ブルーオリジン
ブルーオリジン (Blue Origin, LLC) は、Amazon.comの設立者であるジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙企業である。将来の有人宇宙飛行を目的とした事業を進めており、民間資本で宇宙旅行を大幅に安くして、尚且つ信頼性を高める技術を開発している。同社のモットーはラテン語で"段階的に積極的に"を意味する"Gradatim Ferociter"である。ブルーオリジンはロケットを動力とした垂直離着陸機 (VTVL) を弾道飛行と軌道周回飛行を目的とした幅広い技術を開発中である。[4]
種類 | 公開会社でない株式会社 |
---|---|
本社所在地 |
アメリカ合衆国 ワシントン州 ケント[1][2] |
設立 | 2000年9月 |
業種 | 航空宇宙産業 |
事業内容 |
ロケットの製造 ロケットエンジンの製造 弾道宇宙旅行 |
代表者 | ボブ・スミス(CEO) |
従業員数 | 3,500人(2021年)[3] |
所有者 | ジェフ・ベゾス(創業者) |
主要子会社 |
ブルーオリジン・フロリダ ブルーオリジン・テキサス ブルーオリジン・インターナショナル |
外部リンク | blueorigin.com |
歴史
編集設立当初は準軌道飛行に焦点を置いており、ニューシェパードと呼ばれる宇宙船をテキサス州カルバーソンカントリーの施設で開発していた。当初の計画では、ニューシェパードによる商業弾道飛行は2010年にも週に一回行われる予定であったが[5]、その後延期が続き、無人飛行は最終的に2015年になり達成された[6]。
2009年にはNASAの商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の候補として選出されているが[7][8]、2011年の最終選考には参加せず、一方で独自に開発を続けた。
2011年のインタビューでベゾスは"誰でも宇宙へ行く"事を手伝うために同社を設立してそのために彼は2つの対象に注目した:ブルーオリジンの目的は宇宙への輸送費用を低減し有人宇宙飛行の安全性を高めることにあるとしている。[9]
2014年7月時点においてベゾスは彼の私財から既にブルーオリジンに5億ドル以上投資した。[10]
2014年9月、同社とユナイテッド・ローンチ・アライアンス (ULA) はブルーオリジンの大型ロケット用のBE-4エンジンをアトラス V 後継機の推力10,000–19,000 kg (22,000–42,000 lb) 級の衛星打ち上げ用ロケットとして2000年代の早い時期に連邦政府の安全保障関係の積載物の打ち上げに使用するために合意したと発表した。発表にはブルーオリジンがエンジンを3年前から開発中で最初の新型ロケットは早くて2019年になる予定であることも含まれた[11]。BE-4エンジンの大幅な開発遅延があったが、搭載した2024年1月にヴァルカンロケットの打ち上げに成功した[12]。
主要製品
編集ローンチ・ヴィークル
編集Charon
編集ブルーオリジンの最初の飛行試験機でCharonと呼ばれ、ロケットではなく、垂直にロールスロイスViper Mk. 301 ジェットエンジンを備える。低高度用の機体で、大気中での誘導と制御技術の試験のために開発され、後のロケットの開発の工程に使用する予定であった。Charon は2005年3月5日にワシントン州のモーゼス・レイクで飛行試験をおこなっただけだった。その試験では高度316 feet (96 m) まで上昇して発射地点付近に制御されて着陸した。[13][14]
ゴダード
編集次に(PM1としても知られる)ゴダードを製造して2006年11月13日に初飛行した。飛行は成功したが2回目の打ち上げは12月1日に予定されていたが打ち上げられなかった。[15][16]
ニューシェパード
編集ニューシェパードは弾道飛行用の打ち上げシステムである。ニューシェパードは、乗客6人を乗せる[17]乗員カプセルと、それを打ち上げるロケット動力推進モジュールから構成される。カプセルがロケットの先端に搭載された状態で発射され、飛行中に分離される設計である。分離後推進モジュールは自動的に地上に帰還し、ロケットエンジンの逆噴射で着陸する。乗員カプセルは飛行を続けた後にパラシュートで降下して軟着陸する。両方の機体は回収されて再使用される。[18] ニューシェパードは内蔵された搭載コンピュータによる全自動制御となっており、パイロットは不要である[19]。有人飛行以外に、弾道飛行中の微小重力を利用した各種実験にも用いられている[20]。 2021年7月20日、乗客を乗せた世界初の宇宙旅行に成功した。搭乗したのは、ジェフ・ベゾスと弟のマーク・ベゾス、ウォリー・ファンク、オリバー・デーメンである[21]。
ニューグレン
編集初期計画
編集ブルーオリジンは、有人宇宙船の開発も発表している。この宇宙船は当初Orbital Space Vehicle(軌道周回宇宙船)、打ち上げ機はOrbital launch vehicleなどと呼ばれており、再使用型1段ブースターは弾道飛行して通常の多段式ロケットのように垂直に離陸する。上段分離後、宇宙飛行士を乗せた上段は飛行を継続して切り離されたブースターはSpaceX社のFalcon9ロケット1段目のように逆噴射しながら降下する。1段目のブースターは推進剤の補給後再び打ち上げられるように信頼性を高め、人々の宇宙への輸送費用を減らす事を目指す[18]。
2010年にCCDev計画によりNASAから支給された資金は、打ち上げ脱出システムと与圧部の開発に用いられた。このカプセル型宇宙船は、アトラス V 402型に搭載され打ち上げられる想定であった[22]。
ブースターロケットは宇宙飛行士と補給品を輸送するためにブルーオリジンの円錐型の宇宙船を軌道に投入する。地球軌道に投入後、宇宙船は地球大気に再突入してパラシュートで降下して着陸して再び地球軌道への任務に再利用される[18]。
ブルーオリジンは2012年5月に軌道周回機のシステム要求査読System Requirements Review (SRR) を成功裏に完了した[23]。
2012年から再使用型ブースターReusable Booster System (RBS) 用のエンジン試験が開始された。ブルーオリジンBE-3液体酸素/液体水素ロケットエンジン用の燃焼室の最大出力試験はNASAのステニス宇宙センターで2012年10月に実施され、最大推力100,000lbf(約 440kN)に到達して成功した[24]。
2016年現在
編集ブルーオリジンは2016年9月、かねてより開発中だった大型ロケットをニューグレンの名で発表した。ニューグレンは2段式と3段式の構成を持つロケットで、直径が7m、全長が2段式で約82m、3段式では約95mにも達する、史上最大のロケットであったサターンVにも迫る巨大なものである。1段目にはBE-4エンジンを7基、2段目には1基、3段目にはBE-3エンジンを1基搭載する。また前述の通り1段目は再使用が計画されている。2010年代の終わりまでに打ち上げることを予定していた[25]。
2023年1月現在、ニューグレンの開発は大幅に遅れ、2023年第4四半期以降とされている[26]。
2022年4月、Amazon.comは、ブルーオリジンと2024年以降に、ニューグレンでの「プロジェクト・カイパー」の低軌道衛星12回と追加で最大15回の打ち上げる契約をした[27]。
ニューアームストロング
編集ニューアームストロングは、ブルーオリジンがニューグレンとともに発表したさらに大型のロケットである。2016年現時点では名前以外の情報がほぼ公開されておらず詳細は不明だが、名称が人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロングに由来していることから、月・惑星探査を想定したロケットと推測されている[28]。
ロケットエンジン
編集BE-3
編集ブルーオリジンは2013年1月にBlue Engine 3、またはBE-3エンジンの開発を公表した。 BE-3は新型の液体水素/液体酸素 (LH2/LOX) 極低温推進剤エンジンで推力は最大出力時に490 kN (110,000 lbf) で出力の加減が可能で垂直着陸のために25,000 lbf (110 kN) まで出力を下げる事が出来る。[29]
初期の燃焼室の試験は同年NASAのステニス宇宙センターで実施された。[30][31]
2013年末よりBE-3は弾道飛行中の最大出力燃焼試験に成功して、降下時を想定して出力を下げた状態で長時間燃焼と再始動の試験の段階に入った[29]。NASA は試験のビデオを公開した[31]。2013年12月までに、エンジンは"160回以上の始動と 9,100秒(2.5 時間)の運転をテキサス州Van Horn近郊のブルーオリジンの試験施設で実証した"[29][32]。
BE-3U
編集BE-3UエンジンはBE-3をブルーオリジン軌道周回機打ち上げ機の上段に使用するための型である。エンジンはエンジンを真空状態での運転に適したノズルを備え、再利用するために設計されたBE-3とは異なり使い捨て仕様として製造される[33]。
BE-4
編集ブルーオリジンはより大型のロケットエンジンの開発を2011年に開始した。そのエンジンはBlue Engine 4またはBE-4で推進剤は液化メタンと液体酸素の組み合わせに変更された。推力は2,400 kN (550,000 lbf) に設計され当初の予定ではブルーオリジンの打ち上げ機に使用される予定だった。ブルーオリジンは2014年9月まで新型エンジンを公表しなかった[34]。
2014年末、ブルーオリジンはユナイテッド・ローンチ・アライアンスとBE-4エンジンをアトラスVロケットの既存のロシア製のRD-180を換装するために共同開発に合意した。新型ロケットは2基のそれぞれ推力2,400 kN (550,000 lbf) のBE-4 エンジンを1段目に使用する予定である。エンジンの開発計画の開始は3年前に遡る[11][34]。
ULA は新型ロケット、ヴァルカンの最初の打ち上げは2024年1月8日に成功した[12]。
BE-7
編集BE-7はブルーオリジンが2019年現在開発中のロケットエンジン。同社の月着陸船ブルームーンでの使用が想定されており、月の氷から燃料を補充できるよう、液体水素/液体酸素 (LH2/LOX) を燃料とする。
宇宙機
編集ブルームーン
編集ブルームーンは、ブルーオリジンが開発中の月着陸船。月面へ3.6tの輸送力を持ち、さらに将来的には輸送力を増強して、月面への有人輸送を想定したバージョンも計画されている。ロケットエンジンには自社製のBE-7を採用する。2019年5月にモックアップとともに計画の詳細が発表された[35]。NASAのアルテミス計画の月着陸船として採用されることを目指したが、2021年の契約では選定されなかった。
オービタル・リーフ
編集オービタル・リーフは、ブルーオリジンがシエラ・ネヴァダ・コーポレーション社などと共同で計画する民間宇宙ステーション。膨張式モジュールにより国際宇宙ステーション (ISS) と同規模の広さを持つ。2020年代後半の運用開始を目指しており、ISS終了後の民間移管先となることを企図している。[36] しかし、2023年10月には人員の大半が他のプロジェクトに異動となったことが報じられている[37]。
脚注
編集- ^ BLUE ORIGIN REVEALED Archived 2009年12月23日, at the Wayback Machine.
- ^ How Bezos Messed With Texas
- ^ An unleashed Jeff Bezos will seek to shift space venture Blue Origin into hyperdrive By Eric M. Johnson REUTERS
- ^ “Blue Origin”. Blue Origin. 2013年12月5日閲覧。
- ^ “BLUE'S ROCKET CLUES”. cosmiclog.msnbc.msn.com. 2008年4月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年2月5日閲覧。
- ^ “Blue Origin Makes Historic Rocket Landing” (英語). ブルーオリジン (2015年11月24日). 2015年11月25日閲覧。
- ^ “Blue Origin Space Act Agreement”. NASA. 2011年10月29日閲覧。
- ^ “Space Act Agreement Amendment One”. NASA. 2011年10月29日閲覧。
- ^ Levy, Stephen (2011年11月13日). “Jeff Bezos Owns the Web in More Ways Than You Think”. Wired 2011年12月9日閲覧。
- ^ Foust, Jeff (2014年7月18日). “Bezos Investment in Blue Origin Exceeds $500 Million”. Space News 2014年7月20日閲覧。
- ^ a b Achenbach, Joel (2014年9月17日). “Jeff Bezos’s Blue Origin to supply engines for national security space launches”. Washington Post 2014年9月27日閲覧。
- ^ a b ULA. “United Launch Alliance Successfully Launches First Next Generation Vulcan Rocket” (英語). newsroom.ulalaunch.com. 2024年9月7日閲覧。
- ^ “Blue Origin Charon Test Vehicle”. The Museum of Flight. 4 March 2013閲覧。
- ^ “Blue Origin's Original Charon Flying Vehicle Goes on Display at The Museum of Flight”. The Museum of Flight. 2013年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月4日閲覧。
- ^ Alan Boyle (2006年11月28日). “Blue Origin Rocket Report”. cosmiclog.msnbc.msn.com. 2008年4月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月28日閲覧。
- ^ Alan Boyle (2006年12月2日). “Blue Alert For Blastoff”. cosmiclog.msnbc.msn.com. 2008年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月28日閲覧。
- ^ 渡辺豪「2時間弾丸旅行が2000万円台」『AERA』第32巻第2号、朝日新聞出版、2019年1月14日、35-39頁。
- ^ a b c “Blue Origin - About Blue”. 2013年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月5日閲覧。
- ^ “アーカイブされたコピー”. 2009年5月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年11月21日閲覧。
- ^ “Blue Origin - Research”. 5 April 2013閲覧。
- ^ ベゾス氏ロケット打ち上げ成功 10分間、初の宇宙旅行、2021年7月21日閲覧。
- ^ “Commercial Crew and Cargo Program”. 2010年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月29日閲覧。
- ^ “Blue Origin Completes Spacecraft System Requirements Review”. 5 April 2013閲覧。
- ^ “Blue Origin tests 100k lb LOX/LH2 engine in commercial crew program”. NewSpace Watch. (2012年10月16日) 2012年10月17日閲覧。
- ^ 鳥嶋真也 (2016年9月20日). “Amazon設立者ベゾスの宇宙企業、超大型ロケット「ニュー・グレン」を発表”. マイナビ. 2016年9月22日閲覧。
- ^ Clark, Stephen. “Military officials forecast 87 launches from Florida’s Space Coast in 2023 – Spaceflight Now” (英語). 2023年1月8日閲覧。
- ^ “Amazon、衛星打ち上げ ブルーオリジンなど3社と契約”. 日本経済新聞 (2022年4月5日). 2022年4月9日閲覧。
- ^ 塚本直樹 (2016年9月13日). “あまりに巨大…新ロケット「ニュー・グレン」を発表したアマゾンCEOの展望とは?”. Sorae.jp. 2016年9月22日閲覧。
- ^ a b c Messier, Doug (2013年12月3日). “Blue Origin Tests New Engine in Simulated Suborbital Mission Profile”. Parabolic Arc 2013年12月5日閲覧。
- ^ “Updates on commercial crew development”. NewSpace Journal. (2013年1月17日) 2013年1月21日閲覧。
- ^ a b Messier, Doug (2013年12月3日). “Video of Blue Origin Engine Test”. Parabolic Arc 2013年12月5日閲覧。
- ^ Blue Origin Tests New Engine, Aviation Week, 2013-12-09, accessed 2014-09-16.
- ^ Foust, Jeff (2013年12月7日). “Blue Origin shows off its engine”. NewSpace Journal 2013年12月10日閲覧。
- ^ a b Ferster, Warren (2014年9月17日). “ULA To Invest in Blue Origin Engine as RD-180 Replacement”. Space News 2014年9月19日閲覧。
- ^ 鳥嶋真也 (2019年5月22日). “月着陸機を発表したAmazon創業者のベゾス氏は、一体何を目指しているのか?”. マイナビニュース. 2022年11月11日閲覧。
- ^ 鳥嶋真也 (2021年11月1日). “米民間企業ら、商業用の宇宙ステーション「オービタル・リーフ」計画を発表”. マイナビニュース. 2022年11月10日閲覧。
- ^ “米ブルーオリジン、民間宇宙ステーション巡る提携解消=関係筋”. ロイター (2023年10月3日). 2023年10月3日閲覧。