日本衛生動物学会(にほんえいせいどうぶつがっかい、英称:The Japan Society of Medical Entomology and Zoology、頭字語:JSMEZ)とは、日本における衛生動物研究に関わる、日本の学術研究団体である[1][2]1950年(昭和25年)までの旧称は「日本衛生昆虫学会旧字体表記:日本衞生昆蟲學會)」[3]

目的

編集

衛生動物学(原虫蠕虫を除く)の進歩・普及を図ることを目的としている[1][2]。重要な感染症媒介する衛生動物ハエダニネズミ、等々)、有毒動物(有毒生物のうちの、動物毒蛇毒蛾、等々。cf. Category:有毒動物)、および、不快昆虫等(不快動物のうちの、昆虫など節足動物ゴキブリユスリカ、等々)を研究対象としている[4]

沿革

編集

太平洋戦争半ばの1943年(昭和18年)3月12日資源科学研究所(所在地には今は国立科学博物館がある)で開催された第1回(参会者は40名)[3][5]、同年4月に東京大学農学部で開催された第2回の「衛生昆虫談話会」を経て[3]、同年10月5日東京大学医学部にて「日本衛生昆虫学会」(現・日本衛生動物学会)が発足した[3]。しかしその後は太平洋戦争の戦況が悪化の一途をたどり、戦争末期から戦後復興期まで、学会活動は一時停止を余儀なくされた[3]

1949年(昭和24年)4月、小林晴治郎[字引 1]を大会長として、本学会初の大会(総会)を京都市で開催する[3]1950年(昭和25年)には学会名を「日本衛生昆虫学会」から「日本衛生動物学会」に改めた[3]。また、学会誌衛生動物』を創刊した[3]1951年(昭和26年)には37番目の分科会として日本医学会に加入し、本格的な学会活動を始めている[3]1955年(昭和30年)には、本学会は授与するとして「日本衛生動物学会賞」を創設した[6]

1970年(昭和45年)には、評議員互選によって幹事・編集委員・学会賞選考委員などを選出する旧態依然とした評議員制度の廃止が、若手研究者グループから提案され、会員が公選によって幹事を選出する民主主義的制度が採用された[3]

1990年(平成2年)3月28日には、本学会は授与する賞として「佐々賞」を創設した[7][8]

年表

編集

※前史については「医動物学」「大東亜医学」「衛生動物学」「山田信一郎」および「鏑木外岐雄[字引 2]」を参照のこと。また、「関連事象」節は詳説ではないが、理解の助けにはなる。

組織

編集

本学会の組織は、北日本支部、東日本支部、西日本支部、南日本支部という、東西南北の4つの支部で構成されている[9]

東日本支部の現在(2020年時点)の事務局は、千葉県習志野市茜浜1-12-3 LCスクエアB棟にあるイカリ消毒株式会社技術研究所の内部に所在する[10]。現在(2020年時点)の支部会長は谷川力(イカリ消毒株式会社技術研究所)[10][11]

代表者

編集

学会長

編集
現任
2018年(平成30年)就任[16]。専門は昆虫医科学。国立感染症研究所昆虫医科学部所属。三重大学教授(旧職)。
歴代
 
宮島幹之助
確認できる人物のみを記載している。
  • 宮島 幹之助みやじま みきのすけ、生没年:1872-1944) - 初代[17]。1943年(昭和18年)10月5日就任。
  • 朝比奈 正二郎あさひな しょうじろう、生没年:1913-2010) - 在任時期は未確認。
  • 鎮西 康雄(ちんぜい やすお[18][19] - 就任時期未確認。1999年(平成11年)退任。
  • 高木 正洋(たかぎ まさひろ[20][21] - 2009年(平成21年)就任。2011年(平成23年)退任。

名誉会員

編集
現役の会員のうちの、名誉会員をここに列記する。
  • 北岡茂男
  • 和田義人
  • 安富和男
  • 宮城一郎
  • 武衛和雄
  • 緒方一喜
  • 篠永哲
  • 栗原毅
  • 安居院宣昭
  • 高木正洋
  • 鎮西康雄
  • 上村清

学会誌

編集

学会誌は『衛生動物』(ラテン文字表記:Eisei dōbutsu、英称:Medical Entomology and Zoology、1994年以前[3]の英称:Japanese Journal of Sanitary Zoology)。ISSN 0424-70861950年(昭和25年)創刊。季刊誌(年4回発行)[22]CiNiiなどの印刷媒体で発行されているほか、電子版のJ-STAGEで公開されている[4][22]

学会賞

編集
1955年(昭和30年)に創設。本学会の目的に合致する学術上顕著な業績を上げた会員に授与する。学会幹事が候補者を推薦し、会員が投票することにより、原則として1年1件が選考される。正式名称以外の公称(本学会が用いる名称)および通称として「日本衛生動物学会賞」「衛生動物学会賞」などもある[6]
佐々学の名を冠した賞として、1990年(平成2年)3月28日に創設された[7][8]。若手奨励賞[22]、すなわち、衛生動物学の若手研究者の研究奨励と業績の顕彰を目的とした賞[8]

関連事象

編集
寄生虫学を中心に昆虫学を複合領域とする応用科学[24]北里柴三郎の私立伝染病研究所(現・東京大学医科学研究所の前身)に始まり[5]第二次世界大戦戦前から戦中にかけて隆盛した[25]
医動物学に携わった昆虫学者で、戦前期の数少ない寄生虫学者の一人[26]。日本初の衛生動物学の専門家であり[26]、戦前期で唯一の衛生動物学者[27]。しかし、日中戦争時の中国本土で病没してしまい、彼の不在によって日本の衛生動物学は事実上いったん頓挫した[28]
現・東京大学医科学研究所の前身[26]。山田信一郎の研究拠点であり[26]、したがって、衛生動物学の揺籃地と言える[26]
早くから衛生昆虫に関心を持っていた、台湾総督府研究所衛生学部勤務の昆虫学者[23]衛生昆虫学の確立を目指すも、上層部には理解されず[29]
昆虫学の一分野であり、衛生動物学の一分野でもある。日中戦争中は顧みられることも無かったが[28]太平洋戦争が勃発してからは一転し、熱帯医学とともに極めて重要な研究分野となった[30]。太平洋戦争中の戦時動員という強力な社会的要請がこの学術分野を成立せしめた[5]
大東亜医学大東亜共栄圏における熱帯医学と寒帯医学)をようやく重視し始めた大政翼賛会の意向で戦時動員された衛生昆虫学者のなかの代表的存在[27]。鏑木たちによって衛生動物学は確立する[31]
戦後日本の衛生昆虫学における中心的存在[32]

脚注

編集

注釈

編集
字引
  1. ^ 講談社『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』. “小林晴治郎”. コトバンク. 2020年10月28日閲覧。
  2. ^ a b 講談社『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』. “鏑木外岐雄”. コトバンク. 2020年10月28日閲覧。
  3. ^ 日外アソシエーツ『20世紀日本人名事典』. “竹内 松次郎”. コトバンク. 2020年10月28日閲覧。
  4. ^ 講談社『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』. “竹内松次郎”. コトバンク. 2020年10月28日閲覧。

出典

編集
  1. ^ a b JSMEZ.
  2. ^ a b 講談社『デジタル版 日本人名大辞典+Plus』. “日本衛生動物学会”. コトバンク. 2020年10月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n 篠永哲 (1998年10月1日). “沿革”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  4. ^ a b 学会誌”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  5. ^ a b c 瀬戸口 (2006), p. 136.
  6. ^ a b 日本衛生動物学会学会賞”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  7. ^ a b 「佐々賞」の創設”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  8. ^ a b c 佐々賞”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  9. ^ 支部”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  10. ^ a b 日本衛生動物学会東日本支部”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  11. ^ 谷川力”. 日本の研究.com. 株式会社バイオインパクト. 2020年10月27日閲覧。
  12. ^ 沢辺 京子”. KAKEN. 文部科学省日本学術振興会. 2020年10月27日閲覧。
  13. ^ 沢辺 京子”. J-GLOBAL(科学技術総合リンクセンター). 2020年10月27日閲覧。
  14. ^ 沢辺 京子”. researchmap. 科学技術振興機構 (JST). 2020年10月27日閲覧。
  15. ^ 沢辺京子”. 日本の研究.com. 株式会社バイオインパクト. 2020年10月27日閲覧。
  16. ^ 沢辺京子 (2018年). “学会長挨拶”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  17. ^ 瀬戸口 (2006), p. 136, "この談話会をもとにして,その年の10月には宮島幹之助を会長とする「衛生昆虫学会」が設立される.この学会に参加したのは,昆虫学,医動物学,医学,軍陣医学といった多様な分野の研究者たちであった.".
  18. ^ 鎮西 康雄”. KAKEN. 文部科学省、日本学術振興会. 2020年10月28日閲覧。
  19. ^ 鎮西 康雄”. researchmap. 科学技術振興機構 (JST). 2020年10月28日閲覧。
  20. ^ 高木 正洋”. J-GLOBAL(科学技術総合リンクセンター). 2020年10月27日閲覧。
  21. ^ 高木 正洋”. researchmap. 科学技術振興機構 (JST). 2020年10月28日閲覧。
  22. ^ a b c 入会案内”. 公式ウェブサイト. 日本衛生動物学会. 2020年10月27日閲覧。
  23. ^ a b 瀬戸口 (2006), p. 129.
  24. ^ 瀬戸口 (2006), pp. 126, 129.
  25. ^ 瀬戸口 (2006), p. 126.
  26. ^ a b c d e f 瀬戸口 (2006), p. 131.
  27. ^ a b 瀬戸口 (2006), p. 134.
  28. ^ a b 瀬戸口 (2006), p. 132.
  29. ^ 瀬戸口 (2006), pp. 129–130.
  30. ^ 瀬戸口 (2006), pp. 132–133.
  31. ^ 瀬戸口 (2006), pp. 134, 136.
  32. ^ 瀬戸口 (2006), p. 135.

参考文献

編集

外部リンク

編集