旧軍用拳銃不法所持事件

旧軍用拳銃不法所持事件(きゅうぐんようけんじゅうふほうしょじじけん)は偽計による自白誘導に合法的な証拠能力を認められるかが争点となった、日本の刑事事件[1]

最高裁判所判例
事件名 銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反
事件番号  昭和42(あ)1546
1970年(昭和45年)11月25日
判例集 刑集第24巻12号1670頁
裁判要旨
偽計によつて被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、偽計によつて獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法三一九条一項、憲法三八条二項に違反する。
大法廷
裁判長 石田和外
陪席裁判官 入江俊郎長部謹吾城戸芳彦田中二郎岩田誠下村三郎色川幸太郎大隅健一郎松本正雄飯村義美村上朝一関根小郷
意見
多数意見 全会一致
反対意見 なし
参照法条
刑訴法1条,刑訴法319条1項,憲法38条2項
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経過

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京都府京都市の解体業の男は1963年10月から1964年11月まで自宅でピストル1丁と実弾3発を隠し持っていた銃刀法違反と火薬類取締法違反で逮捕された際に「ピストルは妻が勝手に買った」と共犯を否認していたが、京都地方検察庁の検事が「妻はお前と共謀したことを認めている」と嘘を言って男から共謀を認める自白を取り、その後で単独犯を主張していた妻にも、男による共謀の自白を告げて説得した結果、妻も共謀を自白したという内容の調書が作成されて起訴された[2]

1966年8月に男は京都地方裁判所懲役6か月の判決を受けた[2]。被告人が控訴した後の大阪高等裁判所の審理で自白調書が問題になり、弁護側は「日本国憲法第38条刑事訴訟法に違反する」と主張した[2]1967年5月に大阪高裁は「自白の内容にまでは影響を与えない」として控訴を棄却して有罪判決を維持した[2]。被告人は上告した[2]

1970年11月25日最高裁判所は「偽計を用いて自白を得るような尋問方法は厳しく避けるべきで、もし偽計によって被疑者が心理的な強制を受け、虚偽の自白が誘発される恐れがある場合は、その自白の任意性に疑いがあるので証拠能力はなく、これを証拠に採用することは憲法、刑事訴訟法に違反する」との判断を示して、大阪高裁に差し戻す判決を言い渡した[2]

脚注

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  1. ^ 平良木登規男, 椎橋隆幸 & 加藤克佳 (2012), p. 170.
  2. ^ a b c d e f 「トリックによる自白 証拠にはならぬ 最高裁新判断」『朝日新聞』朝日新聞社、1970年11月26日。

参考文献

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  • 平良木登規男椎橋隆幸加藤克佳 編『刑事訴訟法』悠々社〈判例講義〉、2012年4月。ASIN 4862420222ISBN 978-4-86242-022-0NCID BB0914477XOCLC 820760015全国書誌番号:22095472