空陸両用車
概要
編集従来から飛行可能な自動車の研究は行われてきたが、航空機は単発ピストンエンジンの軽飛行機でもスーパーカー以上の価格であり、航空機の運用に必要な資格や申請が必要である。そのため、個人やベンチャー企業の小規模な研究にとどまっている。
歴史
編集古くは1920年代に自動車王のヘンリー・フォードがflying carの開発に取り組んでいたが成功しなかった[1]。1983年にはカナダ人ポール・モラーにより垂直離着陸型の空飛ぶクルマの開発が始まった[1]。
日本においては1997年に岐阜県工業会によって走行時に翼を折り畳むタイプの「ミラクルビークル」と言う空飛ぶクルマの開発が発表された[1]。しかし開発は資金難により2012年に終了した[1]。
2014年、北米トヨタはUmesh N GandhiとTaewoo Namにより設計された飛行可能な車の特許を出願したが、開発などは行われていない[2]。ちなみにトヨタは2020年にeVTOL型の空飛ぶクルマ開発企業との提携を発表している[2]。
走行と飛行という相反する2つの機能を1つの乗り物だけで実現するのは技術的に困難であり、100年以上にわたって開発が進められているにもかかわらず、[3]、空陸両用車は失敗続きだった。21世紀に入り実用可能なものが実現したものの、商業的に成功するかは未知数である。
事例
編集Moller Skycar
編集カナダの発明家、ポール・モラー (Paul Moller) がMoller Internationalで1980年代から40 年以上にわたって開発を続けてきたVTOL (垂直離着陸) 機能を持つ空飛ぶ車である。2022年現在までM400は飛行試験に成功しておらず、プロジェクト失敗とそれに伴う財務上の問題により、モラーは詐欺容疑で告発されている。親会社の Moller International は 2015 年から休眠状態にあり、2019年9月、株式はSECにより廃止された[4]。
Transition
編集米国企業のテラフージア (Terrafugia) によるもので、2011年中に生産を開始すると発表している。30秒以内に地上走行モードから飛行モードへの切り替えが可能。また、燃料の満タン時には640~720キロの飛行ができ、最高速度は時速185km、価格は1,600万円〜2,100万円と発表している。現在、同社のホームページにて1万ドル(約80万円)で予約を受け付けている[5]。
テラフージアではこの他にDARPAのトランスフォーマーTXという空陸両用車の製造を担当[6]した他、「AirCar」(エアカー)という名称の空陸両用車も開発している[7]。
2017年11月にテラフージアは中国の吉利汽車の親会社の浙江吉利控股集団に買収され[8]、3倍の人員と資金を得てTransitionの開発体制を安定させたことから2019年の市販を発表し[9]、2018年10月に世界初の量産型空飛ぶクルマとして注文開始した[10][11][12]。
flying Maruti
編集インドのバンガロールに住むヴィシュワナート (A.K. Vishwanath) がマルチ・スズキ・インディアのマルチ・800(2代目スズキ・アルトベース)を改造して製作。バンガロール空港で開催された航空ショー「エアロインディア2011」に展示された。ミツバチの飛行能力などを参考にし開発に16年を費やしたとしているが、航空力学的に飛行出来ないと言われ現在のところ飛行試験は行われていない[13]。
パラジェット社製スカイカー
編集英国企業パラジェット (Parajet) によるモーターパラグライダーを利用した空陸両用車。バギー風の車にパラグライダーのような翼を持つ[14]。レイジ・モータースポーツ (Rage Motorsport) との共同生産、スカイカーの考案は冒険家のニール・ロートン (Neil Laughton) である。地上走行モードから飛行モードへの切り替えは3分程、離陸するための速度は時速約56km、200メートル以上の滑走路により離陸可能である。飛行モードでの最高速度は時速約110km、巡航高度約600〜900メートル、最高高度約4,500メートルとなっている。また、地上走行モードでの最高速度は時速約160km、4.5秒で時速約97kmまで加速できる。ロンドンからアフリカ・マリ共和国のトンブクトゥまで飛行するプロジェクト「スカイカー・エクスペディション2009」に成功した。将来的には車体を80kg軽量化し、約142psのヤマハ燃料噴射式3気筒エンジンを搭載する予定である[15][16]。
SkyDrive
編集日本の株式会社SkyDriveによる計画。地上走行可能な有人ドローン。
AirCar
編集スロバキアのKleinVisionが2021年に試験飛行及び地上走行に成功。動力はBMWの排気量1.6リットルのエンジンである[17][18]。
脚注
編集- ^ a b c d 『空飛ぶクルマのしくみ』日刊工業新聞社、2019年12月21日、16-17頁。ISBN 978-4-526-08024-1。
- ^ a b “「空飛ぶクルマ」参入のトヨタ、実は2014年に特許出願していた” (17 January 2020). 2020年12月11日閲覧。
- ^ 『空飛ぶクルマのしくみ』日刊工業新聞社、2019年12月21日、13頁。ISBN 978-4-526-08024-1。
- ^ https://www.sec.gov/litigation/admin/2019/34-87020.pdf [PDFファイルの名無しリンク]
- ^ “「空飛ぶ車」、年内に生産開始へ-米テレフギア社”. サーチナ. (2011年2月8日)
- ^ Huang, Gregory T. "Terrafugia, Aurora Flight Sciences, Metis Design take wing in $65M DARPA program to design Flying Humvee" Xconomy, 2 December 2010.
- ^ “Is is a car? Is it a plane? Actually it's both, and it certainly beats sitting in traffic jams” (英語). Daily Mail Online. (2008年3月6日)
- ^ “「空飛ぶ車」を買収、中国・浙江吉利の株価が24年ぶり高値更新” (2017年11月14日). 2017年12月18日閲覧。
- ^ “空飛ぶクルマTerrafugia、2019年の市販開始を発表。吉利の買収で開発体制が安定” (2018年7月19日). 2018年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月15日閲覧。
- ^ “動画:吉利集団、10月に「空飛ぶ車」予約受付 19年に納車” (2018年10月2日). 2019年3月30日閲覧。
- ^ “World's first FLYING CAR that can turn into a plane in less than a minute and soar along at 100mph is going on sale in the US next month” (2018年9月26日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “World's first flying car about to go on sale” (2018年9月27日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “「空飛ぶ車」?インド発明家が開発”. AFPBB News. (2011年2月12日)
- ^ “The Parajet SkyCar's First Flight - 2009” (2009年10月20日). 2019年1月15日閲覧。
- ^ “世界初のバイオ燃料スカイカーの製品モデルが2010年に登場!”. Autoblog JP. (2009年4月20日). オリジナルの2012年7月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ “パラグライダー+エンジンで人が飛ぶ「パラジェット」:「空飛ぶ車」も開発中”. WIRED.jp. (2008年12月1日). オリジナルの2012年7月16日時点におけるアーカイブ。
- ^ 「空飛ぶ車」35分間の飛行テストに成功 スロバキア|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト
- ^ スロバキア企業、空飛ぶ車「AirCar」の耐空証明を取得--主翼は折りたたみ式 - CNET Japan
関連項目
編集外部リンク
編集- “空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップを取りまとめました -経済産業省
- クラスターファンVTOL技術による「空飛ぶクルマ」の提案
- Moller International
- Terrafugia
- Parajet