酒石酸(しゅせきさん Tartaric acid)は酸味のある果実、特に葡萄、ワインに多く含まれる有機化合物で、ヒドロキシ酸である。IUPAC命名法では 2,3-ジヒドロキシブタン二酸(2,3-dihydroxy butanedioic acid)となる。ワインの樽にたまる沈殿(酒石、tartar)から、カリウム塩(酒石酸水素カリウム)として発見されたためこの名がある。常温常圧で無色の固体。極性溶媒によく溶ける。水への溶解は、L体D体メソ体はよく溶けるが、ラセミ体は比較的溶けにくい。英語のTartaric acidからタルタル酸とも呼ばれる。

酒石酸[1]
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L-(+)-酒石酸の球棒モデル
識別情報
CAS登録番号 87-69-4, 147-71-7, 133-37-9, 147-73-9
PubChem 875 unspecified isomer
ChemSpider 852 チェック
UNII W4888I119H チェック
E番号 E334 (酸化防止剤およびpH調整剤)
DrugBank DB01694
KEGG C00898 チェック
MeSH tartaric+acid
ChEBI
ChEMBL CHEMBL333714 チェック
特性
化学式 C4H6O6 (一般式)
HO2CCH(OH)CH(OH)CO2H (構造式)
モル質量 150.087 g/mol
外観 白色粉末
密度 1.737 g/cm3 (R,R- と S,S-)
1.79 g/cm3 (ラセミ体)
1.886 g/cm3 (メソ体)
融点

169, 172 °C (R,R- と S,S-)
206 °C (ラセミ体)
165-6 °C (メソ体)

への溶解度
  • 1.33 kg/L (L or D-酒石酸)
  • 0.21 kg/L (DL, ラセミ体)
  • 1.25 kg/L (メソ体)
酸解離定数 pKa L(+) 25 °C :
pKa1= 2.89, pKa2= 4.40
メソ体 25 °C:
pKa1= 3.22, pKa2= 4.85

[2]

磁化率 −67.5·10−6 cm3/mol
危険性
GHSピクトグラム 腐食性物質
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
Hフレーズ H318
Pフレーズ PP280, PP305+P351+P338+P310
関連する物質
その他の陽イオン 酒石酸一ナトリウム
酒石酸ナトリウム
酒石酸水素カリウム
酒石酸カリウム
関連するカルボン酸 酪酸
コハク酸
ジメルカプトコハク酸
リンゴ酸
マレイン酸
フマル酸
関連物質 2,3-ブタンジオール
チコリ酸
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

不斉炭素

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酒石酸の結晶。左がD体、右がL体。

酒石酸は2つの不斉炭素を持つため、L-(+)-酒石酸(2R,3R)、D-(−)-酒石酸(2S,3S)、メソ酒石酸(2R,3S)の3種類の異性体が存在する。フランスのルイ・パスツールラセミ体(DL体)の酒石酸塩(酒石酸ナトリウムアンモニウム)を、その結晶の形をもとに光学分割することに成功し、光学異性体の概念を史上初めて示したことで知られる。天然に比較的多く存在するのはL体である。メソ酒石酸は天然には存在せず、キラリティを持たない。また、ラセミ体はブドウ酸と呼ばれる。

用途

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酒石酸は食品添加物としての使用が認められており、ベーキングパウダー酸味料などとして食品に添加される。医薬においては水溶性を改善するため、酒石酸の塩として供給されているものがある。有機合成化学の分野では光学分割剤として用いられるほか、誘導体が不斉触媒などとして使われている(酒石酸ジエチルを用いるシャープレス酸化が有名)。

相撲部屋ではちゃんこに使うポン酢は市販のものを買うのではなく、酒石酸を湯に溶かし、それを醤油に混ぜ、香りづけに柑橘類を絞ったものを入れることがある[3][4]

「疲労を回復する」、「整腸作用がある」などといわれているが、ヒトでの有効性・安全性については科学的に信頼できる十分なデータがない[5]。ラットを用いた実験では、リン・カルシウムの腸管からの吸収を阻害するというデータが得られている[6]

出典

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  1. ^ Tartaric Acid – Compound Summary, PubChem.
  2. ^ Dawson, R.M.C. et al., Data for Biochemical Research, Oxford, Clarendon Press, 1959.
  3. ^ 北の富士勝昭、嵐山光三郎『大放談!大相撲打ちあけ話』(新講舎、2016年)p192
  4. ^ 鳴戸俊英『親方はちゃんこ番』(ポプラ社、2003年)p138
  5. ^ 酒石酸 - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所
  6. ^ 小川竜平、真鍋厚史、中山貞男、小口勝司. “カルシウムとリンの吸収ならびに実験的骨粗鬆症に対するシュウ酸、酒石酸の影響”. 昭和医学会雑誌 54 (2): 118-127. doi:10.14930/jsma1939.54.118. https://doi.org/10.14930/jsma1939.54.118. 

関連項目

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