東京直結鉄道
東京直結鉄道(とうきょうちょっけつてつどう)は、東京都市計画都市高速鉄道第8号線(現在の東京地下鉄有楽町線など)の延伸構想区間における呼称である。
「東京直結鉄道」という名称は千葉県野田市や埼玉県吉川市などから「東京に直結する鉄道」の意であり、主に沿線自治体から「東京直結鉄道」と呼ばれているが、東京8号線延伸構想線の正式な名称ではない。主に東京8号線延伸構想線の埼玉県内・千葉県内・茨城県内の区間を指す。
本記事では、8号線のほか、一部重複する11号線(東京地下鉄半蔵門線)の延伸構想についても触れる。
概要
編集東京都江東区の豊洲駅より、以下のルートで検討されている。「…」は構想路線、「=」は既設路線、「-」は計画路線。
2000年(平成12年)に出された運輸政策審議会答申第18号にて、8号線豊洲駅 - 住吉駅および押上駅 - 野田市駅間は「目標年次(2015年)までに整備着手することが適当である路線」(A2) として答申路線のなかに盛り込まれているものの、同答申には「今後開業する常磐新線(首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス)の投資効果を減殺しないよう留意して着工区間、時期等を決定する」としていた。
その後、後述の通り豊洲 - 住吉間については整備が決定し、工事に着手している。また押上 - 亀有間は、『東京地下鉄道副都心線建設史』(東京地下鉄、2009年)で計画ルートの示された地図が確認できるが[1]、都市計画決定は行われていない。亀有 - 野田市間には具体的なルート計画がなく、八潮駅 - 野田市駅間を先行開業して7駅新設する構想も存在する。
2016年(平成28年)に出された交通政策審議会答申第198号では、引き続きプロジェクトの一つとして「押上駅 - 野田市駅」間が挙げられている。建設費は押上 - 野田市間で約5,800億円と試算されている[2]。
埼玉県・千葉県・茨城県の自治体による構想・延伸要望
編集郊外地域では、埼玉県内や千葉県内の沿線自治体、とりわけつくばエクスプレス線の直接の恩恵が薄く、東京へ直通する列車も存在しない野田市がこの構想を実現させようと熱望しているが、上記のような制限もあるため、野田市などの沿線自治体は独自に「8号線を八潮駅からつくばエクスプレス線と直通運転する案」「北綾瀬駅から千代田線と直通運転する案」などを出し、何とか誘致しようとしている。
しかし、現段階では建設主体さえ具体化していない。東京地下鉄(東京メトロ)は将来の株式上場を控え、有利子負債を圧縮したい意向から、建設距離に対して乗客数が少ない郊外部での新規路線の建設には消極的であり、仮に建設するのであれば埼玉高速鉄道のような第三セクター方式や上下分離方式の採用が必要であると言われており、地元の相当な費用負担は避けられない。
また、合併前から鉄道が無い茨城県坂東市には、野田市などの構想にさらに相乗りする形で、8号線をさらに利根川を越えて、岩井地区(旧・岩井市)まで延伸させようという構想もあり、岩井市時代から「地下鉄8号線誘致促進協議会」という会が存在している。また、坂東市からさらにつくば市まで延伸させる構想もある。このほか、坂東市を含む県西地域では下妻市方面への延伸を求める協議会が設立されている[3][4]。ただし、いずれの案にしても、茨城県内に入ると石岡市にある気象庁地磁気観測所の半径30km圏内に入り、通常の直流電化ができないため、交流電化もしくは特殊な方式(内房線で採用された直直デッドセクション方式)での直流電化が必要となる。
豊洲駅 - 住吉駅間
編集江東区内の豊洲駅 - 住吉駅間(約5.2 km)は、この区間の地下鉄実現を江東区が区の長期計画において重点プロジェクトの一つとして位置づけている。2019年(令和元年)現在、江東区内に限っては、鉄道による南北の移動は都営地下鉄大江戸線の森下駅 - 門前仲町駅間のみで、隣接する江戸川区を含めても、南北に移動できる鉄道が他にない。江東区は延伸促進シンポジウムを開催するなど積極的に計画を進めようとしている。中央区の築地市場を豊洲に移転する際の受け入れ条件にもなっている[5]。
2007年(平成19年)には、江東区が独自に豊洲 - 住吉間の調査を開始した。その後、2013年(平成25年)に「東京8号線(豊洲〜住吉間)事業化検討委員会」が発表した調査概要にて、具体的なルートなどの計画が明らかとなった。この調査概要では、施設は江東区などが出資する第三セクターが保有し、列車の運行は東京地下鉄が行う(いわゆる上下分離方式)とされている[6]。この概要では2015年度に着工し、2025年度の開業を目標としており、2020年東京オリンピックの招致成功を受け、前倒しする可能性もあると担当者が語っていたが[7]、予定の2015年度になっても着工されていない。
2015年(平成27年)3月、東京都は当区間を含む5路線を整備効果が高い路線とし、2015年度の運輸政策審議会答申に向けた都の見解を取りまとめる方針であると発表され[8]、同年7月、まとめに中間報告の通り、東京8号線延伸(豊洲〜住吉間)について「整備について優先して検討すべき路線」として挙げられた5路線のうちの1つとされた[9]。また、2019年には国土交通省が調査結果を公表し、この区間を「事業性が高い路線」と位置付けた[10]。ただし、東京メトロは当区間を含め新規路線の建設に関して、完全民営化を目指していることを念頭に、経営の健全性を崩さないような助成スキームや財源の確保が前提との消極的姿勢を示している。
こうした状況を踏まえ、2021年には国土交通省が交通政策審議会鉄道部会内に設けた「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」において本計画に触れており、2021年7月8日行われた第5回小委員会と、同年7月15日に示された「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」答申において、東京地下鉄が主体となって整備を進めるのが適切だとする素案を示すとともに、国や東京都が建設費を補助する方向性を示した[11][12]。国土交通省は2022年度(令和4年度)当初予算案に都市鉄道整備事業費補助(地下高速鉄道)において「東京8号線(有楽町線)の延伸整備」として、都心部・品川地下鉄(白金高輪駅 - 品川駅)の整備と共に事業予算を計上、環境基準評価に着手する見通しとなった[13][14]。
なお、一部報道では駅名の一部を取って「豊住線」と表記しているものがあるが[15][16]、2021年時点で正式な路線名称は確定しておらず、国の答申等資料においても「東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲〜住吉)」という形で示されている。
2022年3月28日に東京メトロは国土交通大臣から当区間について第一種鉄道事業許可を取得した[17]。中間駅として、豊洲駅から順に「枝川」「東陽町」「千石」の3駅[18]の設置が予定されている[19][20]。
住吉駅 - 押上駅 - 四つ木 - 亀有駅間及び11号線
編集8号線構想区間のうち、住吉駅 - 四つ木間は11号線(東京地下鉄半蔵門線)の延伸区間にも当たり、このうち住吉駅 - 押上駅間が営団地下鉄時代の2003年(平成15年)に半蔵門線として開業している。また、11号線は四つ木から分岐して松戸駅まで延伸する構想であるが、こちらも具体的な計画は進んでいない。なお、建設費は押上 - 松戸間で約3,800億円と試算されている[2]。東京地下鉄では半蔵門線について、2003年(平成15年)の押上延伸を以って「全線開業」としている[21]。
『東京地下鉄道副都心線建設史』(東京地下鉄、2009年)などに付属の地図では、押上から東向島駅方面に北進し、北東に向きを変えて四ツ木橋の上流側で荒川を渡り、曳舟川跡をなぞるように北北東へ向きを変え、お花茶屋駅付近で京成本線と交差し、亀有駅に向かう計画ルートが示されている。
歴史
編集- 1968年(昭和43年) - 都市交通審議会答申第10号にて、東京8号線・東京11号線の計画が示される。
- 1972年(昭和47年) - 都市交通審議会答申第15号にて、東京8号線計画の終点側に豊洲 - 東陽町 - 住吉町 - 押上 - 亀有間が追加される。
- 1982年(昭和57年)1月29日 - 営団地下鉄が8号線 豊洲 - 亀有間 (14.7km) の鉄道事業免許を申請。
- 1985年(昭和60年) - 運輸政策審議会答申第7号にて、「東京8号線の建設及び複々線化」として、豊洲 - 住吉 - 押上 - 亀有 - 武蔵野線方面への延伸が答申(住吉 - 四つ木間は東京11号線と共用)。豊洲 - 亀有間の計画の目標年次は2000年(平成12年)とされ、亀有から先は今後新設を検討すべき区間とされる。また、東京11号線計画の終点側に深川扇橋 - 錦糸町 - 押上 - 松戸間が追加。
- 1988年(昭和63年)6月8日 - 有楽町線豊洲駅開業。
- 1993年(平成5年)
- 2000年(平成12年)
- 1月 - 運輸政策審議会答申第18号により、「東京8号線の延伸及び複々線化」として答申。計画の目標年次が2015年(平成27年)とされる。
- 3月1日 - 営団地下鉄が8号線 豊洲 - 亀有間の鉄道事業許可を申請。
- 2003年(平成15年)
- 2005年(平成17年)8月24日 - 首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスが開業。接続駅を八潮駅とする。
- 2007年(平成19年) - 2008年(平成20年)にかけて、都市鉄道整備等基礎調査を実施。八潮 - 野田市間の先行整備及びつくばエクスプレスとの直通運転化は、効果的な速達性向上施策であると評価される。
- 2022年(令和4年)
脚注
編集- ^ “副都心線建設史 - メトロアーカイブアルバム”. メトロアーカイブアルバム - メトロアーカイブアルバムは、これまでに整理・保存してきた貴重な写真を使って東京の地下鉄の歴史を紹介していくサイトです。 (2018年9月1日). 2024年2月28日閲覧。
- ^ a b “国交省/東京圏の鉄道新設・延伸23計画の概算建設費試算/都心直結線は4400億円”. 日刊建設工業新聞. (2016年10月21日) 2017年10月30日閲覧。
- ^ “東京直結鉄道、下妻への延伸要望へ 県西6市町が誘致促進協”. 茨城新聞 (茨城新聞社). (2013年2月16日). オリジナルの2013年3月8日時点におけるアーカイブ。 2020年6月10日閲覧。
- ^ “有楽町線延伸、熱い期待 14年ぶり交通審開始”. 茨城新聞 (茨城新聞社). (2014年5月26日). オリジナルの2015年4月2日時点におけるアーカイブ。 2020年6月10日閲覧。
- ^ “江東区長「だまし討ちだ」地下鉄延伸で東京都を厳しく批判”. 東京メトロポリタンテレビジョン (2019年6月21日). 2019年6月22日閲覧。
- ^ “地下鉄8・11号線延伸の促進”. 江東区ウェブサイト. 2019年6月22日閲覧。
- ^ “地下鉄にも弾み 地下鉄8号線、豊洲〜住吉駅”. Sponichi Annex (スポーツニッポン新聞社). (2013年9月14日). オリジナルの2013年9月21日時点におけるアーカイブ。 2020年6月10日閲覧。
- ^ “東京都、広域交通計画の中間報告を発表…鉄道5線区盛り込む”. レスポンス. (2015年3月7日)
- ^ “交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ”. 東京都ウェブサイト (2015年7月10日). 2019年6月22日閲覧。
- ^ “都内の新地下鉄「事業性高い」、国交省が調査結果”. 日本経済新聞 電子版 (2019年5月9日). 2019年6月7日閲覧。
- ^ “東京メトロの延伸・新線、国と都が建設費支援へ”. 日本経済新聞. (2021年7月8日). オリジナルの2021年7月10日時点におけるアーカイブ。 2021年7月10日閲覧。
- ^ “東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について”. 国土交通省 (2021年7月15日). 2021年7月24日閲覧。
- ^ “令和4年度鉄道局関係予算決定概要” (PDF). 国土交通省鉄道局 (2021年12月24日). 2022年1月10日閲覧。
- ^ “東京メトロ 有楽町線と南北線 延伸へ 2030年代半ば開業を想定”. NHKニュース. (2022年1月8日) 2022年1月8日閲覧。
- ^ “「豊住線」「都心・臨海新線」 東京の地下鉄新線計画 実現へ進展か?”. 乗りものニュース (2021年1月27日). 2021年7月15日閲覧。
- ^ “東京23区に新たな地下鉄が誕生か?有楽町線延伸で豊洲と住吉を結ぶ「豊住線」構想とは”. Business Journal (2021年2月20日). 2021年7月15日閲覧。
- ^ a b 『有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)の鉄道事業許可を受けました』(PDF)(プレスリリース)東京地下鉄、2022年3月28日 。2022年6月28日閲覧。
- ^ いずれも仮称。なお、東陽町は同名の駅がある東西線の地下に新駅が作られ、乗換駅となる予定。
- ^ “有楽町線延伸、ルート案を公表 千石駅と枝川駅を新設”. 日本経済新聞 (2022年8月2日). 2022年8月4日閲覧。
- ^ “有楽町線に「東陽町」など3駅新設へ 豊洲―住吉駅間の延伸ルート案”. 朝日新聞 (2022年8月4日). 2022年8月4日閲覧。
- ^ 半蔵門線全線開業10周年記念グッズを発売します! (PDF) - 2013年3月14日 東京地下鉄プレスリリース
- ^ “平成25年2月定例会 一般質問 質疑質問・答弁全文 (松沢邦翁議員)”. 埼玉県ホームページ (2013年3月15日). 2020年6月9日閲覧。
- ^ 『有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)の鉄道事業許可を申請しました。』(PDF)(プレスリリース)東京地下鉄、2022年1月28日 。2022年6月28日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- 運輸政策審議会答申第18号 - 国土交通省サイト内
- 地下鉄8・11号線延伸の促進 - 江東区サイト内
- 東京直結鉄道について - 野田市サイト内
- 地下鉄8・11号線の延伸について - 松戸市サイト内
- 野田市商工会議所 2030鉄道実現委員会