ホングウシダ科
ホングウシダ科(ホングウシダか、Lindsaeaceae)は薄嚢シダ類の科の1つである。世界中の熱帯から温帯にかけて約200種が知られる[1]。
ホングウシダ科 | ||||||||||||||||||||||||
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エダウチホングウシダ Lindsaea chienii
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分類(PPG I 2016) | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Lindsaeaceae C.Presl ex M.R.Schomb. (1849) | ||||||||||||||||||||||||
タイプ属 | ||||||||||||||||||||||||
Lindsaea Dryand. ex Sm. | ||||||||||||||||||||||||
属 | ||||||||||||||||||||||||
形態
編集生活型は多年生の常緑性草本で、多くが地上生であるが、稀に岩上生や樹上性、沼生のものも存在する[1][2][3]。
根茎は細く、不規則に分岐しながら匍匐する[1][2]。短く匍匐するものと蔓状になるものがある[4]。根茎や葉柄基部には赤褐色で非格子状の幅の狭い鱗片、または毛を生じる[1][2]。鱗片上部は細胞が一列になり、多細胞毛と同じ形態になる[2]。中心柱は、ホングウシダ型原生中心柱(Lindsaea-type protostele)と呼ばれる、木部の内側に篩部のある原生中心柱を持つ[1][2]。稀に管状中心柱を持つものも存在する[1]。背腹性のあるものとないものがある[1]。
葉は普通、胞子葉と栄養葉が同形であるが、ごく稀に二形のものもある[1]。葉身は1–3回羽状複葉で、更に切れ込む場合もある[1]。ゴザダケシダ属では葉身は1回羽状複生であるが、ホラシノブ属では2–4回羽状複葉となる[1]。羽状複生する頂羽片と少数の側羽片を持つものや、単葉のものも知られる[2]。羽片や小羽片の下半分の中軸寄りの部分は発達しないことが多く、中肋のない場合もある[2]。
葉は多くの種では無毛[1]。葉軸の向軸側に溝があり、羽軸に流れ込む[1]。葉脈は分岐し、ふつう遊離するか、稀に疎らに結合して遊離小脈のない網状になるものもある[1][2][4]。革質で光沢がある[4]。
葉柄の断面には1本の維管束があり、向軸側に溝がある[1]。エダウチホングウシダ属の葉柄は長いが、ホングウシダ属では短く、葉身の長さの1/4以下[1]。
胞子嚢群は葉裏の辺縁またはその近くに生じ、包膜がある[1][4]。ホングウシダ科のもつ、隣り合う胞子嚢群が2個融合したものは複胞子嚢群といわれる[5]。包膜は下側で葉面に付着し、辺縁に向かって開口する[1][2]。包膜は胞子嚢群の長さに応じて長くなる[2]。胞子嚢床には側糸を生じる[1]。エダウチホングウシダ属やホングウシダ属では、胞子嚢群は多くが3本以上の脈端を連ねてつき、包膜は線形から長楕円形である[1]。ゴザダケシダ属やホラシノブ属では、胞子嚢群が連ねる脈端の数は少なく、2本以下で、包膜は下側と側面で葉面に付着し、ポケット状をなす[1]。
1胞子嚢あたりの胞子数は32個または64個[1]。有性生殖を行いながら32個の胞子を産生する例が知られている[1][2]。無融合生殖をするものは知られていない[2]。エダウチホングウシダ属など、多くは胞子が四面体形で三溝であるが、ホングウシダ属では二面体形で単溝である[1]。
細胞遺伝学と生化学
編集染色体基本数は様々で、x = 34, 38, 39, 44, 47–51 などの報告がある[1]。属ごとに葉、エダウチホングウシダ属ではx = 34, 42, 44, 47、ホングウシダ属ではx = 47、ホラシノブ属は x = 47, 48, 49 と知られる[6]。ゴザダケシダ属ではn ≈ 120, 150, 2n ≈ 300 のような報告があるが、正確な数や基本数は不明である[7]。
分布と生育環境
編集ホングウシダ科は世界中の亜熱帯から熱帯にかけて分布する[9][3]。
ホラシノブ属 Odontosoria は熱帯を中心に分布する[7]。特に、ホラシノブ Odontosoria chinensis はアフリカ、マダガスカルからソロモン諸島などポリネシアまでの旧世界の熱帯から亜熱帯にかけて広く分布し、山地の日当たりの良い場所に生息する[3][10]。スフェノメリス[11]属 Sphenomeris は新大陸に産する[7]。
ゴザダケシダ属はアジアからオーストラリアにかけて20種が分布し、日本にはゴザダケシダ Tapeinidium pinnatum 1種が分布する[9][12]。
渓流沿い植物として生活するものも知られ、東アジアに分布するサイゴクホングウシダ Osmolindsaea japonica や、西表島と石垣島に固有であるヒメホラシノブ Odontosoria gracilis、奄美大島に固有のコビトホラシノブ Odontosoria minutula などが挙げられる[3][13]。
ハマホラシノブ Odontosoria biflora は海岸の岩壁に生え、葉質が厚くなる海浜植物である[3][10]。
系統と分類
編集ウラボシ目の最基部で分岐した系統の一つであり、ロンキティス科と姉妹群をなす[1][14]。かつてはシノブ科に含まれていたが、秦仁昌によって独立の科とされ、細胞学、分子系統学による研究でも追認された[3]。なお、ホングウシダの名は愛知県犬山市の本宮山に因むが[3]、本宮山には分布せず、実際はカミガモシダ Asplenium oligophlebium(チャセンシダ科)であったとされる[8]。
ロンキティス属 Lonchitis L. と キストディウム属 Cystodium J.Sm は、Smith et al. (2006) の分類体系ではホングウシダ科に含まれていたが、PPG I (2016) などではそれぞれロンキティス科 Lonchitidaceae Doweld とキストディウム科 Cystodiaceae J.R.Croft として独立させられている[1]。3科は合わせてホングウシダ亜目 Lindsaeineae Lehtonen & Tuomisto を構成する[15][16]。
ホングウシダ亜目 |
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Lindsaeineae |
下位分類
編集7属が認められており[1][15]、日本には4属19種が分布する[1]。かつてスイスの植物学者、Kramer (1972) によって世界中の種が詳細に研究され[2]、2属23節が認識されたが、分子系統解析には支持されなかった[17]。 エダウチホングウシダ属 Lindsaea はかつてはホングウシダ属と呼ばれホングウシダなどが含まれていたが[2]、分子系統解析の結果ホングウシダ属 Osmolindsaea が独立させられた[17]。Xyropteris は Xyropteris stortii 1種のみの単型属である[15]。また、ホラシノブ Odontosoria chinensis かつてスフェノメリス[11]属 Sphenomeris に含まれ、この属がホラシノブ属と呼ばれた[2][18][11]。
以下、PPG I 分類体系に基づく属を示す。
- ホングウシダ科 Lindsaeaceae C.Presl ex M.R.Schomb. (1849)
- エダウチホングウシダ属 Lindsaea Dryand. ex Sm. 約180種[15]
- Nesolindsaea Lehtonen & Christenh.:2種[15]
- ホラシノブ属 Odontosoria Fée:約23種[15]
- ホングウシダ属(サイゴクホングウシダ属) Osmolindsaea (K.U.Kramer) Lehtonen & Christenh.:約7種[15]
- スフェノメリス属 Sphenomeris Maxon 3種[15]
- ゴザダケシダ属 Tapeinidium (C.Presl) C.Chr.:18種[15]
- Xyropteris K.U.Kramer:1種[15]
Nitta et al. (2022) による分子系統樹を示す[19]。Xyropteris は分子データがなく含まれていない。
ホングウシダ科 |
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Lindsaeaceae |
また、イヌイノモトソウ Lindsaea ensifolia とホラシノブの間には属間雑種 ×Lindsaeosoria flynnii W.H.Wagner が知られている[17]。
化石記録
編集約9900万年前の前期白亜紀に最古の化石記録が知られる[1]。ミャンマーから得られた前期白亜紀アルビアンの琥珀から本科の大型化石の報告がある[20]。
同じくミャンマーから産出した白亜紀中期セノマニアンの琥珀から得られた本科の化石は Proodontosoria myanmarensis Li & Moran として記載されている[21]。
人間との関係
編集ホラシノブは中国雲南省南部では薬用とされ、「起死回生」の効果や解毒作用があるとして
脚注
編集出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 海老原 2016, p. 350.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 岩槻 1992, p. 108.
- ^ a b c d e f g h i 林 1997, p. 60.
- ^ a b c d 能勢 2008, p. 85.
- ^ 巌佐ほか 2013, p. 1296g.
- ^ 海老原 2016, pp. 351–354.
- ^ a b c 海老原 2016, p. 354.
- ^ a b 海老原 2016, p. 353.
- ^ a b 岩槻 1992, p. 109.
- ^ a b c 岩槻邦男「ホラシノブ」『改訂新版 世界大百科事典』 。コトバンクより2024年8月1日閲覧。
- ^ a b c 大場 2009, p. 6.
- ^ 林 1997, p. 61.
- ^ 海老原 2016, p. 355.
- ^ PPG I 2016, p. 567.
- ^ a b c d e f g h i j PPG I 2016, p. 576.
- ^ 海老原 2018.
- ^ a b c 海老原 2016, p. 351.
- ^ 能勢 2008, p. 88.
- ^ Nitta et al. 2022, Data Sheet 1 (Supplementary Materials).
- ^ Regalado et al. 2017, pp. 8–12.
- ^ Li et al. 2020: 104040
参考文献
編集- Kramer, K.U. (1972). “The lindsaeoid ferns of the Old World VI. Continental Asia, Japan and Taiwan”. The Garden's Bulletin Singapore 26: 1–48.
- Lehtonen, S.; et al. (2010). “Phylogenetics and classification of the pantropical fern family Lindsaeaceae”. Botanical Journal of the Linnean Society 163: 305–359.
- Li, Chunxiang. “A new fossil record of Lindsaeaceae (Polypodiales) from the mid-Cretaceous amber of Myanmar”. Cretaceous Research 105: 104040. doi:10.1016/j.cretres.2018.12.010.
- Nitta, J. H.; Schuettpelz, E.; Ramírez-Barahona, Santiago; Iwasaki, W. (2022). “An Open and Continuously Updated Fern Tree of Life”. Frontiers in Plant Science 13: 909768. doi:10.3389/fpls.2022.909768. PMC 9449725. PMID 36092417 .
- PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563–603. doi:10.1111/jse.12229.
- Regalado, Ledis; Schmidt, Alexander R.; Müller, Patrick; Kobbert, Max J.; Schneider, Harald; Heinrichs, Jochen (2017). “The first fossil of Lindsaeaceae (Polypodiales) from the Cretaceous amber forest of Myanmar”. Cretaceous Research 72: 8–12. doi:10.1016/j.cretres.2016.12.003.
- Smith, Alan R.; Pryer, Kathleen M.; Schuettpelz, Eric; Korall, Petra; Schneider, Harald; Wolf, Paul G. (2006). “A Classification for Extant Ferns”. Taxon 55 (3): 705–731. doi:10.2307/25065646.
- 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也、塚谷裕一 監修『岩波生物学辞典 第5版』岩波書店、2013年2月26日。ISBN 978-4-00-080314-4。
- 岩槻邦男『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年2月4日、311頁。ISBN 9784582535068。
- 海老原淳、日本シダの会 企画・協力『日本産シダ植物標準図鑑1』学研プラス、2016年7月15日、450頁。ISBN 978-4-05-405356-4。
- 大場秀章『植物分類表』アボック社、2009年11月20日。ISBN 978-4900358614。
- 海老原淳『シダ植物の新しい分類体系“PPG”の構築』(レポート)国立科学博物館、2018年3月6日 。2022年2月21日閲覧。
- 能勢保 著「ホングウシダ科」、国立科学博物館 編『南太平洋のシダ植物図鑑』東海大学出版会〈国立科学博物館叢書⑧〉、2008年4月20日、85–92頁。ISBN 978-4486017929。
- 林蘇娟「ホングウシダ科」『朝日百科 植物の世界[12] シダ植物・コケ植物・地衣類・藻類・植物の形態』岩槻邦男、大場秀章、清水建美、堀田満、ギリアン・プランス、ピーター・レーヴン 監修、朝日新聞社、1997年10月1日、60–61頁。
外部リンク
編集- ウィキメディア・コモンズには、ホングウシダ科に関するカテゴリがあります。