JR北海道735系電車

北海道旅客鉄道の交流通勤形電車

735系電車(735けいでんしゃ)は、北海道旅客鉄道(JR北海道)が2010年(平成22年)に導入した交流通勤形電車[2]である。

JR北海道735系電車
6両編成で運転される735系電車(琴似駅
基本情報
運用者 北海道旅客鉄道
製造所 日立製作所笠戸事業所
製造年 2010年3月28・29日(新製)
製造数 2編成6両
運用開始 2012年5月1日
投入先 札幌運転所
主要諸元
編成 3両編成 (1M2T)
軌間 1,067 mm(狭軌
電気方式 交流単相20,000V 50Hz
架空電車線方式
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 130 km/h
起動加速度 2.2 km/h/s(0 - 60 km/h)
編成定員 428人
編成重量 105.2 t
全長 先頭車:21,670 mm
中間車:21,300 mm
全幅 2,800 mm(車体基準幅)
全高 4,015 mm
4,250 mm(パンタグラフ折りたたみ)
床面高さ 1,050 mm
車体 アルミニウム合金
ダブルスキン構造A-train
台車 軸梁式ボルスタレス台車(ヨーダンパ付
N-DT735(電動車)
N-TR735(付随車)
車輪径 810 mm
主電動機 かご形三相誘導電動機
N-MT735
東芝
三菱電機
主電動機出力 230 kW
駆動方式 TD平行カルダン駆動方式
歯車比 1:4.89
制御方式 PWMコンバータ + VVVFインバータ制御IGBT素子
制御装置 N-CI735形 主変換装置
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ全電気式
保安装置 ATS-DN
備考 出典[1]
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概要

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軽量化やメンテナンスコストの低減、廃車後のリサイクルの容易さなどをメリットに日本の鉄道事業者で採用事例が増加しつつあったアルミニウム合金製車両の、国内酷寒冷地での各種適性を確認するため[注 1]、2010年(平成22年)に3両編成2本(6両)が製造された。

同社が1996年(平成8年)から導入しているオールステンレス製の通勤形731系電車の各部仕様を基本として設計された[2]。将来的に予定される車両取替や電化区間拡大[注 2]も考慮した広汎な運用体系の構築を企図し、従来系列の721系電車や731系との併結運用を可能として汎用性を確保しつつ、バリアフリー対応のための低床構造・氷雪対策の強化・全電気ブレーキなど、設計時点で標準化しつつある仕様を各部に採用している。

2010(平成22)年度・2011(平成23)年度の2期に渡って函館本線千歳線など札幌都市圏を中心に、寒冷環境下での車両への諸影響を調査分析する各種走行試験を実施した[2]。その後、2012年(平成24年)5月1日から営業運転を開始し[3][注 3]、同年6月1日からは一部区間が電化された札沼線(学園都市線)[注 4]へも乗り入れるようになった[4]

本形式の車体構造は2年間の試運転を経て問題がないことは確認された[5]ものの、アルミニウム合金製車体の本格的な導入については、長期的に運用した上で検討する方向性となり、その後の増備は実績のあるステンレス車体を用いた733系(2012年〈平成24年〉導入)で行われている[5][注 5]。なお、JR北海道の在来線営業用車両におけるアルミ合金製車体の本格採用は、室蘭本線向けのワンマン電車である737系2023年令和5年〉導入)で行われることとなった[7][注 6]

仕様・構造

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車体

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アルミニウム合金押出型材を用いたダブルスキン構造の構体を用い、制御車クハ735形の前頭部のみ製である[2]

客用扉は開口幅 1,150 mmステンレス製片開き扉を側面3か所に設け、客室窓は扉間に2枚の大型窓を設ける。前頭部は乗務員保護対策として衝撃吸収構造を採用し、正面中央部が突出した形状をもつ。構体素材を除き、これらは731系と同一の基本構成であるが、本系列では車体傾斜装置の搭載を考慮していないことから車体断面形状が変更[8]され、腰板上縁 - 客室窓下端部から幕板部にかけての「上窄まり台形」形状を廃して側面上部を垂直配置としている。

氷雪対策として、床下機器を防護する機器カバーを各車床下に設け[2]、車端部直下には防雪カバーを設ける。電動車モハ735形では車内端部に「雪切室」を設け、機器類を冷却する外気を雪切室経由で導入し氷雪の侵入を防止する。

プラットホームとの段差を縮小するため、床面高さは731系の1,150 mmから100 mm低い1,050 mmまで下げられ[8]、出入口はステップを廃した全面平床とされた。ただし、床面高さが高い731系や721系と併結して使用するため、733系の運転台通路部分にはスロープが設けられているのに対し735系には段差がある。

正面窓・側面窓は冬季の氷雪落下による破損対策として、ポリカーボネート (PC) 板を多用する。客室窓は8 mm厚のPC板(室外側)4 mm厚の強化ガラス板(室内側)を空気層を挟んで設置する複層構造で、客用扉窓は8 mm厚のPC単板、正面の助士席窓と貫通扉窓には表面に導電発熱体層を付加した発熱PC板を用いている[8]

前面上部の種別表示器・側面の行先表示器は731系の幕式からLED式に変更されている[2]

 
731系(手前)と併結した735系(奥)。車体の上半分が窄まっている731系に対し、735系の車体上半分は垂直になっている。(2020年2月10日 / 手稲駅)

車体の外部塗色は、正面中央左右に萌黄色の横帯を、正面窓周囲・側窓間の窓柱に黒色を配する。車体側面は帯などが無いシルバーメタリックの単色となっており、これが本形式を731系や733系と見分ける際の大きな特徴である(731系は萌黄色と赤、733系は萌黄色の帯が車体側面に配されている)。

室内設備

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車両内部

座席配置は全車ともロングシートで、出入口と客室とを仕切る仕切扉は設けず、座席端部に大型の袖仕切を装備する。これは731系と同様の室内配置であるが、本系列では出入口隣接部の跳上げ式収納座席を廃止して固定座席を増設し、大型袖仕切の設置位置も変更している[8]。室内寒冷対策として、大型袖仕切のほか、出入口の上と横から温風を送り込み冷気を遮断するエアカーテン、ボタン開閉式の半自動ドアを装備する。ボタンは731系とは異なり、のちの733系と同じ仕様になっている[注 7]

 
客室と運転室の間に設けられた段差。黄色の塗装とステッカーで注意喚起を行っている。
 
運転席

バリアフリー対応として、車椅子対応の大型トイレ車椅子スペースを設置する[2]。ステップをなくした出入口は扉内張と周辺部を黄色(警告色)として注意喚起を図り、付帯設備として731系と同様のドアチャイム車内案内表示装置のほか、客用扉開閉に連動して点滅する開閉表示灯を出入口上部に新たに装備する。

空調装置屋根上集中式のN-AU735形を各車1基搭載し、冷凍能力は34.88 kW(30,000 kcal/h)を有する[1]

制御装置

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主変換装置はスイッチング素子IGBT を用い、3レベル変調単相電圧形 PWM コンバータと2レベル変調三相電圧形 PWM インバータとの構成で VVVFインバータ制御を行う N-CI735 形である。1群の主変換装置で2基の主電動機(=1台車分)を制御する 1C2M 方式で、台車単位で個別に制御が可能な独立2群構成である。スナバ回路の廃止・フィルタコンデンサの乾式化など、小型化・軽量化が図られた。

主変圧器は自然通気で冷却する走行風自冷式の N-TM735-AN 形で、冷却用の送風機を省略して静粛性と保守性とを向上している。

これら主回路を構成する装置群は電動車モハ735形に集中装備され、各機器は低床化に伴う床下艤装空間の狭小化に対応し、筐体高さを縮小するなど小型化がなされている。

ブレーキ装置の制御方式は一般的な電気指令式で、遅れ込め制御機能をもつ。主回路に付加される回生ブレーキは列車停止までの全速度域で有効な全電気ブレーキを搭載する[2][注 8]

補助電源装置は主変圧器三次巻線が165 kVA、富士電機システムズ製のN-APS735形静止形インバータ(SIV)による安定した単相交流100V,50Hzが4.25 kVA×2、安定した直流100Vが10.5 kWである[1][9]

台車・駆動装置

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台車は低床車体に対応した新形式の軽量ボルスタレス台車 N-DT735 形・ N-TR735 形[10][11]で、軸ダンパを併設した軸梁式の軸箱支持機構、ヨーダンパの設置、特殊鋳鉄制輪子(JR北海道苗穂工場製)を実装した踏面両抱き式の基礎ブレーキ装置など、731系以降のJR北海道旅客車両が広汎に装備する台車形式群と同一の基本構造を有する。本系列の台車は車体を低い位置で支持するため、台車側梁中央部の高さを下げて枕ばね(空気ばね)の実装空間を確保し、810 mm 径の小径車輪も併用して低床化を図っている。

電動車のモハ735形が装備する動力台車 N-DT735 形は、主電動機 N-MT735 形 (230 kW) を1台車に2基搭載する。731系以降のJR北海道の電車に汎用的に用いられる かご形三相誘導電動機 N-MT731 形 (230 kW) と基本仕様を同じくするもので、床下空間の狭小化に対応し配線取出位置を変更している。主電動機から輪軸への動力伝達は、保守性と静粛性を利点とするTD平行カルダン駆動方式を採用する。

その他仕様

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721系電車・731系電車・733系電車と併結運転が可能な仕様で、2編成併結の最大6両まで組成可能である。キハ201系気動車との協調運転には対応せず、同系列との併結はできない。

形式別詳説

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モハ735形 (M)
編成の中間に組成される電動車で、主変換装置・主変圧器などの主回路を構成する機器はすべて本形式に搭載する。車体側面向かって左側に「雪切室」に通じる外気導入口を設ける。集電装置シングルアーム式パンタグラフの N-PS785 形で、関節部を車体中央側に向け小樽方の屋根上に搭載する。
定員は150名(うち座席52名)である。車両番号は編成番号に合わせて付番されるため、100番台のみが存在する。
クハ735形
編成の両端に組成される制御車で、編成中の組成方向・諸設備が異なる2種の区分があり、車両番号帯を分けて区分する。
100番台 (Tc1)
室内後位に車椅子スペースとバリアフリー対応トイレを設置する。このため後位の客用扉は他車より車体中央側に 825 mm 寄った位置にある。
定員は137名(うち座席46名)である。奇数向き(旭川方)に組成される。
200番台 (Tc2)
室内後位に機器室を設置し、床下に補助電源装置・空気圧縮機を装備する。
定員は141名(うち座席46名)である。偶数向き(小樽方)に組成される。

運用

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札幌運転所にて公開中の735系電車
(2010年8月6日 / 札幌運転所)

2010年3月に3両編成2本(編成番号:A-101, A-102)が札幌運転所に配置され、札幌都市圏およびその周辺地区を中心とした以下の区間で運用されている。

かつては区間快速いしかりライナー」(小樽駅 - 岩見沢駅)としての運用もあったが、2020年(令和2年)3月14日ダイヤ改正で廃止された。

運用は基本的に、721系(3両編成)・731系・733系(基本番台)と共通で[12]、それぞれと併結した6両編成で運用されることもある。なお、新千歳空港駅には早朝の普通列車のみ乗り入れる。

編成表

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形式 クハ735形
-100
(Tc1)
モハ735形
-100
(M)
クハ735形
-200
(Tc2)
搭載機器   PT,MTr,CI SIV,CP,Bt
自重 31.8 t 40.1 t 33.3 t
車内設備 WC,車椅子    
定員
()内は座席定員
137 (46) 150 (52) 141 (46)

凡例

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車歴表

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脚注

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注釈

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  1. ^ ただし、札幌市営地下鉄(ほぼ全線地下かシェルター内)は開業以来アルミ車が導入され続けている。
  2. ^ 当時電化事業化が予定されていた区間は函館本線五稜郭駅 - (仮称)新函館駅
  3. ^ 当初発表では2010年、2011年の夏季に営業運転に投入される発表であったが、実際には投入されなかった。
  4. ^ 現在非電化区間は廃止されている。
  5. ^ 西岡研介によると、JR北海道は当初、2012年1月1日に予定されていた札沼線の電化開業に合わせて、本形式を30両導入する方針を固めていたとされる。しかし、一旦は方針を了解していたはずの副社長(肩書はいずれも当時)柿沼博彦らがステンレス製車両の導入を求めて猛反発し、事態を重く見た相談役の坂本眞一により、3両編成2本(6両)のみを試作車名目で導入し、耐寒試験を1期行ったのち改めて本形式の導入について判断することになった。ところがその耐寒試験はずるずると長引き、その間にステンレス製車両である733系が導入されたため、本形式の導入は試作車として導入された3両編成2本(6両)を除き事実上ストップしたという。また、この事態の影響で札沼線の電化開業が半年遅れ、2012年6月1日にずれ込んだともしている[6]
  6. ^ 新幹線ではH5系が2016年より運用されている。
  7. ^ 車掌が半自動ドアモードに設定し、ドア横の緑ランプが点灯していれば乗客自身による開閉操作が可能。
  8. ^ JR北海道では特急形車両785系電車(機器更新改造車)・789系電車に採用例があったが、特急形以外では初採用である。

出典

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  1. ^ a b c 交友社『鉄道ファン』2010年6月号新車ガイド2「JR北海道 735系通勤形交流電車」pp.62 - 65 。
  2. ^ a b c d e f g h 新型通勤電車の開発について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2010年3月10日https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2009/100310-1.pdf2010年6月4日閲覧 
  3. ^ “JR北海道735系電車が営業運転を開始”. railf.jp 鉄道ニュース (『鉄道ファン交友社). (2012年5月1日). http://railf.jp/news/2012/05/02/090000.html 
  4. ^ 学園都市線電化開業に伴う電車の投入(第一次)について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2012年3月14日https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2012/120314-1.pdf2014年7月21日閲覧 
  5. ^ a b 『鉄道ジャーナル』通巻550号 p.30
  6. ^ 西岡研介(2019):トラジャ JR「革マル」三〇年の呪縛、労組の終焉. p437-447, 東洋経済新報社
  7. ^ 737系通勤形交流電車が登場します』(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2022年8月17日。オリジナルの2022年8月21日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20220820110442/https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/220817_KO_737.pdf2022年10月5日閲覧 
  8. ^ a b c d 『Rail Magazine』通巻321号 pp.58 - 62
  9. ^ 北海道旅客鉄道株式会社 札幌圏用通勤電車向け補助電源装置」富士電機技報2010年1月号→「ドライブ」p.37。
  10. ^ N-DT735 / JR北海道735系(鉄道ホビダス台車近影・インターネットアーカイブ)。
  11. ^ N-TR735 / JR北海道735系(鉄道ホビダス台車近影・インターネットアーカイブ)。
  12. ^ 平成24年10月ダイヤ改正について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2012年8月3日https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2012/120803-1.pdf2012年8月17日閲覧 
  13. ^ a b 『JR電車編成表』2022冬 p.10

参考文献

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  • 交友社鉄道ファン』 2010年6月号 No.590 P.62 - 65
  • 鉄道ジャーナル社鉄道ジャーナル』 2010年6月号 No.524 P.144
  • 泉弘之「JR北海道 733系通勤形交流電車」『鉄道ジャーナル』第548号、鉄道ジャーナル社、2012年6月、pp.78-83。 
  • 北海道旅客鉄道運輸部運用車両課新車プロジェクト 泉 弘之「735系通勤型交流電車」『Rail Magazine』第27巻第8号 (No.321)、ネコ・パブリッシング、2010年6月、pp. 58 - 62。 
  • 「JR電車編成表2022冬」、交通新聞社、11-22、ISBN 978-4-330-06521-2 

外部リンク

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関連項目

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