カプレカー数
カプレカー数(カプレカーすう、Kaprekar number)とは、次のいずれかで定義される自然数である[1][2]。
- 2乗して上位の半分と下位の半分とに分けて和を取ったとき、元の値に等しくなる自然数。
- 桁を並べ替えて最大にした数と最小にした数との差を取ったとき、元の値に等しくなる自然数(カプレカー定数)。
名称は、インドの数学者 D. R. カプレカル(英語表記: D. R. Kaprekar[1][2])にちなむ[3][4]。カプレカ数[5]、カプリカ数[6]ともいい、原語であるマラーティー語の発音[7]に近づけてカプレカル数[8][9]ともいう。
定義1
編集正の整数を2乗し、上位と下位のゼロでない[10]数桁ずつに分けて、それらの和を取る。この操作によって元の値に等しくなる数をカプレカー数と呼ぶ。
例えば、297 はカプレカー数である。2972 = 88209 であり、これを上位の2桁 88 と下位の3桁 209 とに分けて足すと 88 + 209 = 297 となる。 この定義でのカプレカー数を小さな順に並べると、こうなる[11]。
- 正の整数の2乗を、上位と下位との桁数をほぼ等しく(桁数が等しいか、上位の桁数より下位の桁数が1だけ大きく)分けるという定義もある。つまり、2乗が偶数桁(2n 桁)である場合は上位の n 桁と下位の n 桁とに分け、奇数桁(2n+1 桁)である場合は上位の n 桁と下位の n+1 桁とに分けて、上位と下位との和を取る。4879 と 5292 は、この定義のカプレカー数には含まれない[12]。
- 48792 = 23804641 であり、238 + 04641 = 4879 であるが、 2380 + 4641 = 7021
- 52922 = 28005264 であり、28 + 005264 = 5292 であるが、 2800 + 5264 = 8064
定義1のカプレカー数は無数ある。例えば、9, 99, 999, 9999, 99999, … のように"9"のぞろ目の数は全てこの定義のカプレカー数である。
定義2(カプレカー定数)
編集整数の各桁の数を並べ替え、最大のものと最小のものとの差を取る(この操作を f とする)。この差が元の整数に等しくなる数 a をカプレカー数と呼ぶ[1]。
- カプレカー数:
6174 は、f (6174) = 7641 − 1467 = 6174 であるから、この定義でのカプレカー数である。6174は、10進4桁では唯一のカプレカー数である。また、3桁における唯一のカプレカー数は、495 である。ある桁数でのカプレカー数が唯一であるとき、その数をカプレカー定数とも呼ぶ。
カプレカー数を小さな順に並べると、次のとおりになる[13]。
- 0, 495, 6174, 549945, 631764, 63317664, 97508421, 554999445, 864197532, 6333176664, …
例えば、最初の数として 2005 を取り、上記の操作 f を繰り返すと、
- 5200 − 0025 = 5175
- 7551 − 1557 = 5994
- 9954 − 4599 = 5355
- 5553 − 3555 = 1998
- 9981 − 1899 = 8082
- 8820 − 0288 = 8532
- 8532 − 2358 = 6174
- 7641 − 1467 = 6174
となり、この後は 6174 が繰り返される。
- 4桁のカプレカー数:
どのような4桁の数でも最終的に 0 または 6174 になることが確かめられる(1111 の倍数だけが 0 になり,その他は 6174 になる)。カプレカル自身は4桁の数だけを考察した[1]が、任意の桁数の整数で同じことが考えられる。ある桁数の整数は有限個であるから、この操作を繰り返すと、最終的に必ずループになる。ループの周期が 1 である場合に、その整数をカプレカー数と呼ぶ。
この定義のカプレカー数は無数にある。例えば、6174, 631764, 63317664, 6...333...17...666...4(途中に出現する"3"の個数と"6"の個数とが等しいもの)は全てカプレカー数である。
2005年には平田郁美が31桁までの全てのカプレカー数を計算し、それらの分布を考察した[14]。
ある桁に属する全ての数(111...11 の倍数を除く)が、操作 f によって一つの数になるとき、その数を(通常のカプレカー数と区別して)特にカプレカー定数と呼ぶ。カプレカー定数は3桁の495と4桁の6174の二つに限られることが1981年にプリチェットらによって示された[15]。また、彼らはカプレカー数を4つのタイプに分類したが、この分類には一部に重複があった。
2024年に嵐山数学研究会(主宰 彌永健一[要出典])の岩崎春男は、ある自然数がカプレカー数になるためには、その自然数が7つの定数 495, 6174, 36, 123456789, 27, 124578, 09 の組合せで構成される5種類の集合のいずれかに所属することが必要十分であること、およびこの5種類の集合による新しい分類がプリチェットらの分類の修正を含むことを示した[16]。
これによって、n 桁のカプレカ―数の個数が、2つの一次方程式
- …… 3桁の定数 495 が x 個の並び
- …… 4桁の定数 6174 が 1 個, 36 が x 個の並び
または3つの一次不定方程式
- …… 123456789 が x 個, 36 が y 個の並び
- …… 123456789, 36 495495 272727 の並び
- …… 124578, 09, 123456789, 36 の並び
のうち成立可能な方程式の整数解 x~u の個数に一致することと、その解たちは n 桁のカプレカ―数を全て表現することが明らかになった。5桁と7桁では上の方程式を満たさないのでカプレカ―数はない。さらに、8桁以上の偶数桁、9桁および15桁以上の奇数桁では明らかに2個以上の解をもつ。11桁と13桁では解が1個だが、これらの桁では解がそれぞれ周期5と2のループになることから、カプレカー定数は3桁の495と4桁の6174に限られるというプリチェットらの結果が再び検証された。
こうして、定義2の全てのカプレカ―数の包括的決定、およびそれらの個数を容易に求める方法についての問題は完全に解決した[16]。その論文に従って、例を一つ挙げる。
例 桁数 n = 23 の場合: n は3の倍数ではない奇数なので、成立可能な方程式は次の3つに限られる。それらの解に対応する数に上で定めた操作 f を1度施せば、7個のカプレカ―数が得られる。
(1) の解 …… 123456789 が x 個, 36 が y 個の並び
- であり、
- f (123456789 363636363636) = 86433333331976666666532
(2) の解 …… 123456789 が x 個, 36 495495 272727 が y 個の並び
- であり、
- f (123456789 36 495495 272727) = 87765443219997765543222
(3) の解 …… 124578, 09, 123456789, 36 の並び
- のとき、
- f (124578 09090909 123456789) = 99998765420987543210001
- のとき、
- f (124578 090909 123456789 36) = 99987654320987654321001
- のとき、
- f (124578 0909 123456789 3636) = 99876543320987665432101
- のとき、
- f (124578 09 123456789 363636) = 98765433320987666543211
- のとき、
- f (124578124578 09 123456789) = 98776554210988754432211
脚注
編集- ^ a b c d Kaprekar 1955.
- ^ a b Kaprekar 1980.
- ^ マーティン・ガードナー 著、一松信 訳『メイトリックス博士の驚異の数秘術』紀伊國屋書店、1978年、155-156頁。
- ^ 西山豊「6174の不思議」(PDF)『理系への数学』、現代数学社、2006年1月、9-12頁、2021年3月19日閲覧。
- ^ サム・パーク 編、蟹江幸博 訳『数学、それは宇宙の言葉 : 数学者が語る50のヴィジョン』岩波書店、2020年、1-6頁。
- ^ 秋山仁『NHK 算数大すき』日本放送出版協会、1992年。
- ^ マラーティー語でのつづり कापरेकर の発音は「カプリカル」であって、最後の「ル」は巻き舌音。
- ^ 片山 1988.
- ^ 亀井 2021.
- ^ 10002 = 1000000 であり、1000 + 000 = 1000 であるが、1000 はカプレカー数ではない。
- ^ オンライン整数列大辞典の数列 A006886
- ^ オンライン整数列大辞典の数列 A053816
- ^ A099009
- ^ 平田 2005.
- ^ Prechett 1981.
- ^ a b Iwasaki 2024.
参考文献
編集- D. R. Kaprekar (1955). “An interesting property of the number 6174”. Scripta Mathematica 21: 244–245.
- D. R. Kaprekar (1980–1981). “On Kaprekar numbers”. Journal of Recreational Mathematics 13: 81–82.
- M. ラインズ 著、片山孝次 訳『数 : その意外な表情』岩波書店、1988年。
- 亀井哲治郎(著)、数学教育協議会(編)「6174は「カプレカル数」と呼ぼう!」『数学教室』こ・そ・あ・ど/んなこと、あけび書房、2021年4月、72-73頁。
- 平田郁美「高次桁のカプレカ変換1」(pdf)『共愛学園前橋国際大学論集』第5巻、2005年、21–49頁。
- Haruo Iwasaki (2024). “A new classification of the Kaprekar Numbers” (pdf). The Fibonacci Quarterly 62 (4): 275-281 .
- G. D. Prichett; A. L. Ludington; J. F. Lapenta (1981). “The determination of all decadic Kaprekar constants” (pdf). The Fibonacci Quaterly 19 (1): 45–52 .
外部リンク
編集- 『カプレカ数(特に3桁の場合)について』 - 高校数学の美しい物語
- Weisstein, Eric W. "Kaprekar Number". mathworld.wolfram.com (英語). - 第1の定義によるカプレカー数
- Weisstein, Eric W. "Kaprekar Routine". mathworld.wolfram.com (英語). - 第2の定義によるカプレカー数
- Yutaka Nishiyama (2006年3月1日). “Mysterious Number 6174”. Plus Magazine. University of Cambridge. 2021年3月29日閲覧。