言語変化
言語変化(げんごへんか、英:Language change)とは、自然言語に生じる音声、形態、意味、統語の変化のことである。歴史言語学において研究される。
言語変化
編集言語は社会的な約束事・規則のため、勝手に変えるとコミュニケーションに支障をきたす。しかしながら、一定で不変のものでもなく、どこかで揺れている。この揺れが、ごく一部の話し手だけにとどまっていれば変化しないが、広く受け入れられると言語の変化となる。意図的に変化させることはできないが、自然の変化を止めることもできない[1]。変化を予測することはできない。変化に必然性はなく、変化した要因は説明できても、同じ条件にある言語なら同じように変化するわけでもない。
要因
編集言語変化の要因には内的要因と外的要因がある。
言語の歴史的研究
編集言語の歴史的研究を行なう分野を歴史言語学と言う。歴史的研究には、過去の言語で書かれた文字資料が手がかりとなる。とはいえ、文字で書くという行為はやや改まった場面でおこなわれるもので、必ずしも話し言葉と一致しているわけではない。また、書き言葉が固定化され、話し言葉の方だけ変化してしまう場合もある。例えば日本語では、明治時代に言文一致が行なわれるまでは、平安時代の言語を基にした文語体が書き言葉として使われていた。英語では、大母音推移によって発音が変化した後も、文字表記は変化させなかったため、綴りと発音との間に大きな乖離が生じた。一方で、文章の中に現れる書き間違いから、当時の発音を知ることもできる。例えば、日本語で過去に「ウルハシ」と書くべきところを「ウルワシ」と書いた例では、当時ハをワと発音するようになっていたことが分かる。
音変化
編集音変化は以下に大別される。
音変化には、以下のように様々なパターンがある。
- 同化:前後の音のどちらかが他方に作用して、似た音あるいは同じ音に変えてしまうことである。特に、iやeの前にあるkやtがtʃに変化する現象は口蓋化と呼ばれ、多くの言語で見られる。
- 弱化:母音や子音が弱まる現象。母音弱化と子音弱化がある。
- 音の脱落:「いやだ」→「やだ」、「している」→「してる」などがある。脱落が起きても、元の長さを保つために隣接する音が長くなることがある(代償延長)。
- 音挿入:語頭、語中、語尾に音が挿入されること。子音連続を回避するため、音を挿入して発音を楽にすることがある。
- 音位転換:語の中の音の位置が入れ替わること。
- 過剰修正:間違っていると言われる発音を直そうとするあまり、正しい発音も変えてしまうこと。
形態変化
編集類推
編集日本語の一段動詞(上一段活用・下一段活用)は、可能形も受身形も「見られる」「食べられる」であるが、五段動詞では可能形は「取れる」「切れる」、受身形は「取られる」「切られる」で別の形を用いる。一段動詞は本来、mi-rareru、tabe-rareruであるが、五段動詞の可能形tor-eru、kir-eruという形からの連想で、一段動詞の可能形でもmir-eru、taber-eruという形が生まれている。また、古英語に360ほどあった不規則動詞は、現在は約60まで減っている。このように、不規則な形があると、記憶を楽にするため、なるべく規則的な型に揃えようとする。このような心理的な働きを類推と言う。一般に、使用頻度の低い語はつい忘れがちになるため、類推を受けやすい。
異分析
編集異分析とは、誤解によって語が本来とは違う解釈をされることである。たとえば英語のcherry(サクランボ)は、フランス語のcherisのsを複数形語尾と誤解してsを脱落させたものである。
意味の変化
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出典
編集- ^ 風間喜代三 et al. (2004), p. 170.
参考文献
編集- 図書
- 風間喜代三、上野善道、松村一登、町田健『言語学』(第2版)東京大学出版会、2004年9月。ISBN 4-13-082009-5。
- 斎藤純男『言語学入門』三省堂、2010年7月。ISBN 978-4-385-36421-6。
- 論文
- Hibiya, Junko (1995). “The velar nasal in Tokyo Japanese: A case of diffusion from above”. Language variation and change 7 (2): 139-152. doi:10.1017/S0954394500000958
- 井上史雄「方言の中の変化:戦後の新方言」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、21-28頁。
- 井上史雄「近代の言語変化:音声資料の活用」『日本語学』第17巻第6号、明治書院、1998年5月、4-12頁。
- 井上史雄「昭和の方言:鶴岡と郊外の言語変化」『日本語学』第33巻第15号、明治書院、2014年12月、16-24頁。
- 井上史雄「言語変化のS字カーブ:過去の方言の痕跡」『日本語学』第36巻第2号、明治書院、2017年2月、26-35頁。
- 井上史雄「平成の方言:鶴岡の250年間の言語変化」『日本語学』第37巻第10号、明治書院、2018年9月、14-24頁。
- 永瀬治郎「現代の言語変化の研究法」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、4-12頁。
- 荻野綱男「情報化と言語変容」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、63-69頁。
- 江川清「国語研究所の調査に見る言語変化」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、45-52頁。
- 佐藤亮一「東京語アクセントの変化:大正から昭和まで」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、53-62頁。
- 渋谷勝己「国語史から見た現代の変化」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、70-79頁。
- 真田信治「社会言語学から見た言語変化」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、29-36頁。
- 大西拓一郎「言語変化・方言分化が起こりにくいところ:方言地図からさぐる」『日本語学』第38巻第12号、明治書院、2019年12月、48-56頁。
- 中井精一「地方経済と方言:北陸新幹線開業による言語変化の可能性」『日本語学』第34巻第6号、明治書院、2015年5月、14-25頁。
- 日高水穂「言語変化を抑制する誤用意識」『日本語学』第28巻第9号、明治書院、2009年7月、14-26頁。
- 日比谷潤子「言語変化研究の新展開(1)」『日本語学』第9巻第3号、明治書院、1990年3月、110-117頁。
- 日比谷潤子「言語変化研究の新展開(2)」『日本語学』第9巻第5号、明治書院、1990年5月、113-121頁。
- 日比谷潤子「言語変化研究の新展開(3)」『日本語学』第9巻第6号、明治書院、1990年6月、104-113頁。
- 米川明彦「現代の外来語の流入」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、1991年4月、37-44頁。
- 保坂道雄「言語変化と言語進化:格をめぐって」『日本語学』第30巻第13号、明治書院、2011年11月、34-42頁。
- 芳賀綏「戦後日本人の「話す」生活」『日本語学』第10巻第4号、明治書院、13-20頁。