の概要
編集群馬県太田市東矢島町の元パチンコ店員の男T(事件当時36歳:無職)は、パチンコ仲間だった栃木県河内郡南河内町(現:下野市)薬師寺のコンビニエンスストア店員だった男O(事件当時25歳)と共謀[15]。2003年2月23日午前1時ごろ、Tの元同僚である伊勢崎市のパチンコ店員A(当時47歳)を勤務先兼住居の同市山王町「P」から向かいのコンビニエンスストアへ買い物に出かける際に呼び止め、Oの乗用車に乗せて勢多郡宮城村柏倉(現:前橋市柏倉町)の山林に連れ込み路上でロープで首を絞めて殺害した[15][16]。Aの遺体をトランクに積み、伊勢崎市に戻ったTとOは午前3時ごろ、Aが持っていた鍵を使い警備システムを解除した上で店舗に侵入[15]。売上金300万円を奪ったのち、埼玉県行田市北河原の福川水門までAの遺体を運び、午前4時ごろ福川に投げ込んで遺棄した[17][18]。Aの遺体は、3月18日11時40分ごろに福川のさすなべ排水門付近で発見された[3][19]。
伊勢崎で強奪した金は全て500円硬貨と五千円札だった。その大量の500円硬貨をOが太田市内の複数の銀行で一万円札に両替して、150万円ずつ折半した[3]。しかし、1ヶ月ほどのうちに遊興費などで使い果たした2人は4月1日午前2時ごろ、お互いに通い詰めていた太田市浜町のパチンコ店「T」駐車場で同店店員B(当時25歳)を襲いロープで首を絞めて殺害した[4][20]。Bの財布に入っていた現金11万9000円と店の合鍵を盗み、店舗に侵入したが、金庫の解錠ができず売上金の窃盗には失敗した[4]。Bの遺体はA同様、行田市の福川水門から福川に遺棄した[4]。3日後の4月4日10時30分ごろ、腐乱が著しく死因の特定されていなかったAの遺留品を捜索していた埼玉県警行田警察署員によってBの遺体は発見された[21]。
なお、TとOは事件の7年前(1996年)に同じパチンコ店で働いており、その時からの間柄だった[3]。Tが最初の事件の店に勤務していたのは、1998年2月から9月であった[3]。さらに、Tには事件当時約150万円の借金があった[15]。
この事件は2人の逮捕直後に隣の埼玉県熊谷市で元暴力団員らによる熊谷男女4人殺傷事件が発生し、その事件のほうがセンセーショナルであったため、本事件は陰となる形であまりメディアに取り上げられることはなかった[4]。
逮捕・起訴
編集埼玉県警・群馬県警の合同捜査本部はパチンコ店の内情に詳しい者の犯行と見てAの交友関係を中心に洗い出しを進めたところ、捜査線上にTが浮上[17]。また、群馬県内の金融機関でOが500円硬貨を両替していたことも突き止めた[17]。
2003年(平成15年)7月20日、埼玉県警・群馬県警の合同捜査本部はAの死体遺棄容疑で2人を逮捕した[17]。その後、Aに対する強盗殺人、Bに対する強盗殺人容疑などで2人を再逮捕した[22][23]。
刑事裁判
編集第一審・さいたま地裁
編集2003年(平成15年)11月4日、さいたま地裁(川上拓一裁判長)で初公判が開かれ、罪状認否でTとOはいずれも「間違いありません」と述べて起訴事実を全面的に認めた[26][27]。冒頭陳述で検察側は、事件前、Tは収入の当てがなかったため、金銭を得る目的でOを共犯に引き入れて犯行に及んだと指摘[27]。さらにAを殺害して現金300万円を奪った後、2人で「楽して金を手に入れる方法はないか」と相談した結果、第二の犯行に及んだと述べた[27]。
2004年(平成16年)3月5日、論告求刑公判が開かれ、検察側は「顕著な残忍性、冷酷性を有し、反社会的性格は極めて危険で、もはや改善更生は不可能」としてTとOに死刑を求刑した[28]。
2004年(平成16年)3月26日、さいたま地裁(川上拓一裁判長)は「Tは主導的役割を果たし、Oも安易に加担したうえ、犯行を積極的に計画した」と認定した上で「わずか2ヶ月の間に2度も殺害を繰り返した極悪非道な犯行」としてTとOにいずれも求刑通り死刑判決を言い渡した[29][30]。
Tの弁護側は「Aの死因は窒息死だが、川で窒息死した可能性がある」としてAに対する死体遺棄罪について無罪を主張したが、判決では「首の骨が折れていることや、呼吸をしていないことを確認するなど、遺棄する前にすでに死亡していたことを示すものばかり」として弁護側の主張を全面的に退けた[29]。
また、Oの弁護側は「Tが計画から最後まで主導し、従属的立場だった」と主張したが、「いとも安易に犯行に加担し、B殺害については積極的に犯行を計画し、主体的に犯行を遂行しており、両被告の刑事責任に差はない」として弁護側の主張を全面的に退けた[29]。2人は即日控訴した[29]。
控訴取り下げ・Tの死刑確定
編集Tは2005年(平成17年)7月13日に東京高裁で予定されていた控訴審第1回公判に出廷せず、弁護人に「死んでおわびしたい」「裁判を続けても結果が見えている」と話して自ら控訴を取り下げた[31]。
弁護側は「被告人は正常な判断ができない状態で控訴を取り下げており、無効」と主張し、公判の続行を求めた[31]。これを受けて東京高裁は弁護側、検察側双方の意見を聞き、Tの控訴取り下げが有効か検討した[31]。
2005年(平成17年)11月30日、東京高裁(白木勇裁判長)はTの控訴取り下げを有効と判断し、訴訟終了を決定した[32]。弁護側は異議申し立てをしたが、東京高裁は棄却したため、決定を不服として特別抗告した[33]。
2006年(平成18年)6月6日、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は弁護人の特別抗告を棄却する決定をした[33][34]。これによりTの死刑判決が正式に確定した[33]。
控訴審・東京高裁
編集2006年(平成18年)9月29日、東京高裁(白木勇裁判長)は「金目当ての犯行を短期間に繰り返しており許し難い犯行だ」として一審・さいたま地裁のOに対する死刑判決を支持、控訴を棄却した[35][36]。被告側は「共犯者のTが主導し、それに追従しただけ。死刑は不当」と主張したが、判決では「積極的に犯行を遂行し、利益も公平に得ている」として被告側の主張を退けた[36]。Oは判決を不服として上告した。
上告審・最高裁第三小法廷
編集2009年(平成21年)6月9日、最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長)は「2人の命を奪った結果は重大。共犯者とともにロープで首を絞め続けた殺害方法は残忍極まりない。犯行の準備段階において重要な役割を果たし、実行に積極的に加担し、主体的に犯行を遂行した。金欲しさから最初の事件を起こし、金を手に入れると遊興費に使い、次の事件を敢行したという経緯や動機に酌むべき点はない。被告人が犯行時25歳と比較的若年であって交通事犯による罰金以外に前科がなく、犯行を反省悔悟していること、被告人の両親が第1の被害者の母親に謝罪し、見舞金100万円を支払っていること、第1のパチンコ店に50万円を弁償していることなど、酌むべき事情を十分考慮しても、被告人の罪責は誠に重大であり、被告人を死刑に処した一、二審判決の判断はやむを得ない」として、Oの上告を棄却する決定を出した[37][38]。これにより、Oも死刑が確定した。
死刑執行
編集2021年(令和3年)12月21日、古川禎久法務大臣による死刑執行命令(同年12月17日付署名)に基づき、死刑確定者(死刑囚)となっていたTとOはともに東京拘置所で死刑を執行された(Tは54歳没、Oは44歳没)[39][40]。アムネスティ・インターナショナルによると、死刑囚Oは当時、第2次再審請求中だった[41]。なお、同日には大阪拘置所でも、加古川7人殺害事件の死刑囚Fが刑を執行されている[39][40]。
参考文献
編集- 法務省発表
- 法務省による死刑執行の発表 - 『法務大臣臨時記者会見の概要』(プレスリリース)法務省(法務大臣:古川禎久)、2021年12月21日。オリジナルの2021年12月23日時点におけるアーカイブ 。2021年12月22日閲覧。
関連項目
編集脚注
編集- ^ a b c d e f g h 『朝日新聞』2021年12月21日 夕刊 1社会9頁「3人の死刑執行 群馬連続強盗殺人・兵庫7人殺害 2年ぶり」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b c d 『読売新聞』2021年12月21日 全国版 東京夕刊 夕一面1頁「3人の死刑執行 群馬強殺・兵庫7人殺害」(読売新聞東京本社)
- ^ a b c d e f 『朝日新聞』2003年7月21日 朝刊 群馬1 27頁「「金がなかった」と供述 パチンコ店員連続殺害 /群馬」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b c d e 『朝日新聞』2003年8月30日 朝刊 埼玉1 31頁「「騒がれず次計画」別の店員も強殺 パチンコ店員殺害 /埼玉」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年9月19日 朝刊 埼玉1 31頁「強盗殺人罪で2被告追起訴 群馬のパチンコ店員殺し /埼玉」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b 『毎日新聞』2004年3月27日 東京朝刊 社会面31頁「埼玉・行田のパチンコ店員強殺:2被告に死刑判決--さいたま地裁」(毎日新聞東京本社)
- ^ 『毎日新聞』2005年12月1日 東京朝刊 総合面24頁「埼玉・行田のパチンコ店員強殺:被告が控訴取り下げ、死刑確定へ」(毎日新聞東京本社)
- ^ 『毎日新聞』2006年6月8日 東京朝刊 総合面27頁「埼玉・行田のパチンコ店員強殺:死刑判決が確定」(毎日新聞東京本社)
- ^ a b 『毎日新聞』2021年12月21日 東京朝刊 政治面1頁「死刑執行:3人の死刑執行 兵庫7人殺害など 岸田政権初」(毎日新聞東京本社)
- ^ 『毎日新聞』2009年6月10日 東京朝刊 総合面24頁「群馬・パチンコ店員強殺:最高裁が上告棄却 死刑判決確定へ」(毎日新聞東京本社)
- ^ 「2年ぶり死刑執行 兵庫・群馬の殺人事件の3人」『日本経済新聞』2021年12月21日。オリジナルの2025年1月27日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 「『また死体が…』行田の殺人死体遺棄 募る住民の不安」『東京新聞』2003年4月5日。オリジナルの2003年4月8日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 「パチンコ店員2人殺害事件 強盗殺人容疑も視野 埼玉・群馬県警合同捜査本部」『東京新聞』2003年4月7日。オリジナルの2003年4月15日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 「パチンコ店員2人殺害事件 遺体、多数の打撲痕」『東京新聞』2003年4月8日。オリジナルの2003年4月15日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
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- ^ 『読売新聞』2003年7月22日 群馬 東京朝刊 群馬西26頁「パチンコ店員死体遺棄 T容疑者が主導的立場=群馬」(読売新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年4月6日 朝刊 2社会34頁「埼玉・行田の他殺体、死因は窒息死 身元も判明」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年8月30日 群馬 東京朝刊 群馬西28頁「パチンコ店員連続殺人 2被告を再逮捕 「金取れて2人目計画」=群馬」(読売新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年4月5日 朝刊 埼玉1 31頁「県警、身元確認を急ぐ 利根川など遺体3体目 行田の他殺体/埼玉」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年7月30日 朝刊 1社会31頁「強盗殺人容疑で元同僚ら再逮捕 群馬のパチンコ店員殺人事件」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2003年8月30日 朝刊 群馬1 31頁「太田の店員も殺害容疑、容疑者再逮捕 パチンコ店員連続殺害 /群馬」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年8月20日 埼玉 東京朝刊 埼玉南32頁「パチンコ店員殺害 強盗殺人の罪などで容疑者2人をさいたま地裁に起訴=埼玉」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年9月19日 群馬 東京朝刊 群馬西32頁「パチンコ店員殺害 2被告を追起訴=群馬」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年11月5日 群馬 東京朝刊 群馬西32頁「パチンコ店員連続殺害 2被告、起訴事実認める=群馬」(読売新聞東京本社)
- ^ a b c 『朝日新聞』2003年11月5日 朝刊 群馬1 31頁「起訴事実を2被告認める パチンコ店員殺人初公判 /群馬」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2004年3月6日 埼玉 東京朝刊 埼玉南32頁「パチンコ店員殺害 2被告に死刑求刑 検察断罪「改善更生は不可能」=埼玉」(読売新聞東京本社)
- ^ a b c d 『読売新聞』2004年3月27日 埼玉 東京朝刊 埼玉南34頁「パチンコ店員殺害に死刑判決「もはや矯正不可能」2被告を厳しく断罪=埼玉」(読売新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2004年3月27日 朝刊 1社会39頁「「極悪非道」と2人に死刑判決 群馬・パチンコ店員連続強殺」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b c 『読売新聞』2005年9月23日 全国版 東京朝刊 社会35頁「群馬パチンコ店員2人殺害 「死刑」被告、控訴取り下げ 弁護側は「無効」主張」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2005年12月2日 群馬 東京朝刊 群馬西33頁「パチンコ2店員殺害 被告の死刑確定へ 東京高裁、控訴取り下げ「有効」=群馬」(読売新聞東京本社)
- ^ a b c 『読売新聞』2006年6月8日 全国版 東京朝刊 2社38頁「群馬のパチンコ店員殺害 被告の死刑確定/最高裁」(読売新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2006年6月8日 朝刊 群馬県央・1地方 35頁「T被告の死刑確定 最高裁が特別抗告を棄却 パチンコ店員殺害 /群馬県」(朝日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2006年9月29日 全国版 東京夕刊 夕2社18頁「群馬のパチンコ店員2人殺害 高裁も死刑」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 『毎日新聞』2006年9月29日 東京夕刊 社会面12頁「埼玉・行田のパチンコ店員強殺:2審も死刑支持--東京高裁判決」(毎日新聞東京本社)
- ^ 最高裁判所第三小法廷判決 2009年(平成21年)6月9日 集刑 第296号751頁、平成18年(あ)第2178号、『強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、死体遺棄被告事件』「死刑の量刑が維持された事例(パチンコ店員強殺事件)」。
- ^ 『読売新聞』2009年6月10日 全国版 東京朝刊 2社34頁「パチンコ店強盗殺人 死刑確定へ」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 伊藤和也「3人の死刑執行、2年ぶり 加古川の7人殺害・群馬の連続強盗殺人」『朝日新聞デジタル』朝日新聞社、2021年12月21日。オリジナルの2021年12月21日時点におけるアーカイブ。2021年12月21日閲覧。
- ^ a b 法務省 2021.
- ^ 山本将克、近松仁太郎「3人の死刑執行 2019年12月以来2年ぶり 法務相」『毎日新聞』毎日新聞社、2021年12月21日。オリジナルの2021年12月21日時点におけるアーカイブ。2021年12月21日閲覧。