甲州 (ブドウ)
甲州(こうしゅう)は、山梨県(旧甲斐国)固有の白ぶどう品種。生食用またはワイン醸造用として栽培される兼用品種である[3]。甲州葡萄とも呼ばれる[4]。
甲州 | |
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ブドウ (Vitis) | |
色 | 白 |
種 | ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera) |
主な産地 | 日本 日本・山梨県勝沼、塩山、一宮、甲府[1] |
病害 | 耐病性がある[2] |
VIVC番号 | 6427 |
ワインの特徴 | |
特徴 | 酸味は控えめでニュートラル[1] |
熟成 | 柑橘系の繊細な香り[1] |
歴史
編集甲州種の原産地はヨーロッパであるとされ[1]、日本での甲州種の発見時期には甲州市勝沼地域[5]の上岩崎・下岩崎を発祥とする2つの伝承がある。
一方の説は、1186年(文治2年)に上岩崎の雨宮勘解由(あめみやかげゆ)という人物が、毎年3月27日に行われる石尊祭りに参加するために村内の山道を歩いていたところ、珍しい蔓草を発見したとする説である。雨宮勘解由はこの蔓草を家へ持ち帰って植えたところ、5年後に甘い果実がなったという。もう片方の説は雨宮勘解由に遡ること500年あまり、奈良時代の大僧行基がこの地に大善寺を建立した際に、ぶどうの木を発見したとする説である。これらの種が現在の甲州種であるとされている[6]。江戸時代初期の甲斐の医師である永田徳本が、現在行われているぶどう棚による栽培法を考案したと言われている。
戦国期には日本におけるぶどう栽培を記したキリスト教宣教師の日記があるものの、考古学的には甲府盆地西部の大師東丹保遺跡から中世の野生種ぶどうが出土した事例があるのみである。甲府城下町からは栽培種ぶどうが出土しているが、考古学的な栽培種葡萄の移入経緯は解明されていない。文献史料においては江戸期には葡萄をはじめ桃、梨、柿、林檎、栗、石榴、銀杏(または胡桃)の甲州八珍果と呼ばれる内陸性気候に適応した果樹栽培が行われ地域産物として定着しており、荻生徂徠『甲州紀行』などの紀行文や『甲斐国志』などの地誌類には勝沼がぶどうの産地であることが記されており、食の図鑑である『本朝食鑑』や農学者としても知られる佐藤信淵らの紀行文中でも甲州物産の第一に挙げられている。
また、俳人松尾芭蕉は「勝沼や 馬子も葡萄を 食ひながら」の句を詠んでいる。正徳年間の検地帳によれば栽培地は八代郡上岩崎、下岩崎、山梨郡勝沼村、菱山村のごく限られた地域であったが、江戸など都市部を市場としてぶどうや加工品が生産され、甲州街道を通じて荷駄で江戸へ搬送された。江戸後期には栽培地が甲府近郊に拡大し、明治には殖産興業により産業化する。
ヨーロッパ式の栽培法や醸造法により甲州ワインの品質を向上させる試みが続けられている。2004年から始まった「甲州ワインプロジェクト」ではフランスの醸造専門家ドゥニ・デュブルデューの指導により2004年に白ワイン「KOSHU」[7]が完成し、日本料理に合うワインとしてロバート・パーカーから高い評価を得た[8][9]。その他にもメルシャン勝沼ワイナリーの「甲州きいろ香」もパーカーから高く評価されている[10]。
2010年6月に日本固有のぶどうとして初めて国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)に品種登録された[11]。これにより、ワインラベルに「Koshu」と記載して欧州連合(EU)へ輸出することが可能となった。日本以外では唯一、ドイツのラインガウに導入されている[12]。
性質と研究
編集房はやや長く、果実は中くらい、藤色または明るいえび茶色で、「灰色ぶどう」と呼ばれる色合いである。果粒は大きく、酸味にも果実味にも突出した個性がないとされる[13]。果皮がピンク色であるため、果皮から香りの成分を多く抽出しようとすると特有のえぐみが溶け出す[13]。えぐみやボディの弱さを隠すために甘口に仕立てる生産者が多かった[13]。近年には甲州種の新たな可能性に挑戦する試みが行われている[13]。
2004年の米国カリフォルニア大学デービス校ファンデーション・プラント・サーヴィス(DPS)による分析で、日本に多い米国種(Vitis labrusca)ではなく欧州種(V. vinifera)の交配品種であることが明らかとなった。さらに酒類総合研究所の研究により、甲州は欧州種の中でも中国の「竜眼」などの東洋系欧州種のグループに属し、西洋系品種とは違う系統であることも明らかとされている[14]。2013年に酒類総合研究所によるDNA解析の結果、ヨーロッパブドウ(V. vinifera)と中国の野生ブドウ(V. davidii)が交雑したものが、さらにヨーロッパブドウと交配した品種である可能性が高いことが発表された[15]。また、甲州は竜眼の実生ではないかとする説もあったが、実際は東洋系欧州種の中でも竜眼や和田紅よりも野生種に近い品種であることが報告されている[16]。
利用
編集明治時代以前は生食専用であったが、1879年(明治12年)に甲州を原料としたワインの醸造が行われると、ワイン用の葡萄も栽培されるようになっていった[18]。
脚注
編集- ^ a b c d ワイナート編集部 2013, p. 31.
- ^ 山本博 2013, p. 314.
- ^ “フルーツ王国やまなし”. 山梨県. 2023年12月25日閲覧。
- ^ “甲州ぶどうとは/ 山梨県公式観光情報”. 富士の国やまなし観光ネット. 公益社団法人やまなし観光推進機構. 2023年12月25日閲覧。
- ^ 武田美恵「山梨県甲州市の農家と小規模ワイナリーのぶどう生産の現状と互いの関係性」『日本建築学会技術報告集』第27巻第65号、2021年、418-423頁、doi:10.3130/aijt.27.418。
- ^ 辻調理師専門学校 & 山田健 2007, pp. 152–154.
- ^ “甲州キュヴェ・ドゥニ・デュブルデュー”. 宮武酒店ネットウエーブ. 2023年12月25日閲覧。
- ^ 中央葡萄酒株式会社 (2005年3月24日). “パーカーポイント速報” (PDF). 2023年12月25日閲覧。
- ^ “世界に胸張る甲州産 : ほろ酔ひ流 : ドリンク&ワイン : グルメ”. YOMIURI ONLINE(読売新聞) (2006年5月29日). 2012年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
- ^ “日本のデイリー・国産ワイン、パーカーのサイトで紹介 : ワインニュース : ドリンク&ワイン : グルメ”. YOMIURI ONLINE(読売新聞) (2008年9月16日). 2013年1月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
- ^ “OIVが甲州を登録|甲州ワインとは|甲州ワイン”. 山梨県. 2017年7月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
- ^ “海外でも通用するブランドを確立した日本固有ブドウ品種「甲州」”. 日本食糧新聞電子版 (2021年7月18日). 2023年12月25日閲覧。
- ^ a b c d 辻調理師専門学校 & 山田健 2007, pp. 104–105.
- ^ “醸造用ブドウの研究について”. 独立行政法人 酒類総合研究所. 2012年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
- ^ 独立行政法人酒類総合研究所 (2013年11月8日). “甲州’ブドウのルーツを解明-DNA 解析から、中国を経由して伝えられたことを証明-” (PDF). 2020年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月25日閲覧。
- ^ 後藤奈美「DNA多型解析による甲州の分類的検討」『日本醸造協会誌』第106巻第3号、日本醸造協会、2011年、116-120頁、CRID 1390282681103529600、doi:10.6013/jbrewsocjapan.106.116、ISSN 0914-7314、2023年12月26日閲覧。
- ^ “日本固有のワイン用ブドウ品種「甲州」のゲノム解読と特徴付けに成功” (PDF). 山梨大学. 2023年12月25日閲覧。
- ^ “日本ワインの特徴・歴史|生産量1位は山梨県産ワイン!「山梨は日本ワインの生産量、ワイナリー数ともに日本一」”. 山梨県 (2023年1月9日). 2023年12月25日閲覧。
参考文献
編集- 山梨県「飯田文彌「甲州の果樹」、第五章第四節」『山梨県史』山梨県〈通史編 3〉、2006年。全国書誌番号:21019415 。
- "Japanese Wineries Betting on a Reviled Grape", The New York Times、2010年10月27日
- 辻調理師専門学校、山田健『ワインを愉しむ基本大図鑑』講談社〈マルシェ〉、2007年。ISBN 978-4062136945。
- 山本博『新・日本のワイン』早川書房、2013年。ISBN 978-4152093899。
- ワイナート編集部『ワインブドウ品種基本ブック』美術出版社、2013年。ISBN 978-4568505382。
- 「「甲州」ブドウのルーツ」(PDF)『酒類総合研究所広報誌 NRIB』第27巻、酒類総合研究所、2015年3月5日。
関連項目
編集外部リンク
編集- KOSHU OF JAPAN
- 甲州ワインEU輸出プロジェクト - 甲州市商工会
- 日本固有の品種「甲州種」で造られた「甲州ワイン」 - 甲府市観光協会