長野県北部地震 (2011年)
長野県北部地震[2][3](ながのけんほくぶじしん)は、2011年(平成23年)3月12日3時59分ごろ、長野県北部と新潟県中越地方に跨る地域、長野県下水内郡栄村と新潟県中魚沼郡津南町との県境付近で発生した地震[4]。逆断層型の内陸地殻内地震で[4]、マグニチュード (M) 6.7 (Mw6.4)、最大震度6強。本震に続いてM5以上の2回の余震が2時間内に相次いで発生した[5]。
長野県北部地震(2011年) | |
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地震により崩落した中条川地形 | |
地震の震央の位置を示した地図 | |
本震 | |
発生日 | 2011年(平成23年)3月12日 |
発生時刻 | 3時59分15.6秒 (JST)[1] |
震央 | 日本 長野県北部[1] |
座標 | 北緯36度59.1分 東経138度35.8分 / 北緯36.9850度 東経138.5967度座標: 北緯36度59.1分 東経138度35.8分 / 北緯36.9850度 東経138.5967度[1] |
震源の深さ | 8 km |
規模 | 気象庁マグニチュード(Mj)6.7・モーメントマグニチュード(Mw)6.4 |
最大震度 | 震度6強:長野県下水内郡栄村 |
地震の種類 | 内陸地殻内地震(逆断層型) |
余震 | |
回数 | 21回(震度3以上、2011年3月12日7時20分現在) |
最大余震 |
2011年3月12日4時31分55秒、M5.9、最大震度6弱 2011年3月12日5時42分19秒、M5.3、最大震度6弱 |
被害 | |
死傷者数 |
死者 3人[N 1] 負傷者 46人 |
被害地域 |
長野県(特に栄村) 新潟県 |
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プロジェクト:地球科学 プロジェクト:災害 |
新潟・長野県境地震[N 2]、信越地震[N 3]ともいう。最も大きな被害の出た長野県下水内郡栄村ではこの地震を栄村地震[6]、その地震被害を栄村大震災[7]と呼ぶ場合がある。
概要
編集発震機構は、北西 - 南東方向に圧力軸を持つ逆断層型[8]で、地殻内の浅い大陸プレート内地震。3月12日9時までの余震分布域は、本震を中心として北北東方向 - 南南西方向に約17kmの距離と深さ4kmから10kmの地域に集中している。十日町断層帯と信濃川断層帯の中間に位置する地域での変位が大きく、既知の活断層の活動ではない。なお、断層の方向を正断層と考える研究もある[9]。また、4月12日には3月12日の震央から南に20km離れた地点でM5.6、震源の深さ0km、最大震度5弱の地震が発生した。この地震の発震機構解は北北西-南南東圧縮の横ずれ断層型で別の断層の活動と考えられる[10]。
2004年(平成16年)の新潟県中越地震と1847年(弘化4年)の善光寺地震の震源域の中間付近に存在していた新潟-神戸歪集中帯の空白域を埋めた地震で、東京大学地震研究所や産業技術総合研究所の研究者らにより発生が予見されていた[11][12][13]。
この他、本地震および一連の余震の特徴として、潮汐に関係するとみられる地震が全体の約50%と通常より高い相関がみられている[N 4]。
前日に起きた東日本大震災の被害状況すら全く分かっていない状態での今回の地震であり、さらには内陸という異なる地帯での大地震であったため、国民に大きな衝撃を与えた。
地殻変動
編集新潟県十日町市松之山観測点が北東に39cmの地殻変動[4]。震動に伴う斜面の崩落や地滑りは規模の割に少なかったが、2 - 3mの積雪により地滑りが抑制されたと考えられる[14]。
各地の震度
編集震度5弱以上以上の揺れを観測した地域は以下の通り[1]。
震度 | 都道府県 | 観測点 |
---|---|---|
6強 | 長野県 | 栄村北信 |
6弱 | 新潟県 | 十日町市上山・十日町市松之山・十日町市松代・津南町下船渡 |
5強 | 群馬県 | 中之条町小雨 |
新潟県 | 上越市三和区井ノ口・十日町市水口沢 | |
5弱 | 新潟県 | 上越市安塚区安塚・上越市牧区柳島・上越市頸城区百間町・上越市清里区荒牧・上越市大島区岡・長岡市小国町法坂・長岡市山古志竹沢・柏崎市高柳町岡野町・十日町市高山・十日町市千歳町・出雲崎町米田・湯沢町神立・刈羽村割町新田・南魚沼市六日町・南魚沼市塩沢小学校・南魚沼市塩沢庁舎 |
長野県 | 野沢温泉村豊郷 |
北は秋田県仙北市、西は兵庫県西宮市で震度1を観測するなど、東北地方から近畿地方にかけて震度4 - 震度1の揺れを観測した。栄村北信で観測された計測震度は6.4であり(最大加速度は1250.9ガル)、震度7に近い激震であった[15]。
また、気象庁の推計震度分布図によると、長野県と新潟県の県境において、比較的広い範囲で震度7相当の揺れがあったとみられている[16]。
余震
編集長野県北部の他には、新潟県中越地方の南部でも今回の地震による余震が発生している[17]。主な地震は以下の通り。
発生日 | 発生時刻 | 震央 | 震源の深さ | 地震の規模 | 最大震度 | 最大震度観測地 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
3月12日 | 午前3時59分 | 長野県北部 | 8km | M6.7 | 震度6強 | 栄村 | 本震 |
午前4時31分 | 長野県北部 | 1km | M5.9 | 震度6弱 | 栄村 | 最大余震 | |
午前5時42分 | 長野県北部 | 4km | M5.3 | 震度6弱 | 栄村 | 余震 | |
午後11時34分 | 長野県北部 | 5km | M3.7 | 震度5弱 | 栄村 | ||
4月12日 | 午前7時26分 | 長野県北部 | 0km | M5.6 | 震度5弱 | 栄村・木島平村 | |
4月17日 | 午前0時56分 | 新潟県中越地方 | 8km | M4.9 | 震度5弱 | 津南町 | |
6月2日 | 午前11時33分 | 新潟県中越地方 | 6km | M4.7 | 震度5強 | 十日町市 |
他の地震との関連
編集本地震は東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の翌日(13時間後)に発生したもので、活断層による内陸直下型が海溝型の巨大地震に誘発されて起きた遠方誘発地震と考えられている[18][19]。なお、本地震から3日後の15日には、本地震と同様に東北地方太平洋沖地震に誘発されたと考えられる静岡県東部地震が発生している(「東北地方太平洋沖地震の前震・本震・余震の記録」も参照)。
また、同年6月30日には長野県中部(松本市付近)でM 5.4、最大震度5強の地震が発生しているが、これも長野県北部地震の余震ではなく、東北地方太平洋沖地震の遠方誘発地震と考えられている。
主な被害
編集長野県栄村の被害総額(住宅を除く)、55億円[20]。新潟県の公共土木施設の被害額、37億円[21]。
地域 | 人的被害 | 住宅被害 | 非居住構築物 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
死亡 | 軽傷 | 重症 | 全壊 | 半壊 | 一部損壊 | 全半壊 | ||
新潟県 | 長岡市 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 21 | 1 |
柏崎市 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | |
十日町市 | 0 | 9 | 0 | 21 | 103 | 729 | 105 | |
上越市 | 0 | 3 | 1 | 2 | 17 | 184 | 44 | |
南魚沼市 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 9 | 5 | |
津南町 | 0 | 37 | 0 | 6 | 45 | 628 | 206 | |
長野県 | 栄村 | 3[N 1] | 10 | 0 | 33 | 169 | 492 | 290 |
飯山市 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 14 | 0 | |
野沢温泉村 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | |
長野市 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
合計 | 3 | 66 | 1 | 63 | 334 | 2080 | 653 |
交通機関
編集- 飯山線
- 国道117号
- 国道405号
- 津南町見玉地籍 雪崩により通行止め
- 津南町清水川原地籍 落石により通行止め
- 国道353号
- 豊原トンネル手前 船繋川埋没
- 栄村村内の県道(長野県)
- 長野県道407号長瀬横倉停車場線、長野県道408号箕作飯山線、長野県道507号秋山郷森宮野原停車場線、長野県道502号奥志賀公園栄線 橋梁損傷・道路崩壊・路肩崩壊 計38箇所。
人的被害
編集- 死者は栄村で3名、いずれも地震後の避難生活中の災害関連死と認定されている[N 1]。怪我人は新潟県内31名、長野県内15名、ただし軽傷。
- 秋山地区を除く栄村全域(804世帯2042人)に避難指示[22](村の総人口の90%)、一時約1700名余が避難[N 5]。
- 秋山地区(秋山郷)で道路寸断により約300名が一時孤立した。
その他
編集- 地震動により雪崩が誘発され、33棟が全壊、152棟が半壊[N 6]。
- 栄村のほぼ全域で断水したが、3月19日までに復旧。ただし、森地区の「森簡易水道」は水源地での土砂崩落により、復旧は絶望的。
- 中条川上流部・東入沢川沿で山崩れによる河道閉塞と土石流が発生。
- 長野県県宝「阿部家住宅」損壊。
- 大巻川流域で全層雪崩・斜面崩壊 3箇所。
対応
編集支援活動
編集- 神戸市消防局、兵庫県、奈良県より緊急消防援助隊計361名
- 自衛隊航空隊
- 大阪市消防局、京都市消防局より消防ヘリコプター派遣、計2機
- 木島平村 給水車派遣
- 岩手・宮城両県知事への発言が問題となり辞任した松本龍前復興大臣が、辞任後まもなく栄村を訪問した。
- 義援金 1,010,482,317円 (2013年3月5日現在)
- 栄村に直接寄せられた義援金 (13,761件) 869,199,341円
- 日本赤十字社並びに中央共同募金会(長野県北部地震災害義援金配分委員会から)からの義援金 141,282,976円
- 2012年1月末、森宮野原駅前にスーパーマーケット「がんばろう栄村 駅前店」開業[N 7]
- 2016年4月、栄村震災復興祈念館開館[N 8]
-
がんばろう栄村 駅前店
-
栄村震災復興祈念館「絆」
法的措置
編集- 激甚災害法指定、災害救助法適用(栄村・十日町市・上越市・津南町)[注釈 1][23]、被災者生活再建支援法適用
報道
編集ジェイ・キャストによれば、この地震の被害状況は被災地を除く全国では少ない頻度で伝えられた。みのもんたは『みのもんたの朝ズバッ!』で「これだけの被害が出ているとは、私たちも気づかなかった」と述べている[N 3]。
長野市長の鷲沢正一は2011年4月26日の定例記者会見で、風評被害と栄村のためを考えて地震の呼称に「長野県北部地震」を使わず「栄村地震」と表現する市の方針を発表し、マスコミや県に同様の対応を望む考えを示した。会見では、松代群発地震の気象庁の命名の際に風評被害の増加の恐れから「北信地震」から「松代地震」に範囲が限定されたことを前例として挙げた[24]。
その他
編集脚注
編集注釈
編集- ^ 十日町市・上越市では平成23年豪雪に続き同年2度目の適用。また、両市は7月に平成23年7月新潟・福島豪雨のため同年3度目の適用を受けている。
出典(新聞・ニュース)
編集- ^ a b c 震度6強地震の長野・栄村、3人を災害関連死に
- ^ 新潟・長野県境地震から2カ月(新潟日報)
- ^ a b 「3・12信越地震」被害大きいのに忘れられた長野・栄村(J-CASTテレビウォッチ、2011年5月9日)
- ^ 長野県栄村で地震で多発、「潮汐」引き金 地殻変動と重なる 産総研分析(MSN産経ニュース/産経新聞 2012年3月19日)
- ^ “栄村1700人余、避難続く 断水復旧のめど立たず”. 信濃毎日新聞. (2011年3月14日) 2011年3月30日閲覧。
- ^ “震度6強の長野・栄村で仮設住宅入居開始 160人が避難生活”. 産経新聞. (2011年5月14日) 2011年6月14日閲覧。
- ^ “長野・栄村「復興元年」目指す 大地震から1年”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2012年3月10日) 2018年6月3日閲覧。
- ^ “復興の願い、灯明に込めて 長野県栄村 震災6年”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年3月12日) 2018年6月3日閲覧。
出典(その他)
編集- ^ a b c d “震度データベース”. 気象庁. 2022年2月7日閲覧。
- ^ 松本知佳ほか(2013): 2011年長野県北部地震における応急仮設住宅の居住環境に関する研究, 日本建築学会技術報告集 Vol. 19 (2013) No. 42 p. 715-718
- ^ 矢野裕吾ほか(2014): 2011年長野県北部地震における応急仮設住宅の居住環境に関する研究 -温熱環境調査-, 日本建築学会技術報告集 Vol. 20 (2014) No. 44 p. 177-180
- ^ a b c 2011年2月12日長野県・新潟県県境付近の地震の評価 地震調査研究推進本部 地震調査委員会、2011年3月13日付
- ^ 「平成23年3月12日03時59分頃の長野県北部の地震について(第2報)」、気象庁、2011年3月12日付、2014年11月25日閲覧
- ^ 栄村地震(長野県北部地震) - 栄村.2021年3月12日閲覧。
- ^ 栄村大震災/被災状況 - 栄村.2021年3月12日閲覧。
- ^ 「平成23年3月12日03時59分頃の長野県北部の地震について」気象庁、2011年3月12日付、2011年3月16日閲覧
- ^ 野津厚:2011年3月12日長野県北部の地震に見られる余震分布とCMT解の矛盾、および、この地震が正断層の地震である可能性 日本地球惑星科学連合2013年資料 (PDF)
- ^ 2011年3月12日・4月12日 長野県北部の地震 防災科学技術研究所
- ^ 日本海東縁の活断層と地震テクトニクス 編集:大竹政和、平朝彦、太田陽子 出版:東京大学出版会 2002年 ISBN 978-4130607391, NCID BA56988758
- ^ 宮下純夫; 豊島剛志; 小林健太 (2005-08), “新潟県中越地震の地質学的背景”, 新潟県連続災害の検証と復興への視点 (災害復興科学センター): 17-20
- ^ 長郁夫; 西開地一志; 柳沢幸夫; 長谷川功; 桑原保人 (2006), “地質構造形成史を考慮した3次元地質構造の簡便なモデル化 : 新潟県中越地方南部の地震空白域を例として”, 日本地震工学会論文集 6 (4): 74-93, doi:10.5610/jaee.6.4_74
- ^ 2011年長野県北部地震による斜面災害の調査報告(速報)2011年4月4日 (PDF) 京都大学 防災研究所
- ^ “強震波形 (長野県北部の地震)”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年7月14日閲覧。
- ^ “推計震度分布図 2011年03月12日03時59分”. web.archive.org. 気象庁 (2014年3月18日). 2024年7月14日閲覧。
- ^ 6月2日 新潟県中越地方の地震(地震調査研究推進本部)
- ^ 日本列島陸域における誘発地震活動について 名古屋大学大学院環境学研究科 - WayBack Machineによるアーカイブ
- ^ 理科年表 平成24年第85冊
- ^ もう一つの震災(長野県北部地震)発生から2年 長野県栄村の復興への取り組み 関東財務局 - WARPによるアーカイブ
- ^ 東日本大震災 被害と復旧 支援の状況 新潟県
- ^ 「3月12日地震」による県内への影響について (PDF) - 長野県危機管理部、2011年3月12日 - WARPによるアーカイブ
- ^ “災害救助法の適用状況【平成22年度】” (PDF). 内閣府. 2021年10月8日閲覧。
- ^ 平成23年4月26日定例記者会見 - 長野市 - WARPによるアーカイブ
- ^ “気象庁|震度データベース検索 (地震別検索結果)”. www.data.jma.go.jp. 2020年7月4日閲覧。https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/Event.php?ID=9900704
- ^ “asahi.com(朝日新聞社):震度6の栄村が心配で?お地蔵さん、向き変えた 長野 - 列島こんな話”. www.asahi.com. 2020年7月4日閲覧。
- ^ 信濃毎日新聞デジタル2024年9月10日 県北部地震から13年 善光寺大勧進・栢木貫主が栄村を訪れ法要 「村民の平穏と平安を心から願う」
関連項目
編集外部リンク
編集自治体
- 新潟県:防災ポータル
- 3月12日発生長野県北部を震源とする地震に関する情報(防災局)
- 長野県北部地震、平成23年7月新潟・福島豪雨に関する情報(十日町地域振興局)
- 長野県:災害情報
- 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震に関する情報
- 長野県北部の地震による県内への影響について (PDF)
- 栄村地震災害(平成23年3月12日発生)経過 (PDF) 北信建設事務所 - WARPによるアーカイブ
- 長野県北部地震(平成23年3月12日発生)の被害状況(十日町市)
- 東日本大震災(長野県北部地震)津南町の被災状況(津南町)
- 平成23年3月12日発生 長野県北部地震の被害状況写真(津南町)
- 栄村地震(長野県北部地震)(栄村)
その他
- 平成23年3月12日03時59分頃の長野県北部の地震について(第2報) 気象庁
- 2011年3月12日長野県・新潟県県境付近の地震の評価 東京大学地震研究所
- 2011年3月 長野県北部地震に関する緊急撮影 株式会社パスコ
- 長野県北部地震 災害・復興科学研究所