ケルピー

スコットランド地方に伝わる幻獣

ケルピー(英語およびスコットランド語: kelpie、kelpy)は、スコットランド地方の水辺に住み、主にの姿をしていると伝わる想像上の生き物。人間をおびき寄せるなどして溺れさせるという悪評ある水霊や水魔の一種である。

『ケルピー(たち)』英語版 (2013年)。
―スコットランドのフォルカークに設置されたアンディ・スコット英語版作の塑像[1]

概要

編集

姿形は、はっきりわからないが、馬の姿と言われることが多い。スペイ川スペイサイド英語版地方のケルピーは概して白馬(異説に黒馬)であり、馬具一式を身につけ乗り人を誘う。しかしケルピーは人の姿に化けることもあるとされる。

「ケルピー」とは英国イングランドやスコットランド低地など、ゲール語を解さない英語圏の名称であり、それとよく混同されるのがスコットランド高地に伝わる水棲馬ウォーター=ホース、すなわちゲール語でいうエッヘ・ウーシュカスコットランド・ゲール語: each uisge)である。アイルランドの伝承にもあり、アッハ・イシュカアイルランド語: each uisce)と呼ばれる。

川棲はケルピーで、湖棲がゲール文化のエッヘ・ウーシュカとの線引きが提唱されており、これを順守する向きもある[注 1][注 2]

ケルピーやエッヘ・ウーシュカによって水中に引き込まれた児童や大人の犠牲者は、肝臓等の臓器が浮かび上がる以外は遺体があがらず、食らわれたと伝聞されるが、明言されなくともそう推論される[注 3]。だが一説によれば、エッヘ・ウーシュカは、女子供をとって食うことをしない[注 4]。 また、うっかり触ると離れられなくなり、指を切って逃げおおせた、などと伝わる。

また、人間の男性に化身して女性を誘い狂暴化もする話が、特に西ハイランド地方で伝えられる[注 5]。しかしその髪に水草か砂が混じっていて正体を見破られるのが顕著なモチーフである。気づいた女性は、衣服の一部を切り離したり、前掛けなどを脱いですり抜けたりして逃げようと試みる。

ケルピーは必ずしも有害無益と限らず、特別な馬勒(ばろく)の力で御すことができ、橋や築城の石材運搬などに使役できた話も残される。しかし、その場合も後で末代までたたられる、または娘を連れさらわれる、などのしっぺ返しも起きている。

用語

編集

定義

編集

ケルピー(スコットランド語: kelpie, kelpy)は大別すると「水の精霊(ウォータースピリット)」[2][注 6]、あるいは「水魔(ウォーターデーモン)」の類と定義される[3][注 7][注 8]。また、古風に「水の悪魔(ウォーター=フィーンド)」と注釈や解説もされる[6][9]

"その管轄内にいる人の死期を超自然的な光源や物音で予告したり、その人たちの溺死に関与したりもする、などと俗信される"と18世紀の辞書にはみえる[2]。また、各用例にならい"川や川瀬に住み、概して黒毛(あるいは白毛)の馬の姿をし、人間をおびき寄せて溺死させるが、馬具をつけられ粉ひき小屋廻しなどの使役をさせられることもある"と、近代の辞書は定義で詳述している[10][注 9]

各辞書ではまた、ゲルマン系の水妖「ニッカー」(に同じ)と定義されたり[3]、あるいはそれらに通じると解説されている[2][注 10]。このニッカーというのはいわば総称であって、ニュック(古ノルド語: nykkrノルウェー語: nykk)、ノック(ノルウェー語: nøkk[12]などと、地域/国によって呼称が多少変異する[注 11]

蛇足としては、英国で悪魔を婉曲的にさす「オールド・ニック」(英語: Old Nick; スコットランド語: Auld Nick)という表現は、じつはこの水妖「ニッカー」に由来する、と付記される[2][13]

ケルピーの定義については混乱があり、例えばどういう容姿・形態をとるかについても議論がある、と指摘される[14]

地域性

編集

ケルピーはハイランド地方の産物のように扱われることもあるが、これは誤りで、実際はローランド地方(ゲール文化・言語の絶えた地域)の迷信である、との意見がみられる[15]。ケルピー(英語: kelpie)の語は、英単語としても扱われ、『オックスフォード英語辞典』でも「姿形は様々だが馬の姿をする、伝説上の水霊または[水]魔の、スコットランド低地での名称」と定義されている[16]

上述したように、真正のケルピーはスコットランド低地(ローランド)の産物とみなす向きがあるが[15]、スコットランド高地(ハイランド)にもよく似た性質のエッヘ・ウーシュカ(「水の馬」の意)がおり、これは便宜上、英語で「ウォーター・ホース」(や「ウォーター=ケルピー」)などと呼ばれることが多々あって、邦書では水棲馬水馬等と表記・併記される[17]。しかし、じっさいには両者は混同・習合もされており[18]、ケルピーもやはり水棲馬・水馬と記述される[19]

語源

編集

語源については「若い牡牛」や「仔馬」を意味するスコットランド・ゲール語cailpeach, colpach)に由来する可能性が高い、と『SND』辞典に記載される[20][3]。だが従来は『オックスフォード英語辞典』はこの語源説明には根拠がない、と懐疑的であった[注 12][16][注 13]

また、ゲール語ではなくPケルト語ブリソン諸語系統、すなわちウェールズ語)で「河の馬」を意味する ceffyl-pol 、転じて celpow、kelpie という説をロナルド・ブラックが提唱している[注 14]。これはケルピーがピクトの文化の産物であるという仮説に基づいている[21][注 15][注 16]

ケルピーをそのまま英語で解釈しケルプ英語版コンブ目の総称[27])に由来するとする意見もあるが[28]、孤立しているようである[注 17]

概説

編集
 
 
2サウス・エスク川
 
3 ネス湖
 
4 コノン川
 
5 アルモア湖
 
6インヴァユーギー城
 
7b バルリービー沢
 
7c,8ストリッチェン
 
10a
 
11 モーフィー城
 
12 アイロングレー
 
13
 
14
ケルトニー
 
アイラ島
 
iフリサ湖
 
iiアーダチョイル
 
iii コル島
 
ivサンアート
 
IIシン湖
 
IIIサーソー町
 
IVエッグ島
 
V
 
VIモーヴァーン
スコットランドのケルピー ( ) とエッヘ・ウーシュカ( ) 伝承地。分類変更は( ) とした。
  
 
3 ストラスペイ
 
3 スロッコ峠
 
3 ネス湖
 
7c,8
 
10aガーチョリー
 
11
 
13スペイ川×E・エルチーズ
 
IVスペイ川×クロムデール
スコットランド北部のケルピー ( ) とエッヘ・ウーシュカ( ) 伝承地。

ケルピーは概して黒馬か白馬の容姿をしていると、前述の現代スコッツ語辞典にあるが[3][注 18]、前者の例はスペイサイドの人間がネス湖からの帰途の峠で遭遇した魔法具をつけた馬[34][注 19]、後者はいわゆる「スペイ川の白馬」である[36]。しかしスペイ川のクリーヴァン[?]の淵の水馬エッヘ・ウシュタは黒いとされる[37][注 21]

囮の馬姿

編集

しばしば人間の気をひく姿に変身し、例えば、手綱をつけた若い馬の格好で道端に佇んで、歩き疲れた人を待ち受け、その人が背中に乗るとそのまま川をめがけて疾走し、水深が一番深いところまで潜ってしまうため、泳げない人間には災難となる[39][40][42]。あるいは、待ち伏せて獲物が来た時に水嵩を増させて溺れさす[43][45]

うっかり触ると離れられなくなって、そのまま水中に連れられ犠牲者となると伝わる。エッヘ・ウーシュカの場合については、「肌には粘着力があるので、乗ったものは離れられなくなる」と井村が説明しているが[17]、「糊のようにくっつく」と形容した話例もある[41]。複数の話例では一人の子(牧童)だけくっついた指を切断して難を免れている[48]

水没後、内臓のみ

編集

エッヘ・ウーシュカ(ケルピーとも混同)に沈められると、遺体はあがらず、内臓[29](肝臓[46][49]・心臓[50]・肺腑)が浮上するか打ち寄せられるだけ、と口承民話に伝わる[19][53]

これら子供の犠牲者たちは、明確にエッヘ・ウーシュカに食らわれたとは伝わっておらず[46][49]、そのため、これは食われてはいないという主張、すなわち女子供を食らうのはケルピーのみでゲールの伝承(エッヘ・ウーシュカ)にそのような話はない、という断言がある(J・G・キャンベル)[注 22]。しかし他の考察者には受け入れがたく、エッヘ・ウーシュカがさらって行くのが男性だろうが子供だろうが飼い馬だろうが、それは水底でこれを食らって嫌いな内臓だけを残しているのだ、と推察できる、と意見されている(J・G・マッケイ)[注 23][52]。他にも(特に対象を制限せずに)犠牲者の内臓以外を食べてしまうのだ、という解説が大衆本事典等に散見できる[19][54]

馬勒と使役

編集

しかし、馬勒をうまく用いてケルピーを操ることができれば、どの馬にも劣らない働きをさせられるという。ある領主がケルピーを使って石造りの館(城)を建設した。しかし解放されたケルピーは領主に呪いをかけた。呪いは次代以降にも及んで、領主の家系は途絶えてしまったという[55][54][55]。こうした逸話は、モーフィーの男爵の築城にまつわるものが知られるが[注 24][56][57]、他にも例がある[59]

色仕掛けの誘惑

編集

ケルピーかウォーター=ホースが女性を色恋に誘うが(家畜のおかげで)失敗する19世紀の発表話例が2篇、挙げられる。ケルピーが誘うのは旅の女性で、犬に守られる[60][61]。ウォーター=ホースは、男性姿で農場の働き手の女性を誘おうとするが、正体がばれ馬に化けて追いかけると[注 25]水棲牛ウォーター=ブルの子と品定めされた牡牛が決死の戦いを挑んで遠ざける(アイラ島の伝承)[62][注 26]

この原話では男や動物の容姿について詳しくないが[65]、エッヘ・ウーシュカがはっきりと美男子に化け、誘った女性を水に沈めて亡き者にする伝承もあるという[17][66]

藻・砂まじりの髪

編集

前述のアイラ島の原話では水棲馬が女性に膝枕させろ、そして髪を絞ってくれと頼むが[注 27]、女性がその髪にゲール語でリヴァガッハ liobhagach という、ぬめりけのある水草がまとわりついていた(異聞では砂がついていた)のを見とがめ、その正体を見破った[62][64]。似た例がバラ島にも伝わるが、水藻の名称が湖生のラファガッハ rafagachになっている[69][70]

類似の話型としてはMLSIT[注 28]「F58. 女性がウォーター=ホースに出会いついていく:しかしくしけずる髪に砂を見とがめ正体を見破る」が挙げられる[注 29]

よく似た話、あるいは女性が衣服を残してすり抜けるモチーフが、マン島のグラシュティンについて伝わる、と指摘されている[29][72]

文学・民話例

編集
  • (1) コリンズ(1747年作)『頌詩』(場所不詳)
ケルピーの語が使われる最古例は、イングランドの詩人ウィリアム・コリンズ英語版の1747年[3]の英語詩『スコットランド高地の民間迷信に寄せる頌詩』(1788年発表)である[3][73]
この詩では、ハイランド地方の迷信にある、人を溺れさせる魔物について語っているが[注 30]、暗き湿地フェンの、どこか柳の生える岸辺に佇んでいたある農夫を[76]、この悪魔フィーンドが水嵩を増させて溺れさせた。ケルピー(英語: kaelpie)の怒りに触れたのだ、と詠まれている[44][6][注 33]
ケルピーが、石運びなど橋を架ける手伝いをさせられた[58][注 34]
スコットランド方言辞書の編纂者ジェイミソンによるこの詩は、ウォルター・スコット『スコットランド辺境歌謡集』英語版第3巻(1803年)に所収したものである[80][注 35]
  • (3) W・グラント・スチュアート(1860年);グレガー(1881年)(ハイランド地方、ネス湖
スペイサイドのウィロックス家(マグレガー家)に伝わる魔法の回復器具「玉と馬勒」にまつわるもので、馬勒ブライダルは、そもそもケルピーが身に着けていた馬具の一部だった。同家の当主が、先祖がそれを入手したいきさつの武勇伝を伝えている[注 36][35]
ネス湖に棲むケルピーが、乗用馬を装い街道に待ち伏せてうっかり乗った者をネス湖やドアブ湖(ロッキンドアブ英語版)やスピニー湖英語版に連れてゆくのだが、先祖のマグレガー氏は、スロッコ・サミット英語版の峠でケルピーに遭遇したが騙されず、近寄りざまに顎を馬勒ごと切りつけたので、馬銜のひとつがこぼれ落ちた。ケルピーは力を失い、返還を求めたが氏は応じなかった。馬は自宅の入り口を通せんぼしたが、氏は窓越しにその馬銜を妻に渡した。戸口の上にはナナカマドの十字架が掛かっていたのでケルピーはあきらめざるを得なかった[35]
グレガーはこのケルピーを黒馬としており、誘いに乗らない某ハイランド住民に怒り噛みつこうとしたが、躱されて一太刀入れられ、真鍮のホックのような「馬勒」が切断されたとする[34][82][注 37]
ケルピーの説話とは言い難い例である[注 38]誤りで、後述するブラックグレンのウォーター=ホースは、まったく別の場所(モルヴェン)の伝承である[85]
「刻は来たり、しかし者は来たらず」と川瀬でつぶやき獲物を待つ怪異は、ケルピーともウォーター・レイスとも称されているが、「ウォーター・レイス」(緑の衣服を着た女性の姿をさす)が正しく、「ケルピー」(馬の姿)ではないと説明される[86]
その怪異のいる「偽の瀬」(浅く見えるが、その両側と同じく水深が深い)に向かっている馬上の男を、周りの人間が見とがめて引きずりおろし、古い教会に閉じ込めたが、あくる朝になると顔を石の餌槽英語版にうずめ、そのわずかの溜り水で溺れていた[86]
スコットは、前述の詩「ウォーター・ケルピー」に寄せた注釈で、同じ伝説(類話)に触れている。男が顔をつけたのが洗礼盤であることだけが異なる[80][87]
原話は、13世紀初頭のティルベリのゲルウァシウス英語版(ジェルヴェーズ)著『皇帝の閑暇英語版』でも取り上げられているとスコットは述べているが[87]、フランス語でドラクフランス語版という水妖にまつわるようである[88]
ユーギー川河岸のインヴァユーギー城英語版[注 40]で黒馬が出没[注 41]、助言を受けた男は「はぐれ馬の馬勒」でケルピーを捕獲[注 42]。川に橋を架けさせた。使役の終了後に解放すると「足腰痛む、インヴェルジーの橋に石を運んで」の意の韻律詩を口にしたという[注 43][92]
  • (7a) グレガー(1883年)「害となるケルピー」(場所不特定)
ケルピーが粉ひき小屋の穀物や穀粉に悪さをするので、夜分にイノシシを閉じ込めると来なくなった[38]
白馬のケルピーが誘うようなので、旅する若い男女が乗って川の瀬を渡ろうとしたが、ケルピーは半ばで向きを変え襲歩(ギャロップ)で川を下りはじめた。いななきながら、合間にこう言ったという:「ジェニー・ミルンよじっと座れ、デイヴィーしっかり乗れ、じきにバルリービーの深淵につくまで」[38][93]
  • (7c) グレガー(1883年)「害となるケルピー」; (8) 「人間の姿のケルピー」アバディーン州のバンコ農場のストリッチェン沢(バーン)のに棲む)
2話を所収[38][94]
  • (9) グレガー(1883年)「人間の伴いを求めるケルピー」(場所不特定)
旅の女性の仮の宿にケルピーが夜這いをかけるが、犬が知恵を出して回避する[61]
ガーチョリー・バーン(沢)
ルイブ橋
ガーチョリーの粉ひき小屋で穀粉を積もうとすると馬がいなくなっており、馬具一式をつけた馬が現れて代わりをつとめてくれる。家につくとリバー・ドン (アバディーンシャー)英語版(ドン川)の方でドボンという音がし、自分の馬は馬小屋に戻っていた[96][95][注 46]
  • (10b) グレガー(1889年)無題II・「ケルピーが川を渡って運ぶ」[注 47](アバディーン州のコーガーフ村付近ルイブ橋)[101]
妻が危篤という男が急ぎ帰宅しようとしたが、村のドン川に架かる木造の橋が流されてしまっていた。長身の男が背負って川を渡ってくれるという。しかし正体はケルピーで、溺れさせられるところだった。ジョニーという男はすんでのところで助かった[102][103]
ケルピーは、気に入った女性が事欠いていた穀粉を盗みに行ったが、粉ひき小屋の主人に備え付けの「妖精の錘(おもり)」を投げつけられて足を折り溺死[105][104]
 
 
ケルトニーバーン
 
シェハリオン山
 
アバーフェルディ
現今のスコットランド・パース・アンド・キンロス
ウォーター=ホース[57]、またはケルピーが、モーフィーの男爵によって石運びなど築城を手伝わされた[56][43][注 50]
ケルピーはドラゴンのような緑の鱗で覆われて体毛はなく、足は水かきがついていたという目撃談[108][注 51]
  • (13) トムソン(1902年)「ウォーター・ケルピーとウィル・オ・ザ・ウィスプ」(ハイランド地方)(現今マレー行政区画クライゲラヒー英語版村の)イースター・エルチーズ粉ひき小屋にちなみ名付けられたミル・フォードの渡瀬、スペイ川
靴屋夫婦が、エルギンに革を仕入れた帰り、小屋付きのシェトランドポニー英語版らしき馬が置かれていたので、拝借して乗り、川を渡ろうとした。すると馬は水に潜り始め、降りようにもまるで馬の背に糊で張り付けられたように動かない。馬は「ジャニィッティ……デイヴィー……クレイヴィーの淵」まで連れて行く、という歌を口ずさむ[注 52][41]
ケルピーが7人の女の子を誘って背に乗せるが、その人数分だけ体が伸びていることを観察した男の子は、「かさぶた頭(スキャビーヘッド)」と呼ばれて来いと急き立てられるのにかまわず、逃げおおせた。ケルピーは女の子らを乗せたまま湖に飛び込み、彼女らの内臓[注 54]のみしか陸に揚がらなかった。
同上。ケルピーでなく水棲馬(エッヘ・ウーシュカ)の話とされ、場所説明が異なるほか[注 55]、「肝臓」が浜辺に打ち上げられたと表現を変えている。

類似する幻獣

編集

スコットランド伝承の水棲馬エッヘ・ウーシュカは、便宜上の訳語として「ウォルター=ケルピー」が充てられたり、混同視されたりすることも多いが、これは以下の§エッヘ・ウーシュカの節にて詳述する。

ニッカー

編集

ケルピーは、本来はゲルマン言語圏(ドイツ、スカンジナビア島)の伝承から伝搬した(か、その逆か)いずれにせよ同源のものではないかとの意見がある。そのケルピーに対応する水霊・水魔はニッカー[3]ニック、ネック(あるいはノック)等と呼ばれる[2]ジョン・ジェイミソン英語版の辞典(1808年)[2]カール・ブリント英語版の論文(1881年)も同意見であり、アイスランドのニッカー(ニュック[12])は、馬(斑馬)の姿で現れると伝わるとし、関連性を強調する[109][110]

スコットランドでもゲルマン文化の色濃い地域であるシェトランド諸島では、水妖馬が同源語のノグル英語版と呼ばれており、[注 56]、ノグルはシェトランド版のケルピーだとも記載される[111][112]

エッヘ・ウーシュカ

編集

スコットランドアイルランドでは、海や塩水湖の中に棲むといわれる「水の馬」を意味する魔物が伝えられており、原語でそれぞれエッヘ・ウーシュカ(スコットランド・ゲール語: each uisge; [113][114] /ɛχ uʃkʼə/[115])、アッハ・イシュカ(アイルランド語: each uisce; /ɑχ,aχ/[116])とよばれる。 [注 57][17]

これもケルピー同様、人間が背中に乗るよう誘い、乗った人を背中にくっつけてしまい、水中に引きずり込んで食べてしまうという[17][117]。異表記にアハ・イシュケ [17]ほか多数ある[注 58][17]

アイルランドとスコットランドの水棲馬

編集

アイルランドの水馬アッハ・イシュカはオヒシュキアイルランド英語:aughisky)とも呼ばれ、イギリスの民話学者キャサリン・ブリッグス英語版の『妖精事典』等にこの名(カナ表記)で記載される[118][119]

スコットランド高地の伝承の水馬エッヘ・ウーシュカは、19世紀の民話収集家のJ・G・キャンベル英語版によってウォーター=ホースと意訳されており、幾つもの当地の口承伝承が掲載されている[120][注 59]

ブリッグスの『妖精事典』の場合は、スコットランドのそれをエッヘ・ウーシュカ(スコットランド・ゲール語: each uisge)の項で解説し[注 60]、「ウォーター・ホース」の項ではスコットランド島嶼やマン島の、いろいろな名前の水妖馬の総称に用いている[123]井村君江の『妖精学大全』は、「エッヘ・ウーシュカ」の項の異名覧に「ウォーター・ホース」を併記し、あるゆる地域の汎称として「水棲馬」をもちいるようである[17][注 61]

エッヘ・ウーシュカとの区別

編集

水域

編集

よく似ているためにしばしば混同されるが、アハ・イシュケ(改めエッヘ・ウーシュカ[注 61])は海水(塩水)の側で、ケルピーは湖の岸や川辺で見られるという違いがある、と日本語の文献にみえる[125]

しかし、この棲み分け的解説は、英国資料と比べて齟齬が生じているか、少なくとも説明足らずである。もしアイルランドのオヒシュキに限定するならば、たしかにこれは海から出現する、塩水の方向へ追うと逃げてしまう、という解説がみえる[注 62][49]。しかしスコットランド高地の水馬エッヘ・ウーシュカは、J・G・キャンベルによればロッホの主(ぬし)[126]、ブリッグスによれば海や湖の主であるとされている[127]。そしてロッホは特に鹹水湖に限られるわけではない[注 63][113][113]。スコットランド高地の水馬ウォーター=ホース(エッヘ・ウーシュカ)の各地の伝承をみれば、淡水湖(や河川などの水域)の具体例が判然とする[注 64]

他の相違

編集

同J・G・キャンベル牧師によれば、水域の違いのほかにも、能力や溺れさせる対象の違いがあるとする:

これは、たとえ幼い子供をたしなめるためでも児童を誘拐するという伝承があるならば、その部分ははっきり区別はできないのではないか、とも批判されている[14]、キャンベル自身も9人の子供が失われた説話を発表している[注 65][46]。また、スペイ川にいる妖馬は、ケルピーとして語られる場合が多いものの、エッヘ・ウーシュカであるという伝承がはっきり存在し、マクドゥーガル牧師(1910年)によりゲール語の「クリーヴァンの淵のエッヘ・ウーシュカ」として所収されている[37][注 66]、エッヘ・ウーシュカは川には棲まないとするJ・G・キャンベルの目安の反証例となっている[注 67]

区別の強論

編集

同氏、J・G・キャンベル(タイリー島のキャンベルとも呼ばれる)こそが、エッヘ・ウーシュカとケルピーの線引きの強論者であることは、他の解説者が指摘している[14][43][133]

ロナルド・ブラック講師によれば、キャンベルの目安を用いれば、用例の「ケルピー」が真正か訳語かわかるという。例えば、グレガーの1883年の発表文は実際の「ケルピー」であり、マクベイン英語版編1887年の匿名論文は[134][注 68]、単に「エッヘ・ウーシュカ」の訳語であるとしている[注 69][21]。。

エッヘ・ウーシュカの例

編集
乗れない馬はないと自負する男が、雌馬のふりをしたウォーター=ホースによってこの湖に連行されて食われる。他の馬とこの魔性の馬とをつないでいた時に起こった出来事だとも伝わり、水没したのち、男と馬の肝臓(または馬の肝臓、または男の肺腑のみ)が上がったなどと、いくつかの異聞が流布している。
  • (ii) J・G・キャンベル 「クル・ロックの喋り馬」(西海岸沖マル島 のアーダチョイル農場の上の小湖クル・ロック)[136][137]
  • (iii) J・G・キャンベル 「コル島」(西海岸沖コル島[138]
はぐれ馬と思って乗った9人の子供が湖に引きずり込まれて失われた。遺体はあがらず、そのうち1人の肝臓のみが浮上。乗らずに助かった1人(ポケットに聖書をしのばせていた子)は、馬に触ってしまった指を切断して逃避[46]
  • (v) J・G・キャンベル「ラッセイの水馬を殺す」;J・F・キャンベルスカイ島より内海のラッセイ島英語版のダン・カアーン(Dùn Caan)のそばにある、実在のロッホ・ナ・ヴナー(Lough na mna、「女性の湖」の意)」)
[128][139]
アラスター(英語だとアレクサンダー)という鍛冶屋がウォーター=ホースの退治を誓い、隠れ小屋で去勢羊を焼いておびき寄せ、小屋に開けておいた開け口から、熱した鉄棒で突いた。確認すると、そのウォーター=ホースは、ただの灰色の瘤のような、あるいはクラゲのような塊のようなものであった。
  • (I) デンプスター編(1888年)「ギリー湖の黄金馬」(北部サザランド州ロッホ・ナ・ギリー湖[注 70]
黄金の馬に誘われた数名の青少年(おそらくギリー英語版、すなわち釣りや猟のお供役の召使)が命を落とす。触れた指がくっついたがこれをナイフで切り落として避難したモチーフ[47][141]
  • (Ia) デンプスター編(1888年)同上話の付録話(北部サザランド州フリート川[注 71]。文中だと川か湖か鮮明でないが、ポイカートが川としている。[47][142]
  • (II) デンプスター編(1888年)「サラチーの七牧童と水棲馬」(北部サザランド州シン湖英語版
七人の牧童が馬を放牧していたが、美しい一頭が紛れ込んで、いずれも自分の父の者だと言い張った。一人のみならず、まだまだ乗れると全員が乗馬するところを、女の子が来て輝く肌を触れると手がくっついてしまった。兄弟の助けではがしてもらうが、七牧童は行方不明となった[143][144][145]
  • (III) マクベイン (1887年) 無題(北部サザランド州ファー英語版教区やサーソー町近く"Loch nan clonn"('子供らガ湖')
黄色い(スコットランド・ゲール語: buidhe)すなわち鹿毛(ベイの毛並み)の馬がおり、不定数の子供たちが乗るがくっついて攫われる、一人の男の子がナイフで指を年助かる、翌日には内臓(スコットランド・ゲール語: sgamhan)が浮かぶ話素が揃った別の例[134]。上述の類話と言えよう。内臓を指すこのゲール語は、肝臓とも肺腑ともとれるらしい[146]
女性がウォーター=ケルピー(エッヘ・ウーシュカ)の犠牲に。心臓と肝臓のみが浮かび上がる[50]
  • (V) マクドゥーガル (1910年)「クリーヴァンの淵のエッヘ・ウーシュカ」(ハイランド地方スペイ川の淵。旧マレー州クロムデール英語版の近辺。)
カラスのように光沢のある黒毛の馬。人間を眼光で金縛りとし、その後油断して十字架を切り忘れ、鹿のような目で誘われるままに乗ってしまうと水に飛び込まれて溺れる。
「黄色の湿原」のリトル・ジョンという男が、黒魔術の婦人(ブラックワイフ)に退治法を相談し、斑の牛皮をかぶって牛群にまぎれこみ、すきをついて馬勒ばろくを奪い、水棲馬の主となった。馬を使役させて泥炭業で蓄財したが、ある日、娘が馬勒をはめて乗ると、馬はそのまま逃げ、元の淵でなくクロムデール近くの小湖に飛び込んだ。
飛び込んだ箇所だけ冬も凍らず、娘の幽霊が出現した[37]
早朝水源近くで異音を発したエッヘ・ウーシュカは[注 73]、恐ろしい啼き声とともにキンゲイロック[?] Kingairloch 方面に去っていなくなった[注 74][85]

海のケルピー

編集
 
灰色の馬にまたがるコリーヴレッカンのケルピー(マッケイの詩より)

前述のコリンズ(1747年作)のスコットランド迷信についての『頌詩』には欠落箇所があって、別の詩人が補った部分では、陸の河川でなく、海での溺死に関わる魔物か精霊について語られている[148]。それによれば、海では巨大な精霊が嵐を導き船を沈め、有翼のなにものかが渦潮に被害者が吸い込まれる様を見守るという[注 75][151]。そして海でなく陸での溺死を司るのが「かの悪魔フィーンド」(もしくは「同じ悪魔」)であり、後述されるケルピーともとれる[注 76]

J・G・コリンズの法則に反するが、ケルピーは海からも出没するとフォーブス・レスリー中佐の著書でも述べられている[注 77][7]

スコットランドの渦潮としては、コリーヴレッカン英語版が有名であるが、作家のチャールズ・マッケイが、スコットランドの(北西)諸島に普遍的に残される伝承にもとづいたとされる詩、「コリーヴレッカンのケルピー」(1851年)を発表しており、リアモント・ドライズデール英語版作曲のカンタータ「ケルピー」に翻案されている[153][154]。なお、作中のケルピーは、サンゴの剣を差し、灰色の馬にまたがる容姿端麗な騎兵か騎士の姿をしており、浜辺の女性を拉致しようとする[153]。ただ、この渦潮は「ブレカンのカリュブディス」と、ギリシア神話の女性の[155]怪物の名を借りた名称でアドムナーン英語版著『コルンバ伝英語版』(6世紀)に記載されており[156][157][注 78]、その後の民間伝承でも、「老婆の釜」(カリャッハ、英語でハグの釜)と伝わり、そのカリャッハがネッカチーフかフードを纏う時が危険だとされる[157][156]。マグレガーは、この老婆を女ケルピーとし、「ストーム=ケルピー」の一種とするが[157]、あまり定着した分類とはいえない。

図像学

編集
『ケルピー』The Kelpie。
ダウ画、1895年
『ケルピー』The Kelpie。

トマス・ミリー・ダウが1895年に描いた油彩絵画では、ケルピーがあえて女性として表現されているが、これは芸術表現的な「性転換」を行いその犠牲者を男性に想定した、当時代の風潮を代表するものだ、と解説されている。その論文で、美術史家の高橋裕子はとくに濡れそぼって水の滴る髪の描写に着眼する[158]

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ この線引きは、19世紀の伝承収集家J・G・キャンベル英語版がおこなったものである。妖精学の大家キャサリン・ブリッグスも、当初は湖畔のケルピーの話として発表した話をのちにエッヘ・ウーシュカの話に仕立て直して記載している。
  2. ^ また、出現場所がスペイ川の淵(プール)の例などがあり、このプールは、「池」ととらえて湖に通じるとするのか、たとえ流れがよどんでいても川のうちとするのか、区別はそれほど単純ではないが。
  3. ^ J・G・マッケイ。
  4. ^ 前述のJ・G・キャンベル。
  5. ^ スコットランド島嶼やインヴァネス英語版州。
  6. ^ 『古スコッツ語辞典(DOST、Dictionary of the Older Scottish Tongue)』は、1700年以前の用例を扱う古語辞典であり、古例では地名例(1674年)1件のみが挙げられる。地名例は Kelpie hoall 。『SND』の方にカーカドブライト英語版州に所在する地名だと明記される[3]
  7. ^ スコティッシュ・ナショナル・ディクショナリー英語版(SND)』は、逆に1700年以降の用例を扱う辞典で、ケルピーの用例は豊富であり、より後年の補遺も追加されている[4]
  8. ^ ケルピーは「水の精霊(スピリット)」であると、本『SND辞典』の最古例であるコリンズの詩の編者(アレキサンダー・カーライル英語版、1788年)が注釈しているのであるが[5]、それは反映されていない。
  9. ^ 各用例から引かれるケルピーの属性は追って述べる。
  10. ^ §ニッカーで詳述するが、カール・ブリント英語版の論文(1881年)も、北欧のニッカー等は馬の姿と伝わるとして同調している[11]
  11. ^ また、例えばノッケンノルウェー語: nøkken)は、nøkk後置定冠詞形である。
  12. ^ 逐語訳すると"しかしながら肯定的な証拠に欠ける (but positive evidence is lacking)"とOED辞典は記している。
  13. ^ この語源説の形であるが、思いつかないが「仔牛」を意味するゲルマン語派(ドイツ語の"kalb";英語の"calf")であろうか 、とジョン・ジェイミソン英語版がその辞典(1808年)で述べたのに対し[2]ウォルター・ウィリアム・スキート(1887年)が、ゲール語には「牝牛 (heifer)、牡牛 (steer)、若牡牛 (bullock)、仔馬 (colt)」を意味するゲール語 cailpeach, colpach がある、と提案したのであり[20]、『SND』辞典ではこれを(「牝」の言及は省いて)転載する。
  14. ^ ゲール語で Raghnall MacilleDhuibh とも名乗る。元エジンバラ大の上級講師。J・G・キャンベルの現代版の編者。
  15. ^ アレクサンダー・マクベインは、「水棲馬(ウォーター=ホース)の話の数々」の記事で、ウェールズにはいないと断じた[22]。これはピクト人の記事連載中("The Picts III", pp. 481–486)ことで、本記事内ではワート・サイクス英語版「British Goblin」のウェールズ伝承梗概を参考とし、サイクスの"ウェールズ系のマーメイドはいない"という言を引用している。その結論に異を唱える投稿をエドウィン・シドニー・ハートランド英語版が寄せている[23]
  16. ^ ピクト人の文化産物には馬の彫像が多数あるが、他に「ピクティッシュ・ビースト英語版」と称されるイルカにも似た生き物のモチーフがあり、これについてのケルピー説を紹介する論文がある[24];しかしながら、そこで引かれるゴードン・マレーの学術論文ではゾウのような「空想上の動物」とするのみであり[25]、ケルピーか?とする引用書は、じつはサザランド女史が著した〈ビルリン社/歴史ガイド〉シリーズの一般向けの書物である[26]。このビルリン社は、ブラック講師が編本を刊行した出版元でもある。
  17. ^ 海藻については、井村君江の『大全』では、ケルピーは「貝殻や海草で髪を飾った若い男の姿をとる」[19]としている。井村の主要情報源であるブリッグスは、「貝殻」語源の妖馬シェリーコートや「海藻類」語源の魔物「タンギー英語版」をケルピーと区別しているが[29]、井村は「ケルピー」の項で、シェリーコートがその一種という説があるとし、タンギーについても付記している[19]。タンギーの語根のタング tang は、ヒバマタ属 Fucus(複数形 Fuci)を指すが[30][31]、これもケルプ(コンブ目)の一種である。
  18. ^ 白でなく灰色や栗毛と邦書にある[32][33]
  19. ^ ウィロックス家の家宝にまつわるもので、より古い資料は馬色を示していない[35](後述)。
  20. ^ 「ジェニー(ジェニィッティー)」や「デイヴィー」を連れて行くという歌詞
  21. ^ この水馬は、乗せた者たちをポット・クレイヴィー(クリーヴァンの淵)に連れてゆくと歌うが[3]、別の地域で、バルリービー・バーンの沢に連れてゆくと歌うのは白馬のケルピーである[38][注 20]
  22. ^ 女子供については、"The kelpie that swells torrents and devours women and children has no representative in Gaelic superstition"とJ・G・キャンベルは述べている。しかし成人男性であれば、題名主人公がエッヘ・ウーシュカに食らわれた話例を「アロスの跡取り息子」に収めている[51]
  23. ^ "the Water-Horse.. in the general objection to liver and lungs.. was supposed to make away with men, children, and even domestic horses,.. down beneath the waters of the loch or river;.. it devoured its victims, but rejected their livers".
  24. ^ 以下にも述べるが、話としての題名はない。
  25. ^ 髪に水草がついていて発覚。後述。
  26. ^ J・F・キャンベルが採集・発表したこの話例では「ウォーター=ホース」としているが、のちマッカロフがエッヘ・ウーシュタの例として解説している[63]。ブリッグスは、当初ケルピーの話として紹介したが[29]、のちの『妖精事典』では「ウォーター=ホースとウォーター=ブル」の説話の項を別途もうけて扱っている[64]
  27. ^ キャンベルの原話ではゲール語で、"fàsg"とあり、命令形"fàisg"とすれば'squeeze, wring’の意[67]。井村は「髪を梳〈ト〉いていた」とするが[17]、類似話群(MLSIT 「F58. 女性がウォーター=ホースに出会い.. くしけずる髪に砂を見とがめ..見破る」[68]ではそうなっているようである。
  28. ^ "Migratory Legend Suggested Irish Type"の略。「ML型」分類 "Migratory Legend" はR・Th・クリスチャンセン英語版が提唱したノルウェーの話型[71]―これは移動伝説ノルウェー語版の意―であるが、これより派生した「ML型に拠る提案アイルランド話型」のこと。
  29. ^ 発表時でこのMLSIT F58にはアウター・ヘブリディーズインヴァネス英語版州などの類話10件強を計上するだけなので[68]、(藻と砂の違いだけである)「類似の話型」と呼ぶにとどめるしかない。
  30. ^ 実はこのうち海の溺死については、第Vと第VI前半は別人(マッケンジー英語版)が詩作して補っている[74]§海のケルピーにて詳述。
  31. ^ 「柳」「亡霊」の原文:"dropping willows drest, his mournful sprite"
  32. ^ 原文:"ozier'd shore"
  33. ^ 川との明記がないが、第VIII詩節では柳の落ち穂を飾った亡霊が妻の夢枕を訪れる[注 31]。溺死の場所は「柳の生えた岸」とも記されている[注 32]。また原文は男性の「精霊(スプライト)」で、魂だかの意味だろうが、「亡霊(ゴースト)」[77]、「幻影(アパリション)」などと解説される[78]。ケルピーが「水の精霊」であるとは原文にないが、カーライル編本の脚注に述べられる。
  34. ^ 橋は Shielhill Bridge といい、メマス英語版村に在した[79]
  35. ^ スコットはその注釈で、「刻は来たり、だが者は来たらぬ」"The hour is come, but not the man"と語る水の精霊の伝説について触れているが[80]ヒュー・ミラーがその類話を掲載する[81](後述)。
  36. ^ グラントが取材した語り手の当主はグレガー・ウィロックス(グレガー・ウェロックス・マグレガー Wellox MacGregorとも表記)で、先祖はジェイムズ・マグレガー。スペイサイドといえば、主要地はストラスペイ(現グランタウン=オン=スペイ英語版)で、語りのなかでも峠がここからの中間点だと述べられるが、グレガー・ウィロックスの住まいはエイヴォン川 (スペイサイド)英語版を望む Gaulrig[g](トミントール英語版以南3マイルほどの村)である。Streemap地図
  37. ^ ヘンダーソンによれば、この馬具は海神マナナーンの馬に装着されていたものの遺品と伝わっていた[83]
  38. ^ 以下説明する。なおハウウィーは「ブラックグレンのケルピー」と同一視している[84]
  39. ^ 初見は1881年の書籍だが、場所や築造物の特定が欠けるので、1883年の民俗学誌の発表文を底本とする。また、後述するように、1883年の論文のケルピーは、単にエッヘ・ウーシュカの略語であるというのがブラックの説明である[21]
  40. ^ 発音は[ɪnvərˈjuɡi][90]
  41. ^ ユーギー川([ˈjuɡi])は[90]、ウィスキー蒸留所関連の資料などでアギー川ととも表記。Inverugieは「ユーギー川の河口」の意味であり、発音もIPA表記をカナ変換した「インヴァユーギー」をここでは用いるが、「インヴェルジー城」「インヴァールジー城」の表記もみられる。
  42. ^ 「はぐれ馬の馬勒」の原文は a 'waith-horse' bridle だが、"waith"はスコッツ語で"strayed"(はぐれた動物を指す形容詞)。[91]
  43. ^ "sehr back and sehr behns" (sair '痛む' bane '骨、足')
  44. ^ 「ケルピーが家まで運ぶ」という題が、ヴィル=エーリヒ・ポイカー英語版によってつけられている[95]
  45. ^ 語り手がJ・ファーカーソン(Farquharson)という、ドン川にのぞむコーガーフ村の石工と特定され、この話の登場地名はこの村に近い場所であるが、追って注釈する。
  46. ^ 話の主人公はブロックロイを出発し、ガーチョリーの粉ひき小屋にいく、とあるが、前者はコーガーフ村に流れる小川で「赤い岸の小川」を意味する[97]。後者は、ストラスドン内に位置するとされるガーチョリー(農場)であろう[98][99]、ガーチョリー・バーンという沢としても記載される[100]。同名の沢がクラシーのロッホナガー蒸留所英語版のそばを流れるが何倍も遠い[98]
  47. ^ ポイカートの訳ではこのように題される[95]
  48. ^ ポイカートの訳題[104]。この話は、グレガーの情報源とは別の語り手経由の話と記述される。
  49. ^ 地誌にはキンカーディン英語版セント・サイラス英語版行政教区の項に記載されている。モーフィー城の城址は、セント・サイラス行政教区にあった[107]
  50. ^ ラリントンによると、スコットランド東部ではウォーター=ホースとケルピーの語は互換性があるとされる。
  51. ^ 柔らかく美しい毛並みの下の皮膚に緑色の湿疹が広がっているとも言われている[32]
  52. ^ Sit weel, Jannity, an' ride weel, Davie; the first landin' ye'll get will be in the Pool o' Cravie"
  53. ^ グレン・ケルトニーがいささか不詳だが、ケルトニーバーン(ケルトニー川)の渓谷ととれるだろう。
  54. ^ 英語: entrails
  55. ^ 上のグレン・ケルトニーをケルトニーバーンとすれば、シェハリオン山からも、アバーフェルディ市中央からもだいたい同じ距離。
  56. ^ 「ノグル (noggle)」は井村のカナ表記と綴り(ブリッグスの見出し)だが[111]、異体が多く、ブリントは綴りを"Nuggle"、発音を "Njuggle"または"Nyuggle"(ニュグル)と解説している。
  57. ^ アイルランド語とスコットランド・ゲール語では発音が微妙に違う。
  58. ^ アッハ・イーシュカ, アッフ・ユーシカ, アハイシュケ, アハ・イシカ, アハ・イシュキ, アハ・イシュケ
  59. ^ 別人のJ・F・キャンベルもエッヘ・ウーシュカを訳してウォーター=ケルピーと呼んでいる[121].
  60. ^ ゲール語 each uisge の発音だが ech-ooshkyaというの読み下しをブリッグスがしている。「馬」の部分(IPA記号表記で//と発音[115])のカナ表記は資料未確認だが「エッヘ、エフ」あたりであり、「水」の部分を「ウシュク」とする例は、「ウィスキー」の語源の一部であるため幾つかの学術文で確認できる(例:小倉[122])。
  61. ^ a b 井村君江はブリッグスの『妖精事典』の邦訳や『妖精事典who's who』でスコットランド名を「アハ・イシカ」としていたが[124]、のちの『大全』で「アッハ・イシュカ」というアイルランド語読みの項とし、スコットランド読みは「エッヘ・ウーシュカ」と改めたようである。
  62. ^ Briggs (1979): "They were supposed to come out of the sea and gallop along the shore"; (1977): "But they must be ridden inland, for if they got so much as a glimpse of salt water.."
  63. ^ 湖以外にも小湖ロハン等にもいるとされ[49]、「内陸の、水が静止した大きな水域」、といった言い回しが、ジェームズ・マキロップの『ケルト神話辞典』の"each uisce, each uisge, aughisky"の見出しに見える。この項はアイルランド語版・スコットランド版も併せて解説されている。
  64. ^ 話例ではラッセイ(島)英語版の「女性の湖(Lough na mna)」は[128]、現在において水道源(貯水池)として利用されている[129]。ブリッグスの独自の例は、アバーフェルディ英語版市の近くの某名の小湖ロハンなので断定は難しいが[49]、テイ川は淡水湖であるテイ湖英語版を抜け同市の近郊をよぎる[130]
  65. ^ 「サンアートでの九人の子供」。§文学・民話例の節を参照。
  66. ^ 文中、スペイ川(Abhainn Spey)の深淵(linne)であるクリーヴァンの淵(Poll nan Craobhan)と説明される(MacDougall (1910), p. 308)。また、ローランド地方(やゲール語を解さない話者・最終者)の話でクレイヴィー洞("Pot Cravie")などと歌われているが、正しくはこのクリーヴァンの淵(ゲール語: Poll nan Craobhan)なのだと注釈される(p. 329)。該当例としては、トムソンが伝えるスペイ川のウォーター=ケルピーが歌った「プール・オ(ッ)・クレイヴィー」の文句がある[41]
  67. ^ J・G・キャンベル牧師、ジェイムズ・マクドゥーガル牧師、ドナルド・マキネス牧師らはいずれも『Waifs and Strays of Celtic Tradition』の編訳者であった[131]
  68. ^ ブラック講師は1886-87c年の匿名論文という表記するが、これはMacbain (1887)(編) "Tales of the Water-Kelpie"を[134]、前年の1886年に刊行された論文と同一筆者による一連の論文と数えているからである[135]。ややこしいのでブラックの表記は用いず、マクベイン編の論文とする。筆者は匿名になっており、前年の匿名論文と
  69. ^ "we may for example identify the topic of Gregor 1883b [Folk-Lore 1 'Kelpie stories from the North of Scotland'] as the kelpie and that of Anon . 1886-87c as the each-uisge"
  70. ^ 場所不詳だが、(デンプスター家所有の)同じ地所のラガン湖にも水棲馬の伝説・風聞があるとしている。場所違いの、より著名なラガン湖ではなくクレイック英語版行政教区にある[140]
  71. ^ レアグ英語版に発し、ストラス・フリート(Strath Fleet)を通り、フリート湖英語版に注ぐ
  72. ^ 原書にないが、ゲール語名で Gleann Dubh[147]
  73. ^ ヘンダーソンは、ウォーター=ホースをエッヘ・ウーシュカだとしているので、それを優先するが、ケルピーとも呼んでいる。
  74. ^ カナ表記は不詳だが、ゲイロック Gairloch に準じた。キンゲイロックは、アルドガワー英語版地区に属する[147]
  75. ^ 第2の眼(セコンドサイト)[149]の保持者である「天賦の魔術師(ウィザード)/予見者(シーアー)」にはそれが見えるのだという[150]
  76. ^ その後でコリンズ作の部分につながり、悪魔フィーンドことケルピーのしわざである溺死が語られる[152][6]
  77. ^ ブリントが「中佐」の書として引用・抜粋[8])。
  78. ^ コリーヴレッカンは「ブレカンの釜」の意。

出典

編集
  1. ^ Larrington (2017), p. 199.
  2. ^ a b c d e f g Jamieson, John (1808), “Kelpie”, An Etymological Dictionary of the Scottish Language, 1, https://books.google.com/books?id=eItTAAAAcAAJ&pg=PP725 
  3. ^ a b c d e f g h i j Scottish National Dictionary (1976) 電子版. s.v. "kelpie"
  4. ^ Scottish National Dictionary supplementary (2005) 電子版. s.v. "kelpie", additional quotes.
  5. ^ Carlyle (1788), p. 72注*
  6. ^ a b c ケルピーは「水の悪魔ウォーター=フィーンド」であるとも註される(Barbauld (1802)編、p. 117注*)
  7. ^ a b Leslie, Forbes (1866). The Early Races of Scotland and Their Monuments. Edinburgh: Edmonston and Douglas. p. 145. https://books.google.com/books?id=bmIWAAAAYAAJ&pg=PA1456 
  8. ^ a b Blind (1881), p. 200.
  9. ^ フォーブス・レスリー大佐も"fiend"とする[7](ブリントが引用・抜粋[8])。
  10. ^ "kelpie", s. v. A Dictionary of the Older Scottish Tongue (2002) 電子版.
  11. ^ a b Blind (1881), pp. 199–200.
  12. ^ a b Cleasby; Vigfusson edd. (1974) An Icelandic-English dictionary. s. v. nykr
  13. ^ Macbain (1887), p. 512.
  14. ^ a b c Harris, Jason Marc (2009), “Perilous Shores: The Unfathomable Supernaturalism of Water in 19th-Century Scottish”, Mythlore 28 (1): 11, JSTOR 26815460, https://dc.swosu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1208&context=mythlore 
  15. ^ a b MacCulloch (1948), p. 66: " The Kelpie, though sometimes assumed to be Highland , is actually a creature of Lowland superstition, known also in the east of Scotland and in Yorkshire ".
  16. ^ a b "kelpie". Oxford English Dictionary (3rd ed.). Oxford University Press. September 2005. (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。). ほぼ同一の記載は:Murray, James Augustus Henry; Craigie, Sir William Alexander; Onions, Charles Talbut, eds (1901). “kelpie, kelpy”. A New English Dictionary on Historical Principles. 5. Clarendon Press. p. 669. https://books.google.com/books?id=zikkAQAAMAAJ&pg=RA1-PA669 で閲覧できる。
  17. ^ a b c d e f g h i 妖精学大全』(「アッハ・イシュカ」の項)。アッハ・イシュカ (Each Uisge)”. 妖精学データベース. うつのみや妖精ミュージアム (2008年). 2020年10月4日閲覧。による。他に6種のカナ異表記を記載。スコットランド語の水馬を「エッヘ・ウーシュカ」と記載。
  18. ^ 後述
  19. ^ a b c d e 妖精学大全』(「ケルピー」の項)。ケルピー (kelpie)”. 妖精学データベース. うつのみや妖精ミュージアム (2008年). 2020年10月4日閲覧。による。他に6種のカナ異表記を記載。スコットランド語の水馬を「エッヘ・ウーシュカ」と記載。
  20. ^ a b Skeat, Walter William (1887), “Notes on English etymology”, Transactions of the Philological Society 27: 307, https://books.google.co.jp/books?id=PGsNAAAAYAAJ&pg=PA307&redir_esc=y&hl=ja 
  21. ^ a b c Campbell, John G. & Black ed. (2008), p. 372、巻末注370
  22. ^ Macbain (1887), p. 511.
  23. ^ Anonymous. Hartland, E. Sidney (October 1887), “Correspondence to the editor (10 September 1887)”, The Celtic Magazine 12 (144): 572), https://books.google.com/books?id=deo4AQAAMAAJ&pg=PA572 
  24. ^ Cessford, Craig (June 2005), “Pictish Art and the Sea”, The Heoric Age: A Journal of Early Medieval Northwestern Europe, http://www.heroicage.org/issues/8/cessford.html 
  25. ^ Murray, Gordon (1986), “The declining Pictish symbol—a reappraisal”, Proceedings of the Society of Antiquaries of Scotland 116: 243–253, https://archaeologydataservice.ac.uk/archiveDS/archiveDownload?t=arch-352-1/dissemination/pdf/vol_116/116_223_253.pdf 
  26. ^ Sutherland, Elizabeth (1997). A Guide to the Pictish Stones. Birlinn's Historical Guides. Edinburgh: Birlinn. p. 15. ISBN 9781874744665. https://books.google.com/books?id=HXhnAAAAMAAJ&q=%22Pictish+Beast%22+kelpie 
  27. ^ 高橋, 裕 (1999). 岩波講座地球環境学. 岩波書店. p. 128. https://books.google.com/books?id=Yzu7AAAAIAAJ&q=ケルプ 
  28. ^ Hazlitt, William Carew [in 英語] (1905). "Kelpie". Faiths and Folklore: A Dictionary of National Beliefs, Superstitions and Popular Customs, Past and Current. Vol. 2. Reeves and Turner. pp. 352–353.
  29. ^ a b c d e f Briggs, Katharine Mary (2002) [1967], The Fairies in Tradition and Literature, Routledge & K. Paul, pp. 69–71, https://books.google.co.jp/books?id=si_cXO1yJNwC&pg=PA69&redir_esc=y&hl=ja  snippet
  30. ^ Scottish National Dictionary (1976) 電子版. s.v. "tang (1)"
  31. ^ Hibbert, Samuel (1822). A Description of the Shetland Islands. Edinburgh: Archibald Constable. p. 586. https://books.google.com/books?id=OxMFAAAAYAAJ&pg=PA586 
  32. ^ a b 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』204頁(「ケルピー」の項)
  33. ^ 世界幻想動物百科』232頁(「ケルピー」の項)。
  34. ^ a b c Gregor (1881) pp. 38–39
  35. ^ a b c d Stewart, William Grant (1860). “III. Gaulrigg, the Seat of the Arch-Warlock of the North, Gregor Wellox MacGregor,..”. Lectures on the mountains; or, The Highlands and Highlanders as they were and as they are. London: Saunders, Otley, and Company. pp. 116–127. https://books.google.com/books?id=0JoHAAAAQAAJ&pg=PA116 
  36. ^ McPherson (1929), p. 61: "The White Horse of Spey" apud SND[3] and MacGregor (1937), p. 69.
  37. ^ a b c MacDougall (1910) "Each-uisge Pholl nan Craobhan The Water-Horse of Poll nan Craobhan", pp. 308–311 and 328 (p. 308への注) Ishida & Yoshida (1950), p. 33でも引用。
  38. ^ a b c d Gregor (1883b) "Kelpie as Harmful", p. 292.
  39. ^ 世界幻想動物百科』233頁(「ケルピー」の項)。
  40. ^ Beaton (1863a), p. 655; Beaton (1863b), pp. 294–295: "water-kelpie.. presented itself to the belated traveler close to some stream which he had to cross, in the shape of a small pony..."
  41. ^ a b c d Thomson, James (1902). “XIV. The Water Kelpie and Will o' the Wisp”. Recollections of a Speyside Parish (2nd ed.). Elgin: Moray and Nairn Newspaper Company, Limited. pp. 64–65. https://books.google.com/books?id=XBEvAAAAMAAJ&pg=PA64 
  42. ^ 話例ではスペイサイドのウィロックス家の家宝の話が[35]、他の著書でも紹介されて著名であるが[34]、これは溺れさせられずにケルピーの馬具を奪い、御した話である。他にトムソンの紹介するスペイ川でとらわれた靴屋夫婦の話例がある[41]
  43. ^ a b c Larrington (2017), p. 195.
  44. ^ a b コリンズ『頌詩』第VII–VIII詩節。Carlyle (1788), pp. 71–72
  45. ^ 作品例ではコリンズ『頌詩』[44]
  46. ^ a b c d e f Campbell, J. G. (1900). "The Nine Children at Sunart". pp. 208–209
  47. ^ a b c d Dempster (1888). "IX.i The Golden Horse of Loch na Gillie", pp. 246–247
  48. ^ 話例は水棲馬の話「サンアートでの九人の子供」[46]、および「ギリー湖の黄金馬」[47]
  49. ^ a b c d e f g Briggs (1977) Encyclopedia of Fairies, s.v. "Each Uisge (ech-ooshkya)", pp. 115–116.
  50. ^ a b c Macbain, Alexander (1888), “Highland Superstition”, Transactions of the Gaelic Society of Inverness 14: 248–249), https://books.google.com/books?id=XSUtAAAAIAAJ&pg=PA248 
  51. ^ a b c Campbell, J. G. (1900). "Mac-Fir Arois [Heir of Aros]". pp. 205–207
  52. ^ a b c McKay, J. G. (30 June 1925), “Gaelic Folktale”, Folklore 36 (2): 169, JSTOR 4204144, https://books.google.com/books?id=GdgBAAAAMAAJ&dq=%22water-horse%22 
  53. ^ 肝臓が浮かんだ話例は、「サンアートでの九人の子供」[46]。類話がブリッグスの例だが、内臓(entrails)を残したケルピーの話を[29]、のちに肝臓を残したエッヘ・ウーシュカと換言している[49]。心臓と肝臓が浮かんだ例もある[50]。「ギリー湖の黄金馬」では牧童の内臓と髪[47]、「アロスの跡取り息子」の異聞では肺腑である[51](後者2件についてはJ・G・マッケイが考察でのべている[52])。
  54. ^ a b 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』205頁(「ケルピー」の項)
  55. ^ a b 世界幻想動物百科』234頁(「ケルピー」の項)。
  56. ^ a b Groome, Francis Hindes (1895). “St Cyrus”. Ordnance Gazetteer of Scotland: A Survey of Scottish Topography, Statistical, Biographical and Historical. 6. W. Mackenzie. p. 307. https://archive.org/details/ordnancegazette06groo/page/306/mode/2up 
  57. ^ a b c Mackinlay, James Murray (1893). “More Water Spirits”. Folklore of Scottish Lochs and Springs. W. Hodge & Company. p. 176. https://books.google.com/books?id=XhjgAAAAMAAJ&pg=PA176 
  58. ^ a b Jamieson, John. "Water Kelpie". Scott (1803), 3: 355–369に所収。
  59. ^ ジェイミソンの詩「ウォーター・ケルピー」によれば、橋を架けたと伝わる[58]
  60. ^ 話例は「人間の伴いを求めるケルピー」
  61. ^ a b Gregor (1883b) "Kelpie seeking Human Companionship", p. 294.
  62. ^ a b Campbell, John F. (1862) "No. 383 Bull fights water-horses " pp. 334–336. (タイトル名は 索引 p. 434)
  63. ^ MacCulloch (1911), p. 188
  64. ^ a b Briggs (1977), s.v. "'Water-Horse and the Water-Bull, The'", p. 427.
  65. ^ Campbell, J. F. (1862), p. 334] "man (no description of him given in this version)".
  66. ^ Ishida & Yoshida (1950), p. 32で若干誤引用されるが:Howey (1923), p. 145: "kelpie or water-horse temporarily taking the form of a handsome youth.. and destroying her in a lake, river, or well".
  67. ^ Forbes, John (1848). A Double gGrammar, of English and Gaelic. p. 10. https://books.google.com/books?id=BGBgAAAAcAAJ&pg=PA10 : "fàsgadh", 'wring or squeeze'.0
  68. ^ a b MacDonald (1994) " F58. Woman Meets Water-Horse in Human Form and Goes with him: but Finds Grains of Sand in his Hair when Combing it and Realises". p. 50
  69. ^ Henderson (1911), p. 164.
  70. ^ 他にもアイラ島版では女性がエプロンからすり抜けて逃げようとするが、バラ島版では、頭下の衣服の布を切り離した(膝枕だけで、髪をいじるなどと明記しない)。
  71. ^ 粉川, 光葉『北欧文化圏に伝承される超自然的存在“トロル"像の変遷―ノルウェーとアイスランドの民間説話を中心に―』東北大学、2012年3月、11頁https://hdl.handle.net/10097/55447 
  72. ^ Campbell, J. F. (1862). '4: 355. "This incident I have heard told in the Isle of Man and elsewhere".
  73. ^ Carlyle (1788), pp. 67–75.
  74. ^ Carlyle (1788), p. 64.
  75. ^ Spacks, Patricia Meyer (October 1965), “Collins' Imagery”, Studies in Philology 62 (5): 733–735, JSTOR 4173512 
  76. ^ 原文"swain"は「若者」とも「田舎者」ともとれるが、解説者が「農夫(ペザント)」"peasant destroyed by the water-kelpie"としている[75]
  77. ^ Pietrkiewicz (1950), p. 448: "The swain drowned by the fearful kaelpie appears as a ghost".
  78. ^ Barbauld (1802), p. xlvii.
  79. ^ Jervise, Andrew (1893). “VIII. Miscellaneous Lands of the Lindsays”. The History and Traditions of the Land of the Lindsays in Angus and Mearns, with Notices of Alyth and Meigle. W. Hodge & Company. p. 274. https://books.google.com/books?id=dZ0HAAAAQAAJ&pg=PA274 
  80. ^ a b c Dorson (1999) "Walter Scott". pp. 111–112
  81. ^ Dorson (1999), p. 112.
  82. ^ Peuckert (1967). "211. Der Ball", p. 146 ではグレガーからの独訳を掲載するが、p. 280 にスチュアートの著書に詳述があると注記されている。
  83. ^ Henderson (1911), p. 116–117.
  84. ^ Howey (1923), p. 144.
  85. ^ a b Henderson (1911) "The Black Glen river in Morvern was.. resort of a waterhorse"; "The Black Glen kelpie.." p. 162
  86. ^ a b Miller (1863) "Story of the Doomed Rider", pp. 191–194
  87. ^ a b Scott (1803), 3: 365–366
  88. ^ Keightley, Thomas (1850) [1828], “France”, The Fairy Mythology: Illustrative of the Romance and Superstition of various Countries (new revised ed.), H. G. Bohn, pp. 465–466, https://books.google.com/books?id=rXsAAAAAMAAJ&pg=PA466 
  89. ^ Groome, Francis Hindes (1882). “Alemuir”. Ordnance Gazetteer of Scotland: A Survey of Scottish Topography, Statistical, Biographical and Historical. 1. Thomas C. Jack. p. 40. https://books.google.com/books?id=PG0KAAAAIAAJ&pg=PA40 
  90. ^ a b Alexander (1952). "Ugie, river, Peterhead ", p. 130; " inverugie, St. Fergus", pp. 72–73. 原文は[ɪnərˈjuɡi]とあるが、他の同様の地名の表記に照らして"v"が抜け落ちた誤植とする。
  91. ^ Scottish National Dictionary (1976) 電子版. s.v. "waith" II. adj. Of an animal: strayed, wandering, roaming loose.
  92. ^ Gregor (1883b) "Kelpie as Useful", p. 292; Gregor (1881), p. 66
  93. ^ Peuckert (1967). "208. Der Kelpie als Verderber, I.", p. 144
  94. ^ Peuckert (1967). "208. Der Kelpie als Verderber, II.", p. 144
  95. ^ a b c Peuckert (1967). "202. Der Kelpie trug heim", p. 144
  96. ^ Gregor (1889) "Kelpie Stories I", p. 199
  97. ^ Alexander (1952). "Allt na Bruaich Ruaidhe, Corgarff": "'Burn of the red bank'.. usual name of this burn ; but the Bruach Ruadh, Brochroy, is known up there". p. 130; 発音や英表記については、"Brochroy, Crathie" /brəxˈroe/.. bruach ruadh p. 88 も参照。
  98. ^ a b Alexander (1952). "Garchory": "'Burn of the red bank'.. usual name of this burn ; but the Bruach Ruadh, Brochroy, is known up there". p. 130; 発音や英表記については、"Brochroy, Crathie" /brəxˈroe/.. bruach ruadh p. 88 も参照。
  99. ^ Garchory, Aberdeenshire @ Streetmap.
  100. ^ Garchory Burn, Strathdon AB36 8YB イギリス @ Google Map.
  101. ^ Luib Bridge, Strathdon AB36 8YN イギリス @ Google Map.
  102. ^ Gregor (1889) "Kelpie Stories II", pp. 200–201
  103. ^ Peuckert (1967). "212. Der Kelpie trug durch den Fluß", p. 146
  104. ^ a b Peuckert (1967). "222. Der Kelpie stahl Mehl", p. 152
  105. ^ Gregor (1889) "Kelpie Stories III", p. 202
  106. ^ Scottish National Dictionary (1976) 電子版. s.v. "ponage"
  107. ^ “Kincardineshire”. The Topographical, Statistical, and Historical Gazetteer of Scotland. 2: I–Z. Edinburgh: A. Fullarton. (1853). p. 149. https://books.google.com/books?id=wnE_AQAAMAAJ&pg=PA149 
  108. ^ Edgar, J. (January–June 1896), “On the Moor”, The Gentleman's Magazine 280: 583, JSTOR 26815460, https://books.google.com/books?id=FBRIAQAAMAAJ&pg=PA583 
  109. ^ Blind (1881), p. 199.
  110. ^ じっさいは、同じ同源語といっても、かならずしも馬形と信じられていない。ブリントは、ドイツのネックについて、ところどころで馬の姿をすると伝わる地域伝承を紹介する[11]。また、ジェイミソンが列挙する中にはデンマーク語の Nicken があるが、デンマークのネックは、フィドラー(ヴァイオリン弾き)とする伝承が有名で、それはもちろん馬型ではない。
  111. ^ a b 妖精学大全』(「ノグル」の項)。ノグル (noggle)”. 妖精学データベース. うつのみや妖精ミュージアム (2008年). 2020年10月4日閲覧。による。
  112. ^ Briggs (1977) Encyclopedia of Fairies, s.v. "Each Uisge (ech-ooshkya)", pp. 115–116.
  113. ^ a b c Mackillop (1998). Oxford Dictionary of Celtic Mythology. s.v. "each uisce, each uisge, aughisky". p. 164
  114. ^ & Campbell, John G. (1900). 第5章 "The Water-Horse (Each Uisge) ".pp. 203–215; Campbell, John G. & Black ed. (2008). pp. 109–115
  115. ^ a b "each", "uisge". Gillies, William (2012), “5 Scottish Gaelic”, in Ball, Martin J.; Müller, Nicole, The Celtic Languages, Routledge, ISBN 113685472X 
  116. ^ Smith, Roland M. (April 1954), “Swift's Little Language and Nonsense Names”, The Journal of English and Germanic Philology 53 (2): 191–192, n72, JSTOR 27713663, https://books.google.com/books?id=g3EqAQAAIAAJ&q=%22pronunciation+%5Bjax,+jax%5D+instead+of+the+expected+%5Bax%22 
  117. ^ 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』202-203頁(「アハ・イシュケ」の項)
  118. ^ 妖精who's who』5頁(「オヒシュキ」の項)
  119. ^ Briggs (1977). Encyclopedia of Fairies, s. v. Aughisky (agh-isky), p. 20; Briggs (1979), p. 20
  120. ^ Campbell, John G. (1900), p. 203。章の題名。
  121. ^ Campbell, John F. (1860), 1: lxxxvi.
  122. ^ 小倉博史「比喩表現について(17)― フランス語,英語,ドイツ語と日本語の故事・諺・成句に見られる飲み物の語彙による比喩表現を中心として ―」『コスミカ』第45巻、国際言語平和研究所、2016年、01-14頁、NAID 120006876855 
  123. ^ Briggs (1977), s.v. "Water-horse", p. 427.
  124. ^ 妖精who's who』50頁(「アハ・イシカ」の項)
  125. ^ 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』204-205頁(「ケルピー」の項)、202頁(「アハ・イシュケ」の項)。
  126. ^ a b & Campbell, John G. (1900). 第5章内の節 "The Kelpie" p. 215; Campbell, John G. & Black ed. (2008). p. 115
  127. ^ Briggs (1977) Encyclopedia of Fairies, s.v. "noggle", p. 311.
  128. ^ a b Campbell, J. G. (1900). "Killing the Raasay Water-Horse". pp. 208–209
  129. ^ Sandison, Bruce (2013). “OS Map 24 Raasay and Loch Torridon”. Rivers and Lochs of Scotland 2013/2014 Edition: The Angler's Complete Guide. Black & White Publishing. ISBN 9781845027124. https://books.google.com/books?id=eiAjAwAAQBAJ&pg=PT549 
  130. ^ Sandison (2013) "OS Map 52 Pitlochry and Crieff, Aberfeldy".
  131. ^ Davis, Deborah (1992), “Perilous Shores: The Unfathomable Supernaturalism of Water in 19th-Century Scottish”, Folklore 103 (2): 217, JSTOR 1260891 
  132. ^ Campbell, John G. (1900), p. v.
  133. ^ J・G・キャンベル(1891年没)の『スコットランド高地地方と島々の迷信』は、死後の19001年に刊行されたが、生前の1861年–1891年のあいだの遺稿であり、原話の採集はそれ以前であると記される[132]。ハリスはアレキサンダー・スチュワート(1829-1901)の名も同論者に挙げているが、注でその著書『Twixt Ben Nevis and Glencoe』(1885年)が1833年刊行と言うのは誤記である。
  134. ^ a b c Anonymous. Macbain, Alexander (September 1887), “Tales of the Water-Kelpie”, The Celtic Magazine 12 (143): 511–515), https://books.google.com/books?id=deo4AQAAMAAJ&pg=PA511 
  135. ^ Campbell, John G. & Black ed. (2008), p. 706
  136. ^ Campbell, J. G. (1900). "The Talking Horse at Cru-Loch". pp. 207–208
  137. ^ Peuckert (1967). " 210. Das redende Pferd am Cru-Loch", p. 145
  138. ^ Campbell, J. G. (1900). "The Island of Coll". p. 208
  139. ^ Campbell, John F. & McKay (1960) "Each Uisge Ratharsaidh (The Water-Horse of Raasay)", pp. 12–24.
  140. ^ Turpin, Kathleen Gunn (1979). The Gunns of Kinlochlaggan: --a Scottish Diaspora. http://clangunn.tripod.com/kinlochlaggan.html 
  141. ^ Peuckert (1967). "209. Die Hirtenjungen und das Pferd II", p. 145
  142. ^ Peuckert (1967). "208. Der Kelpie als Verderber, III.", p. 144
  143. ^ Dempster (1888). "IX.ii The Seven Herds of Sallachie and the Water-Horse", pp. 247–248.
  144. ^ Peuckert (1967). "209. Die Hirtenjungen und das Pferd I", p. 144
  145. ^ この話例は、アイラの手写本(アイラ島のJ・F・キャンベルの遺稿のこと)にNo. 49 として残されていると、キャンベル『西ハイランド昔話集』続編を編纂したJ・G・マッケイが述べている[52]
  146. ^ Macleod, Norman (1887) A Dictionary of the Gaelic Language s.v. "sgamhan".
  147. ^ a b Gaskell, Philip (1980) [1968]. Morvern Transformed: A Highland Parish in the Nineteenth Century. Cambridge University Press. https://books.google.com/books?id=SaM5AAAAIAAJ&pg=RA2-PA22 , index.
  148. ^ コリンズ『頌詩』第V詩節末–VIII詩節の前半、Carlyle (1788), p. 70。第V節から第VI節前半は、じつは逸失した部分を別の詩人ヘンリー・マッケンジー英語版が試作して補完した(Carlyle (1788), pp. 64, 69注‡)。
  149. ^ 1802 & Barbauld, p. xlvi.
  150. ^ Carlyle (1788), p. 69、注*: "gifted wizard"だが、コリンズの"seer"より改変したとある。
  151. ^ Carlyle (1788), p. 70.
  152. ^ コリンズ『頌詩』第VII–VIII詩節。Carlyle (1788), pp. 71–72. VII.5 "fiend".
  153. ^ a b Mackay, Charles (1851). “The Kelpie of Corryvreckan”. Legends of the Isles: And Other Poems. London: Charles Gilpin. p. 56–61. https://books.google.com/books?id=voo8AAAAIAAJ&pg=PA56 , endnote p. 228
  154. ^ Anonymous (1 February 1895), “Music in Edinburgh”, The Musical Times and Singing Class Circular 36 (624): 111, JSTOR 3364075, https://books.google.com/books?id=ydxX2U5zNgwC&pg=PA111 
  155. ^ Eliza Robbins, Bruce (1849). “Scylla and Charybdis”. Elements of Mythology. Hogan & Thompson. p. 83 
  156. ^ a b Forbes, Charles, comte de Montalembert (1912). “VIII. Miscellaneous Lands of the Lindsays”. IX. St. Columba, the Apostle of Caledonia 521–587. P.J. Kenedy. p. 78. https://books.google.com/books?id=j5mMrlMAsB8C&pg=PA78 
  157. ^ a b c MacGregor (1937), p. 118–119.
  158. ^ 高橋裕子「毛髪の呪縛」『へるめす』第21号、30–31頁、1989年9月。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1768428。 

参考文献

編集
  • アラン, トニー『世界幻想動物百科 ヴィジュアル版』上原ゆうこ訳、原書房、2009年11月(原著2008年)。ISBN 978-4-562-04530-3 
  • Howey, M. Oldfield (1923). “Ugie, river, Peterhead”. The Horse in Magic and Myth. London: W. Rider & son. pp. 144–145, 235–236  text @ HathiTrust
  • MacDonald, Donald Archie (1994). “Migratory Legends of the Supernatural in Scotland: A General Survey”. Béaloideas (Nanzan University) 62/63: 29–78. JSTOR 20522441. 
  • MacKillop, James (1998), Oxford Dictionary of Celtic Mythology, Oxford University Press 
  • Mcpherson, Joseph M. (1929). Primitive Beliefs in the North-East of Scotland. London: Longmans, Green  searchtext @ HathiTrust
  • Pietrkiewicz, Jerzy (April 1950), “Collins and Kniaźnin A Parallel and Its Background”, The Slavonic and East European Review 28 (71): 439–450, JSTOR 4204144 

外部リンク

編集