ニジェール・コンゴ語族

ニジェール・コンゴ語族(ニジェール・コンゴごぞく)は、大きな語族の一つであり、サハラ砂漠以南のアフリカの大部分の言語を含む。アフリカで面積・話者数・言語数からいって最も大きい語族であり、世界的にも言語数では(言語の分類にもよるが)最も大きいといわれる。

ニジェール・コンゴ語族
ニジェール・コルドファン語族
話される地域サブサハラ・アフリカ
言語系統世界を代表する語族の一つ
下位言語
ISO 639-2 / 5nic
ニジェール・コンゴ語族の分布(明るい黄色と濃い黄色)
ニジェール・コンゴ語族の広がり

概要

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多くの言語に共通する特徴として名詞クラス名詞文法的分類で、ヨーロッパ語の性をさらに細かくしたようなもの)があり、また声調言語が多い。この中で特に大きいグループがアフリカ中南部に広がるバントゥー系民族バントゥー語群であるが、それ以外にも多数の言語がある。ニジェール・コルドファン語族ということもあるが、この名は特にコルドファン語派を含めることを強調して用いる。

研究史

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ニジェール・コンゴ諸語が語族として認識されるようになったのは、比較的最近(1970年代)である。まずS. W. Koelleが1854年[1]に詳細な分類を行った。彼は大西洋諸語が、サハラ以南の他の多くの言語と同じく名詞の分類に接頭辞を用いることを示し、これによって現在のニジェール・コンゴ語族の範囲が大まかに示された。これはBleek、さらにのちにMeinhofに影響を与え、彼らはバントゥー語群というまとまりを認めた。その後、これらの言語は一般にバントゥー語群と「その他の言語」に分けられ、「その他の言語」は典型的なバントゥー語の特徴を獲得していない言語、もしくは古くあったその特徴を失った言語と考えられた。Meinhofの弟子ディードリヒ・ヘルマン・ヴェステルマン英語版は、当時のスーダン諸語を東スーダン諸語英語版西スーダン諸語に分類し(1911年)[2]、西スーダン諸語祖語比較言語学的再構を行い(1927年)、さらにバントゥー諸語と西スーダン諸語には関係があると結論した(1935年)。

この後を承けてジョーゼフ・グリーンバーグは、西スーダン諸語とバントゥー諸語は単一の系統をなすと主張し、これをニジェール・コンゴ語族と命名した(1949-1954年)。バントゥー諸語はベヌエ・コンゴ語群英語版の支派であるとし、アダマワ・東部諸語英語版(かつては別個の言語とされた。現在はアダマワ・ウバンギ語群と呼ぶ)もこのグループに属すとした。またフラニ語大西洋語群英語版に属すとした。彼は1963年にこれらを成書 (The Languages of Africa )[3][4]としてまとめたが、その直前に分類を改訂し、コルドファン語派をニジェール・コンゴ語派とともに大きな語族の中の語派として認め、ニジェール・コルドファン語族と命名した。グリーンバーグの考えは最初は批判的に見られたが、次第に広く支持されるようになった(ただし現在でも全言語の共通祖語は確実には再構されておらず、この語族を認めない意見もある)。BennetとSterk(1977年)[5]は、語彙統計学に基づいて内部再分類を行い、これをもとにしてさらにBendor-Samuel(1989年)[6]が再分類を行った。彼らはコルドファン諸語を初期に分岐した1分派であると考え、再度「ニジェール・コンゴ」という用語の使用を勧め、これは現在多くの言語学者に用いられている。現在も多くの分類でコルドファン諸語は最も遠い分派と位置づけられているが、これは少数の語彙対応によるもので、むしろその他の言語が一つにまとまるという証拠もある。同様に、マンデ語派(名詞クラスがない)は2番目に遠く離れた言語と考えられることが多い。

さらにヴェステルマン以来、ニジェール・コンゴ語族(ヴェステルマンの「西スーダン諸語」)とナイル・サハラ語族(「東スーダン諸語」)の間にも関係があるとする意見もたびたび出されているが、これは一般に認められてはいない。コルドファン語派をニジェール・コンゴ語派の一部と考える人もいる。セヌフォ語群は従来グル語群英語版の中に含められてきたが、現在は普通、ボルタ・コンゴ語群から早期に分離したと考えられている。また、マンデ語派はニジェール・コンゴ語族でなくナイル・サハラ語族であるとする議論もある。孤立的言語のラール語(チャド)、ムプレ語英語版(ガーナ)、ジャラア語英語版(ナイジェリア)はニジェール・コンゴ語族に含められることもあるが、結論は出ていない。カドゥ諸語英語版は、かつてはコルドファン語派に分類されていたが、現在はナイル・サハラ語族に分類される。

共通の特徴

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音韻論

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ニジェール・コンゴ語族は基本的には開音節的(CV)である。祖語の典型的語構造はCVCVだったと考えられ、この構造はバントゥー諸語などに残っているが、その他の多くの言語では音韻変化によって変化している。動詞語根と1つまたは複数の接尾辞からなる。名詞は語根と、その前に付く名詞クラス接頭辞((C)V- の形、ただし摩耗していることもある)からなる。

子音

いくつかの語派の祖語について2つの子音クラスが示されている。これらは一般には硬音と軟音('fortis' and 'lenis')の区別とされている。またニジェール・コンゴ祖語の調音点は5種(両唇音、歯茎音、硬口蓋音、軟口蓋音、両唇軟口蓋音)が考えられている。

母音

多くのニジェール・コンゴ諸語には、ATR(advanced tongue root:舌根前進)に基づく母音調和がある。この母音調和では、舌根の位置が母音の分類の音韻的基礎となる。完全な形では [+ATR] /i, e, ə, o, u/ と [-ATR] /ɪ, ɛ, a, ɔ, ʊ/ という5種類の母音がそれぞれ分類される。このような分類は今でも一部言語(ガーナ・トーゴ山地諸語など)に見られ、多くの言語ではこれが簡略化されたシステムが見られる。大西洋祖語、イジョイド祖語、ボルタ・コンゴ祖語では10母音が再建されたことから、ニジェール・コンゴ語族の元来の母音システムは10母音であったという仮説が提唱された(Williamson)。一方、アカン・バントゥー祖語で7母音が再建されている(Stewart)。

鼻母音

ニジェール・コンゴ語族には、通常の母音と対照的な鼻母音があったとする考えもある。Steward(1976年)はボルタ・コンゴ祖語の再建にあたり、鼻子音は鼻母音の影響で成立したとの仮説を立てており、音素としての鼻子音を欠く言語もいくつかある(非鼻母音の前には非鼻子音、鼻母音の前には鼻子音と相補分布する)ことからも、この仮説は支持される。これに続いて母音の鼻/口対立が消失すれば、鼻子音が音素として成立すると考えられる。これまでの報告すべてにおいて、 /m/ が最初に音素化した鼻子音である。現在の言語には一般に鼻母音はごく少ないが、カセム語(Kasem)には非鼻母音が10と鼻母音が7あり、ヨルバ語には非鼻母音が7と鼻母音が5ある。

声調

大多数の現代語は声調言語である。典型的なニジェール・コンゴ声調システムは2または3の対立する音高からなる声調である。4音高声調は少なく、5音高声調はごくまれである。非声調言語はごく少なく、その中でスワヒリ語がよく知られるが、大西洋語群にも少しある。ニジェール・コンゴ祖語は2音高からなる声調言語だったと考えられ、このような単純な声調から、子音の影響などにより、より複雑な声調が発達したと考えられている。複雑な声調を持つ言語では、それを文法機能よりも語彙弁別機能に用いる傾向がある。

名詞クラス

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ニジェール・コンゴ語族の特徴には名詞クラスがあり、すべての言語に少なくとも名詞クラスの痕跡が見られる。

語順

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現代語ではSVO型が圧倒的に多いが、マンデ語派、イジョイド語群、ドゴン語群などSOV型も見られる。元来の語順は明らかでない。

分類

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諸説あるが、ほぼ次のように分類される:

話者

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ニジェール・コンゴ語族の話者はY染色体ハプログループE1b1aと関連している[7]

脚注

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  1. ^ Koelle, S.W., 1854, Polyglotta Africana, or a comparative vocabulary of nearly three hundred words and phrases, in more than one hundred distinct African languages. 188p. London, Church Missionary House.
  2. ^ Westermann, Diedrich H. (1911) Die Sudansprachen. Eine sprachvergleichende Studie. L. Friederichsen & Co.
  3. ^ Greenberg, Joseph H. (1963) The Languages of Africa. International journal of American linguistics, 29, 1, part 2
  4. ^ Greenberg, Joseph H. (1966) The Languages of Africa (2nd ed. with additions and corrections). Bloomington: Indiana University.
  5. ^ Bennett, Patrick R. & Sterk, Jan P. (1977) 'South Central Niger-Congo: A reclassification'. Studies in African Linguistics, 8, 241–273.
  6. ^ Bendor-Samuel, J. (ed.) (1989) The Niger-Congo Languages University Press of America.
  7. ^ 『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)

関連項目

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