葉緑体

光合成をおこなう、半自律性の細胞小器官

葉緑体(ようりょくたい、: Chloroplast)とは、光合成をおこなう、半自律性の細胞小器官のこと[1]。カタカナでクロロプラストとも表記する。

種子植物の葉緑体の構造外膜内膜ストロマ チラコイドグラナム(=グラナの単数形)、ラメラルーメン
葉緑体は回転楕円体を押しつぶしたような形をしている。二重の膜(Outer MembraneとInner Membrane)で囲まれた内部空間をストロマ (Stroma) と呼ぶ。ストロマを最も薄い緑色で示した。葉緑素は図中に多数描かれているチラコイド (Thylakoid) と呼ばれる円盤状の小胞に収められており、チラコイドは積み重なってグラナ (Granum) と呼ばれる塊にまとまっている。一部のチラコイドは細長く延びて複数のグラナ間を結んでいる。これをラメラ (Lamella) と呼ぶ。光合成によってチラコイド膜内部、すなわちルーメン (Lumen) の水素イオン濃度が高くなる。水素イオン濃度勾配を利用してチラコイド膜上に分布するATP合成酵素ADPから細胞のエネルギー源であるATPを合成する。
Plagiomnium affineの細胞内に見える葉緑体
葉緑体の模型の一例
透過型電子顕微鏡による葉緑体の画像

概説

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光合成生物にみられる細胞小器官であり、プラスチドの一種である。黄色カロテノイドや多量のクロロフィルを含むので一般的には緑色に見える[1]。ただし褐藻の葉緑体はクロロフィルのほかにフコキサンチンを持っているため褐色に、紅藻フィコビリン色素をもっているため紅色に見える[1]

種子植物など一般的には葉緑体は植物の葉に存在するが、茎や枝、花弁や果実などの器官でも葉緑体が発達する場合がある[2]

体制が単純な藻類では、細胞ひとつあたり1個の球形の葉緑体を含んでいる[1]。それが多細胞の紅藻、褐藻、緑藻などになってくるとカップ状、星状螺旋形、板状など様々な形の大きな葉緑体を、1個ないし数個ほど含むようになる[1]。これがさらに多細胞の緑藻や陸上植物ともなると、細胞ひとつあたり、通常10 - 数百個ほど含まれることになる[1]

その大きさや形状について言えば、多細胞植物の多くでは、直径が5 - 10µm程度厚さが2 - 3µm程度の凸レンズ形である[1]。内部構造は掲載図を参照のこと。

一般的特徴

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クロロフィル(葉緑素)等の光合成色素を含むので、はっきりした色があり、生体観察でももっとも確認しやすい細胞小器官である。

維管束植物の場合、葉緑体は、非光合成細胞では、色素体として存在する。色素体には、アミロプラスト、クロモプラスト、白色体などさまざまな種類があるが、すべての色素体は、二重の包膜で囲まれ、葉緑体DNAを持つことが特徴である。

葉緑体の形は分類群によって様々であるが、一般的には藻類において多様性が高い。高等植物のものは、ほとんどがやや扁平な円盤状である。藻類においては、様々な形のものが知られている。もっとも有名なのは、アオミドロにみられる、リボン型で円筒形の細胞内に螺旋状に入っているものであろう。他にも、星型になったホシミドロのものや、板状になって常に光の方に面を向けるサヤミドロのものなど、様々な形のものが知られている。

種子植物の場合、葉緑体の形は単純な円盤状である。大きさは直径約5µm程度、顕微鏡で見ると、細胞の外周に並んで見えることが多い。これは、細胞の中央部を液胞が占めているからでもある。原形質流動によって移動するのが見られる。

種子植物の葉緑体は外側を二重の膜によって覆われており、その内側の部分をストロマという。ストロマ内には、多数の膜でできた薄い袋状の構造が並んでいる。この袋をチラコイドと呼ぶ。多数の小さなチラコイドは積み重なった構造があちこちにあって、これをグラナという。

ストロマには独自のDNA(葉緑体DNA、cpDNA)が含まれ、それと対応して独自のリボソームがここに含まれている。チラコイド膜には、光合成色素や、光合成の光にかかわる反応に関する酵素が位置している。

働き

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光合成が最もよく知られた主要な機能であるが、その他に窒素代謝、アミノ酸合成、脂質合成、色素合成など、植物細胞における代謝の重要な中心となっている。

独自のゲノムDNAリボソームを持ち、真核光合成生物の共通の祖先が光合成をおこなう真正細菌真核生物を細胞内に共生させたことに由来すると考えられている。これについては,下記の「起源」を参照のこと。

葉緑体DNAは,さまざまなタンパク質とともに核様体を作っており、細胞核の染色体と同様、核様体は葉緑体DNAの複製,転写,分配の単位となっている。ただし、ヒストンはない。また、細菌のDNA結合タンパク質として知られるHU, DPSなどのタンパク質も、緑色植物の葉緑体には、基本的には存在しない。代わりに亜硫酸還元酵素がDNA結合タンパク質として機能している。

色素体の起源

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色素体の起源となる共生体としては、同じ酸素発生を行うシアノバクテリアの一種と考えられているが、現生のシアノバクテリアのどれに近いか、またはそれらの祖先種の近縁種に由来するのかは、まだわかっていない。 ちなみにシアノバクテリアの起源としては、光化学系1と2を供給したものとしてヘリオバクテリアクロロフレクサスが考えられているが、実際の光化学系1・2とこれらの光合成細菌の光化学系はかなり異なるので、系統的に関連があるということを除けば,構成タンパク質の機能がそのまま対応するわけではない。また,光合成以外の機能に関しては、細胞の起源はわかっていない。

葉緑体は、細胞核遺伝子の産物がなければ機能できないので、昔考えられていたような葉緑体の培養ができることはない。しかし、葉緑体が細胞から分離した状態でも機能できる証拠として、ウミウシの例がある。ウミウシの仲間の嚢舌類は、海藻の細胞内物質を吸い込むように食べるが、ある種において、藻類の葉緑体を分解せずに細胞内に取り込む例が知られている。こうして動物細胞に取り込まれた葉緑体は、ここで光合成を行ない、動物細胞にその産物を供給するという。

藻類の葉緑体

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上述のように、藻類においては葉緑体の形質は多様である。光合成色素も群によっては異なったものを持っている。比較的共通する形質としては、ピレノイドという構造がある。色素体の中に1-数個ある丸い粒状の構造で、タンパク質性で、光合成産物を貯蔵物質に変えるのに関与しているとされる。緑藻類ではデンプン合成がここで行われる。

植物界のものと藻類とで大きく異なる点に、藻類の葉緑体が、往々にして三重以上の膜で覆われている点がある。また、葉緑体のDNAがはっきりした塊に見える場合がある。これらは、近年では重複的な細胞内共生によるものと考えられるようになった。そこで「植物界や藻類の二重膜葉緑体を持つものは、葉緑体を持たない真核生物にシアノバクテリアのような原核藻類が共生したのが起源」と考えられる。二重の膜は内側が原核光合成生物の細胞膜、外側が植物細胞の細胞膜に由来すると考えるとわかりやすい。ただし、確証は得られていない[3]

それに対して、たとえばクロララクニオン藻の葉緑体は、四重の膜に包まれ、外側から二枚目と三枚目の間に、ヌクレオモルフと言われる、核様の構造がある。これに関して内側の二重膜が本来の葉緑体であり、その外の膜はそれを所有していた藻類の細胞膜、最外層がこの藻類自体の細胞膜に由来する[4]。つまり、真核藻類を、非光合成性の真核生物が細胞内に取り込んだことで、藻類化したと判断できる[5]。ヌクレオモルフは、取り込まれた藻類の核の名残である。この藻類の場合、取り込まれたのは緑藻類と判断されている[4]

出典

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  1. ^ a b c d e f g 「葉緑体」『岩波生物学辞典第4版』岩波書店、1996年。ISBN 4-00-080087-6 
  2. ^ 小林康一. “葉がなければ根で光合成?”. 東京大学. 2020年8月25日閲覧。
  3. ^ 千原編1999、p.148-149
  4. ^ a b 千原編1999、p.257
  5. ^ 千原編1999、p.150

参考文献

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  • 『岩波生物学辞典第4版』岩波書店、1996年。ISBN 4-00-080087-6 
  • 千原光男編集;岩槻邦男・馬渡峻輔監修『藻類の多様性と系統』裳華房、1999年。ISBN 978-4-7853-5826-6 

関連項目

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