ヘルファイア (ミサイル)
AGM-114 ヘルファイア (Hellfire, Helicopter launched fire-and-forget) は、アメリカ合衆国の空対地ミサイルである[1]。主に対戦車ミサイルとして使用されるが、対艦用も存在する。ヘルファイアの名称は、英語の「ヘリコプター発射の撃ちっぱなし(ミサイル)」を略したものだが、英単語としてのhellfireは「地獄の業火・烈火・ものすごい勢いで燃える炎」という意味もある。
概要
編集主に対戦車戦闘において使用される。基本となる誘導方法はセミアクティブレーザー誘導で、BGM-71 TOWのように誘導にワイヤーを用いないために飛翔速度が速く、着弾所要時間が短いため、敵に回避、反撃する機会を与えることなく攻撃できる。レーザー発信部とミサイル発射母機を別々に設置することもできる。
弾頭を対艦攻撃用に変更した物は、スウェーデン軍にRBS17の名称で採用された。
開発は1971年に開始され、1985年から実戦配備されている。
K型以降はヘルファイア IIとも呼ばれ、レーザー測距/誘導関係の機能が改良されている。さらに改良されたL型のロングボウ・ヘルファイア・モジュラー・ミサイル(英:Longbow Hellfire Modular Missile)は、ロングボウ・ヘルファイアとも通称され、ミリ波レーダーによるアクティブ・レーダー・ホーミング誘導に対応している。
初期バージョンのヘルファイアは、標的へのレーザー照射など継続的な誘導を必要とするため、名前の通りのファイア・アンド・フォーゲット(Fire-and-Forget、撃ったあとは忘れる・撃ちっぱなし)性能は持っていなかった。AGM-114L ロングボウ・ヘルファイアは発射後の誘導を必要とせず、ランチャー(発射器)と標的間に射線が形成されていなくても撃つことができ、撃ちっ放し性能を獲得している。
ヘルファイア、マーベリック、空中発射TOW ミサイルは、2010年までに統合共通ミサイルJCM(Joint Common Missile)に置き換えられる計画があったが、これは、2005年1月時点で中止され、ヘルファイアの改良と、国外への広範な販売は継続的に進められている。
戦歴
編集1991年1月17日に始まった、イラクにおける湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦の序盤、8機のAH-64 アパッチが、ヘルファイアとハイドラ70ロケット弾を使用し、二つのイラク軍早期警戒・地上管制レーダーサイトを破壊した。ジャスト・コーズ作戦でも使用され、7つの目標を破壊することに成功している。
2002年の初期以降、MQ-1 プレデター 無人偵察機からも発射されている。アフガニスタンに潜伏していたウサーマ・ビン・ラーディンに対して発射されたほか(暗殺未遂)、ターリバーン幹部の乗った車両に対しても発射されている。
ヘルファイアは、2003年からのイラク戦争においても実戦使用された。
2014年9月1日、ソマリアのアル・シャバブの拠点襲撃の際に、レーザー誘導爆弾とともに利用。最高指導者であるアハマド・アブディ・ゴダネが爆死している[2]。
搭載兵器の一覧
編集- AH-1W スーパーコブラ
- AH-1Z ヴァイパー
- AH-64 アパッチ
- AH-64D アパッチ・ロングボウ
- RAH-66 コマンチ
- タイガー ARH
- 戦闘用ボート 90 H
- MH-60R/SH-60R シーホーク
- SH-60K/SH-60L
- OH-58D カイオワ・ウォリア
- P6297 ヘルファイア・ミサイルボート
- 携帯型陸上発射システム(Portable Ground Launch System)
- MQ-1 プレデター
- MQ-8 ファイアスカウト
- MQ-9 リーパー
- MQ-1C グレイイーグル
- UH-60 ブラックホーク(オプション)
- WAH-64 アパッチ(イギリス軍向けAH-64D)
- AC-208 コンバットキャラバン(セスナ208 - 同機の軍用軽攻撃機型)
- ACN-235(CASA CN-235 - 同機のガンシップ型)
- AT-802U (エアトラクターAT-802 農業用トラクターの軍用軽攻撃機型)
また、テスト中のシステムとしては、次のようなものがある。
- ハンヴィーを含むBGM-71 TOW搭載車両(ITV=Improbed TOW Vehicle)
- C-130 ハーキュリーズへの搭載
主な使用国
編集要目
編集数値は、基本型のもの。
- 製造者:ロックウェル・インターナショナル(現ボーイング)、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン
- 直径:17.8cm
- 翼幅:71cm
- 全長:163cm
- 重量:45kg
- 推進方式:固体推進ロケット方式
- 速度:425m/s
- 射程:0.5-8km
派生型
編集- AGM-114A ヘルファイア
- 主目的:対戦車、対装甲車両
- 射程:8km
- 誘導方式:セミアクティブレーザー誘導
- 弾頭:8kg スーパーチャージHEAT (成形炸薬弾)
- 全長:163cm
- 重量:45kg
- AGM-114B/C ヘルファイア
- M120E1 低発射煙ロケットモーターを採用。赤外線画像誘導も可能。
- B型は、輸送時の安全性のために、電子式安全・武装デバイス(SAD=Safing/Arming Device)を搭載している。
- 単体価格:25,000ドル
- AGM-114D/E ヘルファイア
- AGM-114B/Cのデジタル自動航法版として提案された改良型。製造されなかった。
- AGM-114F ヘルファイア
- 主目的:対戦車、対装甲車両
- 射程:7km
- 誘導方式:セミアクティブレーザー誘導
- 弾頭:9kg タンデム配列HEAT
- 全長:180cm
- 重量:48.5kg
- AGM-114G ヘルファイア
- AGM-114FのSAD対応として提案された改良型。製造されなかった。
- AGM-114H ヘルファイア
- AGM-114Fのデジタル自動航法版として提案された改良型。製造されなかった。
- AGM-114J Hellfire II
- AGM-114Fの軽量化・胴体長短縮・射程延長を行うと提案された改良型。製造されなかった。
- AGM-114K ヘルファイア II
- 主目的:対戦車、対装甲車両
- 射程:9km
- 誘導方式:セミアクティブレーザー誘導
- デジタル自動航法
- 電子光学的に対抗策を強化
- レーザーロックが外れても目標を再認識するように改修
- 新型の電子式SADを搭載
- 弾頭:9kg タンデム配列HEAT
- 全長:163cm
- 重量:45kg
- 単体価格:65,000USドル
- AGM-114L ロングボウ・ヘルファイア
- 主目的:対戦車、対装甲車両
- 射程:9km
- 誘導方式
- ファイア・アンド・フォーゲット(撃ちっ放し)方式
- 慣性誘導
- ミリ波レーダーシーカー
- 「ホーム・オン・ジャム」対妨害源モード
- 弾頭:9kg タンデム配列HEAT
- 全長:176cm
- 重量:49kg
- AGM-114P ヘルファイアII
- Version of AGM-114K optimized for use from UAVs flying at high altitude
- AGM-114Kのレーザーシーカーの探知可能範囲を40度から180度に拡大し、高高度のUAVから使えるように最適化した改良型。
- AGM-114M ヘルファイアII
- AGM-114N ヘルファイアII
- 主目的:陣地、船舶、市外目標、対空兵器
- 射程:8km
- 誘導方式:セミアクティブレーザー誘導
- 弾頭:金属サーモバリック弾(圧力増強型)
- 全長:163cm
- 重量:48kg
- AGM-114R ヘルファイア II (Hellfire Romeo)[6]
- 生産: 2012-生産中
- 多目的に使用できる、2015年現在最新のヘルファイア。
- 射程:8 km (8,700 yd)
- 誘導方式:セミアクティブレーザー誘導
- 全長:163 cm (5 ft 4 in)[7]
- 重量:49 kg (108 lb)
- 価格:99,600 USドル(2015年)[8]
ロケットモーター
編集- 製造者:アライアント・テックシステムズ
- 制式名
- 特徴
- 最低限に抑えられた発射煙
- 「ロッド・アンド・チューブ」推進設計(推進剤が棒状と筒状の二つある)
- ネオプレンによる接着設計
- 性能
- 動作温度:-43℃~63℃
- 保管温度:-43℃~71℃
- 有効期限:20年以上(評価済み)
- 技術データ
登場作品
編集映画
編集- 『THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 首都決戦』
- テログループが運用するステルス攻撃ヘリコプター「AH-88J2改 グレイゴースト」の搭載兵器として登場。レインボーブリッジを攻撃するために使用される。
- 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
- MQ-9 リーパーに搭載されたものが、テロリストに対する攻撃に使用される。
- 『シン・ゴジラ』
- 立川駐屯地所属のAH-64Dに搭載されたものが、ゴジラの東京都内侵入を防ぐために行われたB-2号計画「タバ作戦」で、アメリカ空軍所属のMQ-1・MQ-9に搭載されたものが、終盤の「ヤシオリ作戦」でゴジラに対して使用される。
- 『ドローン・オブ・ウォー』
- アメリカ空軍所属のMQ-9に搭載されたものが、タリバン兵に対して使用される。
- 『ランペイジ 巨獣大乱闘』
- アメリカ陸軍の墜落したAH-64に搭載されたものを、主人公のデイビスが射撃手席に乗り込む形で巨獣リジーに使用する。
アニメ・漫画
編集- 『絶園のテンペスト』
- 国防軍のAH-64Dに搭載されたものが、絶園の樹に対して使用される。
- 『続・戦国自衛隊』
- 漫画・小説版にて、戦国時代へタイムスリップしたアメリカ軍の攻撃ヘリコプターに搭載されたものが、同様にタイムスリップし、「関ヶ原の戦い」で西軍に味方する自衛隊に対して使用される。
- 漫画版ではAH-64D アパッチ・ロングボウに、小説版ではAH-1W スーパーコブラに搭載されている。
- 『超時空DDH ヘリ母艦南海の決戦』
- 第二次世界大戦時へタイムスリップした、陸上自衛隊のAH-64Dと架空のひゅうが型護衛艦「しなの」の艦載機であるSH-60K 哨戒ヘリコプターに搭載されたものが、襲来する旧アメリカ軍機に対して使用される。
- 『ルパン三世 PART5』
- EPISODE Iにてブワンダ共和国軍のMi-8に搭載され、ルパン三世らに対して使用される。
小説
編集- 『MM9』
- 第2巻「―invasion―」に登場。陸上自衛隊のAH-64Dに搭載されたものが、怪獣6号「ゼロケルビン」に対して使用される。
- 『日本北朝鮮戦争 自衛隊武装蜂起』
- 陸上自衛隊のAH-64Dに搭載されたものが、はつゆき型護衛艦「はまゆき」を難民船に紛れて攻撃していた、北朝鮮の工作船に対して使用される。
- 『ルーントルーパーズ 自衛隊漂流戦記』
- 異世界へ飛ばされた陸上自衛隊のAH-64Dに搭載されたものが、フィルボルグ継承帝国の竜騎士に対して使用される。
ゲーム
編集プレイヤーがゲーム内通貨で購入可能なAH-64系列や、そのた米国、西側諸国ツリーのヘリコプターに搭載される。機体によって型式も異なる。また機首カメラが操作可能な機体ではカメラを用いたレーザー誘導も可能。
- 『Operation Flashpoint: Dragon Rising』
- AH-1Z ヴァイパーに搭載されて登場する。
- 『Wargame Red Dragon』
- NATO陣営で使用可能な各種ヘリコプターや艦船の武装としてAGM-114AとAGM-114Cが登場する。
- 『バトルフィールドシリーズ』
- 『BF2』
-
- AH-1ZとAH-64D アパッチ・ロングボウに搭載されて登場する。
- 『BF2MC』
- AH-64DとAS-665 ティーガーに搭載されて登場する。
- 『BFBC2』
- AH-64DとUAV1に搭載されて登場する。
- 『BF3』
- 「誘導ミサイル」の名称で登場し、AH-1ZとAH-6J リトルバードに搭載できる。
- 『BF4』
- 「レーザー誘導ミサイル」の名称で登場し、高速戦闘艇と偵察ヘリに搭載できる。
- 『マーセナリーズ』
- 国連軍が使用するAH-64D(作中での名称は「YAH-56」)と韓国軍が使用するRAH-66 コマンチ(作中での名称は「LHX」)に搭載されて登場する。
- 『マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス』
- 連合軍が使用するAH-1W スーパーコブラと、PMCが使用するバギーカーの武装として登場する。
- 『メタルギアソリッド』『メタルギアソリッド4』
- メタルギアREXに搭載されている。
出典
編集- ^ “AGM-114 Hellfire”. Military.com. 2023年1月2日閲覧。
- ^ “米国、ソマリア過激派最高幹部を空爆で殺害と発表”. AFPBBNews (フランス通信社). (2014年9月6日) 2014年9月6日閲覧。
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 91. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 350. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 288. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ “Lockheed Martin Distribution Statement”. US Army. 22 July 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。20 August 2015閲覧。
- ^ “Hellfire Family of Missiles”. 2020年12月24日閲覧。
- ^ “AGM-114 Hellfire Missile”. AeroWeb. 2015年10月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月24日閲覧。
- ^ 関 賢太郎 (2020年8月20日). “「ニンジャ・ブレード」がシャキーンと展開 「暗殺」に特化したミサイルなぜできた?”. 乗り物ニュース. 2020年12月24日閲覧。
- ^ Beaumont, Peter (2020年9月25日). “US military increasingly using drone missile with flying blades in Syria”. ガーディアン. 2020年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月24日閲覧。
- ^ Schmitt, Eric (2020年9月24日). “U.S. Commandos Use Secretive Missiles to Kill Qaeda Leaders in Syria” (英語). ニューヨーク・タイムズ. オリジナルの2020年9月24日時点におけるアーカイブ。 2020年12月24日閲覧。
- ^ “米、アルカイダ指導者殺害に「忍者爆弾」使用か”. AFP (2022年8月2日). 2022年8月3日閲覧。
関連項目
編集- 空対地ミサイル
- 対戦車ミサイル
- アメリカ合衆国のミサイル一覧
- レッドストーン兵器廠
- ブリムストーン
- ハイドラ70ロケット弾#APKWS 非公式ながら「ヘルファイア・ジュニア」の愛称を持つ。
外部リンク
編集- Lockheed Martin - Hellfire II (ロッキード・マーティン社によるヘルファイア II解説、英語)
- Lockheed Martin - Longbow Hellfire (ロッキード・マーティン社によるロングボウ・ヘルファイア解説、英語)
- Designation Systems (英語)
- Global Security (FASによる解説、英語)
- Navy Fact File (米海軍ファクトファイル、英語)