カリブモンクアザラシまたはカリブカイモンクアザラシMonachus tropicalis)は、食肉目アザラシ科に属するアザラシの一種であり[3]ニホンアシカと共に現生鰭脚類における絶滅種である。

カリブモンクアザラシ
カンペチェ堆(en)で捕獲され、1910年ニューヨーク水族館で飼育されていた個体[1]
保全状況評価[2]
EXTINCT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
小目 : クマ小目 Ursida
上科 : アザラシ上科 Phocoidea
: アザラシ科 Phocidae
亜科 : モンクアザラシ亜科
Monachinae
: Neomonachus
: カリブモンクアザラシ
N. tropicalis
学名
Neomonachus tropicalis
(Gray, 1850)
和名
カリブモンクアザラシ
英名
Caribbean Monk Seal

分類

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タイプ標本は1849年ジャマイカで獲られた個体であった[1]。本種を指す初期の呼称として「sea wolf」や「hair seal」などが存在した。また、スペイン語には本種の呼称が多数存在する[1]

モンクアザラシ属英語版には異所性種分化英語版を経た3種が存在し、本種とチチュウカイモンクアザラシハワイモンクアザラシが内包されている。これら3種の系統学上の関係性は決定的にされておらず、本種に関する遺伝調査も行われていないが、カリブモンクアザラシとチチュウカイモンクアザラシがより近縁であるとされている[1]

分布

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カリブモンクアザラシの分布

カリブ海の大部分に生息しており[4]、カリブ海とメキシコ湾に通常生息していた唯一の鰭脚類であった[5]。目視情報や化石も含めた考古学上の資料や、本種にまつわる地名から推測すると、メキシコ湾とカリブ海を中心にフロリダ半島北大西洋岸やフロリダキーズバハマタークス・カイコス諸島ユカタン半島中米の大陸沿岸、南米大陸ベネズエラ)にも分布していた可能性がある。特に多かったのは北米中米の大陸側の沿岸だとされている[1][6]。本種の絶滅前(1952年)の最後の生息地はセラニャ・バンクであった[4]

最北の記録としてはサウスカロライナ州チャールストンから発見された化石が存在し、小アンティル諸島の北端からも遺跡からの出土1例と1例の目視記録が存在する。なお、テキサス州における目視記録や考古学上の資料は信憑性に乏しいという指摘も存在する[1][4][6]

特徴

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ニューヨーク水族館で飼育されていた未成熟個体たち(1910年

モンクアザラシ属英語版は、他の現生鰭脚類に比べると形態的に原始的な要素が強いとされる[7]

カリブモンクアザラシの成獣の体長は雌雄共に2-2.5メートル程度[1]、体重は(ハワイモンクアザラシと同程度と仮定すると)170-270キログラム程度[4]。新生児は体長1メートル、体重16-18キログラム程度[4]

性的二形が見られ、雌は雄よりも小型であるが、雌雄の大きさの差は僅かであり[6]、その他の形態的な要素も雌の乳房以外は性別間での違いがとくに存在しない[1]。幼獣の体色は黒く、生後1年程は変化しない[1]。その他、ハワイモンクアザラシと同様に本種も毛皮緑藻を生やしていた場合もあったとされている[4]

生態

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本種を科学的に描写した最初の模写(フェリペ・ポエ1884年
 
『The Fisheries and Fisheries Industriesof the United States』(George Brown Goode1887年

カリブモンクアザラシへの生物学的なアプローチが行われたのはすでに生息数が大きく減少してからであり、クリストファー・コロンブスの時代からヨーロッパ人に知られていた一方で、学術的な標本は20世紀の中旬になってから得られたほどだった[6]。限られた観察しか行われてこなかったため、生態には不明な点が多い[1]1886年に3日間の行程で3つの小島から49頭分の資料が得られ(捕獲)、ジョエル・アサフ・アレン1897年にそれらの中の17頭の毛皮を調査し、これが本種の形態的特徴に関する最も詳細で確実な調査であった。また、近年にも19世紀に書かれたフィールドノートが発見され、本種の行動様式に関する更なる情報をもたらした[4]

20世紀当時の記録の多くは孤島キー環礁などから得られており、北米大陸側の砂浜などにおける情報は少ない[1]。寿命の推定値は、ハワイモンクアザラシと同様に20-30年ほどだったとされる[1]。いくつかの資料や、ハワイモンクアザラシとチチュウカイモンクアザラシのケースから判断すると、本種の出産期間も比較的に長く出産は晩秋から初冬[注 1]に行われていた[4][6]

本種も社会性が強かったと推測され、ほとんどの場合は(同種間による争いを思わせる)体表の傷を持たなかった[4]。Haul-out(en)は植生に乏しく淡水がない場所で行われ、砂浜で早朝に休息したり、時にはその場所で夜を明かした。Haul-out は通常は砂浜で発生したが陸近くの岩場や岩だらけの小島でも見られたこともあり、その際には500頭におよぶ集団が形成されることもあった[1]妊娠した雌はユカタン半島西部のトライアングル・キーズ[6]からのみ記録があり、同地では新生児1頭と胎児を持つ雌5頭が1886年に、1900年には妊娠した雌が1頭捕獲(捕殺)されている[1]

乱獲による個体数の激減のために本来の性比にも不明な点が多く、1900年メキシコにおける調査では、とあるコロニーにおける雄と雌の比率は24対76であった。餌を取る姿も観察されておらず、餌としていた生物に関しても魚類軟体動物[6]などのわずかな胃の内容物からのみ判明している[1]。一方で、貝類も食べるために歯の摩耗が著しかったという報告も存在する[4]。未成熟個体は(夕暮れや夜明けに餌を取る)成獣との競合を避けるために、夜間に陸近くや浅瀬で餌を取っていたと考えられている[1]

陸上での動きの遅さだけでなく、人間に対する警戒心の薄さからも捕獲は容易だったとされている[6]

絶滅

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フェリペ・ポエの標本

カリブモンクアザラシは16世紀以降、脂肪から[6]を取るための乱獲[注 2]や、漁業関係者による駆除、観光開発による陸上での生息地の減少などにより数が大きく減少した。アザラシは陸上での動きは鈍く、棍棒で殴って回るという方法でも十分にアザラシ猟は成立したという。

カリブモンクアザラシが最後に目撃されたのは1952年セラニャ・バンクであり、実際の絶滅はその前後または1970年代だったと思われる[4]。当時はまだ野生動物の保護に大きな関心がむけられない時代でもあったため、本種は絶滅前に何ら有効な保護対策がとられなかった。1967年に、絶滅危惧種保護法に基づき、ようやく絶滅危惧種に指定されたが、あまりにも遅きに失していた[注 3]。その後数回にわたって調査が行われたが、生息は確認されないままであった[5]

2008年に、アメリカ海洋大気庁に属するアメリカ海洋漁業局英語版が、過去50年間にわたって姿が見られなかったカリブモンクアザラシについて「絶滅した」と公式に判断した[5]。カリブモンクアザラシはニホンアシカと共に、人為的な要因によって絶滅した現生鰭脚類ということになり、人為的に絶滅した最初のアザラシでもある[5]。また、カリブモンクアザラシの絶滅によって、本種に寄生していたダニの一種(Halarachne americana)も共絶滅英語版した[8]。そして、生存している他の2種のモンクアザラシ属(チチュウカイモンクアザラシハワイモンクアザラシ)もそれぞれが絶滅危惧種である[7]

なお、本種の野生個体を撮影した写真は1枚のみが存在する[1]

脚注

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注釈

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  1. ^ おそらくに12月に中心的に出産していた[1]
  2. ^ クジラや他の鰭脚類にも共通する。
  3. ^ ただし、アメリカ合衆国絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律が制定されたのは1973年である。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r アメリカ海洋漁業局英語版 (2008). Endangered Species Act 5-Year Review Caribbean Monk Seal (Monachus tropicalis). https://repository.library.noaa.gov/view/noaa/17045 2024年12月9日閲覧。. 
  2. ^ Kovacs, K. (2008). "Monachus tropicalis". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2008. International Union for Conservation of Nature. 2009年1月6日閲覧
  3. ^ 海棲哺乳類データベース. “カリブカイモンクアザラシ”. 国立科学博物館. 2024年12月10日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k Caribbean monk seal - Monachus tropicalis”. デューク大学. 2024年12月10日閲覧。
  5. ^ a b c d 環境展望台 (2008年6月6日). “アメリカ海洋大気庁、カリブモンクアザラシの絶滅を公表”. 国立環境研究所. 2024年12月10日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i Natural Science Research Laboratory. “Caribbean Monk Seal - Monachus tropicalis (Gray 1850)”. テキサス工科大学. 2024年12月9日閲覧。
  7. ^ a b Christopher Kelley. “Monk Seals: 'Dogs that Run in the Sea'”. NOAA Ocean Exploration. アメリカ海洋大気庁. 2024年12月10日閲覧。
  8. ^ Invertebrate Zoology 88715: Halarachne americana”. mczbase.mcz.harvard.edu. December 5, 2020閲覧。


外部リンク

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