鰭竜類(きりゅうるい、学名:Sauropterygia)は、多様性の大きい水生爬虫類絶滅群であり、ペルム紀末の大絶滅のすぐ後に陸生の先祖から発生して三畳紀の間に繁栄を極めた後、三畳紀末に首長竜を残して他は絶滅した。首長竜はその後も中生代の終わりまで多様性を増し続けた。鰭竜類は肩帯の抜本的な適応によってまとめられる群であり、その適応は鰭脚の強力な打ち下ろし/打ち上げを支持するためのものである。プリオサウルス類のような後期の鰭竜類には、同様の機構を腰帯にも発達させたものもいた。学名はギリシャ語のσαῦρος(sauros:トカゲ)とπτέρυξ(pteryx:翼、鰭)に由来する。

鰭竜類
Sauropterygia
生息年代: 前期三畳紀 - 後期白亜紀, 247–66 Ma
多様な鰭竜類。
左上:Ceresiosaurus calcagnii偽竜類
右上:Henodus chelyops板歯目
左下:Aristonectes parvidens首長竜
右下:Brachauchenius lucasi首長竜
地質時代
前期三畳紀 - 後期白亜紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
階級なし : 双弓類 Diapsida
階級なし : 鰭竜類 Sauropterygia
学名
Sauropterygia
Owen, 1860
和名
鰭竜類(きりゅうるい)
下位分類群

起源と進化

編集
 
首長竜クロノサウルス(捕食側)と Woolungasaurus(被食側)

最初期の鰭竜類は247 Ma(Ma:百万年前)中期三畳紀の初めに現れた。層序学的証拠を伴い確実に鰭竜類であるとされるものの中で最古のものは、中国南部オレネキアン階のスパシアン亜階から産出している[1]。初期の標本は小型で(およそ 60 cm)長い四肢を持った半水生のトカゲ型の動物(パキプレウロサウルス類)だったが、すぐに数メートルの大きさになり浅海域に進出した(偽竜類)。235 Maにはより水生に適応したピストサウルス類英語版が出現した[2]首長竜以外の鰭竜類は三畳紀末の大絶滅により全て一掃された[3]前期ジュラ紀の間に、彼らは長い首と小さい頭を持つ文字通りの首長竜であるプレシオサウルス類と、短い首と大型の頭部をもつプリオサウルス類に急速に分化した。元来は、プレシオサウルス類とプリオサウルス類は異なる進化の道筋をたどったそれぞれ別の2つの上科であると考えられていた。現在ではこれらは単なる形態型に過ぎないと思われており、両方の型は何度も進化により現れ、プリオサウルス類がプレシオサウルス類から進化することも、そしてその逆もあった。

分類

編集

鰭竜類はかつて、爬虫類を側頭窓の数と位置によって4つのグループに分ける古典的な分類では、後眼窩骨-鱗状骨の上側に1対の側頭窓を持つ広弓類に分類され、そのグループの代表として扱われていた[4]。しかし広弓類が定められるより以前の1902年にすでに鰭竜類を双弓類とすべきであるという意見が現れており[5]、その後の研究を経て広弓類とされていた群が多系統であることがわかって広弓類という分類群自体が消失した。現在では、広弓類型の頭骨は双弓類型頭骨の下側頭窓が消失した派生型であり、鰭竜類は双弓類に属するものであると広く認められている[5][6]

双弓類内における鰭竜類の分類は困難を伴う。水中という環境は爬虫類の間に同じ特徴を何度も進化させ、収斂進化の好例となっている。21世紀初頭においては鱗竜形類に含められることが多いが、1990年代から科学者たちは、鰭竜類が同様に双弓類であることが明らかとなったカメ類に近い仲間ではないかと考え出している[6]。ずんぐりした体で貝類を主食とした板歯目も、鰭竜類の一員もしくはEosauropterygiaとカメ類の中間に位置する可能性がある。2010年代に始まった鰭竜類の系統関係に関する複数の分析では、鰭竜類は鱗竜類(トカゲやヘビ)よりも主竜類(鳥やワニ)に近縁であることが示唆されている[7]。一部の研究者は鰭竜類は他の2つの海生爬虫類、魚竜形類タラットサウルス類英語版と一緒になって一つのクレードを構成し、そのクレードは非サウリア類英語版型双弓類か基盤的主竜形類として置かれると提案している[8][9]

これより下で提示されている分岐図は、2013年に Neenan 等によって化石記録のみを用いて導き出された鰭竜類系統関係の分析結果である[8]

Pantestudines  

 鱗竜形類 

Kuehneosauridae  

鱗竜類  

 主竜形類 

Prolacertiformes  

Choristodera  

Rhynchosauria  

Trilophosaurus  

Archosauriformes  

魚鰭類  

Thalattosauria

Eusaurosphargis

Hanosaurus

Helveticosaurus

Sinosaurosphargis

 Sauropterygia 

Placodontiformes  

 Eosauropterygia 
 Pistosauria 

Yunguisaurus

首長竜  

Pistosaurus  

Augustasaurus

Corosaurus

Cymatosaurus

 偽竜類 

Simosaurus

Germanosaurus

Nothosaurus  

Lariosaurus  

Diandongosaurus

 Pachypleurosauria 

Dianopachysaurus

Keichousaurus

Wumengosaurus

Anarosaurus-Dactylosaurus

Neusticosaurus-Serpianosaurus

以下の分岐図は2013年に M. S. Lee によって化石と遺伝子情報の両方を用いたカメ類の系統関係を分析して得られた最も蓋然性の高い結果である。この分析では鰭竜類は側系統群であり、カメ類のステムグループとなる[7]

Crown Reptilia

Pan-Lepidosauria / 鱗竜形類 (Lepidosauromorpha) 

Archelosauria
Pan‑Archosauria

Choristodera 

狭義の主竜形類

Prolacertiformes  

Trilophosaurus 

Rhynchosauria 

Archosauriformes 

Pan‑Testudines

Eosauropterygia  

Placodontia  

Sinosaurosphargis

Odontochelys

 Testudinata 

Proganochelys

カメ目 

Pantestudines
広義の主竜形類
Sauria

2015年の分岐分析では、鰭竜類は Pantestudines 内に置かれている[10]

Sauria 

主竜形類  

 鱗竜形類 

Kuehneosauridae 

鱗竜類

有鱗目 

喙頭目 

 Pantestudines 
Sauropterygia

Eosauropterygia 

Sinosaurosphargis

Placodontia 

Eunotosaurus

Pappochelys 

Odontochelys

 Testudinata 

Proganochelys

カメ目 

(=Ankylopoda)
(=Archelosauria)

大きさと生態

編集

それぞれの形態型は特定の生態学的役割を占めていた。大型のプリオサウルス類ロマレオサウルスリオプレウロドンプリオサウルスクロノサウルスBrachauchenius など)は中生代の海の頂点捕食者であり、7〜12 m の全長を持ち、現在のシャチと似たような生態学的役割を占めていた[11]。長い首を持つプレシオサウルス類にはプレシオサウルス科クリプトクリドゥス科英語版エラスモサウルス科が含まれる。長頚プレシオサウルス類の一部の系統はその首を次第により長くより柔軟に進化させ、後期白亜紀にはその全長は 13 m にも達していた。その首の長さや体の大きさに対して彼らの頭部は小さく、長頚プレシオサウルス類の食性は比較的小型の魚類に限定されており、おそらく彼らはその長い首を素早く突進させて歯が並んだ上下の顎に魚を捕らえていた[11]

出典

編集
  1. ^ Ji Cheng, et al. 2013. "Highly diversified Chaohu fauna (Olenekian, Early Triassic) and sequence of Triassic marine reptile faunas from South China", in Reitner, Joachim et al., eds. Palaeobiology and Geobiology of Fossil Lagerstätten through Earth History p. 80
  2. ^ ダレン・ナッシュ「最初の海生爬虫類」「ノトサウルス」、スティーヴ・パーカー編、日暮雅通・中川泉 訳『生物の進化大事典』養老孟司 総監修・犬塚則久 4-7章監修、三省堂、2020年、240–243頁。
  3. ^ ダレン・ナッシュ、マイク・テイラー「長頸竜とプリオサウルス類」、スティーヴ・パーカー編、日暮雅通・中川泉 訳『生物の進化大事典』養老孟司 総監修・犬塚則久 4-7章監修、三省堂、2020年、282–285頁。
  4. ^ E.H.コルバート 『脊椎動物の進化』上 築地書館 1978 ISBN 4-8067-1095-4 pp142-143
  5. ^ a b Maisch, M. (2010年). “Phylogeny, systematics, and origin of the Ichthyosauria - the state of the art” (英語). www.semanticscholar.org. 2023年3月25日閲覧。
  6. ^ a b 佐藤たまき首長竜」『化石』第85巻、日本古生物学会、2009年、70頁、doi:10.14825/kaseki.85.0_69ISSN 2424-2632 
  7. ^ a b Lee, M. S. Y. (2013). “Turtle origins: Insights from phylogenetic retrofitting and molecular scaffolds”. Journal of Evolutionary Biology 26 (12): 2729–2738. doi:10.1111/jeb.12268. PMID 24256520. 
  8. ^ a b Neenan, J. M.; Klein, N.; Scheyer, T. M. (2013). “European origin of placodont marine reptiles and the evolution of crushing dentition in Placodontia”. Nature Communications 4: 1621. doi:10.1038/ncomms2633. PMID 23535642. 
  9. ^ Simões, T. R.; Kammerer, C. F.; Caldwell, M. W.; Pierce, S. E. (2022). “Successive climate crises in the deep past drove the early evolution and radiation of reptiles”. Science Advances 8 (33): eabq1898. doi:10.1126/sciadv.abq1898. PMC 9390993. PMID 35984885. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9390993/. 
  10. ^ Schoch, Rainer R.; Sues, Hans-Dieter (24 June 2015). “A Middle Triassic stem-turtle and the evolution of the turtle body plan”. Nature 523 (7562): 584–587. doi:10.1038/nature14472. PMID 26106865. 
  11. ^ a b デイヴィッド・ノーマン 『動物大百科別巻 恐竜』 平凡社 1988 ISBN 4-582-54521-1 p232

外部リンク

編集