金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に
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「金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏に」(かねもちはよりかねもちに、びんぼうにんはよりびんぼうに、英語: The rich get richer and the poor get poorer)は、パーシー・ビッシュ・シェリーによる英語の格言である。詩集『詩の擁護』(1821年執筆、1840年刊行)の中で、シェリーは次のように書いている。
[The promoters of utility had] exemplified the saying, "To him that hath, more shall be given; and from him that hath not, the little that he hath shall be taken away." The rich have become richer, and the poor have become poorer; and the vessel of the State is driven between the Scylla and Charybdis of anarchy and despotism.[1]
(功利主義者は)「持てる人は、与へられていよいよ豊かならん。されど持たぬ者は、その持てる物をも取らるべし」という格言を例証した。金持ちはより金持ちになり、貧乏人はより貧乏になった。そして国家という船は、無政府主義と専制主義というスキュラとカリュブディスの間に押し流された。
"To him that hath"(持てる人は)云々とあるのはマタイによる福音書25:29にある「タラントン」のたとえ[2]からの引用である(マタイ効果も参照のこと)。この格言は、自由市場・資本主義によって貧富の差が生み出されるという問題を簡潔に述べたものとして、場合によっては表現を変えて一般的に使用される。
同様の概念
編集アメリカ合衆国の第7代大統領であるアンドリュー・ジャクソンは、1832年の第二合衆国銀行の公認延長に対し拒否権を発動することに関する声明で、次のように述べた。
金持ちをより金持ちに、強い者をより強くすることを法律が保証するなら、地位の低い社会構成員の側は、政府に対して不正を訴える権利を有する。
このフレーズはまた、マタイによる福音書の2つの節にも似ている。
おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。 — マタイによる福音書13:12(口語訳)
おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。 — マタイによる福音書25:29(口語訳)
大衆文化において
編集このフレーズは、1921年に大流行した曲"Ain't We Got Fun"(我々は楽しんでいない)によって一般大衆に普及した。そのため、この格言自体がこの曲の作詞者であるガス・カーンとレイモンド・B・イーガンによるものとされることもある[5][6]。
また、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』には以下のフレーズがあり、これがこの格言の元とされることもある。
the rich get richer and the poor get—children![7]
金持ちはより金持ちになり、貧乏人は子沢山だ!
経済学において
編集トマ・ピケティの2014年の著書『21世紀の資本』では、"the rich-get-richer"(金持ちはより金持ちに)という言葉で広く説明されている現象である、資本の所有者は労働者よりも早く資産を蓄積するという彼の中心的な論文を支持する、数百年にわたる一連の実証的データが提示されている[8]。
現代政治において
編集この言葉は、アメリカ合衆国におけるロナルド・レーガン大統領、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の任期[9][10][11]、イギリスにおけるマーガレット・サッチャー首相の任期[12]における、社会経済的傾向を説明するために頻繁に使われてきた。イギリスでの経済的不平等に関してイギリス自由民主党所属の国会議員サイモン・ヒューズが提起した質問に、サッチャーは次のように反論した。「彼は、金持ちが金持ちでなくなるのであれば、貧乏人がより貧乏になっても構わないのです。……何という政策なんでしょう! ええ、彼は、金持ちが金持ちでなくなるのであれば、貧乏人がより貧乏になっても構わない。それが自由民主党の政策なのです[13]」また、イギリスにおけるデーヴィッド・キャメロンによる第1次キャメロン内閣・第2次キャメロン内閣を指すのにも使われてきた[14]。
その他の用法
編集統計学では、"the rich get richer"というフレーズは、中華料理店過程などの優先アタッチメント過程の振る舞いの略式の説明としてよく使用される。すなわち、特定の値をとる一連の結果の次の結果の確率は、その特定の値をすでに持っている結果の数に比例する。これは、人気投票などの現実世界の過程をモデル化するのに役立つ。すなわち、特定の選択肢に人気があると、新しい参加者がその選択肢を採用するようになる(最初の数人の参加者の影響が大きくなる可能性がある)。
社会的影響力を持つ市場
編集音楽、映画、本やその他どのような種類の製品についても、製品の推薦と過去の購入に関する情報が、消費者の選択にかなり影響することが示されている。社会的な影響は、人気のある商品がより人気になる傾向がある、rich-get-richer現象(マタイ効果)を引き起こすことがよくある[15]。
関連項目
編集- 資本蓄積 - 富の再分配
- 金持ちとラザロ
- 貧困トラップ、貧困の悪循環 - 貧困である状態は、富裕層より余計に金がかかる。そして外部からの支援がなければ抜け出せないようになっている。
- 資本蓄積の内部矛盾
- 優先アタッチメント
- 富裕層には社会主義、貧困層には資本主義
- トリクルダウン理論 - 富める者が更に富めば、貧乏人に滴り落ちるという立証されてない仮説
- ウォール街を占拠せよ - アメリカ合衆国において上位1パーセントの富裕層が所有する資産が増加し続け、99パーセントの生活が苦しくなっている事から抗議活動が行われた。
- 資産層を表す用語
- ベイス・オブ・ザ・ピラミッド(略称:BoP) - 世界で一番貧乏で人口が多い層を表す言葉
- 一億総中流
脚注
編集- ^ Shelley, Percy Bysshe (1909–14). A Defence of Poetry (from the Harvard Classics: English Essays: Sidney to Macaulay. Bartleby.com
- ^ 【「タラントン」のたとえ】は『新共同訳聖書』の小見出し。「タラントン」は貨幣単位で『口語訳聖書』などでは「タラント」と表記される。「タレント (単位)」参照。
- ^ Watson, Harry L. (1998). Andrew Jackson V. Henry Clay: Democracy and Development in Antebellum America. Palgrave Macmillan. ISBN 0-312-17772-0 [1]
- ^
- ^ “Ain't We Got Fun”. 2006年8月11日閲覧。
- ^ “Ain't We Got Fun”. Don Ferguson. 2004年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年8月11日閲覧。
- ^ Fitzgerald, F. Scott (1998) [1921]. The Great Gatsby. Oxford University Press. ISBN 0-19-283269-7 p. 76; also at Project Gutenberg of Australia [2]
- ^ https://newrepublic.com/article/117429/capital-twenty-first-century-thomas-piketty-reviewed
- ^ James K. Galbraith. "The rich got richer Archived 2007-09-29 at the Wayback Machine.." Salon, June 8, 2004
- ^ Edward N. Wolf. "The rich get increasingly richer: Latest data on household wealth during the 1980s Archived 2004-10-23 at the Library of Congress Web Archives." Economic Policy Institute Briefing Paper #36. 1993.
- ^ Alan Reynolds. "Upstarts and Downstarts (The Real Reagan Record)." National Review, August 31, 1992.
- ^ Nunns, Alex (April 2013). “Dispelling the Thatcher myths”. Red Pepper 2 May 2016閲覧. "It's said that Thatcher made the British people richer. She didn't. ... The rich got richer; the poor got poorer."
- ^ “HC S: [Confidence in Her Majesty's Government”]. House of Commons Speech (Hansard HC [181/445-53]) (22 November 1990). (22 November 1990) 2 May 2016閲覧. "People on all levels of income are better off than they were in 1979. The hon. Gentleman is saying that he would rather that the poor were poorer, provided that the rich were less rich. That way one will never create the wealth for better social services, as we have. What a policy. Yes, he would rather have the poor poorer, provided that the rich were less rich. That is the Liberal policy."
- ^ Coalition:
- “Tories Make the Rich Richer and the Poor Poorer” (英語). The Huffington Post UK
- Waugh, Rob (16 November 2014). “Rich have become richer thanks to 'austerity' politics - but poor lose out”. Metro 2 May 2016閲覧。
- “Labour: soaring levels of homelessness under Cameron mean more children facing Christmas on streets”. Herald Scotland 2 May 2016閲覧。
- “Cameron tries to soothe MPs ahead of challenging year for party management” (英語). Coffee House. (2 January 2016) 2 May 2016閲覧。
- ^ Altszyler, E; Berbeglia, F.; Berbeglia, G.; Van Hentenryck, P. (2017). “Transient dynamics in trial-offer markets with social influence: Trade-offs between appeal and quality.”. PLoS ONE 12 (7): e0180040. Bibcode: 2017PLoSO..1280040A. doi:10.1371/journal.pone.0180040 .
参考文献
編集- Hayes, Brian (2002). “Follow the Money”. American Scientist 90 (5): 400. doi:10.1511/2002.5.400. — Hayes analyzes several computer models of market economies, applying statistical mechanics to questions in economic theory in the same way that it is applied in computational fluid dynamics, concluding that "If some mechanism like that of the yard-sale model is truly at work, then markets might very well be free and fair, and the playing field perfectly level, and yet the outcome would almost surely be that the rich get richer and the poor get poorer."
- Rieman, J. (1979). The Rich Get Rich and The Poor Get Poorer. New York: Wiley
- David Hapgood (1974). The Screwing of the Average Man — How The Rich Get Richer and You Get Poorer. Bantom Books. ISBN 0-553-12913-9
- Rolf R Mantel (1995). Why the rich get richer and the poor get poorer. Universidad de San Andrés: Victoria, prov. de Buenos Aires. OCLC 44260846
- Ispolatov, S.; Krapivsky, P.L.; Redner, S. (1998). “Wealth distributions in asset exchange models”. The European Physical Journal B 2 (2): 267–76. arXiv:1006.4595. Bibcode: 1998EPJB....2..267I. doi:10.1007/s100510050249. — Ispolatov, Krapivsky, and Redner analyze the wealth distributions that occur under a variety of exchange rules in a system of economically interacting people.
- Chung, Kee H.; Cox, Raymond A. K. (1990). “Patterns of Productivity in the Finance Literature: A Study of the Bibliometric Distributions”. The Journal of Finance 45 (1): 301–9. doi:10.2307/2328824. JSTOR 2328824. — Chung and Cox analyze a bibliometric regularity in finance literature, relating Lotka's law of scientific prductivity to the maxim that "the rich get richer and the poor get poorer", and equating it to the maxim that "success breeds success".