チミジル酸(チミジルさん、thymidylic acid)は、デオキシリボヌクレオシド構造を持つ有機化合物の一種である。チミジン一リン酸 (thymidine monophosphate) とも呼ばれ、dTMP[1] と略される。dTMPはチミンデオキシ糖の 2-デオキシリボース、1つのリン酸より構成されており、リン酸とチミジンヌクレオシドとの間でリン酸エステルが形成されている。リン酸エステルの位置により、3'-体、5'-体が知られる。番号を省略して単にチミジル酸といった場合は、通常 5'-体を指すことが多い。3'-体の場合はナンバリングを添える。

チミジル酸
Skeletal formula of thymidine monophosphate as an anion, single negative charge
Space-filling model of the thymidine monophosphate molecule as an anion, double negative charge{{{画像alt1}}}
識別情報
略称 dTMP
CAS登録番号 365-07-1 チェック
PubChem 16755631
ChemSpider 10239189 チェック
UNII 43W3021X6C チェック
ChEBI
ChEMBL CHEMBL394429 ×
バイルシュタイン 3916216
特性
化学式 C10H15N2O8P
モル質量 322.2085 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

5'-チミジル酸は、DNA の部分構造となっている。

DNA合成との関連

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デオキシウリジン一リン酸5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸は、チミジル酸シンターゼ (FAD)によりメチル化されたチミジル酸(dTMP)とジヒドロ葉酸を生成する。

(反応式) 5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸 + デオキシウリジン一リン酸(dUMP) + FADH2   チミジル酸(dTMP) + ジヒドロ葉酸 + FAD

なお、DNAの合成は、dUMP(デオキシウリジン一リン酸)-dTMP(チミジル酸)-dTDP(チミジン二リン酸)-dTTP(チミジン三リン酸)と進み[2]、リン酸2分子分のピロリン酸が遊離して、チミジル酸に相当する部分がDNA鎖のデオキシリボースの3'位に結合することで、アデニングアニンシトシンチミンと4種類あるDNA塩基のうちのチミンが完成する。

 
テトラヒドロ葉酸(THF)による代謝とビタミンB12によるTHFの再生産、de:Folsäure=葉酸、DHF=ジヒドロ葉酸、THF=テトラヒドロ葉酸、Vit.B12=ビタミンB12、Methyl-Vit.B12=メチルコバラミン、Methionin=メチオニン、Methionin Syntase=5-メチルテトラヒドロ葉酸-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ、Homocystein=ホモシステイン、N5-Methyl-THF=5-メチルテトラヒドロ葉酸、N5,N10-Methylene-THF=5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸、N10-Formyl-THF=10-ホルミルテトラヒドロ葉酸、dUMP=デオキシウリジン一リン酸NADPHDNA
 
DNAの化学構造

DNA中のチミン

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DNARNAとで構成する塩基に違いがあり、一般に、DNAはA、C、G、Tであるが、RNAではTの代わりにU(ウラシル)である。ただし、DNA上にもUが稀に生じることがあり、また、塩基にTではなくUを用いるDNAを持つ生物も存在する(U-DNA参照)。圧倒的大多数の生物でDNAの構成塩基にUではなくTが用いられるのは、Cが自然に脱アミノ化することでUに置き換わることがあり、塩基配列を維持するために、損傷してUに変化したCと元来Uである残基を識別する必要があるからである。TはUの5位の水素がメチル基に置換された構造をしている。また、Cからは容易に生じることはなく、Cの損傷によって生じたUを容易に識別できる。以上より、DNAではUではなくTを用いる方が有利であったと考えられる。

参考文献

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  1. ^ TMPはよくある間違いである。Abbreviations and Symbols for Nucleic Acids, Polynucleotides and their Constituents N-1.1
  2. ^ 血液検査-巨赤芽球性貧血 1999/03/10の講義 中国労災病院中央検査部 [出典無効]

関連項目

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