聖ニコラウスの物語
『聖ニコラウスの物語』(せいニコラウスのものがたり、伊: Le storie di San Nicola, 英: The Stories of St. Nicholas)は、イタリア・ゴシック期の画家アンブロージョ・ロレンツェッティが1330-1335年ごろ、板上にテンペラと金箔で制作した絵画である。画家が二度目にフィレンツェに滞在した時にサン・プロコロ教会のために描かれた[1]。聖ニコラウスの生涯の4つの場面が表されている4枚の板絵からなり、2枚ずつが1つのパネル (縦95.8センチ、横52.3センチ) をなしている。本来どのような構成であったかは不明であるが、それぞれのパネルの片側に留め金のようなものがついていることから、おそらく中央に聖ニコラウス表した祭壇背後の装飾壁であったと思われる[2][3]。作品は、フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されている[1][2][3][4]。
イタリア語: Le storie di San Nicola 英語: The Stories of St. Nicholas | |
作者 | アンブロージョ・ロレンツェッティ |
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製作年 | 1330-1335年ごろ |
種類 | 板上にテンペラ、金箔 |
所蔵 | ウフィツィ美術館、フィレンツェ |
作品
編集絵画に表されている4つのエピソードは、ヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説 (聖人伝)』から採られている[2][3]。作品には、アンブロージョ・ロレンツェッティの見事な物語叙述能力が示されているばかりでなく、画家の複雑な空間構成への熱意と建築物を描く大いなる技量が示されており[2][3]、遠近法の使用も進歩している[4]。筆触は非常に洗練されたもので[2][3]、自然の細部の写実的描写も進歩しており、15世紀初めの作品と共通点が多い[4]。
聖ニコラウスの施し物
編集聖ニコラウスの物語の最初の逸話は、左側のパネル上段の「聖ニコラウスの施し物」である。聖ニコラウスは、困窮した男が3人の娘たちを嫁がせるために必要な持参金を与えるために窓から金塊を投げ入れている。その施しは模範的なものである。彼は慈善の行いを密かに謙虚になしており、感謝されることを求めていない[2]。なお、アンブロージョ・ロレンツェッティによる同じ主題の『バリの聖ニコラウスの施し物』がパリのルーヴル美術館にも所蔵されている[5][6][7]。
ミュラの司教として叙階される聖ニコラウス
編集左側パネル下段には、神の意志により小アジアのミュラの司教として叙階される聖ニコラウスが描かれている[2]。伝説によれば、ミュラの新しい司教を選ぶために集まった高位聖職者たちは、教会に入る最初のニコラウスという人物を選ぶように、という声を聞いた[2]。画中で、聖ニコラウスは二度登場している。最初、彼は前景右側の教会入り口でピンク色の衣服を身に着けて立っており、その右隣には青色の衣服を纏った高位聖職者がいる。二度目に登場する聖ニコラウスは中央の祭壇前に跪いて、長老たちの中で司教として叙階されている[2]。
穀物船の奇蹟
編集聖ニコラウスの次のエピソードは、右側パネル下段に描かれている。彼は港へ赴き、エジプトのアレクサンドリアに穀物を運ぶ船の船員たちに飢饉に見舞われたミュラのために穀物を分け与えてくれるよう懇願する。船員たちが聖ニコラウスの要請に従うと、船はふたたび穀物で満たされ、アレクサンドリアに着いた時、穀物の不足は起こらなかった[3]。
どこまでも広がる深い海の光景は強烈な青色によって現実的な空間を創造し、金地の背景で構成された水平線まで続いている。船団は写実的に本物のように描かれ、前景左側の陸上の人物群は衣服の鮮やかな色調で描き分けられている。部分的に描かれた城壁と光が当たって縞になっている奇抜な岩が小さな入り江を取り囲んで聳えている[1]。
少年を生き返らせる聖ニコラウス
編集4番目のエピソードは聖ニコラウスの死後に起きたもので、右側パネル上段に描かれている。聖ニコラウスの祝日に、巡礼者の姿をした悪魔に施しを与えとされる少年がその悪魔に殺された。聖ニコラウスの信奉者であった子供の父親が聖ニコラウスを呼び出した後、聖ニコラウスが少年を生き返らせたため、集っていた人々は大いに驚き、歓喜した[3]。
脚注
編集- ^ a b c ルチャーノ・ベルティ、28頁。
- ^ a b c d e f g h i “The alms of St Nicholas; St Nicholas ordained as bishop of Myra”. ウフィツィ美術館公式サイト(英語). 2024年5月27日閲覧。
- ^ a b c d e f g “The miracle of the grain ships: St Nicholas resuscitates a young boy”. ウフィツィ美術館公式サイト(英語). 2024年5月27日閲覧。
- ^ a b c ルチアーノ・ベルティ、アンナ・マリーア・ペトリオーリ・トファニ、カテリーナ・カネヴァ 1994年、22頁。
- ^ “La Charité de saint Nicolas de Bari”. ルーヴル美術館公式サイト (フランス語). 2024年5月23日閲覧。
- ^ 『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、2011年、18頁。
- ^ 『NHKルーブル美術館III 中世からルネサンスへ』、1985年、89頁。
参考文献
編集- ルチャーノ・ベルティ『ウフィツィ』、ベコッチ出版社 ISBN 88-8200-0230
- ルチアーノ・ベルティ、アンナ・マリーア・ペトリオーリ・トファニ、カテリーナ・カネヴァ『ウフィツィ美術館』、みすず書房、1994年 ISBN 4-622-02709-7
- ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
- 坂本満 責任編集『NHKルーブル美術館III 中世からルネサンスへ』、日本放送出版協会、1985年刊行 ISBN 4-14-008423-5