本項では相対論的効果を考えない量子力学の数学的定式化 (りょうしりきがくのすうがくてきていしきか)を厳密に述べる。本項では量子力学 に対する最低限の知識を仮定する。
量子力学において系 の(純粋)量子状態 は、状態ベクトル と呼ばれる単位ベクトルによって表現され、状態ベクトルとその定数倍のなすベクトル空間を状態空間 という。状態空間はヒルベルト空間 という数学的概念によって定式化される。そこで本節ではヒルベルト空間の定義を述べる。
ヒルベルト空間の概念を定義するため、まずは複素計量ベクトル空間を定義する:
定義 (複素計量ベクトル空間 ) ―
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を複素ベクトル空間とする。任意の
φ
,
ψ
,
χ
∈
H
{\displaystyle \varphi ,\psi ,\chi \in {\mathcal {H}}}
に対して以下の性質を満たす二項演算子
⟨
⋅
,
⋅
⟩
:
H
×
H
→
C
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle ~:~{\mathcal {H}}\times {\mathcal {H}}\to \mathbf {C} }
を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の内積 もしくは計量 という:
(共役 対称性)
⟨
φ
,
ψ
⟩
=
⟨
ψ
,
φ
⟩
¯
.
{\displaystyle \langle \varphi ,\psi \rangle ={\overline {\langle \psi ,\varphi \rangle }}.}
(線形性)
∀
a
,
b
∈
C
{\displaystyle \forall a,b\in \mathbf {C} }
に対し、
⟨
χ
,
a
ψ
+
b
φ
⟩
=
a
⟨
χ
,
ψ
⟩
+
b
⟨
χ
,
φ
⟩
{\displaystyle \langle \chi ,a\psi +b\varphi \rangle =a\langle \chi ,\psi \rangle +b\langle \chi ,\varphi \rangle }
(正定値性 )
⟨
ψ
,
ψ
⟩
≥
0
{\displaystyle \langle \psi ,\psi \rangle \geq 0}
であり、しかも
⟨
ψ
,
ψ
⟩
=
0
⟹
ψ
=
0
{\displaystyle \quad \langle \psi ,\psi \rangle =0\implies \psi =0}
である。
複素ベクトル空間上に内積を一つ指定してできる組
(
H
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
を複素計量ベクトル空間 という。
複素計量ベクトルの元
ψ
∈
H
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}}
に対し、内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
に対応する
ψ
{\displaystyle \psi }
のノルム
‖
ψ
‖
{\displaystyle \|\psi \|}
を
‖
ψ
‖
=
⟨
ψ
,
ψ
⟩
{\displaystyle \|\psi \|={\sqrt {\langle \psi ,\psi \rangle }}}
により定義し、
ψ
,
χ
∈
H
{\displaystyle \psi ,\chi \in {\mathcal {H}}}
の間の距離 を
‖
ψ
−
χ
‖
{\displaystyle \|\psi -\chi \|}
により定義すると
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
はこの距離に関して距離空間 の公理を満たす。
定義 (ヒルベルト空間 ) ―
複素計量ベクトル空間
(
H
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
がノルム
‖
ψ
‖
=
⟨
ψ
,
ψ
⟩
{\displaystyle \|\psi \|={\sqrt {\langle \psi ,\psi \rangle }}}
から定まる距離
d
(
ψ
,
χ
)
=
‖
ψ
−
χ
‖
{\displaystyle d(\psi ,\chi )=\|\psi -\chi \|}
に関して完備 であるとき、複素計量ベクトル空間
(
H
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
を複素ヒルベルト空間 、あるいは単にヒルベルト空間 という。
紛れがなければ以下内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
を省略し、記号
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
だけでヒルベルト空間を表すものとする。特に断りがない限り、本項ではヒルベルト空間として可分 なもののみを考える 。
上述の定義より、内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
は、第二成分に関しては線形であるが、第一成分に対しては反線形性
∀
a
,
b
∈
C
{\displaystyle \forall a,b\in \mathbf {C} }
に対し、
⟨
a
ψ
+
b
φ
,
χ
⟩
=
a
¯
⟨
ψ
,
χ
⟩
+
b
¯
⟨
φ
,
χ
⟩
{\displaystyle \langle a\psi +b\varphi ,\chi \rangle ={\bar {a}}\langle \psi ,\chi \rangle +{\bar {b}}\langle \varphi ,\chi \rangle }
が成立する。なお、ここで提示した内積の定義は量子力学では一般的なものだが、数学の文献では、ここに載せたのとは逆に、第一成分に対して線形、第二成分に対して反線形であるものを用いる事が多い。
ヒルベルト空間
H
1
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}}
、
H
2
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{2}}
に対し、全単射線形写像
Φ
:
H
1
→
H
2
{\displaystyle \Phi ~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}}
で
⟨
Φ
(
ψ
)
,
Φ
(
χ
)
⟩
=
⟨
ψ
,
χ
⟩
{\displaystyle \langle \Phi (\psi ),\Phi (\chi )\rangle =\langle \psi ,\chi \rangle }
が全ての
ψ
,
χ
∈
H
1
{\displaystyle \psi ,\chi \in {\mathcal {H}}_{1}}
に対して成立するものが存在するとき、
H
1
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}}
と
H
2
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{2}}
は同型 であるという。
可分 な無限次元ヒルベルト空間は同型を除いて1つしか存在しない。すなわち以下が成立する:
前述のように本項ではヒルベルト空間として可分なもののみを取り扱う。よって本項で登場するヒルベルト空間で次元が無限のものは全て同型である。
量子力学では以下の仮定を課す:
仮定 (状態空間に関する仮定 ) ―
量子力学において状態空間 は複素ヒルベルト空間である新井 (p210) 。状態空間の単位ベクトルを状態ベクトル と呼び、各状態ベクトルは何らかの量子状態に対応している。また2つの状態ベクトルψ 、φ がa =1 を満たす何らかの複素数a でφ =aψ という関係を満たすとき、ψ とφ は同一の量子状態を表す新井 (p210) 。
本節では以降、こうした量子力学の仮定を幾つか述べるが、新井の本 やHallの本 など多くの本ではこうした仮定の事を公理(axiom) と呼んでいる。しかしこうした仮定は数学的な意味での公理 ではないH13 (p64) ので、本項ではその事を明確化するため、F15 に従い、「公理」と呼ばず「仮定 (postulate) 」と呼ぶものとする。
すでに述べたように(可分 な)無限次元ヒルベルト空間は全て同型なので、任意に一つ無限次元ヒルベルト空間を持って来れば、原理的にはそのヒルベルト空間を状態空間とみなした量子力学を定式化できる。しかし通常の量子力学では、物理的な解釈をわかりやすくするため、L2 空間 というヒルベルト空間を用いて量子力学を展開する事が多い。そこで本節ではL2 空間の定義を述べる。
L2 空間を定義するには、測度論 の概念を必要とする。そこでまず測度論を直観的説明する。厳密な説明は当該項目 を参照されたい。
測度空間 X とは、X の部分集合の「大きさ」の概念が定義された空間で、「大きさ」の具体例としては元の個数、面積、体積などがある。測度空間上定義された「大きさ」のことを測度 という。X の全ての部分集合に測度が定義されている必要はなく、測度が定義可能な部分集合を可測 な部分集合という。
測度空間上では積分 を定義可能な事が知られている。ただし測度の場合と同様、全ての関数に対してその積分が定義できるわけではない。積分概念を定義可能な関数の事を可測関数 という。
測度空間X 上の2つの可測関数ψ 、φ が
X の可測部分集合A でA の測度が0 であるものが存在し、
∀
x
∈
X
∖
A
:
ψ
(
x
)
=
φ
(
x
)
{\displaystyle \forall x\in X\setminus A~:~\psi (x)=\varphi (x)}
を満たすとき、ψ とφ はほとんど至るところ 等しい といい、
ψ
(
x
)
=
φ
(
x
)
{\displaystyle \psi (x)=\varphi (x)}
a.e.
と表記する(「a.e.」は「almost everywhere」の略)。
X を測度空間とする。量子力学の文脈ではX は
R
d
{\displaystyle \mathbf {R} ^{d}}
の可測部分集合である事が多い。X 上の可測関数ψ で
∫
X
|
ψ
(
x
)
|
2
d
x
<
∞
{\displaystyle \int _{X}|\psi (x)|^{2}\mathrm {d} x<\infty }
となるものを考え、こうした関数全体の集合に
ψ
∼
φ
⟺
d
e
f
ψ
(
x
)
=
φ
(
x
)
{\displaystyle \psi \sim \varphi {\overset {def}{\iff }}\psi (x)=\varphi (x)}
a.e.
という同値類を定義する。
定義 (L2 関数、L2 空間 ) ― 記号を上述のように定義し、
L
2
(
X
)
:=
{
ψ
:
X
→
C
∣
∫
X
|
ψ
(
x
)
|
2
d
x
<
∞
}
/
∼
{\displaystyle L^{2}(X):=\{\psi ~:~X\to \mathbf {C} \mid \int _{X}|\psi (x)|^{2}\mathrm {d} x<\infty \}/\sim }
と定義する。
L
2
(
X
)
{\displaystyle L^{2}(X)}
の元をX 上のL2 関数 という。
さらにL2 (X) 上の内積を
⟨
ψ
,
χ
⟩
:=
∫
X
ψ
(
x
)
¯
χ
(
x
)
d
x
{\displaystyle \langle \psi ,\chi \rangle :=\int _{X}{\overline {\psi (x)}}\chi (x)\mathrm {d} x}
により定義すると、組
(
L
2
(
X
)
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle (L^{2}(X),\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
はヒルベルト空間をなすことが知られている。このヒルベルト空間をX 上のL2 空間 という。
粒子がk 個からなる系の場合、各粒子が3次元分の自由度 を持つので、L 2 (R 3k ) 空間を利用すれば量子力学を自然に展開できる。また例えば(ポテンシャルの壁に遮られるなどして)粒子が有限の区間I の内部しか動けないようなケースに対しても、X =I の場合のL2 空間L 2 (I ) を利用できる。
以上で述べたように、量子力学の数学的定式化にはヒルベルト空間、特にL2 空間の概念が有効である。ただし、物理学者が量子力学で用いている議論の全てをヒルベルト空間上で数学的に正当化できる事を意味しているわけではない 。
例えば物理学者が量子力学の記述に通常用いるデルタ関数 は、そもそも通常の意味での関数ではないので、L2 空間には属さない。後の章でL2 空間にさらに元を添加する事でデルタ関数をも取り扱う数学的手法についても述べるが、この手法は万能ではなく、例えばデルタ関数同士の積が定義できないという欠点を抱える。よって特にデルタ関数同士の内積を定義できず、デルタ関数を添加した空間はヒルベルト空間にはならない。
こうした数学的な困難を避けるため、以降の議論は、基本的にデルタ関数のような「関数もどき」は慎重に排除した上で展開するものとする。
ヒルベルト空間上で定義可能な関数のクラスとして最も自然なものの一つに有界作用素があり、量子力学における主要概念の一つであるユニタリ作用素は有界作用素の一つである。そこで本節では有界作用素の概念とユニタリ作用素の概念を定式化する。
次の事実が知られている:
定理 ― 線形作用素T が有界である必要十分条件は、T が連続であることである新井 (p65)
したがって有界線形作用素とは、連続線形作用素と言い換えても良い。
有界線形作用素の例としてユニタリ作用素がある。後述するように量子力学ではユニタリ作用素は時間発展を記述するのに用いられる。
上記の条件をみたすときは、明らかにU は単射なので、U は全単射である事になる。したがってユニタリ作用素とは
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
から自分自身への同型写像(自己同型写像)である。
なお、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が有限次元の場合には、単射性から全射性が従うため、ユニタリ作用素の定義において全射という条件は必要ない。しかし
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が無限次元の場合には、全射ではない単射線形作用素も存在するため、全射の条件は必須となる。
定義から明らかに次が成立する:
本節では共役ベクトル空間の概念を定義することでディラックのブラベクトル、ケットベクトル の概念を数学的に定式化し、さらにリースの表現定理を導入することで、ブラベクトルの概念を別の角度から再定式化する。
ヒルベルト空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
で使われている足し算「+ 」、(スカラーとの)掛け算「・ 」、および内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
を明示して、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を
(
H
,
+
,
⋅
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},+,\cdot ,\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
と書くことにする。
定義 (共役ベクトル空間 ) ―
ヒルベルト空間
(
H
,
+
,
⋅
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},+,\cdot ,\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
の元
ψ
∈
H
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}}
と定数
a ∈C 、に対し、
a
×
ψ
:=
a
¯
ψ
{\displaystyle a\times \psi :={\bar {a}}\psi }
と定義すると、
(
H
,
+
,
×
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},+,\times ,\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
もヒルベルト空間になる。ここで
a
¯
{\displaystyle {\bar {a}}}
はa の複素共役である。
(
H
,
+
,
×
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},+,\times ,\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
を
(
H
,
+
,
⋅
,
⟨
⋅
,
⋅
⟩
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},+,\cdot ,\langle \cdot ,\cdot \rangle )}
の共役ベクトル空間 (英語版 ) という。
定義より、共役ベクトル空間は掛け算以外は元の空間と同一である。以下、掛け算を明示しなくても共役ベクトル空間を区別できるようにするため、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の共役ベクトル空間を
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
と表記する。また
ψ
{\displaystyle \psi }
が
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
の元である事が文脈から明らかな場合は、
a
×
ψ
{\displaystyle a\times \psi }
を略記して単に
a
ψ
{\displaystyle a\psi }
と表記する。
ヒルベルト空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
は、第一成分に対して反線形、第二成分に対して線形であった。しかし内積の第一成分を共役ベクトル空間を
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
とみなして
(
χ
,
ϕ
)
∈
H
∗
×
H
→
⟨
χ
,
ϕ
⟩
∈
C
{\displaystyle (\chi ,\phi )\in {\mathcal {H}}^{*}\times {\mathcal {H}}\to \langle \chi ,\phi \rangle \in \mathbf {C} }
だとすれば、内積
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
は、第一成分、第二成分双方に関して線形である事になるので便利である。そこで量子力学では
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元と
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
の元とを区別して考え、以下のように呼ぶ:
定義 (ブラベクトルとケットベクトル ) ―
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
の元をブラベクトル 、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元をケットベクトル と呼ぶF15 (p23) [ 注 1] 。
ブラベクトル
ψ
∈
H
∗
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}^{*}}
に対し、線形作用素
χ
∈
H
↦
⟨
ψ
,
χ
⟩
∈
C
{\displaystyle \chi \in {\mathcal {H}}\mapsto \langle \psi ,\chi \rangle \in \mathbf {C} }
を考えると、コーシー=シュワルツの不等式
⟨
ψ
,
χ
⟩
≤
‖
ψ
‖
‖
χ
‖
{\displaystyle \langle \psi ,\chi \rangle \leq \|\psi \|\|\chi \|}
より、この作用素は有界作用素である。実は複素数値の有界線形作用素はこの形のものに限られる事が知られている:
なお
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が有限次元であれば上に述べた事実は自明であるが、無限次元であってもこの事実が成り立つ所にこの定理の主眼がある。以上の事実から、ブラベクトルを以下のように特徴づけられる事がわかる:
系 ―
ブラベクトルと複素数値の有界線形作用素は1対1に対応する。
既に述べたように作用素が有界である事はその作用素が連続である事を意味している為、有界性はヒルベルト空間上の作用素の最も自然な概念の一つである。しかし量子力学で用いられる作用素の多くは有界ではないし、しかも
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の部分領域でしか定義できない。 この原因は、量子力学で用いられる作用素の多くが微分を用いて定義されており、微分作用素が有界でもなければ
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
全域で定義できるわけでもない事にある。
幸運な事に、これら量子力学で用いる作用素は「稠密に定義された可閉作用素 」という、比較的扱いやすいクラスに属している事が知られている。そこで本節では、まず「稠密に定義された」という概念と「可閉」という概念を定式化する。
次に本節では、この「稠密に定義された可閉作用素」の概念をベースとして、量子力学におけるオブザーバブルの概念を定式化する。すなわち、稠密に定義された可閉作用素の共役作用素 の概念を定式化し、共役作用素の概念を用いて自己共役作用素 の概念を定式化し、最後に量子力学におけるオブザーバブルの概念を自己共役作用素により定式化する。
オブザーバブルは状態空間の全域で定義されているとは限らないが、状態空間の稠密部分集合上では定義が可能である。そこでまず、稠密に定義された作用素の概念を導入する。
紛れがなければ
H
1
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}}
上稠密に定義された作用素を単に
T
:
H
1
→
H
2
{\displaystyle T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}}
と書く[ 注 2]
特に
D
o
m
(
T
)
=
H
1
{\displaystyle \mathrm {Dom} (T)={\mathcal {H}}_{1}}
が成立しているとき、T は
H
1
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}}
の全域で定義されている という。
稠密に定義された作用素に対し以下の拡大の概念を定義できる:
定義 (稠密に定義された線形作用素の拡大 ) ―
稠密に定義された2つの線形作用素
S
,
T
:
H
1
→
H
2
{\displaystyle S,T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}}
が、 Dom(S ) ⊂ Dom(T ) かつT |Dom(S ) = S を満たすとき、T はS の拡大 であるといい、以下のように書き表す:
S ⊂ T
有界作用素に関しては、次の重用な性質が知られている:
定理 (BLT定理 ) ―
稠密に定義された作用素 T がその定義域において有界な線形作用素であれば、T を全域に一意に拡張可能である。すなわち、全域で定義された
T
¯
:
H
1
→
H
2
{\displaystyle {\bar {T}}~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}}
が一意に存在し、
T
¯
|
D
o
m
(
T
)
=
T
{\displaystyle {\bar {T}}|_{\mathrm {Dom} (T)}=T}
である新井 (p71)
したがって有界作用素に限定すれば、稠密に定義されている事は全域で定義されている事と実質的な差がない。しかし量子力学で用いる作用その多くは有界ではないので、この定理を用いる事ができない。
T が可閉作用素である必要十分条件は、任意の点列ψ n ∈Dom(T ) に対し、n →∞ のときψ n →0 かつT (ψ n )→χ であればχ =0 が成立する事である新井 (p87) 。
T
:
H
1
→
H
2
{\displaystyle T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}}
を稠密に定義された線形作用素とする。ベクトル
ψ
∈
H
2
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}_{2}}
に対し、以下の性質を満たす
ψ
′
∈
H
1
{\displaystyle \psi '\in {\mathcal {H}}_{1}}
を考える:
任意の
ϕ
∈
D
o
m
(
T
)
{\displaystyle \phi \in \mathrm {Dom} (T)}
に対し、
⟨
ψ
′
,
ϕ
⟩
=
⟨
ψ
,
T
(
ϕ
)
⟩
{\displaystyle \langle \psi ',\phi \rangle =\langle \psi ,T(\phi )\rangle }
このような
ψ
′
{\displaystyle \psi '}
は常に存在するとは限らないが、存在すれば一意である事を示せる新井 (p82-83) [ 注 3] 。そこで共役作用素を以下のように定義する:
定義 (共役作用素 ) ―
D
o
m
(
T
∗
)
=
{
ψ
∈
H
2
:
{\displaystyle \mathrm {Dom} (T^{*})=\{~\psi \in {\mathcal {H}}_{2}~:~}
上述の性質を満たす
ψ
′
{\displaystyle \psi '}
が存在する
}
{\displaystyle \}}
とし、線形写像T* を
T
∗
:
D
o
m
(
T
∗
)
→
H
1
,
ψ
↦
ψ
′
{\displaystyle T^{*}~:~\mathrm {Dom} (T^{*})\to {\mathcal {H}}_{1},\quad \psi \mapsto \psi '}
により定義し、T* をT の共役作用素 という新井 (p82-83) 。
定義より明らかに
任意の
x
∈
D
o
m
(
T
)
∩
D
o
m
(
T
∗
∗
)
{\displaystyle x\in \mathrm {Dom} (T)\cap \mathrm {Dom} (T^{**})}
に対し、
T
∗
∗
(
x
)
=
T
(
x
)
{\displaystyle T^{**}(x)=T(x)}
であるが、T が有界とは限らない時、T が稠密に定義されていたとしてもT* が稠密に定義されることもT ** とT の定義域が一致する事も無条件には保証されない新井 (p83-84) が、T が可閉であればこれらは保証される:
定理 ―
T が可閉であれば以下が成立する:
T* が稠密に定義される⇔T が可閉作用素新井 (p90)
D
o
m
(
T
∗
∗
¯
)
=
D
o
m
(
T
¯
)
{\displaystyle \mathrm {Dom} ({\overline {T^{**}}})=\mathrm {Dom} ({\bar {T}})}
量子力学では以下の仮定を課す:
仮定 (オブザーバブルに関する仮定 ) ―
量子力学におけるオブザーバブルは自己共役作用素として表現される。
明らかに次が成立する:
命題 ―
T は自己共役作用素⇒T は対称作用素⇒T はエルミート作用素
しかし逆向きは一般には成り立たない。与えられた作用素が自己共役かどうかを決定する問題を自己共役性の問題 といい、それだけで一冊の本が書けるほど難しい問題である新井 (p228) 。
自己共役作用素とその関連概念に対し以下が知られている:
上記定理の性質3はT が可閉作用素である必要十分条件はT* が稠密に定義されることと性質2から従う新井 (p90) 。
性質1より、以下本項ではT が本質的に自己共役な場合には、紛れがなければT と
T
¯
{\displaystyle {\bar {T}}}
を混用する 。
自己共役作用素は必ず掛け算作用素として表現できる事が知られている:
本節では
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
の場合に対して、オブザーバブルの具体例を述べる。
量子力学で登場する代表的なオブザーバブルは、いずれも偏微分を用いて表現できるので、まず本節では微分作用素の定義と性質を述べる。
定義 (微分作用素 ) ―
非負整数α 1 、…、α d ≧0 からなるベクトル(α 1 、…、α d ) に対し、
|
α
|
:=
α
1
+
⋯
+
α
d
{\displaystyle |\alpha |:=\alpha _{1}+\cdots +\alpha _{d}}
∂
α
:=
∂
|
α
|
∂
α
1
x
1
⋯
∂
α
d
x
d
{\displaystyle \partial ^{\alpha }:={\frac {\partial ^{|\alpha |}}{\partial ^{\alpha _{1}}x_{1}\cdots \partial ^{\alpha _{d}}x_{d}}}}
とする(この記法を多重指数表記 という)。
D
=
∑
α
:
|
α
|
≤
m
ψ
α
(
x
)
∂
α
{\displaystyle D=\sum _{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}\psi _{\alpha }(x)\partial ^{\alpha }}
の形で書ける作用素をm 次の微分作用素 という。ここで添え字α は非負整数の組で、和は有限和であり、ψ α (x ) はR d 上の複素数値の局所自乗可積分な関数である。なおD の定義において、α 1 =…=α d =0 の項
ψ
0
(
x
)
∂
0
{\displaystyle \psi _{0}(x)\partial ^{0}}
はψ 0 (x ) 倍する演算子とみなす。
本節の目標は、微分作用素D のうち性質の良いものを
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
上定義されたオブザーバブルとみなす事である。しかしそもそも偏微分
∂
∂
x
j
ψ
(
x
)
{\displaystyle {\partial \over \partial x_{j}}\psi (x)}
は
ψ
(
x
)
∈
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle \psi (x)\in L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
が可微分でなければそもそも定義できないので、単純にD を
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
の元に作用させることはできない。そこで以下の事実を用いる:
微分作用素D はC∞ 0 (R d ) 上で明らかに定義可能であり、しかもC∞ 0 (R d ) の元をL2 (R d ) に写すので、以下の系が従う:
系 ―
微分作用素D を
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
上稠密に定義された線形作用素とみなす事ができる。
定義 (掛け算作用素・位置作用素 ) ―
実数値可測関数
f
:
R
d
→
R
{\displaystyle f~:~\mathbf {R} ^{d}\to \mathbf {R} }
に対して線形作用素Mf を
M
f
:
D
o
m
(
M
f
)
→
L
2
(
R
3
)
,
{\displaystyle M_{f}~:~\mathrm {Dom} (M_{f})\to L^{2}(\mathbf {R} ^{3}),\quad }
ψ
(
x
)
↦
f
(
x
)
ψ
(
x
)
{\displaystyle \psi (x)\mapsto f(x)\psi (x)}
と定義し、Mf の閉包を掛け算作用素 という。ここで
D
o
m
(
M
f
)
:=
{
ψ
(
x
)
∈
L
2
(
R
d
)
:
{\displaystyle \mathrm {Dom} (M_{f}):={\bigg \{}\psi (x)\in L^{2}(\mathbf {R} ^{d})~:~}
∫
R
d
|
f
(
x
)
ψ
(
x
)
|
2
d
x
<
∞
}
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} ^{d}}|f(x)\psi (x)|^{2}\operatorname {d} x<\infty {\bigg \}}}
である。
特にj = 1,...,d でf(x)=xj という形の掛け算作用素を第j 位置作用素 という。
上記の定理は以下のように証明できる。可測性から
C
0
∞
(
R
d
)
⊂
D
o
m
(
M
f
)
{\displaystyle C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})\subset \mathrm {Dom} (M_{f})}
なのでMf は稠密に定義された作用素であり、しかも明らかにMf は対称作用素である。さらに
ϕ
∈
D
o
m
(
M
f
∗
)
{\displaystyle \phi \in \mathrm {Dom} (M_{f}{}^{*})}
とすれば、任意の
ψ
∈
D
o
m
(
M
f
)
{\displaystyle \psi \in \mathrm {Dom} (M_{f})}
に対し、
⟨
χ
,
ψ
⟩
=
⟨
ϕ
,
M
f
(
ψ
)
⟩
{\displaystyle \langle \chi ,\psi \rangle =\langle \phi ,M_{f}(\psi )\rangle }
をみたすので、
∫
R
d
χ
(
x
)
ψ
(
x
)
d
x
=
⟨
χ
,
ψ
⟩
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} ^{d}}\chi (x)\psi (x)\mathrm {d} x=\langle \chi ,\psi \rangle }
=
⟨
ϕ
,
M
f
(
ψ
)
⟩
=
∫
R
d
f
(
x
)
ϕ
(
x
)
ψ
(
x
)
d
x
{\displaystyle =\langle \phi ,M_{f}(\psi )\rangle =\int _{\mathbf {R} ^{d}}f(x)\phi (x)\psi (x)\mathrm {d} x}
である。
ψ
∈
D
o
m
(
M
f
)
{\displaystyle \psi \in \mathrm {Dom} (M_{f})}
の任意性より、これは
χ
(
x
)
=
f
(
x
)
ϕ
(
x
)
{\displaystyle \chi (x)=f(x)\phi (x)}
a.e を意味する。χ の自乗可積分性 とDom(M f ) の定義より、
ϕ
∈
D
o
m
(
M
f
)
{\displaystyle \phi \in \mathrm {Dom} (M_{f})}
である。よってDom(M f * )=Dom(M f ) であり、掛け算作用素Mj は自己共役作用素である。
定義 (運動量作用素 ) ―
線形作用素
P
j
:
C
0
∞
(
R
d
)
→
L
2
(
R
d
)
,
{\displaystyle P_{j}~:~C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})\to L^{2}(\mathbf {R} ^{d}),\quad }
ψ
(
x
)
↦
−
i
ℏ
∂
∂
x
j
ψ
(
x
)
{\displaystyle \psi (x)\mapsto -i\hbar {\partial \over \partial x_{j}}\psi (x)}
の閉包を第j 運動量作用素 という。
定理・定義 ―
各j に対し第j 運動量作用素Pj は本質的に自己共役である。より一般に
D
=
∑
α
:
|
α
|
≤
m
(
−
i
)
|
α
|
a
α
∂
α
∂
α
1
x
1
⋯
∂
α
d
x
d
,
{\displaystyle D=\sum _{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}(-i)^{|\alpha |}a_{\alpha }{\frac {\partial ^{\alpha }}{\partial ^{\alpha _{1}}x_{1}\cdots \partial ^{\alpha _{d}}x_{d}}},}
∀
α
:
a
α
∈
R
{\displaystyle \forall \alpha ~:~a_{\alpha }\in \mathbf {R} }
…(A1 )
という形で書ける微分作用素は本質的に自己共役である新井 (p198) 。特に
C
0
∞
(
R
d
)
→
L
2
(
R
d
)
,
{\displaystyle C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})\to L^{2}(\mathbf {R} ^{d}),\quad }
ψ
(
x
)
↦
−
i
ℏ
(
x
k
∂
∂
x
j
−
x
j
∂
∂
x
k
)
ψ
(
x
)
{\displaystyle \psi (x)\mapsto -i\hbar \left(x_{k}{\partial \over \partial x_{j}}-x_{j}{\partial \over \partial x_{k}}\right)\psi (x)}
の閉包として書ける軌道角運動量作用素 も自己共役である。
(A1 )の形の微分作用素D が自己共役である事の証明は本項の範囲を超えるため省略するが、D が対称作用素である事は以下のように示すことができる。φ , ψ ∈C∞ 0 (R d ) に対し、部分積分の公式 から
⟨
−
i
∂
j
ϕ
,
ψ
⟩
=
∫
R
d
(
−
i
∂
j
ϕ
(
x
)
)
∗
ψ
(
x
)
d
x
{\displaystyle \langle -i{\partial _{j}}\phi ,\psi \rangle =\int _{\mathbf {R} ^{d}}(-i{\partial _{j}}\phi (x))^{*}\psi (x)\mathrm {d} x}
=
i
∂
j
∫
R
d
ϕ
(
x
)
ψ
(
x
)
d
x
−
∫
R
d
ϕ
∗
(
x
)
(
−
i
∂
j
ψ
(
x
)
)
d
x
=
⟨
ϕ
,
−
i
∂
j
ψ
⟩
{\displaystyle =i\partial _{j}\int _{\mathbf {R} ^{d}}\phi (x)\psi (x)\mathrm {d} x-\int _{\mathbf {R} ^{d}}\phi ^{*}(x)(-i{\partial _{j}}\psi (x))\mathrm {d} x=\langle \phi ,-i\partial _{j}\psi \rangle }
である。(A1 )の形の微分作用素は
−
i
∂
j
{\displaystyle -i\partial _{j}}
の実数係数多項式であるので、
⟨
D
(
ϕ
)
,
ψ
⟩
=
⟨
ϕ
,
D
(
ψ
)
⟩
{\displaystyle \langle D(\phi ),\psi \rangle =\langle \phi ,D(\psi )\rangle }
が成立する。D の定義域C∞ 0 (R d ) は
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
で稠密だったので、これはD が対称作用素である事を意味する。
量子力学では時刻t に依存するかもしれないポテンシャル と呼ばれる実数値局所可積分関数V (x ,t ) を固定し、シュレディンガー作用素 と呼ばれる作用素
H
=
−
∑
j
=
1
n
ℏ
2
m
j
(
∂
2
∂
x
j
,
1
2
+
⋅
+
∂
2
∂
x
j
,
ℓ
2
)
+
V
(
x
,
t
)
{\displaystyle H=-\sum _{j=1}^{n}{\hbar \over 2m_{j}}\left({\partial ^{2} \over \partial x_{j,1}{}^{2}}+\cdot +{\partial ^{2} \over \partial x_{j,\ell }{}^{2}}\right)+V(x,t)}
を考える。ここでmj は何らかの定数で、物理的にはj 番目の粒子の質量を表す。またl は次元であり、物理学的なセッティングでは3 である。各時刻t に対しシュレディンガー作用素は常に対称作用素であるが新井 (p227) 、本質的に自己共役であるか否かはポテンシャルによる。
ここで
L
p
(
R
ℓ
)
+
L
∞
(
R
ℓ
)
{\displaystyle L^{p}(\mathbb {R} ^{\ell })+L^{\infty }(\mathbb {R} ^{\ell })}
は
L
p
(
R
ℓ
)
{\displaystyle L^{p}(\mathbb {R} ^{\ell })}
の元と
L
∞
(
R
ℓ
)
{\displaystyle L^{\infty }(\mathbb {R} ^{\ell })}
の元の和で書ける関数の集合である。
量子力学を定式化するため、ディラック はデルタ関数
δ
(
x
)
=
{
∞
if
x
=
0
0
otherwise
{\displaystyle \delta (x)={\begin{cases}\infty &{\text{if }}x=0\\0&{\text{otherwise}}\end{cases}}}
を導入した。数学的に見た場合、このような「関数」は存在しないものの関数概念を一般化した「超関数」の概念を使う事でデルタ関数を数学的に定式化でき、これによりディラックの議論をある程度の部分まで数学的に正当化ができる(全ての議論を正当化できるわけではない。詳細後述)。そこで本稿では超関数の概念を導入し、デルタ関数を超関数の概念を使って定式化し、超関数の性質を調べる。
本節では超関数の概念を定式化するのに必要な概念を導入する。
C∞ 0 (Ω ) と
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
編集
定義 (C∞ 0 (Ω ) と
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
) ― R d の領域Ω ⊂R d に対し、
C
0
∞
(
Ω
)
=
{
ψ
(
x
)
:
Ω
→
C
,
{\displaystyle C_{0}^{\infty }(\Omega )=\{\psi (x):\Omega \to \mathbf {C} ~,}
C∞ 級関数 s.t. ある有界 閉集合 K ⊂Ω が存在し、ψ はΩ \K 上で恒等的に0である
}
{\displaystyle \}}
とする。
さらにα =(α 1 ,...,α d ) 、β =(β 1 ,...,β d ) に対し、及びC ∞ 級関数ψ : R d → C に対し、
‖
ψ
‖
α
,
β
:=
sup
x
∈
R
d
|
x
α
∂
β
ψ
(
x
)
|
{\displaystyle \|\psi \|_{\alpha ,\beta }:=\sup _{x\in \mathbf {R} ^{d}}\left|x{}^{\alpha }\partial ^{\beta }\psi (x)\right|}
、ここで
x
α
:=
x
1
α
1
⋯
x
1
α
d
{\displaystyle x^{\alpha }:=x_{1}{}^{\alpha _{1}}\cdots x_{1}{}^{\alpha _{d}}}
と定義する。C ∞ 級関数ψ : R d → C が
任意のα =(α 1 ,...,α d ) 、β =(β 1 ,...,β d ) に対し、
‖
ψ
‖
α
,
β
<
∞
{\displaystyle \|\psi \|_{\alpha ,\beta }<\infty }
という性質を満たすとき、ψ を急減少関数 といい、R n 上の急減少関数全体の集合
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
と書き、
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
をシュワルツ空間 というF15 (p109) 。
明らかに
C
0
∞
(
R
d
)
⊂
S
(
R
d
)
{\displaystyle C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})\subset {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
である。また前述したようにC∞ 0 (R d ) はL 2 (R d ) の稠密部分空間なので、次の事実が成り立つ:
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
はL2 (R d ) の稠密部分空間である新井 (p190-191) 。
定義から明らかなように
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
は次を満たす
ψ (x1 ,...,xn )∈
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
なら、任意のα =(α 1 ,...,α d ) 、β =(β 1 ,...,β d ) に対し、
x
α
∂
β
ψ
(
x
)
∈
S
(
R
d
)
{\displaystyle x{}^{\alpha }\partial ^{\beta }\psi (x)\in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
よって特に、位置作用素や運動量作用素は
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
の元を
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
の元に写す。
C∞ 0 (Ω ) の元の列および
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
の元の列の収束性を定義する。
Ω をR d の領域とし、ψ : Ω → C を局所可積分関数とするとき、C∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数Tψ を
T
ψ
:
C
0
∞
(
Ω
)
→
C
{\displaystyle T_{\psi }~:~C_{0}^{\infty }(\Omega )\to \mathbf {C} }
、
ϕ
↦
∫
R
d
ϕ
(
x
)
ψ
(
x
)
d
x
{\displaystyle \phi \mapsto \int _{\mathbf {R} ^{d}}\phi (x)\psi (x)\mathrm {d} x}
により定義することで、局所可積分関数ψ にC∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数Tψ を対応させる事ができる。この対応関係が単射な事は容易に確かめられるので、ψ とTψ を自然に同一視することにすると、C∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数の集合は局所可積分関数の集合を部分集合として含むことになるので、C∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数を局所可積分関数よりも広いクラスの「関数」であるとみなせる。そこでC∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数で「連続」なものの事を「シュワルツ超関数 」、あるいは単に「超関数」と呼ぶことにする。
定義 (超関数 ) ―
線形汎関数
T : C∞ 0 (Ω )→R
で連続なものをシュワルツ超関数 、あるいは単に超関数 という。
ここでC∞ 0 (Ω ) 上の線形汎関数T が連続 であるとは、C∞ 0 (Ω ) の元の列
{
ϕ
n
}
n
∈
N
{\displaystyle \{\phi _{n}\}_{n\in \mathbb {N} }}
がC∞ 0 (Ω ) の元
ϕ
{\displaystyle \phi }
に収束するときは常に
lim
n
→
∞
T
(
ϕ
n
)
=
T
(
ϕ
)
{\displaystyle \lim _{n\to \infty }T(\phi _{n})=T(\phi )}
が成立する事を言うF15 (p103) 。
超関数全体の集合を
D
′
(
Ω
)
{\displaystyle {\mathcal {D}}'(\Omega )}
と表記する。
2つの超関数に対してその線形和を自然に定義できるため、超関数全体の集合はベクトル空間をなす。同様に緩増加超関数を以下のように定義する:
以下、超関数T と局所可積分関数ψ に対し、
⟨
T
,
ψ
⟩
:=
T
(
ψ
)
{\displaystyle \langle T,\psi \rangle :=T(\psi )}
と表記する。緩増加超関数に対しても同様の表記を用いる。なお上述の表記は内積に似ているが、内積の定義では複素共役を取っている事が原因で、
⟨
T
ϕ
,
ψ
⟩
=
⟨
ϕ
∗
,
ψ
⟩
{\displaystyle \langle T_{\phi },\psi \rangle =\langle \phi ^{*},\psi \rangle }
となることに注意されたい。
T を緩増加超関数とするとき、T の定義域を
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
の部分集合C∞ 0 (R d ) に制限した
T
|
C
0
∞
(
R
d
)
:
C
0
∞
(
R
d
)
→
C
{\displaystyle T|_{C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})}~:~C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})\to \mathbf {C} }
は超関数になる。よって制限写像により緩増加超関数全体の集合
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
から超関数全体の集合
D
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {D}}'(\mathbf {R} ^{d})}
への写像
S
′
(
R
d
)
→
D
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})\to {\mathcal {D}}'(\mathbf {R} ^{d})}
、
T
↦
T
|
C
0
∞
(
R
d
)
{\displaystyle T\mapsto T|_{C_{0}^{\infty }(\mathbf {R} ^{d})}}
を考える事ができる。この写像は単射である事が知られているので、この写像により自然に
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
を
D
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {D}}'(\mathbf {R} ^{d})}
の部分集合とみなすことができる。
ディラックのデルタ関数の概念は、緩増加超関数の概念を用いて定式化する事ができる。
定義 (デルタ超関数 ) ―
Ω をR d の開集合 とするとき、以下のように定義される超関数をデルタ超関数 という:
δ
:
C
0
∞
(
Ω
)
→
C
{\displaystyle \delta ~:~C_{0}^{\infty }(\Omega )\to \mathbf {C} }
、
ϕ
↦
ϕ
(
0
)
{\displaystyle \phi \mapsto \phi (0)}
内積の定義より、これは
⟨
δ
,
ϕ
⟩
=
ϕ
(
0
)
{\displaystyle \langle \delta ,\phi \rangle =\phi (0)}
を意味する。上式をL2 空間における内積の定義と照らし合わせると、上式はディラックの議論における
∫
Ω
δ
(
x
)
ϕ
(
x
)
d
x
=
ϕ
(
0
)
{\displaystyle \int _{\Omega }\delta (x)\phi (x)\mathrm {d} x=\phi (0)}
を数学的に正当化したものとみなせる。
超関数に対する偏微分の概念を定義する為、まずはC∞ 0 (Ω ) の元の偏微分に関して簡単な考察をする。φ 、ψ をC∞ 0 (Ω ) の2つの元とするとき、C∞ 0 (Ω ) の定義よりφ (x ) 、ψ (x ) が0でないx の集合は有界閉集合であるのに対し、Ω をR d の開集合 であるので、Ω の境界上ではφ (x ) 、ψ (x ) は0になる。よって微分積分学の基本定理 から、
∫
Ω
∂
x
i
(
ψ
(
x
)
ϕ
(
x
)
)
d
x
=
0
{\displaystyle \int _{\Omega }\partial _{x_{i}}(\psi (x)\phi (x))\mathrm {d} x=0}
が成立する。よってライプニッツルール により
⟨
∂
x
i
ψ
,
ϕ
⟩
=
∫
Ω
∂
x
i
(
ψ
(
x
)
)
ϕ
(
x
)
d
x
{\displaystyle \langle \partial _{x_{i}}\psi ,\phi \rangle =\int _{\Omega }\partial _{x_{i}}(\psi (x))\phi (x)\mathrm {d} x}
=
−
∫
Ω
ψ
(
x
)
∂
x
i
(
ϕ
(
x
)
)
d
x
=
−
⟨
ψ
,
∂
x
i
ϕ
⟩
{\displaystyle =-\int _{\Omega }\psi (x)\partial _{x_{i}}(\phi (x))\mathrm {d} x=-\langle \psi ,\partial _{x_{i}}\phi \rangle }
が成立する。そこで上式を参考にして、超関数の偏微分を以下のように定義する:
定義 (デルタ超関数 ) ―
超関数T の偏微分 を
∂
x
i
T
(
ϕ
)
=
⟨
∂
x
i
T
,
ϕ
⟩
:=
−
⟨
T
,
∂
x
i
ϕ
⟩
{\displaystyle \partial _{x_{i}}T(\phi )=\langle \partial _{x_{i}}T,\phi \rangle :=-\langle T,\partial _{x_{i}}\phi \rangle }
により定義する。
C∞ 0 (Ω ) の元は無限回微分可能なので、上記の定義は常に意味を持つ。より一般に微分作用素を
(
∑
α
:
|
α
|
≤
m
ψ
α
(
x
)
∂
x
1
α
1
⋯
∂
x
d
α
d
)
T
:=
∑
α
:
|
α
|
≤
m
ψ
α
(
x
)
∂
x
1
α
1
⋯
∂
x
d
α
d
T
{\displaystyle \left(\sum {}_{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}\psi _{\alpha }(x)\partial _{x_{1}}^{\alpha _{1}}\cdots \partial _{x_{d}}^{\alpha _{d}}\right)T:=\sum {}_{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}\psi _{\alpha }(x)\partial _{x_{1}}^{\alpha _{1}}\cdots \partial _{x_{d}}^{\alpha _{d}}T}
も定義可能である。
ここで注意すべきことは、局所可積分関数ψ それ自身が偏微分不能な関数であっても、
∂
x
i
T
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}T_{\psi }}
は定義可能 な事である。これはψ の偏微分は通常の関数としては存在しなくとも、超関数の中にはψ (と同一視されるTψ )の偏微分が存在する事が原因である。紛れがなければ以下
∂
x
i
T
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}T_{\psi }}
の事を単に
∂
x
i
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}\psi }
と書き、
∂
x
i
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}\psi }
をψ の超関数としての偏微分 と呼ぶ。
また通常の関数の場合、仮に二階偏微分可能であっても
∂
x
i
∂
x
j
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}\partial _{x_{j}}\psi }
と
∂
x
j
∂
x
i
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{j}}\partial _{x_{i}}\psi }
が異なる関数になる場合があるが、超関数としての微分を考えた場合、
∂
x
i
∂
x
j
T
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{i}}\partial _{x_{j}}T_{\psi }}
と
∂
x
j
∂
x
i
T
ψ
{\displaystyle \partial _{x_{j}}\partial _{x_{i}}T_{\psi }}
は必ず同一の超関数になる事を簡単に確認できる。
以上で示したように、超関数の概念を用いる事でディラックによるデルタ関数の議論の一部を数学的に正当化できるが、超関数を用いても全ての議論を正当化できるわけではない。例えば以下の議論は超関数では正当化されない:
公式
⟨
δ
(
x
−
λ
)
,
δ
(
x
−
τ
)
⟩
=
δ
(
λ
−
τ
)
{\displaystyle \langle \delta (x-\lambda ),\delta (x-\tau )\rangle =\delta (\lambda -\tau )}
:そもそも超関数同士の積は定義不可能である。(詳細はシュワルツ超関数 の項目を参照されたい)
C∞ 0 (Ω ) 以外のL2 空間の元とデルタ関数との内積を取ること:前述した内積の定義は超関数とC∞ 0 (Ω ) の元との間にのみ定義されているので、C∞ 0 (Ω ) に属していない元とは内積を取れない。
デルタ関数は超関数であり、L2 空間の元ではないので、デルタ関数をあたかも通常の状態ベクトルであるかのように扱う議論は必ずしも正当化できない。
関数ψ の超関数としての微分が関数で書けるとき、その関数をψ の弱微分という:
定義 (弱微分 ) ―
Ω をR d の開集合 とする。局所可積分関数ψ 、χ : Ω → C に対応する超関数Tψ 、Tχ が
T
χ
=
∂
i
T
ψ
{\displaystyle T_{\chi }=\partial _{i}T_{\psi }}
を満たす時、χ はψ の弱微分 であるとい、
χ
=
w
-
∂
i
ψ
{\displaystyle \chi =w{\text{-}}\partial _{i}\psi }
と表記する。
定理 (運動量作用素の定義域 ) ―
運動量作用素(の閉包作用素)Pj の定義域は以下のように書くことができる:
D
o
m
(
P
j
)
=
{
ψ
∈
H
∣
∃
w
-
∂
j
ψ
j
,
‖
w
-
∂
j
ψ
j
‖
2
<
∞
}
{\displaystyle \mathrm {Dom} (P_{j})=\{\psi \in {\mathcal {H}}\mid \exists w{\text{-}}\partial _{j}\psi _{j},~\|w{\text{-}}\partial _{j}\psi _{j}\|^{2}<\infty \}}
本節では、関数 f : R → C のフーリエ変換
F
(
f
)
(
ξ
)
:=
1
(
2
π
)
d
/
2
∫
−
∞
∞
f
(
x
)
e
−
i
x
ξ
d
x
{\displaystyle {\mathcal {F}}(f)(\xi ):={1 \over (2\pi )^{d/2}}\int _{-\infty }^{\infty }f(x)\ e^{-ix\xi }\,\mathrm {d} x}
とその逆変換に当たるフーリエ逆変換
F
∗
(
g
)
(
x
)
:=
1
(
2
π
)
d
/
2
∫
−
∞
∞
g
(
ξ
)
e
i
x
ξ
d
x
{\displaystyle {\mathcal {F}}^{*}(g)(x):={1 \over (2\pi )^{d/2}}\int _{-\infty }^{\infty }g(\xi )\ e^{ix\xi }\,\mathrm {d} x}
の厳密な定義を述べ、その性質を調べ、そして最後に位置作用素と運動量作用素が(換算プランク定数を除いて)フーリエ変換で移り合う関係にある事を見る。
フーリエ変換とその逆変換を定義する上で問題になるのは、f やg がどのようなクラスに属すればこれらの変換が定義でき、変換によってできあがる関数
F
(
f
)
{\displaystyle {\mathcal {F}}(f)}
、
F
∗
(
g
)
{\displaystyle {\mathcal {F}}^{*}(g)}
がどのようなクラスに属するか、という事である。本節ではまずシュワルツ空間という関数空間のクラスを定義し、フーリエ変換がシュワルツ空間上の全単射になっている事を示す。次に本節では、シュワルツ空間上の線型汎函数である「緩増加超関数」に対してもフーリエ変換が定義可能なことを見る。そして最後にフーリエ変換がL2 空間上の全単射になっている事を見る。
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
と
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
の上のフーリエ変換
編集
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
上のフーリエ変換
編集
次が成立する事を簡単な計算で確かめることができる:
定理 ―
フーリエ変換とフーリエ逆変換は
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
上定義可能である。しかもこれらの変換は
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
上の全単射であり、フーリエ変換とフーリエ逆変換は逆写像の関係にあるF15 (p112)
またこれらの変換は連続である:
ψ
,
χ
∈
S
(
R
d
)
{\displaystyle \psi ,\chi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
に対し、超関数の時と同様
T
ψ
(
χ
)
:=
∫
R
d
ψ
(
x
)
χ
(
x
)
d
x
{\displaystyle T_{\psi }(\chi ):=\int _{\mathbf {R} ^{d}}\psi (x)\chi (x)\mathrm {d} x}
と定義する事で、シュワルツ関数
ψ
∈
S
(
R
d
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
に緩増加超関数Tψ を対応させることができる。
定理 ― 写像
ψ
∈
S
(
R
d
)
↦
T
ψ
∈
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})\mapsto T_{\psi }\in {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
は単射かつ連続で、しかもその像は値域において稠密 であるM07 (p17) 。
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
上のフーリエ変換
編集
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
の元ψ 、χ に対し、プランシュレルの定理
∫
R
d
F
(
ψ
)
(
ξ
)
F
∗
(
χ
)
(
ξ
)
d
ξ
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} ^{d}}{\mathcal {F}}(\psi )(\xi ){\mathcal {F}}^{*}(\chi )(\xi )\mathrm {d} \xi }
=
∫
R
d
ψ
(
x
)
χ
(
x
)
∗
d
x
{\displaystyle =\int _{\mathbf {R} ^{d}}\psi (x)\chi (x)^{*}\mathrm {d} x}
が成り立つので、
φ
(
x
)
=
F
(
χ
)
(
x
)
{\displaystyle \varphi (x)={\mathcal {F}}(\chi )(x)}
とする事で、
∫
R
d
F
(
ψ
)
(
ξ
)
φ
(
ξ
)
d
ξ
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} ^{d}}{\mathcal {F}}(\psi )(\xi )\varphi (\xi )\mathrm {d} \xi }
=
∫
R
d
ψ
(
x
)
F
(
φ
)
(
x
)
d
x
{\displaystyle =\int _{\mathbf {R} ^{d}}\psi (x){\mathcal {F}}(\varphi )(x)\mathrm {d} x}
となる事が分かる。これを参考にして緩増加超関数T のフーリエ変換を以下のように定義する:
定義 ―
緩増加超関数T のフーリエ変換
F
(
T
)
(
ψ
)
:=
⟨
T
,
F
(
ψ
)
⟩
{\displaystyle {\mathcal {F}}(T)(\psi ):=\langle T,{\mathcal {F}}(\psi )\rangle }
により定義し、同様にフーリエ逆変換を
F
∗
(
T
)
(
ψ
)
:=
T
(
F
∗
(
ψ
)
)
{\displaystyle {\mathcal {F}}^{*}(T)(\psi ):=T({\mathcal {F}}^{*}(\psi ))}
により定義する。
これらの変換は緩増加超関数全体の集合
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
で逆写像の関係にある事を以下のように簡単に示すことができる:
F
(
F
∗
(
T
)
)
(
ψ
)
:=
T
(
F
(
F
∗
(
ψ
)
)
)
{\displaystyle {\mathcal {F}}({\mathcal {F}}^{*}(T))(\psi ):=T({\mathcal {F}}({\mathcal {F}}^{*}(\psi )))}
=
T
(
ψ
)
{\displaystyle =T(\psi )}
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
上のフーリエ変換が連続であることから、上に定義した
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
上のフーリエ変換も連続である事が従う。
L2 関数ψ に緩増加超関数
T
ψ
(
χ
)
:=
∫
R
d
ψ
(
x
)
χ
(
x
)
d
x
{\displaystyle T_{\psi }(\chi ):=\int _{\mathbf {R} ^{d}}\psi (x)\chi (x)\mathrm {d} x}
を自然に対応させることで、L2 空間を
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
の部分集合とみなせる。よって
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
上でフーリエ変換の定義域をL2 空間に制限する事でL2 空間にもフーリエ変換が定義できる。次の事実が成り立つことが知られている:
定理 ―
L2 関数のフーリエ変換はL2 関数であり、しかもフーリエ変換は
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
上の内積を保つ新井 (p197) M07 (p17) 。
すなわち、L2 関数のフーリエ変換は
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
上のユニタリ変換である新井 (p197)
実はこのような性質を満たすフーリエ変換の拡張は一意である:
L2 関数ψ のフーリエ変換は
1
(
2
π
)
d
/
2
∫
−
∞
∞
ψ
(
x
)
e
−
i
x
ξ
d
x
{\displaystyle {1 \over (2\pi )^{d/2}}\int _{-\infty }^{\infty }\psi (x)\ e^{-ix\xi }\,\mathrm {d} x}
という形式で書くことがでるとは限らない。なぜならψ がL2 関数の場合は上述の積分は一般には定義できるとは限らないからである。しかし
F
R
(
ψ
)
:=
1
(
2
π
)
d
/
2
∫
|
x
|
≤
R
ψ
(
x
)
e
−
i
x
ξ
d
x
{\displaystyle F_{R}(\psi ):={1 \over (2\pi )^{d/2}}\int _{|x|\leq R}\psi (x)\ e^{-ix\xi }\,\mathrm {d} x}
は定義でき新井 (p197) 、L2 関数のフーリエ変換は以下を満たすことが知られている:
定理 ―
R →∞ のとき、
∫
R
d
|
F
R
(
ψ
)
−
F
(
ψ
)
|
2
d
x
→
0
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} ^{d}}|F_{R}(\psi )-{\mathcal {F}}(\psi )|^{2}\mathrm {d} x\to 0}
すなわちFR (ψ ) は
F
(
ψ
)
{\displaystyle {\mathcal {F}}(\psi )}
にL2 収束する新井 (p197) 。
最後に、位置作用素と運動量作用素とがフーリエ変換で移り合う関係にある事を見る。
そのためにより一般に微分作用素
D
=
∑
α
:
|
α
|
≤
m
(
−
i
)
|
α
|
a
α
∂
α
∂
α
1
x
1
⋯
∂
α
d
x
d
,
{\displaystyle D=\sum _{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}(-i)^{|\alpha |}a_{\alpha }{\frac {\partial ^{\alpha }}{\partial ^{\alpha _{1}}x_{1}\cdots \partial ^{\alpha _{d}}x_{d}}},}
∀
α
:
a
α
∈
R
{\displaystyle \forall \alpha ~:~a_{\alpha }\in \mathbf {R} }
(の閉包作用素)を考え、多項式F を
F
(
x
1
,
…
,
x
d
)
=
∑
α
:
|
α
|
≤
m
a
α
x
1
α
1
⋯
x
d
α
d
{\displaystyle F(x_{1},\ldots ,x_{d})=\sum _{\alpha ~:~|\alpha |\leq m}a_{\alpha }x_{1}{}^{\alpha _{1}}\cdots x_{d}{}^{\alpha _{d}}}
と定義すると、以下が成立することが知られている新井 (p198) :
定理 ―
D
=
F
−
1
∘
M
F
∘
F
{\displaystyle D={\mathcal {F}}^{-1}\circ M_{F}\circ {\mathcal {F}}}
ここでMF はF を乗じる掛け算作用素である。よって特に運動量作用素
P
j
=
−
i
ℏ
∂
∂
x
j
{\displaystyle P_{j}=-i\hbar {\partial \over \partial x_{j}}}
(の閉包作用素)は以下を満たす:
系 ―
P
j
=
ℏ
F
−
1
∘
M
x
j
∘
F
{\displaystyle P_{j}=\hbar {\mathcal {F}}^{-1}\circ M_{x_{j}}\circ {\mathcal {F}}}
xj 倍する掛け算作用素は位置作用素であったことから、上式は換算プランク定数を除いて位置作用素と運動量作用素が移り合うことを意味する。
スペクトル とは、有限次元における固有値・固有ベクトルの理論の「無限次元版」であり、量子力学では物理量を観測する時に得られる値の集合となる。本節の目標は、ヒルベルト空間上定義された自己共役作用素のスペクトルの概略を述べる。
無限次元におけるスペクトル理論について述べる前に、まず有限次元の固有値の性質を調べる。λ が
A
:
H
→
H
{\displaystyle A~:~{\mathcal {H}}\to {\mathcal {H}}}
の固有値である事は明らかに
ker
(
A
−
λ
I
)
≠
{
0
}
{\displaystyle \ker(A-\lambda I)\neq \{0\}}
を意味し、これはA -λI は単射ではない事を意味する。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が有限次元であれば線形写像が単射である事は全射である事と同値なので、λ がA の固有値である事はA -λI が全単射でない事と同値である。したがってλ がA の固有値ではない場合、A -λI は全単射である為、
R
λ
:=
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle R_{\lambda }:=(A-\lambda I)^{-1}}
が存在し、逆にRλ が存在すればλ はA の固有値ではない。
しかし無限次元の場合には
単射ではない全射線形作用素
全射ではない単射線形作用素
が存在するため、このような単純な関係は存在しない。スペクトル理論は、上述のような作用素の存在を考慮した上で、固有値・固有ベクトルの理論を適切に「無限次元化」したものである。
これまで同様
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
をヒルベルト空間とし、
A
:
H
→
H
{\displaystyle A~:~{\mathcal {H}}\to {\mathcal {H}}}
を稠密に定義された(有界とは限らない)閉作用素とし、λ を複素数とする。恒等写像I は全域で定義されているので、A -λI もA と同一の定義域を持つ作用素として定義できる。
定義 ―
A
−
λ
I
:
D
o
m
(
A
)
→
H
{\displaystyle A-\lambda I~:~\mathrm {Dom} (A)\to {\mathcal {H}}}
が全単射である複素数λ 全体の集合をρ (A ) と書き、A のレゾルベント集合 といいS12 (p7) 、その補集合
σ
(
A
)
:=
C
∖
ρ
(
A
)
{\displaystyle \sigma (A):=\mathbf {C} \setminus \rho (A)}
をA のスペクトル というS12 (p7) K12 (p30) 。さらにスペクトルσ (A ) に属するλ をA のスペクトル点 であるというH13 (p177) 。
なお、本稿で述べているレゾルベント集合を狭義のレゾルベント集合 と呼び、「レゾルベント集合」という語には別の意味を与えているテキストも存在するので注意されたい。
定義 ―
λ がレゾルベント集合ρ (A ) に属していれば
A
−
λ
I
:
D
o
m
(
A
)
→
H
{\displaystyle A-\lambda I~:~\mathrm {Dom} (A)\to {\mathcal {H}}}
は全単射なので、A -λI の逆写像
R
λ
:=
(
A
−
λ
I
)
−
1
:
H
→
D
o
m
(
A
)
⊂
H
{\displaystyle R_{\lambda }:=(A-\lambda I)^{-1}~:~{\mathcal {H}}\to \mathrm {Dom} (A)\subset {\mathcal {H}}}
が定義できる。Rλ をA のλ におけるレゾルベント という。
次の事実が知られている:
定理 ―
A が閉作用素の場合、Rλ は必ず有界であるL04 (p38) 。
なお本稿ではA が閉作用素の場合に限定してレゾルベント集合を定義したが、A が閉作用素でない場合にレゾルベント集合の定義を拡張する際は、A -λI が全単射になり、しかもRλ が有界になるλ の全体をレゾルベント集合と定義する新井 (p125) 。
スペクトルσ (A ) の定義より、λ がσ (A ) に属する場合、A -λI は全単射でない。すなわちA -λI は「全射でない」かもしくは「単射でない」事を意味する。
定義 ―
σ (A ) の元のうち、A -λI が単射でない複素数λ 全体の集合をσ P (A ) と書き、σ P (A ) をA の点スペクトル というK12 (p30) 新井 (p92) 。
λ がσ P (A ) の元であれば明らかに
ker
(
A
−
λ
I
)
≠
{
0
}
{\displaystyle \ker(A-\lambda I)\neq \{0\}}
であるので、
A
ψ
=
λ
ψ
{\displaystyle A\psi =\lambda \psi }
となる0 でない
ψ
∈
D
o
m
(
A
)
{\displaystyle \psi \in \mathrm {Dom} (A)}
が存在する。すなわち点スペクトルσ P (A ) の元はA の固有値 であるK12 (p30) 。σ P (A ) の元λ に対し、
ker
(
A
−
λ
I
)
{\displaystyle \ker(A-\lambda I)}
の0 でない元をA のλ に対応する固有ベクトル といい、
dim
ker
(
A
−
λ
I
)
{\displaystyle \dim \ker(A-\lambda I)}
をλ の多重度 というK12 (p30) 。
有限次元の場合と違い、A -λI が単射であるにもかかわらず、全射ではない事が起こりうる。よって
σ
(
A
)
∖
σ
P
(
A
)
{\displaystyle \sigma (A)\setminus \sigma _{P}(A)}
は一般には空集合ではない。
σ
(
A
)
∖
σ
P
(
A
)
{\displaystyle \sigma (A)\setminus \sigma _{P}(A)}
の詳細については後述する。
スペクトルσ (A ) に属するλ のうち、A -λI が単射でないもの全体が点スペクトルσ P (A ) であった。それ以外のσ (A ) の元、すなわちA -λI が単射ではあるが全射でないものは2つのタイプに分類できる。
λ がA の剰余スペクトルもしくは連続スペクトルに属していれば、A -λI は単射であるので、A -λI の像
(
A
−
λ
I
)
(
D
o
m
(
A
)
)
{\displaystyle (A-\lambda I)(\mathrm {Dom} (A))}
の上定義された逆写像
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
を定義できる。この意味において、レゾルベント集合においてもA -λI の逆写像が定義できるので、この意味で剰余スペクトルや連続スペクトルはレゾルベント集合に類似しているが、違いは逆写像の定義域にある。レゾルベント集合においては
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の全域で定義され、しかも(A が閉作用素であれば)
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
は必ず有界である。それに対し連続スペクトルの場合は
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
の
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の稠密部分空間で定義されているに過ぎず、しかも
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
は有界ではない新井 (p125) 。さらに剰余スペクトルにおいては
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
の定義域は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
で稠密ですらない。
以上で定義した概念をまとめると次のようになる。
定理 ―
複素数の集合C はレゾルベント集合ρ (A ) とスペクトルσ (A ) により、
C
=
ρ
(
A
)
⊔
σ
(
A
)
{\displaystyle \mathbf {C} =\rho (A)\sqcup \sigma (A)}
と互いに交わらない和 として書き表す事ができ、さらにスペクトルσ (A ) は点スペクトルσ P (A ) と連続スペクトルσc (A ) と剰余スペクトルσr (A ) により、
σ
(
A
)
=
σ
P
(
A
)
⊔
σ
c
(
A
)
⊔
σ
r
(
A
)
{\displaystyle \sigma (A)=\sigma _{P}(A)\sqcup \sigma _{c}(A)\sqcup \sigma _{r}(A)}
と互いに交わらない和として書き表せる。
なお連続スペクトルは本稿で述べたのとは別の定義があり、その定義を採用した場合には連続スペクトルと剰余スペクトルは排他的になるとは限らないK12 (p30) 。
点スペクトルσ P (A ) 以外ではA -λI が単射になるので、A -λI の像の上で逆写像
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
が定義できるが、剰余スペクトルでは
(
A
−
λ
I
)
−
1
{\displaystyle (A-\lambda I)^{-1}}
の定義域は有界ではなく、連続スペクトルでは稠密に定義されているが有界ではなく、レゾルベント集合では全域で定義されていてしかも有界である。
本節では以下、
A
:
H
→
H
{\displaystyle A~:~{\mathcal {H}}\to {\mathcal {H}}}
を(稠密に定義された有界とは限らない)自己共役作用素とする。このときσ (A ) は実数体R の閉部分集合である事が知られているH13 (p177-178) 。またσ (A ) の元は必ずしも点スペクトルではないため、
(
A
−
λ
I
)
ψ
{\displaystyle (A-\lambda I)\psi }
が0 となるψ ≠0 が存在するとは限らないが、
(
A
−
λ
I
)
ψ
{\displaystyle (A-\lambda I)\psi }
をいくらでも0 に近く取る事ができるH13 (p177-178) :
なお上の後半の性質を満たすλ 全体の集合をσapp (A ) と書き、近似スペクトル というS12 (p12) 。したがって上述の事実は、自己共役作用素のスペクトルは近似スペクトルと一致する事を意味する。さらに次が成立する事が知られている:
定理 ―
自己共役作用素の剰余スペクトルσr (A ) は必ず空集合であるK12 (p30) 。
以上をまとめると、以下が成立する。
定理 ―
A
:
H
→
H
{\displaystyle A~:~{\mathcal {H}}\to {\mathcal {H}}}
を(稠密に定義された有界とは限らない)自己共役作用素とすると、
σ
(
A
)
=
σ
a
p
p
(
A
)
=
σ
P
(
A
)
⊔
σ
c
(
A
)
{\displaystyle \sigma (A)=\sigma _{app}(A)=\sigma _{P}(A)\sqcup \sigma _{c}(A)}
スペクトル分解 とは、有限次元ベクトル空間における線形作用素の固有値分解を無限次元に拡張したものであるが、単純に有限次元の固有値分解を無限次元に拡張することはできない。これは無限次元の場合、有限次元と違って連続スペクトルが存在し、連続スペクトルには点スペクトル(=固有値)と違い、対応する固有ベクトルが存在しないことに起因する。
本稿では自己共役作用素をスペクトル分解する方法として、以下の3種類を紹介する:
直積分によるスペクトル分解
スペクトル測度によるスペクトル分解
ゲルファントの3つ組によるスペクトル分解
これら3つのスペクトル分解のうちで、量子力学において通常用いられるスペクトル分解の定式化、すなわちデルタ関数を用いたスペクトル分解に最も近いのは最後にあげたゲルファントの三つ組によるものである。しかしこのゲルファントの三つ組によるスペクトル分解は、すべての自己共役作用素に対して適応できるわけではないという欠点を持つ上、この手法でスペクトル分解するには数学的な準備が必要となる。そこでこの手法によるスペクトル分解は後の節にまわし、本節では残り2つのスペクトル分解を紹介し、これらをもとに、量子状態の観測 の概念を数学的に定式化する。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が有限次元の場合、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を
H
=
⨁
λ
∈
σ
(
A
)
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}=\bigoplus _{\lambda \in \sigma (A)}{\mathcal {H}}_{\lambda }}
のように直和として表記可能である。ここでA は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素であり、
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
は固有値λ に対応する固有空間である。さらに任意の
ψ
∈
H
λ
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}_{\lambda }}
に対し、
A
(
ψ
)
=
λ
ψ
{\displaystyle A(\psi )=\lambda \psi }
である。
一方
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が無限次元の場合には、A は非可算無限個のスペクトル点を持ちうるので、単純に上式を無限次元に拡張する事はできない。しかしベクトル空間の「直和」の代わりに「直積分」という概念を用いる事で無限次元の場合も同種の公式が成立する事が知られており、これをA の直積分によるスペクトル分解と呼ぶ。本節では直積分の概念を数学的に定式化し、直積分を用いて上式を無限次元の場合に拡張する。
直積分の概念を定式化するため、「切断」の概念を導入する:
さらに2つの切断
s
=
(
s
(
λ
)
)
λ
∈
X
{\displaystyle s=(s(\lambda ))_{\lambda \in X}}
、
t
=
(
t
(
λ
)
)
λ
∈
X
{\displaystyle t=(t(\lambda ))_{\lambda \in X}}
に対し、s とt の内積を
⟨
s
,
t
⟩
:=
∫
X
⟨
s
(
λ
)
,
t
(
λ
)
⟩
d
μ
{\displaystyle \langle s,t\rangle :=\int _{X}\langle s(\lambda ),t(\lambda )\rangle \mathrm {d} \mu }
により定義することができる。
定義 (直積分 ) ―
自分自身との内積
⟨
s
,
s
⟩
{\displaystyle \langle s,s\rangle }
が有限になる切断全体のなすベクトル空間を考え、このベクトル空間を測度μ に関してほとんど至る所等しい切断を同一視する事で得られるベクトル空間を
∫
X
⊕
H
λ
d
μ
{\displaystyle \int _{X}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu }
と表記し、
(
H
λ
)
λ
∈
X
{\displaystyle ({\mathcal {H}}_{\lambda })_{\lambda \in X}}
のμ による直積分 (英語版 ) と呼ぶH13 (p144-147) 。
直積分は前述した内積に関して完備であることが知られており、よって直積分はヒルベルト空間になるH13 (p144-147) 。
前節でペンディングしていた
s
=
(
s
(
λ
)
)
λ
∈
X
{\displaystyle s=(s(\lambda ))_{\lambda \in X}}
の可測性の定義を述べる。
s
=
(
s
(
λ
)
)
λ
∈
X
{\displaystyle s=(s(\lambda ))_{\lambda \in X}}
可測性を定義するには、
(
H
λ
)
λ
∈
X
{\displaystyle ({\mathcal {H}}_{\lambda })_{\lambda \in X}}
に技術的な付加構造を加える必要がある(よって直積分は
(
H
λ
)
λ
∈
X
{\displaystyle ({\mathcal {H}}_{\lambda })_{\lambda \in X}}
にこの付加構造を付け加えた場合のみ定義可能である)。まずその付加構造を定義する:
なお、写像
λ
∈
X
↦
d
i
m
H
λ
∈
[
0
,
∞
]
{\displaystyle \lambda \in X\mapsto \mathrm {dim} {\mathcal {H}}_{\lambda }\in [0,\infty ]}
が可測であるときは、
(
H
λ
)
λ
∈
X
{\displaystyle ({\mathcal {H}}_{\lambda })_{\lambda \in X}}
は必ず同時正規直交基底を持つことが知られている。
以上の準備のもと、直積分によるスペクトル分解を定式化する:
上述の定理は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が無限次元の場合も、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
をA の「固有空間」
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
の直積分に分解でき、しかも直積分の元s のAU による像AU (s ) の「
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
成分」である(AU (s ))(λ ) はs の「
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
成分」s (λ ) を「固有値」λ 倍したものになっている事を意味するように見えるので、
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
をλ に対応するA の一般化した固有空間 、
H
λ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }}
の元をλ に対応するA の一般化した固有ベクトル であるとみなし得るH13 (p147-148) 。実際、スペクトル点τ ∈σ (A ) においてμ ({τ })>0 であれば、sτ ∈
H
τ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\tau }}
に対し切断を
s
(
λ
)
=
{
s
τ
if
λ
=
τ
0
otherwise
{\displaystyle s(\lambda )={\begin{cases}s_{\tau }&{\text{if }}\lambda =\tau \\0&{\text{otherwise}}\end{cases}}}
により定義すると、写像
m
τ
:
s
τ
∈
H
τ
↦
s
(
τ
)
∈
∫
σ
(
A
)
⊕
H
λ
d
μ
A
{\displaystyle m_{\tau }~:~s_{\tau }\in {\mathcal {H}}_{\tau }\mapsto s(\tau )\in \int _{\sigma (A)}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A}}
は
⟨
s
,
s
⟩
=
∫
σ
(
A
)
⟨
s
(
λ
)
,
s
(
λ
)
⟩
λ
d
μ
A
{\displaystyle \langle s,s\rangle =\int _{\sigma (A)}\langle s(\lambda ),s(\lambda )\rangle _{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A}}
≥
⟨
s
τ
s
τ
⟩
μ
A
(
{
τ
}
)
≩
0
if
s
τ
≠
0
{\displaystyle \geq \langle s_{\tau }s_{\tau }\rangle \mu _{A}(\{\tau \})\gvertneqq 0\quad {\text{if }}s_{\tau }\neq 0}
を満たすので、
m
τ
(
H
τ
)
{\displaystyle m_{\tau }({\mathcal {H}}_{\tau })}
の元はAU の0 でない固有ベクトルになる。しかしμ ({τ })=0 の場合にはmτ が恒等的に0 である為、
H
τ
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\tau }}
は通常の意味での固有空間にはならない。
直積分によるスペクトル定理は、前述した掛け算作用素によるスペクトル定理 から容易に従う[ 注 4] 。実際、掛け算作用素によるスペクトル定理より、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
は何らかのL2 空間
L
2
(
X
,
μ
)
{\displaystyle L^{2}(X,\mu )}
と同型で、A は
L
2
(
X
,
μ
)
{\displaystyle L^{2}(X,\mu )}
上で実数値関数
h
(
x
)
{\displaystyle h(x)}
を乗じる作用素として表現できるので、h の像である実数直線R 上に測度h * (μ ) を入れれば、
L
2
(
X
,
μ
)
≃
∫
R
⊕
H
λ
d
h
∗
(
μ
)
{\displaystyle L^{2}(X,\mu )\simeq \int _{\mathbf {R} }^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} h_{*}(\mu )}
、 ここで
H
λ
=
h
−
1
(
λ
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }=h^{-1}(\lambda )}
と表記できる。
H
λ
=
h
−
1
(
λ
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}_{\lambda }=h^{-1}(\lambda )}
が{0 } でないλ の集合がσ (A ) と一致する事を容易に確認できるので、上記の積分をσ (A ) に制限すれば、直積分によるスペクトル定理が従う。
本節の目標は、非有界作用素のもう一つのスペクトル分解方法であるスペクトル測度によるスペクトル分解 を定式化する事である。まず、スペクトル測度の概念を定式化する動機を与える為に、有限次元における固有値分解 を復習する。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を有限次元のヒルベルト空間とし、A を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素とする。有限次元の場合、自己共役作用素は必ず固有値分解可能な事が知られている。すなわちA の固有値をλ1 、…、λn とし、これらの固有値に対応する固有空間をV1 、…、Vn とすると、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元ψ は必ず
ψ=ψ1 +…+ψn 、 ψ1 ∈V1 、…、ψn ∈Vn
と表現でき、
Aψ=λ1 ψ1 +…+λn ψn
が成立する。そこで
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元のVj への射影変換をPj とすると、明らかに
A
=
∑
j
=
1
n
λ
j
P
j
{\displaystyle A=\sum _{j=1}^{n}\lambda _{j}P_{j}}
が成立する。
スペクトル測度μ は、以上の考察を無限次元に拡張する事を可能にする概念であり、R のボレル可測部分集合 B に対し、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の閉部分線形空間への正射影変換μ (B ) を対応させる。スペクトル測度μ の概念を直観的に説明するため、再び有限次元の場合を考えると、B とスペクトルσ (A )={λ1 ,…,λn } の共通部分が
{
λ
j
1
,
…
,
λ
j
m
}
{\displaystyle \{\lambda _{j_{1}},\ldots ,\lambda _{j_{m}}\}}
であるとき、スペクトル測度μ によるB の像μ (B ) は、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の部分空間
V
λ
j
1
⊕
⋯
⊕
V
λ
j
m
{\displaystyle V_{\lambda _{j_{1}}}\oplus \cdots \oplus V_{\lambda _{j_{m}}}}
に射影する射影変換である。
スペクトル測度の概念を厳密に定式化する。なお、スペクトル測度の概念それ自身は、A のスペクトルとは無関係に定義する。スペクトル測度の概念がA のスペクトルと結びつくのは、後述するスペクトル定理においてである。
P
(
H
)
{\displaystyle {\mathcal {P}}({\mathcal {H}})}
を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の閉部分線形空間に対応させる正射影作用素全体の集合とする。すなわち
P
∈
P
(
H
)
⟺
∃
V
⊂
H
{\displaystyle P\in {\mathcal {P}}({\mathcal {H}})\iff \exists V\subset {\mathcal {H}}}
(閉部分線形空間) s.t.
P
:
ϕ
=
ϕ
V
+
ϕ
V
⊥
∈
V
⊕
V
⊥
=
H
↦
ϕ
V
∈
V
⊂
H
{\displaystyle P~:~\phi =\phi _{V}+\phi _{V}^{\bot }\in V\oplus V^{\bot }={\mathcal {H}}\mapsto \phi _{V}\in V\subset {\mathcal {H}}}
さらに
B
(
R
)
{\displaystyle {\mathcal {B}}(\mathbf {R} )}
をR 上のボレル加法族 とする。直観的にはこのR は、自己共役作用素のスペクトルやレゾルベントの取りうる値の集合である。
μ
:
B
(
R
d
)
→
P
(
H
)
{\displaystyle \mu ~:~{\mathcal {B}}(\mathbf {R} ^{d})\to {\mathcal {P}}({\mathcal {H}})}
をスペクトル測度とするとき、次の事実が成り立つことが知られているH13 (p139) 新井 (p138) 。ここで
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の内積である:
定理 ― 定理
ψ を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元とする。この時、写像
B
∈
B
(
R
d
)
↦
⟨
ψ
,
μ
(
B
)
ψ
⟩
{\displaystyle B\in {\mathcal {B}}(\mathbf {R} ^{d})\mapsto \langle \psi ,\mu (B)\psi \rangle }
はR d 上の複素数値の測度である。
上述のように定義される測度を
μ
ψ
(
B
)
=
⟨
ψ
,
μ
(
B
)
ψ
⟩
{\displaystyle \mu _{\psi }(B)=\langle \psi ,\mu (B)\psi \rangle }
と書くとき、次が成立する事が知られている:
定理・定義 (作用素値積分 ) ―
μψ による(有界とは限らない)可測関数f のルベーグ積分 は何らかの非有界線形作用素Ff を用いて、
∫
R
f
(
λ
)
d
μ
ψ
=
⟨
ψ
,
F
f
ψ
⟩
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} }f(\lambda )\mathrm {d} \mu _{\psi }=\langle \psi ,F_{f}\psi \rangle }
for
∀
ψ
∈
D
o
m
(
F
f
)
{\displaystyle \forall \psi \in \mathrm {Dom} (F_{f})}
、
D
o
m
(
F
f
)
=
{
ψ
∈
H
:
∫
R
|
f
(
λ
)
|
2
d
μ
ψ
<
∞
}
{\displaystyle \mathrm {Dom} (F_{f})=\{\psi \in {\mathcal {H}}~:~\int _{\mathbf {R} }|f(\lambda )|^{2}\mathrm {d} \mu _{\psi }<\infty \}}
と書けるH13 (p202) 。
この線形作用素Ff を
F
f
=
∫
R
f
(
λ
)
d
μ
{\displaystyle F_{f}=\int _{\mathbf {R} }f(\lambda )\mathrm {d} \mu }
と表記し、スペクトル測度μ によるf の作用素値積分 (operator-valued integral )というH13 (p139) 。
なお任意の可測関数f に対しDom(F f ) は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
で稠密であることが知られているのでH13 (p203) 、作用素値積分は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上稠密に定義された線形作用素である。またf が実数値可測関数の場合は作用素値積分は必ず自己共役作用素になる事も知られているH13 (p204) 。
以上の準備のもと、スペクトル定理を定式化する:
なお、μ はA のレゾルベント集合上で0 になる事が知られているのでH13 (p141) 、上述の積分を
A
=
∫
σ
(
A
)
λ
d
μ
{\displaystyle A=\int _{\sigma (A)}\lambda \mathrm {d} \mu }
と書き表す事もできる。
スペクトル分解定理は前述した有限次元の場合の固有値分解
A
=
∑
j
=
1
n
λ
j
P
j
{\displaystyle A=\sum _{j=1}^{n}\lambda _{j}P_{j}}
の無限次元版である。実際、ディラック測度 δx (B) を
δ
x
(
B
)
=
{
0
,
x
∉
B
;
1
,
x
∈
B
{\displaystyle \delta _{x}(B)={\begin{cases}0,&x\not \in B;\\1,&x\in B\end{cases}}}
により定義し、スペクトル測度μ を
μ
(
B
)
=
∑
j
=
1
n
δ
λ
j
(
B
)
P
j
{\displaystyle \mu (B)=\sum _{j=1}^{n}\delta _{\lambda _{j}}(B)P_{j}}
とすれば、両者が一致する事を確認できる。
スペクトル測度によるスペクトル分解定理は直積分によるスペクトル定理から容易に従う。実際、直積分によるスペクトル定理から
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
は直積分
∫
σ
(
A
)
⊕
H
λ
d
μ
A
{\displaystyle \int _{\sigma (A)}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A}}
として表現できるので、B ⊂σ (A ) に対してμ (B ) を
∫
σ
(
A
)
⊕
H
λ
d
μ
A
→
∫
B
⊕
H
λ
d
μ
A
,
s
(
λ
)
↦
χ
B
(
λ
)
s
(
λ
)
{\displaystyle \int _{\sigma (A)}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A}\to \int _{B}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A},~~s(\lambda )\mapsto \chi _{B}(\lambda )s(\lambda )}
とすればよい。ここでχB はB の特性関数 である。
A を何らかの物理量を表す自己共役作用素とし、μ をA のスペクトル測度とする。量子力学では以下を仮定する:
直積分を使うと、上の仮定をより直観的に表現できる。状態空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
をA のスペクトルでスペクトル分解して
H
≃
∫
σ
(
A
)
⊕
H
λ
d
μ
A
{\displaystyle {\mathcal {H}}\simeq \int _{\sigma (A)}^{\oplus }{\mathcal {H}}_{\lambda }\mathrm {d} \mu _{A}}
と直積分で書き表し、ψ を直積分の切断として
ψ
≃
{
ψ
(
λ
)
}
λ
∈
σ
(
A
)
{\displaystyle \psi \simeq \{\psi (\lambda )\}_{\lambda \in \sigma (A)}}
と書き表すと、直積分とスペクトル測度の関係により、状態ψ にある系でA を観測した観測値λ がボレル集合
B
⊂
R
{\displaystyle B\subset \mathbf {R} }
に属している確率は
∫
σ
(
A
)
∩
B
‖
ψ
(
λ
)
‖
2
d
μ
A
{\displaystyle \int _{\sigma (A)\cap B}\|\psi (\lambda )\|^{2}\mathrm {d} \mu _{A}}
に一致する。
また簡単な計算により、A を観測した観測値の期待値が
⟨
ψ
,
A
(
ψ
)
⟩
{\displaystyle \langle \psi ,A(\psi )\rangle }
となる事を確かめられる新井 (p213) 。
量子力学では以下を仮定する:
仮定 (波束の収縮に関する仮定 ) ―
物理量A を観測した観測値λ がA の固有値であれば、観測直後の状態ベクトルはA のλ に対する固有ベクトルになる新井 (p212) 。
上述の仮定では観測値が固有値、すなわち点スペクトルに属していた場合の事を述べているが、観測値が連続スペクトルに属していた場合については何も規定していない 事に注意されたい。
前節までで見たように、状態空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が無限次元である場合のスペクトル分解においては連続スペクトルが生じるため、全てのスペクトル点に対して対応する「固有関数」が存在するわけではないという困難を抱える。そこでディラックは、状態空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
にデルタ関数のような超関数を添加し、これら超関数を一種の固有関数だとみなす事でこの困難を解消する道筋を建てた。
本節では、このディラックのアイデアを拡張することで得られるゲルファントの三つ組 の概念を用いて、自己共役作用素をスペクトル分解する方法を説明する。
ゲルファントの三つ組の定義の基本的な雛形は、(緩増加)超関数の概念である。そこで、まず、緩増加超関数の定義を振り返る。今シュワルツ空間
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
からヒルベルト空間
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
へは自然な単射
ι
:
S
(
R
d
)
↪
H
{\displaystyle \iota ~:~{\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})\hookrightarrow {\mathcal {H}}}
が存在する。
ψ
∈
H
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {H}}}
に対し、写像ι † (ψ ) を
ι
†
(
ψ
)
:
S
(
R
d
)
→
C
,
{\displaystyle \iota ^{\dagger }(\psi )~:~{\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})\to \mathbf {C} ,~~}
φ
↦
⟨
ψ
,
ι
(
φ
)
⟩
{\displaystyle \varphi \mapsto \langle \psi ,\iota (\varphi )\rangle }
と定義すると、
ι
†
(
ψ
)
∈
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle \iota ^{\dagger }(\psi )\in {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
なので、写像
ι
†
:
H
↪
S
′
(
R
d
)
,
{\displaystyle \iota ^{\dagger }~:~{\mathcal {H}}\hookrightarrow {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d}),~~}
ψ
↦
ι
†
(
ψ
)
{\displaystyle \psi \mapsto \iota ^{\dagger }(\psi )}
を定義する事ができ、ι † は反線形写像となる。
以上の議論を踏まえ、より一般に位相の定義されたベクトル空間
G
{\displaystyle {\mathcal {G}}}
からヒルベルト空間
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
への連続な単射
ι
:
G
↪
H
{\displaystyle \iota ~:~{\mathcal {G}}\hookrightarrow {\mathcal {H}}}
があるとき、
G
{\displaystyle {\mathcal {G}}}
の双対空間
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
を
G
′
:=
{
T
:
G
→
C
{\displaystyle {\mathcal {G}}':=\{T~:~{\mathcal {G}}\to \mathbf {C} }
、連続かつ線形
}
{\displaystyle \}}
と定義すると、シュワルツ空間
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
のときと同様の方法により、反線形写像
ι
†
:
H
↪
G
′
{\displaystyle \iota ^{\dagger }~:~{\mathcal {H}}\hookrightarrow {\mathcal {G}}'}
、
を定義できる。
写像
ι
†
:
H
↪
G
′
{\displaystyle \iota ^{\dagger }~:~{\mathcal {H}}\hookrightarrow {\mathcal {G}}'}
は反線形な埋め込み写像なので、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
、
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
の共役線形空間をそれぞれ
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
、
G
′
∗
{\displaystyle {\mathcal {G}}'^{*}}
とすると、
ι
†
:
H
∗
↪
G
′
{\displaystyle \iota ^{\dagger }~:~{\mathcal {H}}^{*}\hookrightarrow {\mathcal {G}}'}
ι
†
:
H
↪
G
′
∗
{\displaystyle \iota ^{\dagger }~:~{\mathcal {H}}\hookrightarrow {\mathcal {G}}'^{*}}
はいずれも線形な埋め込みとなる。
物理学的に見た場合、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
、
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
はそれぞれブラベクトル、ケットベクトルの空間であったので、それを含んでいる
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
、
G
′
∗
{\displaystyle {\mathcal {G}}'^{*}}
もやはり(一般化された意味での)ブラベクトル、ケットベクトルの空間とみなすことにする。
既に述べたように、連続スペクトルに対応する「固有ベクトル」は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
や
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
の中には存在しなかった。そこでブラベクトル、ケットベクトルの空間を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
や
H
∗
{\displaystyle {\mathcal {H}}^{*}}
より広い空間である
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
や
G
′
∗
{\displaystyle {\mathcal {G}}'^{*}}
へと拡張し、
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
や
G
′
∗
{\displaystyle {\mathcal {G}}'^{*}}
から連続スペクトルに対応する「固有ベクトル」を探す、というのがゲルファントの三つ組の基本的なアイデアである。
とくに
G
=
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {G}}={\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
である場合は、
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
は緩増加超関数の空間
S
′
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} ^{d})}
に一致するので、「固有ベクトル」として
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
からデルタ超関数を選ぶ事ができる。したがってこの場合は、ゲルファントの三つ組のアイデアはディラックの元々のアイデアと合致する。
先に進む前にゲルファントの三つ組に関する諸概念を定義する。
φ を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の元とするとき、
⟨
ι
†
(
φ
)
,
ψ
⟩
=
ι
†
(
φ
)
(
ψ
)
=
⟨
φ
,
ι
(
ψ
)
⟩
=
⟨
φ
,
ι
(
ψ
)
⟩
{\displaystyle \langle \iota ^{\dagger }(\varphi ),\psi \rangle =\iota ^{\dagger }(\varphi )(\psi )=\langle \varphi ,\iota (\psi )\rangle =\langle \varphi ,\iota (\psi )\rangle }
となるので、上述した内積は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の内積と両立する。
言い換えるとこれは
G
″
{\displaystyle {\mathcal {G}}''}
にはweak-*位相 を入れたものを考えるという事である。
ディラックがデルタ関数を量子力学に導入したそもそもの動機は、デルタ関数を位置作用素に対する「固有ベクトル」とみなすというものであった。すなわち、第j 方向の位置作用素
M
x
j
(
ψ
)
=
x
j
ψ
(
x
)
{\displaystyle M_{x_{j}}(\psi )=x_{j}\psi (x)}
に形式的に
δ
a
(
x
)
=
δ
(
x
−
a
)
{\displaystyle \delta _{a}(x)=\delta (x-a)}
を代入すると、この関数はa 以外で0 になる事から、
M
x
j
(
δ
a
)
=
x
j
δ
(
x
−
a
)
=
a
j
δ
(
x
−
a
)
{\displaystyle M_{x_{j}}(\delta _{a})=x_{j}\delta (x-a)=a_{j}\delta (x-a)}
であり、したがってδa は
M
x
j
{\displaystyle M_{x_{j}}}
の「固有値」aj に対応する「固有ベクトル」であるとみなせるのである。数学的に見た場合、ヒルベルト空間
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
において自己共役作用素
M
x
j
{\displaystyle M_{x_{j}}}
はそもそも固有値を持たないし、当然それに対応する固有ベクトルも存在しない。しかしこれはそもそもデルタ関数が
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
に属さない事に起因しており、ゲルファントの三つ組の概念を用いれば、こうしたデルタ関数による固有値・固有ベクトルの概念を正当化できる。本節ではまず、固有値概念の一般化であるスペクトル の概念を定式化し、ゲルファントの三つ組においてスペクトルに対応する固有ベクトル概念に相当する一般化固有ベクトル の概念を定式化する。
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
をゲルファントの三つ組とし、A を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素とする。本節の目標は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
よりも広い空間である
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
からA の固有ベクトルを探す事にあるが、そもそもA は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上でしか定義されていないので、
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
の元をA の固有ベクトルとみなすには、まずA の定義域を
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
上に拡張する必要がある。
そこでA として以下の2性質を満たすものを考えるF15 (p118) 。なおこの2性質を満たすとき、A は
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
に付随するゲルファントの三つ組と両立する という:
G
⊂
D
o
m
(
A
)
{\displaystyle {\mathcal {G}}\subset \mathrm {Dom} (A)}
A
(
G
)
⊂
G
{\displaystyle A({\mathcal {G}})\subset {\mathcal {G}}}
A が上述の性質を満たす時、
T
∈
G
′
{\displaystyle T\in {\mathcal {G}}'}
に対し、写像A' (T ) を
A
′
(
T
)
:
ψ
∈
G
↦
⟨
T
,
A
(
ψ
)
⟩
∈
C
{\displaystyle A'(T)~:~\psi \in {\mathcal {G}}\mapsto \langle T,A(\psi )\rangle \in \mathbf {C} }
により定義すると、前述の2性質からこの定義はwell-defined であり、
A
′
(
T
)
∈
G
′
{\displaystyle A'(T)\in {\mathcal {G}}'}
となる事を確かめられる。よって
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
上の線形写像
A
′
:
T
∈
G
′
↦
A
′
(
T
)
∈
G
′
{\displaystyle A'~:~T\in {\mathcal {G}}'\mapsto A'(T)\in {\mathcal {G}}'}
が定義できる。
上述のように定義したA' は埋め込み写像ι† と
A
=
A
′
∘
ι
†
{\displaystyle A=A'\circ \iota ^{\dagger }}
という関係を満たすという意味でA の拡張になっている。実際、任意の
φ
∈
H
,
ψ
∈
G
{\displaystyle \varphi \in {\mathcal {H}},\psi \in {\mathcal {G}}}
に対し、A の対称性から
⟨
A
′
∘
ι
†
(
φ
)
,
ψ
⟩
=
⟨
φ
,
ι
(
A
(
ψ
)
)
⟩
=
⟨
φ
,
A
(
ψ
)
⟩
=
⟨
A
(
φ
)
,
ψ
⟩
{\displaystyle \langle A'\circ \iota ^{\dagger }(\varphi ),\psi \rangle =\langle \varphi ,\iota (A(\psi ))\rangle =\langle \varphi ,A(\psi )\rangle =\langle A(\varphi ),\psi \rangle }
であるので、φ、ψ の任意性から上述の事実が従う。
そこで一般化固有値・固有ベクトルを以下のように定義する:
定義 (一般化固有値・一般化固有ベクトル ) ―
A
′
(
T
)
=
λ
T
{\displaystyle A'(T)=\lambda T}
を満たす
T
∈
G
′
{\displaystyle T\in {\mathcal {G}}'}
を、A の一般化固有値 λ ∈C に対する一般化固有ベクトル というF15 (p118) 。
なお、
T
∈
G
′
{\displaystyle T\in {\mathcal {G}}'}
なので、ここでいう「一般化固有ベクトル」はブラベクトルであるが、共役線形空間を考えることで、ケットベクトルの空間
G
′
∗
{\displaystyle {\mathcal {G}}'^{*}}
上にも同様に一般化固有ベクトルの概念を考える事ができる。
A
=
A
′
∘
ι
†
{\displaystyle A=A'\circ \iota ^{\dagger }}
であったので、A の通常の意味での固有ベクトルは一般化固有ベクトルでもある。
定義から明らかなように、一般化固有ベクトルの定義は
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
に依存している。A と両立する
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
は複数考えられるので、
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
の取り方に依存して異なる一般化固有ベクトルの概念が存在する事になる。
有限次元のベクトル空間の場合、自己共役作用素の固有値分解を行うと、ベクトル空間上の任意のベクトルは、固有ベクトルの線形和として書き表す事ができる事が知られている。この性質を満たす時、自己共役作用素は固有ベクトルの完全系を持つ というが、一般化固有ベクトルの場合も類似した完全系の概念を考える事ができる。
実数λ ∈R に対し、一般化固有値λ に属する一般化固有ベクトル全体の集合(すなわちλ の(一般化)固有空間 )
E
(
λ
)
:=
K
e
r
(
λ
i
d
−
A
′
)
⊂
G
′
{\textstyle E(\lambda ):=\mathrm {Ker} (\lambda \mathrm {id} -A')\subset {\mathcal {G}}'}
を考える。
ψ
∈
G
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {G}}}
に対し、ψ との内積
T
∈
G
′
↦
⟨
T
,
ψ
⟩
∈
C
{\textstyle T\in {\mathcal {G}}'\mapsto \langle T,\psi \rangle \in \mathbf {C} }
のE (λ ) への制限写像
ψ
^
λ
:
T
∈
E
(
λ
)
↦
⟨
T
,
ψ
⟩
∈
C
{\textstyle {\hat {\psi }}_{\lambda }~:~T\in E(\lambda )\mapsto \langle T,\psi \rangle \in \mathbf {C} }
はE (λ ) の双対空間E (λ )' の元である:
ψ
^
λ
∈
E
(
λ
)
′
{\textstyle {\hat {\psi }}_{\lambda }\in E(\lambda )'}
有限次元空間の場合であれば
ψ
^
λ
{\textstyle {\hat {\psi }}_{\lambda }}
は「ψ のE (λ ) 方向成分」に相当するものであるので、完全系の概念を以下のように定義する:
なお、A が運動量作用素である場合は、上述した写像
ψ
↦
ψ
^
{\textstyle \psi \mapsto {\hat {\psi }}}
は、フーリエ変換と自然に同一視できる事が知られている(詳細後述)。そこで上述した写像のことを一般化フーリエ変換 というF15 (p119) 。
完全形の概念はweak-*位相の言葉を用いても定式化できることが知られている:
G
=
S
(
R
)
{\displaystyle {\mathcal {G}}={\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
の場合に対し、運動量作用素と位置作用素の一般化固有ベクトルを調べる。
運動量作用素
P
=
−
i
ℏ
d
d
x
{\displaystyle P=-i\hbar {\mathrm {d} \over \mathrm {d} x}}
が
S
(
R
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
と両立する事は既に述べた。
T
∈
S
′
(
R
)
{\displaystyle T\in {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} )}
に対し、
P
′
(
T
)
:
ψ
∈
S
(
R
)
↦
⟨
T
,
P
(
ψ
)
⟩
∈
C
{\displaystyle P{}'(T)~:~\psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )\mapsto \langle T,P(\psi )\rangle \in \mathbf {C} }
とすると、一般化固有値λ 対する
P
′
{\displaystyle P'}
の一般化固有ベクトル
T
λ
{\displaystyle T_{\lambda }}
は
P
′
(
T
λ
)
=
λ
T
λ
{\displaystyle P'(T_{\lambda })=\lambda T_{\lambda }}
を満たすので、任意の
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
に対し、
λ
⟨
T
λ
,
ψ
⟩
=
⟨
P
′
(
T
λ
)
,
ψ
⟩
=
⟨
T
λ
,
P
(
ψ
)
⟩
=
−
i
ℏ
⟨
T
λ
,
d
d
x
(
ψ
)
⟩
=
i
ℏ
⟨
d
d
x
T
λ
,
ψ
⟩
{\displaystyle \lambda \langle T_{\lambda },\psi \rangle =\langle P'(T_{\lambda }),\psi \rangle =\langle T_{\lambda },P(\psi )\rangle =-i\hbar \langle T_{\lambda },{\mathrm {d} \over \mathrm {d} x}(\psi )\rangle =i\hbar \langle {\mathrm {d} \over \mathrm {d} x}T_{\lambda },\psi \rangle }
となる。よって
λ
T
λ
=
i
ℏ
d
d
x
T
λ
{\displaystyle \lambda T_{\lambda }=i\hbar {\mathrm {d} \over \mathrm {d} x}T_{\lambda }}
という微分方程式の解が
T
λ
{\displaystyle T_{\lambda }}
となる。したがって
T
λ
=
c
e
−
i
λ
x
j
/
ℏ
{\displaystyle T_{\lambda }=c\mathrm {e} ^{-i\lambda x_{j}/\hbar }}
for some
c
∈
C
{\displaystyle c\in \mathbf {C} }
という形のものは全て解となる。ここで上式右辺は
c
e
−
i
λ
x
j
/
ℏ
{\displaystyle c\mathrm {e} ^{-i\lambda x_{j}/\hbar }}
を乗じて積分する超関数を表す。またこれ以外に解がない事も知られているF15 (p120) 。
以上の議論から
P
{\displaystyle P}
の一般化固有値λ に対応する一般化固有空間E (λ ) は
E
(
λ
)
=
{
c
e
−
i
λ
x
/
ℏ
∣
c
∈
C
}
{\displaystyle E(\lambda )=\{c\mathrm {e} ^{-i\lambda x/\hbar }\mid c\in \mathbf {C} \}}
である。これは一次元空間なので、
E
(
λ
)
≃
C
{\displaystyle E(\lambda )\simeq \mathbf {C} }
である。したがって
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
に対し、
ψ
^
λ
:
T
∈
E
(
λ
)
↦
⟨
T
,
ψ
⟩
∈
C
{\textstyle {\hat {\psi }}_{\lambda }~:~T\in E(\lambda )\mapsto \langle T,\psi \rangle \in \mathbf {C} }
は、
ψ
^
λ
(
c
e
−
i
λ
x
/
ℏ
)
=
∫
R
c
e
−
i
λ
x
/
ℏ
ψ
(
x
)
d
x
{\displaystyle {\hat {\psi }}_{\lambda }(c\mathrm {e} ^{-i\lambda x/\hbar })=\int _{\mathbf {R} }c\mathrm {e} ^{-i\lambda x_{/}\hbar }\psi (x)\mathrm {d} x}
である。すなわち
c
∈
C
→
∼
c
e
−
i
λ
x
/
ℏ
{\displaystyle c\in \mathbf {C} {\overset {\sim }{\to }}c\mathrm {e} ^{-i\lambda x/\hbar }}
を
∫
R
e
−
i
λ
x
/
ℏ
ψ
(
x
)
d
x
{\displaystyle \int _{\mathbf {R} }\mathrm {e} ^{-i\lambda x/\hbar }\psi (x)\mathrm {d} x}
倍する写像である。したがって
P
{\displaystyle P}
に関する
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
の一般化フーリエ変換
ψ
^
=
{
ψ
^
λ
}
λ
∈
R
{\textstyle {\hat {\psi }}=\{{\hat {\psi }}_{\lambda }\}_{\lambda \in \mathbf {R} }}
は自然に
{
∫
R
e
−
i
λ
x
/
ℏ
ψ
(
x
)
d
x
}
λ
∈
R
{\displaystyle \left\{\int _{\mathbf {R} }\mathrm {e} ^{-i\lambda x/\hbar }\psi (x)\mathrm {d} x\right\}_{\lambda \in \mathbf {R} }}
と同一視できる。これは
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
をフーリエ変換したものに相当する。これが
ψ
^
=
{
ψ
^
λ
}
λ
∈
R
{\textstyle {\hat {\psi }}=\{{\hat {\psi }}_{\lambda }\}_{\lambda \in \mathbf {R} }}
を一般化フーリエ変換と呼ぶ理由であるF15 (p120) 。
位置作用素
X
=
x
{\displaystyle X=x}
と
T
∈
S
′
(
R
)
{\displaystyle T\in {\mathcal {S}}'(\mathbf {R} )}
に対し、
X
′
(
T
)
:
ψ
∈
S
(
R
)
↦
⟨
T
,
X
(
ψ
)
⟩
∈
C
{\displaystyle X'(T)~:~\psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )\mapsto \langle T,X(\psi )\rangle \in \mathbf {C} }
とすると、
X
′
{\displaystyle X'}
の一般化固有値λ 対する一般化固有ベクトル
T
λ
{\displaystyle T_{\lambda }}
は
λ
⟨
T
λ
,
ψ
⟩
=
⟨
X
′
(
T
λ
)
,
ψ
⟩
=
⟨
T
λ
,
X
(
ψ
)
⟩
=
⟨
T
λ
,
x
ψ
⟩
=
⟨
x
T
λ
,
ψ
⟩
{\displaystyle \lambda \langle T_{\lambda },\psi \rangle =\langle X'(T_{\lambda }),\psi \rangle =\langle T_{\lambda },X(\psi )\rangle =\langle T_{\lambda },x\psi \rangle =\langle xT_{\lambda },\psi \rangle }
を満たすので、
λ
T
λ
=
x
T
λ
{\displaystyle \lambda T_{\lambda }=xT_{\lambda }}
デルタ関数の定数倍
T
λ
=
c
δ
(
x
−
λ
)
{\displaystyle T_{\lambda }=c\delta (x-\lambda )}
がこの解になる事を簡単に確認でき、しかもこれ以外に解がない事も知られているF15 (p120) 。
以上の議論から
X
j
{\displaystyle X_{j}}
の一般化固有値λ に対応する一般化固有空間E (λ ) は
E
(
λ
)
=
{
c
δ
(
x
−
λ
)
∣
c
∈
C
}
{\displaystyle E(\lambda )=\{c\delta (x-\lambda )\mid c\in \mathbf {C} \}}
である。これは一次元空間なので、
E
(
λ
)
≃
C
{\displaystyle E(\lambda )\simeq \mathbf {C} }
である。したがって
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
に対し、
ψ
^
λ
:
T
∈
E
(
λ
)
↦
⟨
T
,
ψ
⟩
∈
C
{\textstyle {\hat {\psi }}_{\lambda }~:~T\in E(\lambda )\mapsto \langle T,\psi \rangle \in \mathbf {C} }
は、
ψ
^
λ
(
c
δ
(
x
−
λ
)
)
=
∫
R
c
δ
(
x
−
λ
)
ψ
(
x
)
d
x
=
c
ψ
(
λ
)
{\displaystyle {\hat {\psi }}_{\lambda }(c\delta (x-\lambda ))=\int _{\mathbf {R} }c\delta (x-\lambda )\psi (x)\mathrm {d} x=c\psi (\lambda )}
である。すなわち
c
∈
C
→
∼
c
δ
(
x
−
λ
)
{\displaystyle c\in \mathbf {C} {\overset {\sim }{\to }}c\delta (x-\lambda )}
を
ψ
(
λ
)
{\displaystyle \psi (\lambda )}
倍する写像である。したがって
X
{\displaystyle X}
に関する
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
の一般化フーリエ変換
ψ
^
=
{
ψ
^
λ
}
λ
∈
R
{\textstyle {\hat {\psi }}=\{{\hat {\psi }}_{\lambda }\}_{\lambda \in \mathbf {R} }}
は自然に
{
ψ
(
λ
)
}
λ
∈
R
{\displaystyle \{\psi (\lambda )\}_{\lambda \in \mathbf {R} }}
と同一視でき、これは
ψ
{\displaystyle \psi }
それ自身と同一視できる。よって
X
{\displaystyle X}
に関する
ψ
∈
S
(
R
)
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {S}}(\mathbf {R} )}
の一般化フーリエ変換は
ψ
{\displaystyle \psi }
それ自身である。
本節では
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
に付随するゲルファントの三つ組に対するスペクトル定理について述べる。このスペクトル定理は、
G
{\displaystyle {\mathcal {G}}}
が核型 フレシェ空間 、もしくはより一般に核型 局所凸空間 の場合に対して成立するF15 (p123,125) 。核型 局所凸空間 の定義はテクニカルなものなので、本項ではその定義について述べるのは避けるが、重要なのは以下の集合がいずれも核型局所凸空間になるという事である:
C
0
∞
(
Ω
)
{\displaystyle C_{0}^{\infty }(\Omega )}
、ここでΩ はR d の開集合F15 (p125)
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
F15 (p123)
定理 (ゲルファントの三つ組によるスペクトル定理 F15 (p123,125) ) ―
G
{\displaystyle {\mathcal {G}}}
を核型局所凸空間であるとし、A を
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
と両立する自己共役作用素とする。このとき、A は
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
に対して一般化固有ベクトルの完全系を持つ。
しかも集合K 、
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
の元の族
{
T
k
(
λ
)
}
λ
∈
R
,
k
∈
K
{\displaystyle \{T_{k}(\lambda )\}_{\lambda \in \mathbb {R} ,k\in K}}
、および有限ボレル測度 の族
{
μ
k
}
k
∈
K
{\displaystyle \{\mu _{k}\}_{k\in K}}
が存在し、任意の
ψ
∈
G
{\displaystyle \psi \in {\mathcal {G}}}
に対し
ψ
=
∑
k
∈
K
∫
R
⟨
T
k
(
λ
)
,
ψ
⟩
T
k
(
λ
)
d
μ
k
(
λ
)
{\displaystyle \psi =\sum _{k\in K}\int _{\mathbf {R} }\langle T_{k}(\lambda ),\psi \rangle T_{k}(\lambda )\mathrm {d} \mu _{k}(\lambda )}
、
A
ψ
=
∑
k
∈
K
∫
R
λ
⟨
T
k
(
λ
)
,
ψ
⟩
T
k
(
λ
)
d
μ
k
(
λ
)
{\displaystyle A\psi =\sum _{k\in K}\int _{\mathbf {R} }\lambda \langle T_{k}(\lambda ),\psi \rangle T_{k}(\lambda )\mathrm {d} \mu _{k}(\lambda )}
である。さらに以下が成立する:
‖
ψ
‖
=
∑
k
∈
K
∫
R
|
⟨
T
k
(
λ
)
,
ψ
⟩
|
2
d
μ
k
(
λ
)
{\displaystyle \|\psi \|=\sum _{k\in K}\int _{\mathbf {R} }|\langle T_{k}(\lambda ),\psi \rangle |^{2}\mathrm {d} \mu _{k}(\lambda )}
既に述べたように完全系は一般化フーリエ変換であるとみなせるが、このようにみなした場合最後の式はプランシュレルの定理 に対応しているF15 (p123) 。
なお、スペクトル分解が固有値分解の「無限次元版」であったことを考えると、上述したスペクトル定理における積分区間をR 全体ではなくσ (A ) に置き換えたほうが自然である。しかし
G
′
{\displaystyle {\mathcal {G}}'}
におけるA のスペクトルは
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
におけるA のスペクトルより大きくなる事があるのでA97 (p8) 、積分区間のR をσ (A ) に置き換えられない 。R をσ (A ) に置き換えられるとき、
(
H
,
G
,
ι
)
{\displaystyle ({\mathcal {H}},{\mathcal {G}},\iota )}
はA にtightly rigging しているというA97 (p8) 。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を状態空間とし、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の(有界とは限らない)自己共役作用素H をハミルトニアンとして固定し、
U
t
=
e
x
p
(
−
i
t
ℏ
H
)
{\displaystyle U_{t}=\mathrm {exp} \left(-{it \over \hbar }H\right)}
とする。
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
を強連続1パラメータユニタリ変換群とし、A をその無限小生成元とする。
このとき以下が成立する:
これは以下に述べる理由により量子力学におけるネーターの定理 M16 (p86) であるとみなせる。
まず最初の条件
V
−
s
H
V
s
=
H
{\displaystyle V_{-s}HV_{s}=H}
は、ハミルトニアンH が強連続1パラメータユニタリ変換群
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
に対して不変である事を示している。すなわち、H によって記述される系は対称性
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
を持つ。
一方2番目の条件は
U
−
t
A
U
t
=
A
{\displaystyle U_{-t}AU_{t}=A}
の左辺はハイゼンベルク描像で見たときのA の時間発展であるので、この条件は対称性
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
を定義する無限小生成元が運動の不変量 である事を意味している。
解析力学 におけるネーターの定理は系の対称性の無限小変換が運動の不変量になり、その逆も成り立つというものだったので、上述した2条件の同値性は量子力学におけるネーターの定理であると解釈できる。なお3番目の条件は、時間発展してから対称性
V
s
{\displaystyle V_{s}}
で系を動かす行為と、対称性
V
s
{\displaystyle V_{s}}
で系を動かしてから時間発展する事とが同一である事を意味している。
なお、ほとんどの物理の教科書では、上述した量子力学におけるネーターの定理を時間微分と交換子を用いて記述しているがM16 (p86) 、そのような記述方法は作用素の定義域に関する多くの問題点を含むM16 (p86) 。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上のユニタリ変換全体の集合を
U
(
H
)
{\displaystyle {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
と表記すると、強連続1パラメータユニタリ変換群
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
は実数にユニタリ変換を対応させる準同型写像
s
∈
R
↦
V
s
∈
U
(
H
)
{\displaystyle s\in \mathbf {R} \mapsto V_{s}\in {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
とみなす事ができる。解析力学 におけるネーターの定理はこうした実数からの写像だけでなく、一般の有限次元リー群 からの写像に対しても成立していた。そこで本節では量子力学における有限次元リー群 のネーターの定理を見出す。有限次元リー群 G から
U
(
H
)
{\displaystyle {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
への写像
Π
:
G
→
U
(
H
)
{\displaystyle \Pi ~:~G\to {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
で準同型性
∀
g
,
h
∈
G
:
Π
(
g
h
)
=
Π
(
g
)
Π
(
h
)
{\displaystyle \forall g,h\in G~:~\Pi (gh)=\Pi (g)\Pi (h)}
と強連続性
∀
{
g
n
}
n
∈
N
⊂
G
∀
g
∈
g
:
{\displaystyle \forall \{g_{n}\}_{n\in \mathbf {N} }\subset G~\forall g\in g~:~}
lim
n
→
∞
g
n
=
g
⇒
lim
n
→
∞
‖
Π
(
g
n
)
−
Π
(
g
)
‖
=
0
{\displaystyle \lim _{n\to \infty }g_{n}=g\Rightarrow \lim _{n\to \infty }\|\Pi (g_{n})-\Pi (g)\|=0}
とを満たすものをG の
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上のユニタリ表現 というH13 (p360) 。なおここで「強」連続と呼ぶのは、弱位相 における連続性と区別するためである。
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
をG のリー環 とし、X を
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元とする時、
V
s
:=
Π
(
e
x
p
(
s
X
)
)
{\displaystyle V_{s}:=\Pi (\mathrm {exp} (sX))}
とすると(上式のexpはリー環の元にリー群の元を対応させる写像である)、
{
V
s
}
s
∈
R
{\displaystyle \{V_{s}\}_{s\in \mathbf {R} }}
は強連続1パラメータユニタリ変換群になるので、ストーンの定理より、
Π
(
e
x
p
(
s
X
)
)
=
e
x
p
(
i
t
A
X
)
{\displaystyle \Pi (\mathrm {exp} (sX))=\mathrm {exp} (itA_{X})}
を満たす自己共役作用素AX が存在する(ここで左辺のexpは前述の通りリー環の元にリー群の元を対応させる写像、右辺のexpは自己共役作用素に1パラメータ変換を対応させる写像)。よって
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の元に自己共役作用素を対応させる写像
π
:
X
∈
g
↦
A
X
{\displaystyle \pi ~:~X\in {\mathfrak {g}}\mapsto A_{X}}
が定義可能である。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素H をハミルトニアンとして固定し、
U
t
=
e
x
p
(
−
i
t
ℏ
H
)
{\displaystyle U_{t}=\mathrm {exp} \left(-{it \over \hbar }H\right)}
とすると、強連続1パラメータユニタリ変換群に関するネーターの定理から、以下の3つは同値である:
任意の
s
∈
R
{\displaystyle s\in \mathbf {R} }
に対し
V
−
s
H
V
s
=
H
{\displaystyle V_{-s}HV_{s}=H}
任意の
t
∈
R
{\displaystyle t\in \mathbf {R} }
に対し
U
−
t
π
(
X
)
U
t
=
π
(
X
)
{\displaystyle U_{-t}\pi (X)U_{t}=\pi (X)}
任意の
s
,
t
∈
R
{\displaystyle s,t\in \mathbf {R} }
に対し
U
t
V
s
=
V
s
U
t
{\displaystyle U_{t}V_{s}=V_{s}U_{t}}
これが一般のリー群に関するネーターの定理であるが、強連続1パラメータユニタリ変換群に関するネーターの定理と違い、さらに
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
のリー括弧 に関しても、以下の性質が言える事であるH13 (p360) :
定理 ―
∀
X
,
Y
∈
g
:
π
(
[
X
,
Y
]
)
=
i
[
π
(
X
)
,
π
(
Y
)
]
{\displaystyle \forall X,Y\in {\mathfrak {g}}~:~\pi ([X,Y])=i[\pi (X),\pi (Y)]}
なお、自己共役作用素の括弧積
[
A
,
B
]
:=
A
B
−
B
A
{\displaystyle [A,B]:=AB-BA}
は
D
o
m
(
A
)
∩
D
o
m
(
B
)
{\displaystyle \mathrm {Dom} (A)\cap \mathrm {Dom} (B)}
が
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の稠密部分集合になる場合にしか自己共役作用素ならないが、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
のユニタリ表現の場合には
∀
D
∈
g
:
W
⊂
D
o
m
(
π
(
X
)
)
{\displaystyle \forall D\in {\mathfrak {g}}~:~W\subset \mathrm {Dom} (\pi (X))}
を満たす
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の稠密部分集合D が必ず存在する事が知られているので、括弧積は必ず自己共役作用素となるH13 (p360) 。
位置作用素
Q
j
(
ψ
)
:=
x
j
⋅
ψ
{\displaystyle Q_{j}(\psi ):=x_{j}\cdot \psi }
と運動量作用素
P
j
(
ψ
)
=
−
i
ℏ
∂
∂
x
j
(
ψ
)
{\displaystyle P_{j}(\psi )=-i\hbar {\partial \over \partial x_{j}}(\psi )}
は、状態空間
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
の稠密部分集合
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
で定義された作用素である。よってこれらの交換子も
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の稠密部分集合
S
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {S}}(\mathbf {R} ^{d})}
上で定義可能であり、以下の関係式(正準交換関係 )を満たす。ここでI は単位行列であり、
δ
j
,
k
{\displaystyle \delta _{j,k}}
はクロネッカーのデルタ である:
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
:
[
Q
j
,
P
k
]
=
i
ℏ
δ
j
,
k
I
,
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~:~[Q_{j},P_{k}]=i\hbar \delta _{j,k}I,\quad }
[
Q
j
,
Q
k
]
=
0
,
[
P
j
,
P
k
]
=
0
{\displaystyle [Q_{j},Q_{k}]=0,\quad [P_{j},P_{k}]=0}
なおBLT定理 より、これらの交換子は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の全域に拡張可能であり、上式は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の全域で成立する。
フォン・ノイマンの一意性定理 (英語版 ) 新井 (p230) (「ストーン=フォン・ノイマンの定理 」ともH13 (p286) )は、正準交換関係のやや強いバージョンである「ヴァイルの関係式」を満たす有限個の「既約な」作用素の組は同型を除いて、位置作用素と運動量作用素に限られるというものである。
なお、フォン・ノイマンの一意性定理を示すには、「ヴァイルの関係式」をはじめとした正準交換関係よりも強い仮定を課す事が必須であり、正準交換関係を満たすにもかかわらずフォン・ノイマンの一意性定理が成立しない反例で、物理的にも興味深い例が存在する 新井 (p230) 。
フォン・ノイマンの一意性定理を定式化するために必要な概念を定義する。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素
A
j
,
B
k
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A_{j},B_{k}\quad j,k=1,\ldots ,d}
に対し、正準交換関係を指数関数の上に乗せた下記の式をヴァイルの関係式 という新井 (p230) H13 (p284) :
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
,
∀
s
,
t
∈
R
:
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d,\forall s,t\in \mathbf {R} ~:~}
e
x
p
(
−
i
s
A
j
)
e
x
p
(
−
i
t
B
k
)
e
x
p
(
i
s
A
j
)
e
x
p
(
i
t
B
j
)
=
e
x
p
(
i
ℏ
δ
j
,
k
)
,
{\displaystyle \mathrm {exp} (-isA_{j})\mathrm {exp} (-itB_{k})\mathrm {exp} (isA_{j})\mathrm {exp} (itB_{j})=\mathrm {exp} (i\hbar \delta _{j,k}),}
e
x
p
(
−
i
s
A
j
)
e
x
p
(
−
i
t
A
k
)
e
x
p
(
i
s
A
j
)
e
x
p
(
i
t
A
j
)
=
I
,
{\displaystyle \mathrm {exp} (-isA_{j})\mathrm {exp} (-itA_{k})\mathrm {exp} (isA_{j})\mathrm {exp} (itA_{j})=I,}
e
x
p
(
−
i
s
B
j
)
e
x
p
(
−
i
t
B
k
)
e
x
p
(
i
s
B
j
)
e
x
p
(
i
t
B
j
)
=
I
.
{\displaystyle \mathrm {exp} (-isB_{j})\mathrm {exp} (-itB_{k})\mathrm {exp} (isB_{j})\mathrm {exp} (itB_{j})=I.}
通常の正準交換関係の場合には、
A
j
,
B
k
{\displaystyle A_{j},B_{k}}
の定義域の共通部分が
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
で稠密でないとそもそも交換子が定義できないという問題を抱えていたが、ヴァイルの関係式の場合、
A
j
,
B
k
{\displaystyle A_{j},B_{k}}
を指数関数の上に乗せた結果出来上がるユニタリ変換を取り扱っており、しかもBLT定理 よりこれらのユニタリ変換の定義域は
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
全体であるので、こうした定義域の問題は起こらない。
正準交換関係をヴァイル関係式で表す事を、正準交換関係のヴァイル表現 という。なお、一般には通常の正準交換関係よりもヴァイルの関係式の方が強い制約条件であり、両者は同値ではない。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素
A
j
,
B
k
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A_{j},B_{k}\quad j,k=1,\ldots ,d}
がヴァイル表現として規約 であるとは、
e
x
p
(
i
s
A
j
)
,
e
x
p
(
i
t
B
k
)
j
,
k
=
1
,
…
,
d
,
s
,
t
∈
R
{\displaystyle \mathrm {exp} (isA_{j}),\mathrm {exp} (itB_{k})\quad j,k=1,\ldots ,d,~s,t\in \mathbf {R} }
の共通の不変真部分閉空間が
{
0
}
{\displaystyle \{0\}}
のみである事をいう。すなわち閉部分空間
K
⊊
H
{\displaystyle {\mathcal {K}}\subsetneq {\mathcal {H}}}
が
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
∀
s
,
t
∈
R
:
e
x
p
(
i
s
A
j
)
(
K
)
⊂
K
,
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~\forall s,t\in \mathbf {R} ~:~\mathrm {exp} (isA_{j})({\mathcal {K}})\subset {\mathcal {K}},\quad }
e
x
p
(
i
t
B
k
)
(
K
)
⊂
K
{\displaystyle \mathrm {exp} (itB_{k})({\mathcal {K}})\subset {\mathcal {K}}}
をみたすなら
K
=
{
0
}
{\displaystyle {\mathcal {K}}=\{0\}}
である事をいう。
次の事実をフォン・ノイマンの一意性定理 という:
定理 (フォン・ノイマンの一意性定理 H13 (p286-287) ) ―
H
=
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle {\mathcal {H}}=L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
上の自己共役作用素
A
j
,
B
k
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A_{j},B_{k}\quad j,k=1,\ldots ,d}
がヴァイルの関係式を満たし、しかもヴァイル表現として規約であれば、以下を満たす
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上のユニタリ作用素U が存在する:
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
∀
s
,
t
∈
R
:
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~\forall s,t\in \mathbf {R} ~:~}
U
e
x
p
(
i
s
A
j
)
U
−
1
=
e
x
p
(
i
s
Q
j
)
,
{\displaystyle U\mathrm {exp} (isA_{j})U^{-1}=\mathrm {exp} (isQ_{j}),\quad }
U
e
x
p
(
i
t
B
j
)
U
−
1
=
e
x
p
(
i
t
P
j
)
.
{\displaystyle U\mathrm {exp} (itB_{j})U^{-1}=\mathrm {exp} (itP_{j}).}
しかもU は絶対値1の複素数倍を除いて一意である。
フォン・ノイマンの一意性定理は、量子力学に重要なリー群であるハイゼンベルク群 を用いる事でより簡潔に表現できる。
d 次のハイゼンベルク群とは、
H
d
=
R
d
×
R
d
×
R
{\displaystyle \mathbf {H} _{d}=\mathbf {R} ^{d}\times \mathbf {R} ^{d}\times \mathbf {R} }
に以下のような積を入れる事で定義されるリー群 であるW (p1-3) :
(
p
,
q
,
c
)
⋅
(
p
′
,
q
′
,
c
′
)
:=
(
p
+
p
′
,
q
+
q
′
,
c
+
c
′
+
1
2
(
p
q
′
−
q
p
′
)
)
{\displaystyle (\mathbf {p} ,\mathbf {q} ,c)\cdot (\mathbf {p} ',\mathbf {q} ',c'):=(\mathbf {p} +\mathbf {p} ',\mathbf {q} +\mathbf {q} ',c+c'+{1 \over 2}(\mathbf {p} \mathbf {q} '-\mathbf {q} \mathbf {p} '))}
ここで
p
q
′
{\displaystyle \mathbf {p} \mathbf {q} '}
、
q
p
′
{\displaystyle \mathbf {q} \mathbf {p} '}
は
R
d
{\displaystyle \mathbf {R} ^{d}}
上の内積である。
ハイゼンベルク群が量子力学で重要なのは、対応するリー環(ハイゼンベルクリー環 )が正準交換関係(で
ℏ
=
1
{\displaystyle \hbar =1}
にしたもの)を満たすからである。すなわち、d 次のハイゼンベルクリー環は、
h
d
=
R
d
×
R
d
×
R
{\displaystyle {\mathfrak {h}}_{d}=\mathbf {R} ^{d}\times \mathbf {R} ^{d}\times \mathbf {R} }
と表記でき、j=1,…,d のとき、j=d+1,…,2d のとき、j=2d+1 のときそれぞれ、座標軸
(
0
,
…
,
0
,
1
ˇ
j
,
0
,
…
,
0
)
{\displaystyle (0,\ldots ,0,{\overset {j}{\check {1}}},0,\ldots ,0)}
の事を
P
→
j
{\displaystyle {\vec {P}}_{j}}
、
Q
→
j
{\displaystyle {\vec {Q}}_{j}}
、
I
→
{\displaystyle {\vec {I}}}
と書くと、これらのリー・ブラケット は
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
:
[
Q
→
j
,
P
→
k
]
=
δ
j
,
k
I
→
,
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~:~[{\vec {Q}}_{j},{\vec {P}}_{k}]=\delta _{j,k}{\vec {I}},\quad }
[
Q
→
j
,
Q
→
k
]
=
0
,
[
P
→
j
,
P
→
k
]
=
0
{\displaystyle [{\vec {Q}}_{j},{\vec {Q}}_{k}]=0,\quad [{\vec {P}}_{j},{\vec {P}}_{k}]=0}
を満たすW (p1-3) 。
ハイゼンベルク群によるフォン・ノイマンの一意性定理
編集
まずフォン・ノイマンの一意性定理の仮定をハイゼンベルク群を用いて表現する。
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
をヒルベルト空間とし、
U
(
H
)
{\displaystyle {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
を
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上のユニタリ作用素全体の集合とする。
Π
:
H
d
→
U
(
H
)
{\displaystyle \Pi ~:~\mathbf {H} _{d}\to {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
を
Π
(
I
→
)
=
i
ℏ
I
{\displaystyle \Pi ({\vec {I}})=i\hbar I}
を満たす強連続な写像とし、さらに
A
j
:=
Π
(
Q
→
j
)
,
B
j
:=
Π
(
P
→
j
)
{\displaystyle A_{j}:=\Pi ({\vec {Q}}_{j}),\quad B_{j}:=\Pi ({\vec {P}}_{j})}
とする。するとフォン・ノイマンの一意性定理の条件であるヴァイルの関係式は、Π が準同型である事を意味している。すなわちヴァイルの関係式を満たすΠ はハイゼンベルク群の強連続なユニタリ表現である。このように見た時、ヴァイル表現に関する規約性の条件は、このヴァイル表現が規約である事と同値である。なお、ハイゼンベルク群のニタリ表現の事をシュレディンガー表現 というZ13 (p3) 。
一方、フォン・ノイマンの一意性定理の結論部分は、このユニタリ表現が同型を除いて一意であり、その唯一のユニタリ表現による
Q
→
j
,
P
→
k
{\displaystyle {\vec {Q}}_{j},~{\vec {P}}_{k}}
の像がそれぞれ
まとめると、以下の結論が得られるW (p3) :
定理 ―
強連続なシュレディンガー表現
Π
:
H
d
→
U
(
H
)
{\displaystyle \Pi ~:~\mathbf {H} _{d}\to {\mathcal {U}}({\mathcal {H}})}
で
Π
(
I
→
)
=
i
ℏ
I
{\displaystyle \Pi ({\vec {I}})=i\hbar I}
を満たすものは、同型を除いて1つしか存在しない。必要ならΠ を同型なものと取り替えると、
Q
j
:=
Π
(
Q
→
j
)
,
P
j
:=
Π
(
P
→
j
)
{\displaystyle Q_{j}:=\Pi ({\vec {Q}}_{j}),\quad P_{j}:=\Pi ({\vec {P}}_{j})}
が成立する。ここで
Q
j
{\displaystyle Q_{j}}
、
P
j
{\displaystyle P_{j}}
はそれぞれ位置作用素、運動量作用素である。
Mackeyはより弱い条件のもとフォン・ノイマンの一意性定理を示しているM16 (p94-95) :
定理 (Mackeyの定理 ) ―
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
を可分とは限らないヒルベルト空間とし、
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の自己共役作用素
A
j
,
B
k
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A_{j},B_{k}\quad j,k=1,\ldots ,d}
と
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
の稠密部分集合D が以下の4条件をすべて満たしているとする。
D は
A
j
,
B
k
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle A_{j},B_{k}\quad j,k=1,\ldots ,d}
で不変である。すなわち
A
j
(
D
)
⊂
D
{\displaystyle A_{j}(D)\subset D}
、
B
j
(
D
)
⊂
D
{\displaystyle B_{j}(D)\subset D}
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle ~~\forall j,k=1,\ldots ,d}
を満たす。
(D 上の正準交換関係 )
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
∀
ψ
∈
D
:
[
A
j
,
B
k
]
ψ
=
i
ℏ
δ
j
,
k
ψ
,
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~\forall \psi \in D~:~[A_{j},B_{k}]\psi =i\hbar \delta _{j,k}\psi ,\quad }
[
A
j
,
A
k
]
ψ
=
0
,
[
B
j
,
B
k
]
ψ
=
0
{\displaystyle [A_{j},A_{k}]\psi =0,\quad [B_{j},B_{k}]\psi =0}
(規約性 )
A
j
(
K
∩
D
o
m
(
A
j
)
)
⊂
K
,
{\displaystyle A_{j}({\mathcal {K}}\cap \mathrm {Dom} (A_{j}))\subset {\mathcal {K}},\quad }
B
k
(
K
∩
D
o
m
(
B
k
)
)
⊂
K
{\displaystyle B_{k}({\mathcal {K}}\cap \mathrm {Dom} (B_{k}))\subset {\mathcal {K}}}
が任意の
j
,
k
=
1
,
…
,
d
{\displaystyle j,k=1,\ldots ,d}
に対して成立する閉部分空間
K
⊊
H
{\displaystyle {\mathcal {K}}\subsetneq {\mathcal {H}}}
は
K
=
{
0
}
{\displaystyle {\mathcal {K}}=\{0\}}
に限る。
∑
j
=
1
d
A
j
2
|
D
+
B
j
2
|
D
{\displaystyle \sum _{j=1}^{d}A_{j}{}^{2}|_{D}+B_{j}{}^{2}|_{D}}
は本質的に自己共役である
このとき、同型写像
U
:
H
→
L
2
(
R
d
)
{\displaystyle U~:~{\mathcal {H}}\to L^{2}(\mathbf {R} ^{d})}
が存在し、
∀
j
,
k
=
1
,
…
,
d
:
{\displaystyle \forall j,k=1,\ldots ,d~:~}
U
A
j
U
−
1
=
Q
j
,
{\displaystyle UA_{j}U^{-1}=Q_{j},\quad }
U
B
j
U
−
1
=
P
j
.
{\displaystyle UB_{j}U^{-1}=P_{j}.}
よって特に、(可分性を仮定しなかったにもかかわらず)
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
が可分である事が従う。
^ F15 では
H
{\displaystyle {\mathcal {H}}}
上の複素数値有界線形作用素としてブラベクトルを定義しているが、リースの表現定理 より、この定義は本項の定義と同値である。
^ 例えば新井 、H13 で用いられている記法
^ H13 (p56) では新井 (p82-83) と違い、
ϕ
→
⟨
ψ
∣
T
(
ϕ
)
⟩
{\displaystyle \phi \to \langle \psi \mid T(\phi )\rangle }
が有界になる事を要請しているが、両者の定義はリースの表現定理 より同値になる。
^ ただしH13 では逆に直積分によるスペクトル定理から掛け算作用素によるスペクトル定理を導出しているので、下記の「証明」は循環論法となる。