エルゴリン

化合物の一つ

エルゴリン (Ergoline) は、様々なアルカロイドの構造骨格となる化合物である。血管収縮の目的や、偏頭痛カフェインとともに用いる。)、パーキンソン病の治療、軽減のためにも用いられる。麦角菌(Ergot)で見られるいくつかのエルゴリンアルカロイドは、麦角中毒の発生に関わっており、痙攣や壊疽を引き起こす。LSDリゼルグ酸ソライロアサガオに含まれるもの等、幻覚剤の効果を示すものもある。

エルゴリン
IUPAC命名法による物質名
データベースID
CAS番号
478-88-6 チェック
ATCコード none
PubChem CID: 6857537
ChemSpider 5256873 チェック
ChEBI CHEBI:38484 チェック
化学的データ
化学式C14H16N2
分子量212.29g/mol
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利用

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エルゴメトリンエルゴタミン等の天然に生成するものの他に、重要な合成誘導体としては、子宮収縮薬として用いられるメチルエルゴメトリン、抗偏頭痛薬として用いられるジヒドロエルゴタミンメチセルジドエルゴロイド、またパーキンソン病等の様々な病気の治療に用いられるブロモクリプチン等である。パーキンソン病の治療に用いられるより新しい合成エルゴリンには、ペルゴリドリスリドがある。

恐らく最も有名なエルゴリン誘導体は、幻覚剤のLSDである。エルゴメトリンとエルゴタミンは、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約の付表I前駆体に含まれている[1]

エルゴリンは母乳に移行するため、授乳中は摂取してはいけない[2]。またこれらは子宮収縮効果を持ち、妊娠中に摂取すると流産の危険が高まる[3]

天然の生成

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エルゴリンアルカロイドは、下等菌類及び[3]Turbina corymbosaIpomoea violaceaの2種のメキシコ産ヒルガオ科顕花植物に含まれる。種子に含まれる主要なアルカロイドは、リゼルグ酸アミド(エルジン)とその光学異性体イソエルジンである。また、その他のリゼルグ酸誘導体やクラビンが少量含まれる。ハワイの植物であるArgyreia nervosaは、同様のアルカロイドを含む。そのため、証明はされていないが、エルジンまたはイソエルジンが幻覚効果の原因になっている可能性がある。単子葉植物に含まれる麦角アルカロイドと同様に、Ipomoea asarifoliaで見られるエルゴリンアルカロイドは、種子に着生した菌類が生産する[4]

歴史

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エルゴリンは、穀物に感染して麦角中毒を引き起こす麦角菌から、初めて単離された。麦角菌は、医薬への利用も長い歴史を持ち、これが化学的な活性を解明しようという取組に繋がった。これは、1907年にG・バーガーとF・H・カリンが、治療効果よりも毒性の方が大きいエルゴトキシンを単離した時から始まった。1918年には、アーサー・ストールによってエルゴタミンが単離され、単離されたエルゴリンアルカロイドとして、初めて治療用途に用いられるようになった。

1930年代初期には、麦角アルカロイドの基礎的な化学構造が決定され、合成誘導体の積極的な探索が始まった。

エルゴリン誘導体

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エルゴリン誘導体には、水に可溶のリゼルグ酸アミド、水に不溶のエルゴペプチド、そしてカルビン類の、3つの大きな分類が存在する[3]

リゼルグ酸アミド

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これらの化合物の間の関係は、以下の構造式と置換基の表にまとめられている。

 
リゼルグ酸アミドの置換基
名前 R1 R2 R3
リゼルグ酸アミド H H H
エルゴメトリン H CH(CH3)CH2OH H
メチルエルゴメトリン H CH(CH2CH3)CH2OH H
メチルセルジド CH3 CH(CH2CH3)CH2OH H
LSD H CH2CH3 CH2CH3

ペプチドアルカロイド

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ペプチドエルゴリンアルカロイドまたはエルゴペプチン(ergopeptine)は、エルゴリン環において、リゼルグ酸誘導体のアミド基と同位置にトリペプチドが付加した誘導体である。この構造は、プロリンと他の2つのαアミノ酸を含み、これらがシクロールで結合されている[5]。いくつかの重要なエルゴペプチンを下に示している[6]。この他、エルゴトキシンは、エルゴクリスチンとエルゴコルニン、エルゴクリプチンが同量混合されたものである。

  • エルゴトキシン類(R2位がバリン
    • エルゴクリスチン
    • エルゴコルニン
    • α-エルゴクリプチン
    • β-エルゴクリプチン
  • エルゴタミン類(R2位がアラニン
    • エルゴタミン
    • エルゴバリン
    • α-エルゴシン
    • β-エルゴシン
 
エルゴペプチド
名前 R1 R2 R3 R3位のアミノ酸
エルゴクリスチン CH(CH3)2 ベンジル フェニルアラニン
エルゴコルニン CH(CH3)2 CH(CH3)2 バリン
alpha-エルゴクリプチン CH(CH3)2 CH2CH(CH3)2 ロイシン
beta-エルゴクリプチン CH(CH3)2 CH(CH3)CH2CH3 (S) イソロイシン
エルゴタミン CH3 ベンジル フェニルアラニン
エルゴバリン CH3 CH(CH3)2 バリン
alpha-エルゴシン CH3 CH2CH(CH3)2 ロイシン
beta-エルゴシン CH3 CH(CH3)CH2CH3 (S) イソロイシン
ブロモクリプチン (半合成) Br CH(CH3)2 CH2CH(CH3)2 ロイシン

クラビン類

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天然においても、アグロクラビンエリモクラビンリセルゴール等、エルゴリンの基礎構造への多くの修飾が見られる。ジメチルエルゴリンからのこれらの誘導体は、クラビン類と呼ばれる。クラビン類の例としては、フェスツクラビンフミガクラビンAフミガクラビンC等がある。

その他

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合成エルゴリン誘導体の中には、上記分類のいずれにも属さないものもある。以下のような例がある。

出典

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  1. ^ http://www.incb.org/pdf/e/list/red.pdf.
  2. ^ kidsgrowth.org --> Drugs and Other Substances in Breast Milk Retrieved on June 19, 2009.[リンク切れ]
  3. ^ a b c Schardl CL, Panaccione DG, Tudzynski P (2006). “Ergot alkaloids – biology and molecular biology”. The Alkaloids: Chemistry and Biology. The Alkaloids: Chemistry and Biology 63: 45–86. doi:10.1016/S1099-4831(06)63002-2. ISBN 978-0-12-469563-4. PMID 17133714. 
  4. ^ Steiner, U; Ahimsa-Müller, MA; Markert, A; Kucht, S; Groß, J; Kauf, N; Kuzma, M; Zych, M et al. (2006). “Molecular characterization of a seed transmitted clavicipitaceous fungus occurring on dicotyledoneous plants (Convolvulaceae)”. Planta 224 (3): 533–44. doi:10.1007/s00425-006-0241-0. PMID 16525783. 
  5. ^ G. Floss, Heinz (1976). “Biosynthesis of Ergot Alkaloids and Related Compounds”. Tetrahedron Report 32 (14): 873 to 912. doi:10.1016/0040-4020(76)85047-8. 
  6. ^ Yates, S. G.; Plattner, R. D.; Garner, G. B. (1985). “Detection of ergopeptine alkaloids in endophyte-infected, toxic Ky-31 tall fescue by mass spectrometry/mass spectrometry”. Journal of Agricultural and Food Chemistry 33 (4): 719. doi:10.1021/jf00064a038. http://ddr.nal.usda.gov/bitstream/10113/23986/1/IND86034816.pdf. 

外部リンク

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