田舎のネズミと町のネズミ
「田舎のネズミと町(都会)のネズミ」(いなかのネズミとまち(とかい)のネズミ)は、イソップ寓話の一つ。ペリー・インデックス352番。
出典
編集この話はホラティウス『風刺詩』2.6.79以下39行にわたり詳しく言及されている[1][2]。
散文ギリシア語のイソップ寓話集には含まれないが、バブリオスによるギリシア語韻文寓話集の第108話として含まれる[1][3]。
類似した話として『パンチャタントラ』4巻16話「外国へ行った犬の話」では飢饉で食べ物のなくなった犬が外国へ行って満腹するが、外に出ると他の犬に襲われて後悔する[4][5]。
ラ・フォンテーヌの寓話詩では第1巻第9話「町の鼠と田舎の鼠」 (fr:Le Rat de ville et le Rat des champs) として収録されている。
日本ではキリシタン版『エソポのハブラス』(1593年)に「鼠の事」[6][7]、江戸初期の『伊曽保物語』中巻に「京と田舎の鼠の事」として収録されている[8][9]。昔話「山の鼠と家の鼠」はこの話が口承文芸化したものと考えられている[10]。近代では福沢諭吉『童蒙教草』巻2、第12章に「御殿の鼠と田舎の鼠の事」の題で含まれ[11][12]、渡部温『通俗伊蘇普物語』には「田舎鼠と都鼠の話」の題で載せられている[13][14]。
あらすじ
編集田舎に住んでいる一匹のネズミが、御馳走を振る舞おうと仲の良い町のネズミを招待した。二匹は土くれだった畑へ行き、麦やトウモロコシ、大根を引っこ抜いて食べていたのだが、町のネズミがこう言った。「君はこんな退屈な生活によく暮らせるな。ねえ、僕のところへ来ない?そうすれば珍しいものが腹一杯食べられるよ。」
田舎のネズミは二つ返事で承知すると連れだって町へと向かった。ある建物に着くと町のネズミは、パンやチーズ、肉といった見た事も無い御馳走を田舎のネズミに見せた。めくるめく御馳走を前に田舎のネズミはお礼を述べ、食べようとした。その時、何者かが扉を開けてきた。二匹は潜りこめる狭い穴をみつけると一目散に逃げ込んだ。
そして、彼らが食事を再開しようとすると、また別の誰かが入って来た。すると田舎のネズミは、急いで帰り支度を整えてこう言った。「こんなに素晴らしい御馳走を用意してもらってすまないんだけど、こんなに危険が多いのは御免だね。僕には土くれだった畑で食べている方が性に合ってる。あそこならば、安全で怖いこともなく暮らせるからね。」
補足
編集教訓
編集- 幸せは人それぞれで、満足できる形や安心できる場所は異なる。
脚注
編集- ^ a b 中務 1996, p. 157.
- ^ Quintus Horatius Flaccus. C. Smart. ed. Satyrarum libri
- ^ パエドルス、バブリオス 著、岩谷智・西村賀子 訳『イソップ風寓話集』国文社〈叢書アレクサンドリア図書館〉、1998年、269-270頁。ISBN 4772004041。
- ^ 中務 1996, pp. 157–158.
- ^ The Dog who went Abroad, Tales of Panchatantra
- ^ 小堀 2001, pp. 186–187.
- ^ 「Nezumino coto.」『大英図書館蔵 天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像』国立国語研究所、1593年、447-449頁 。
- ^ 小堀 2001, pp. 188–190.
- ^ ウィキソースには、伊曾保物語の原文があります。
- ^ 中務 1996, p. 158.
- ^ 小堀 2001, p. 258.
- ^ 福沢諭吉 訳「御殿の鼠と田舎の鼠の事」『童蒙をしへ草』 2巻、尚古堂、1872年 。
- ^ 小堀 2001, pp. 263–264.
- ^ トマス・ゼームス 著、渡部温 訳「第二十三 田舎鼠と都鼠の話」『通俗伊蘇普物語』 1巻、1875年 。
参考文献
編集- 小堀桂一郎『イソップ寓話―その伝承と変容』講談社現代新書、2001年(原著1978年)。ISBN 4061594958。
- 中務哲郎『イソップ寓話の世界』ちくま新書、1996年。ISBN 4480056637。
関連項目
編集- 田舎のネズミ (1936年の映画) - 本作を原作としたディズニーの短編映画