南海2300系電車

南海電気鉄道が保有する一般形直流電車

南海2300系電車(なんかい2300けいでんしゃ)は、南海電気鉄道に在籍する「ズームカー」(一般車両[2])の一系列。2005年(平成17年)3月31日より営業運転を開始している。

南海2300系電車
南海2300系(2006年7月29日、美加の台駅にて撮影)
基本情報
運用者 南海電気鉄道
製造年 2004年 - 2005年
製造数 8両
主要諸元
軌間 1,067(狭軌) mm
電気方式 直流1500V架空電車線
最高運転速度 100 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 3.1 km/h/s
減速度(常用) 3.8 km/h/s
減速度(非常) 4.0 km/h/s
編成定員 136(立席)+66(座席)=202人
編成重量 72.2t
全長 17725 mm
全幅 2744 mm
全高 4005 mm
車体 ステンレス鋼
台車 緩衝ゴム式ダイレクトマウント空気ばね台車
FS-541B
主電動機 かご形三相誘導電動機
TDK6312-A[1]
主電動機出力 100kW
駆動方式 TD平行カルダン駆動方式
歯車比 85:14 (6.07)
編成出力 100kW×8=800kW
制御装置 東洋IGBT素子VVVFインバータ制御
RG689-A-M[1]
制動装置 回生ブレーキ併用電磁直通ブレーキ(応荷重装置付)、純電気ブレーキ付
保安装置 南海形ATS
デッドマン装置
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本項では、難波方先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として表記する。

概要

1995年(平成7年)、高野線御幸辻駅 - 橋本駅間が複線化されると、20m車を使用した長編成列車が橋本駅に乗り入れるようになり、通勤通学路線である当駅以北の区間において混雑緩和に大きく貢献していた。他方、当駅以南の山岳区間では輸送人員の減少に歯止めが掛からず、高野山への参詣輸送も下火になっていたため、従来の2000系による4両ツーマン運転では輸送力(車両保有コスト)や運行コストが過剰となっていた[注 1]

これまでの高野線は、難波駅 - 極楽橋駅間を直通する「大運転」という伝統的な運行形態を堅持していたが、輸送人員が長期減少期に転じる中で、輸送実態に則した運行形態への抜本的な見直しを迫られるようになったため、2005年を目処に「大運転」を縮小し、橋本駅を境界に運行系統を2つに分割する方針が固まった。橋本駅以北は20m車を中心に急行を運転、高野山方面へは橋本駅で乗り換え、橋本駅以南は輸送力を適正化した2両編成の新型17m車でワンマン運転を行うことになった。本系列は後者の専用車両として設計され、2004年から2005年にかけて4編成8両が製造された。設計コンセプトは「人と環境に優しい車両」である。

なお、車両設計中に高野山が世界遺産に登録されることが決まったため、観光アクセスを担う車両であることを従来より明確に位置付けたデザインとなり[3]、外観や接客設備を中心に2000系とは大きく異なる仕様となった。

車両概説

車体

基本構造は2000系に準じているが、塗装は従来から大きく変更された。高野山の名所である根本大塔に因み、前面は一面赤色(貫通扉部の窓周辺のみステンレス無塗装[注 2])、側面には窓の上下に赤色のグラデーション模様のカラーフィルムを貼り付けている。各編成には花の愛称(さくらはなみずきしゃくなげコスモス)が付けられており、側面腰板のフィルム上にそれぞれの花のデザインをあしらっている。

扉間の側窓は沿線の眺望を楽しめるよう、縦1m・横1.84mの大型一枚窓(従来より下方に100mm拡大)、車端部は換気に必要な開口部を確保するべく、開閉可能な一段下降式窓となった。扉間の大型一枚窓はUVカットガラスで、カーテンはフリーストップ可能なワイヤー式を採用している。

前面の灯具類は、照射範囲を拡大するため前照灯を貫通扉上に移設、標識灯兼用の尾灯は2000系と同一のライトケースに収めながら配置を前面内側に変更、外側はシールドビームのコーナー灯として山岳区間に多い急曲線での前方視認性の向上に対応している。なお2019年以降、前照灯がLEDに換装されている[6]

客室

 
車内

座席は、扉間に2+1列の転換クロスシート、乗務員室後方に2+2列の転換クロスシート、車端部にロングシートと1列+1列のボックスシートの組み合わせをそれぞれ配置している。転換クロスシートのピッチは900mmで、座席下に吊り下げヒーター(一部は温風暖房器)を搭載、脚台は蹴込板のない片持ち式として足元空間を広くとった構造である。座席モケットは茶色系、枕カバーはサーモンピンク色となった。

車端部の仕切り化粧板は木目調を採用し、暖かみの感じられる内装となっている。連結部の貫通扉は車椅子が通行可能な幅広型(600mm→800mm)で、手前にスロープを設置しバリアフリー対応としている。

車椅子スペースはワンマン運転を考慮して、乗務員室側の出入口付近に各車1箇所設けている。このスペースには2人掛の折畳式座席を設置しており、座席定員の確保にも配慮している[注 3]

その他のバリアフリー設備として、扉開閉時のドアチャイム・扉開閉警告表示灯・開閉誘導鈴[注 4]と、LEDスクロール式の車内案内表示装置を設置している。ドアチャイムの音色は西側扉と東側扉とで異なり、扉の開く側を識別できるものである。また扉開閉警告表示灯はドアの鴨居下部に設置し、赤色LEDの点滅を車外からも見えるようにしている。これらの動作は、扉を開閉する前に車掌スイッチのひねり操作で行う。開閉誘導鈴はホームで扉が開いている時に継続してチャイムを鳴動させるもので、音声で扉の位置を知らせる。

冷房装置は、1両あたり2台搭載するセミ集中式を採用し、冷媒にはオゾン層破壊に影響のない代替フロンを使用している。冷凍能力は20,000kcal/hである。

このほかワンマン運転を行うことから自動放送装置を搭載し、英語放送にも対応している。

主要機器

制御装置はIGBT素子を使用した東洋電機製造VVVFインバータ制御(1C2M方式)を採用し、編成分の4群全てを一体箱に納め、Mc1車床下に纏めて搭載する[注 5]。ベクトル制御により高精度トルク制御を行うもので、インバータ出力電圧・電流からの推定加速度により空転滑走検知を高速化している。故障等によるインバータ解放時は限流値増機能がある[注 6]。力行4ノッチ、抑速ブレーキ制御は山岳区間走行対応として5ノッチまで装備し、既存の2000系と運転扱いを合わせている。

主電動機は東洋電機製造製のかご形三相誘導電動機TDK6312-A形で、2000系のTDK6310-A形と互換性を持たせつつ、フレーム外形を縮小し小型軽量化を図った改良型である。

集電装置はPT7144-A形シングルアーム式パンタグラフを各車に1基搭載する。

補助電源装置は、ダイレクト変換2レベルインバータ方式の静止形インバータ(SIV)で、Mc2車床下にインバータ装置とトランスリアクトルを一体化させている。1台のSIVに2台のインバータを内蔵し、2台を並列同期運転させるシステムで、これによりSIV故障時の受給電装置を不要としている[注 7]

台車は2000系と同等の緩衝ゴム式FS-541B形を装備する。

ブレーキ装置は2000系との併結を可能にするため、回生ブレーキ併用の電磁直通ブレーキである。制御装置が台車単位の制御となったため、電空ブレンディングを行うブレーキ装置も台車単位での制御とした。

空気圧縮機は、7100系と共通の直流駆動C1000-PR(除湿装置付き)を各車に1機搭載する。編成内2機設置による冗長性確保に加え、架線電圧で駆動するため補助電源故障の影響を受けず、これにより圧縮機停止・立ち往生リスクを最小化している。

編成表

 
← 橋本
極楽橋 →
   
形式   >
モハ2301
(Mc1)
  >
モハ2351
(Mc2)
愛称 営業運転開始日[7]
車両番号 2301 2351 「さくら」 2005年4月13日
2302 2352 「はなみずき」 2005年3月31日
2303 2353 「しゃくなげ」 2005年3月31日
2304 2354 「コスモス」 2005年4月22日

運用

2005年3月19日20日に一般試乗会が行われた[8]のち、同年3月31日より営業運転を開始した[7][9]。なお、2304F「コスモス」は2005年度予算枠内での導入となったため落成が遅れ、4月22日導入となった[7]

当初は本系列を2本併結した4両編成で運転され、橋本駅以北では2000系を2両または4両増結し、大運転列車として難波駅へも頻繁に乗り入れていた[10]。しかし同年10月16日のダイヤ改正から山岳区間で2両ワンマン運行を開始し、山岳区間内での運用が中心となったため、難波駅乗り入れは平日の極楽橋駅9:10発→難波駅10:46着(急行)と難波駅11:00発→極楽橋駅12:40着(快速急行)の1往復のみとなった[10]。この運用も2008年(平成20年)11月1日のダイヤ改正で変更され、本系列の難波駅乗り入れは定期運用から完全に消滅した。これにより本系列は山岳区間のみでの運転となり、僅かに残る大運転列車に使用される車両は再び2000系に統一された。なお、多客期には本系列2両を増結して4両編成で運転される場合があり、その際は山岳区間でもツーマン運転となる。

橋本駅以南の区間は「こうや花鉄道」の愛称を持ち、また高野下駅以南は全国登山鉄道‰会に加盟する急勾配区間であるため、同区間のみを走行する本系列はこれらを宣伝するためのヘッドマークを掲出する機会が多い[11][12][13]

なお本系列の2両運転開始により、2000系の山岳区間運用が減少した。また急行運用も20m車に置き換えられたため、2000系は24両が余剰となり、この結果高野線の17m車保有数は16両削減された。

参考文献

  • 南海電気鉄道(株)鉄道営業本部車両部車両課 川西俊治「新車ガイド4 南海電気鉄道2300系」『鉄道ファン』2005年5月号(通巻529号)、交友社、2005年、108-111頁。

脚注

注釈

  1. ^ この区間は古くから故障時の冗長性・保安度を考慮した編成で運行されており、2000系では機器の構成上4両編成より短くすることができなかった。
  2. ^ リリース時のイメージや搬入直後の実車では、貫通扉全面が無塗装とされていた[4][5]
  3. ^ この装備は阪急9300系にも見られるものである。
  4. ^ いずれも1000系6次車で先行導入されたものだが、扉開閉警告表示灯のみ仕様が変更されている。
  5. ^ 編成長は従来の2000系4両編成の半分にもかかわらず、制御装置はさらに二重化されており冗長性・保安度が向上している。
  6. ^ インバータ1群解放時は、150%乗車でも終日営業運転が可能な性能を有する。また、2群解放時は100%乗車で50‰区間での力行、抑速運転は最寄り駅まで可能で、空車では高野下駅 - 極楽橋駅間を走行可能な性能を有する。
  7. ^ 2群とも健全運転時は、1台が37.5kVAずつ出力し合計で75kVAを出力、2両分を給電する。片群故障時は健全側の出力内容を75kVAに上昇させる。よって、補助電源故障時の空調などの負荷軽減処置が不要となっている。

出典

  1. ^ a b 南海電鉄高野線2300系電車電気品」(PDF)『東洋電機技報』第111号、東洋電機製造、2005年3月。 国立国会図書館デジタルコレクション提供のアーカイブ。
  2. ^ 現在の車両 - 鉄道博物館 - 南海電気鉄道
  3. ^ 「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2008年8月臨時増刊号(通巻807号)、電気車研究会、2008年、46-47頁。
  4. ^ 新型車両「2300系」導入 -世界遺産登録された高野山へのアクセス車両として運用予定-” (PDF). 南海電気鉄道 (2004年8月27日). 2024年6月23日閲覧。
  5. ^ 「CAR INFO 新車速報 高野線用の新形通勤車両 南海電気鉄道2300系」『鉄道ファン』2004年12月号(通巻524号)、交友社、2004年、117頁。
  6. ^ 「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、51頁。
  7. ^ a b c 「NEWS 南海だより」『関西の鉄道』2005年盛夏号(通巻49号)、関西鉄道研究会、2005年、93頁。
  8. ^ 新型車両「2300系」の試乗会を含む「高野山ツアー」を開催します” (PDF). 南海電気鉄道 (2005年2月14日). 2024年6月22日閲覧。
  9. ^ 南海電気鉄道株式会社(編)『南海電鉄 最近の10年 1995-2005<改革への挑戦>』、2005年、103頁。
  10. ^ a b 「南海電気鉄道 列車運転の興味」『鉄道ピクトリアル』2008年8月臨時増刊号(通巻807号)、電気車研究会、2008年、213-214頁。
  11. ^ “電車に花のヘッドマーク/南海高野線で運行開始”. SHIKOKU NEWS. 四国新聞社. (2009年9月1日). http://www.shikoku-np.co.jp/national/life_topic/print.aspx?id=20090901000253 2024年6月22日閲覧。 
  12. ^ “南海2300系に「全国登山鉄道‰会」ヘッドマーク”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2022年8月13日). https://railf.jp/news/2022/08/13/122000.html 2024年6月22日閲覧。 
  13. ^ 新型高野山ケーブルカー運行開始記念キャンペーン 運行開始記念セレモニーを開催 3月2日(土)” (PDF). 南海電気鉄道 (2019年2月15日). 2024年6月22日閲覧。