国際裁判所
国際裁判所(こくさいさいばんしょ、英: international court、またはinternational tribunal)とは、国際裁判を行うために、複数の国家により構成される国際機関によって設立される組織の総称である[注 1]。「裁判所」、「委員会」など、様々な名称がつけられ、固有の施設や裁判官の有無を問わない[1]。
分類
編集アドホック仲裁裁判
編集個々の紛争ごとに設置される臨時の国際裁判所が行う国際裁判のことを、総称して国際仲裁裁判という。裁判官の選任方法や裁判の基準は、紛争ごとに紛争当事国の間で結ばれる協定(仲裁契約)によって決定される[2]。1872年に英米間のアラバマ号事件を解決したことによりその効果が認められるなど[3]、最も古くから用いられている国際裁判の方式であり[2]、現代においても国際裁判の多くは、特定の紛争を処理するため個々に設置されるこうした仲裁裁判所で行われる。これらは裁判終了後に解散される[1]。
アドホック刑事裁判
編集個人の国際犯罪を裁くための裁判所である。古くは第一次世界大戦後に戦争犯罪を裁くために設置が主張され、第二次世界大戦後に設置されたニュルンベルク国際軍事裁判所や極東国際軍事裁判所、1990年代に設置された旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所やルワンダ国際刑事裁判所を経て、2003年には常設的な国際刑事裁判所が設置された[4]。アドホック刑事裁判所のうち、主なものを以下に挙げる。
裁判所名 | 英語略称 | 設置機関・国 | 活動期間 | 公式HP[注 2] |
---|---|---|---|---|
ニュルンベルク国際軍事裁判所 | IMT | 連合国 | 1945-1946 | |
極東国際軍事裁判所 | IMTFE | 連合国 | 1946-1948 | |
旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所 | ICTY | 国連安保理 | 1993-2017 | |
ルワンダ国際刑事裁判所 | ICTR | 国連安保理 | 1994-2015 | [1] |
東ティモールディリ地区裁判所特別パネル | DDC | 国連東ティモール暫定行政機構 | 2000-2006 | |
シエラレオネ特別裁判所 | SCSL | 国連安保理 | 2002-2013 | [2] |
カンボジア特別法廷 | ECCC | 国連総会、およびカンボジア政府 | 2006-現在 | [3] |
レバノン特別裁判所 | STL | 国連安保理 | 2009-現在 | [4] |
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ニュルンベルク国際軍事裁判所の被告席
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極東国際軍事裁判所の公判の様子
常設
編集現在設置されている常設的な国際裁判所のうち、全世界的なものとしては、固有の施設を持ち15人の裁判官が常駐する国際司法裁判所をはじめ、国連海洋法条約の解釈・適用に関する紛争を処理する国際海洋法裁判所などがあり、また地域的な常設の裁判所としては欧州司法裁判所や米州人権裁判所などがある[1]。以下活動地域ごとに分けて主なものを紹介する。
全世界
編集英語略称 | 裁判所名 | 設置機関・国 | 活動期間 | 公式HP[注 2] |
---|---|---|---|---|
ICJ
PCIJ |
国際司法裁判所 | 国際連合 | 1946-現在
1922-1946 |
[5] |
PCA | 常設仲裁裁判所 | 万国平和会議 | 1899-現在 | [6] |
DSB | WTO紛争解決機関 | WTO | 1994-現在 | [7] |
ITLOS | 国際海洋法裁判所 | 国連海洋法条約締約国 | 1996-現在 | [8] |
ICC | 国際刑事裁判所 | 国際刑事裁判所規程締約国 | 2003-現在 | [9] |
ICSID | 投資紛争解決国際センター | 国際復興開発銀行 | 1966-現在 | [10] |
特に無し | 自由権規約人権委員会 | 国際人権B規約第1選択議定書締約国 | 1976-現在 | [11] |
アフリカ地域
編集裁判所名 | 英語略称 | 設置機関・国 | 活動期間 | 公式HP[注 2] |
---|---|---|---|---|
アフリカ人権裁判所 | AfCHPR | アフリカ連合 | 2004-現在 | [12] |
東アフリカ司法裁判所 | EACJ | 東アフリカ共同体 | 2000-現在 | [13] |
南部アフリカ開発共同体裁判所 | SADC Tribunal |
南部アフリカ開発共同体 | 1992-現在 | [14] |
アメリカ地域
編集裁判所名 | 英語略称 | 設置機関・国 | 活動期間 | 公式HP[注 2] |
---|---|---|---|---|
カリブ司法裁判所 | CCJ | カリブ共同体 | 2001-現在 | [15] |
中米司法裁判所(戦前) | CACJ | 中米和平会議 | 1907-1918 | |
中米司法裁判所(戦後) | CCJ | 中米統合機構 | 1992-現在 | [16] |
アンデス共同体司法裁判所 | TJAC | アンデス共同体 | 1979-現在 | [17] |
東部カリブ上級裁判所 | ECSC | 東カリブ諸国機構 | 1967-現在 | [18] |
米州人権裁判所 | IACHR | 米州人権条約締約国 | 1978-現在 | [19] |
ヨーロッパ地域
編集裁判所名 | 英語略称 | 設置機関・国 | 活動期間 | 公式HP[注 2] |
---|---|---|---|---|
ベネルクス司法裁判所 | 特に無し | ベネルクス三国 | 1975-現在 | [20] |
独立国家共同体経済裁判所 | 特に無し | 独立国家共同体 | 1994-現在 | [21] |
欧州会計監査院 | ECA | EU | 1977-現在 | [22] |
欧州人権裁判所 | ECtHR | 欧州評議会 | 1959-現在 | [23] |
欧州連合司法裁判所[注 3] | CJEU[注 4] | EU | 1952-現在 | [24] |
欧州自由貿易連合裁判所 | EFTA Court | 欧州経済領域加盟国 | 1994-現在 | [25] |
欧州原子力裁判所 | ENET | 欧州地域の16カ国[注 5] | 1960-現在 | [26] |
ボスニア・ヘルツェゴビナ人権裁判部 | HRC | デイトン合意締約国 | 1996-2003 |
注釈
編集- ^ よって、国際性を有する紛争を処理する権限を持つ組織であっても、私的組織によって設立されたものは本項の対象外とする。例:スポーツ仲裁裁判所、IOC設立。
- ^ a b c d e 裁判所自身が作成したHPか、もしくは裁判所を設置した機関のHP。主に英語やフランス語で書かれたものが多い。現在活動中のものに限る。
- ^ 司法裁判所 (ECJ) および一般裁判所の2裁判所で構成される総称[5]。過去には欧州連合公務員裁判所もCJEU内に存在したが、一般裁判所に権限移管されて廃止となった[5]。
- ^ 一般裁判所の前身である第一審裁判所が分離新設される1988年以前は単一組織であり、非公式の通称 "European Court of Justice" の略称でECJが用いられていた。ECJは元を辿ると、1952年に発足した欧州石炭鉄鋼共同体 (ECSC) に限定した司法裁判所[6]の非公式名称として用いられていた[7]
- ^ オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリスの16カ国。公式HPより。
出典
編集- ^ a b c 筒井(2002)、102頁。
- ^ a b 筒井(2002)、113-114頁。
- ^ 筒井(2002)、6頁。
- ^ 筒井(2002)、99頁。
- ^ a b "The Institution > General Presentation" [欧州連合司法裁判所の組織体系 > 概説] (英語). 欧州連合司法裁判所. 2025年1月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月9日閲覧。
- ^ Cardiff University (2013). Information Guide | Court of Justice of the European Union [ガイドブック | 欧州連合司法裁判所] (PDF) (Report). European Sources Online on the Archive of European Integration (AEI) (英語). ピッツバーグ大学. p. 2.
- ^ Stürner, Rolf (ロルフ・シュトゥルナー、フライブルク大学法学部教授 国際訴訟法学会理事)、川中啓由 (訳、弁護士・早稲田大学比較法研究所招聘研究員)「国内法に対するEU司法裁判所の裁判の影響力」(PDF)『立命館法学』第366号、立命館大学、2016年、209頁。
参考文献
編集#出典における略記を太字で示した。
- 筒井若水『国際法辞典』有斐閣、2002年。ISBN 4-641-00012-3。