文化財防災センター

文化財を災害から保護することを目的とした日本の機関

文化財防災センター(ぶんかざいぼうさいセンター)とは、国立文化財機構が2020年10月1日に立ち上げた、災害から文化財を守ることを目的とした機関である[1]

沿革

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2014年、国立文化財機構は文化財防災ネットワーク推進事業を開始[2]。このネットワークをさらに拡大し平時から備えるため、国は2020年10月に文化財防災センターを設置し、奈良文化財研究所の本部をはじめ全国6カ所に約60人を配置した[2][3][4]

2023年には、地震や水害などの災害が発生した際に、文化財被害に迅速に対応するための資金として「文化財防災救援基金」を設立した[5]。なお、基金設立の経緯について、文化財防災センターの建石徹副センター長は「これまでは民間のボランティア組織や個人が持ち出しで対応するケースも多かったが、いつまでもそれを当たり前にしてはいけない。必要な資金の積み立てが課題になっていた」と述べている[5]

また、2024年1月11日には、能登半島地震による文化財の被災状況を把握するため、文化庁と連携して現地調査を始めると発表[6]。具体的には、被災した美術工芸品や古文書などの文化財を救出し保護する文化財レスキュー事業と、損傷した歴史的建造物の復旧を支援する文化財ドクター派遣事業に取り組んだ[7]。本事業について、高妻洋成センター長は「能登半島は地震が相次ぎ、一度修理した文化財の建物が再び倒れる被害も出て、所有者を含めて地域全体が疲弊している」と指摘し「元に戻したら終わり、ではない。昔からの文化を失うことなく、どう地域を復興し、発展させるかも求められる」とコメントした[8]。なお、東北大学災害科学国際研究所は、能登半島地震で影響を受けた文化財を非公開の「文化遺産防災マップ」としてまとめ、文化財防災センターに提供した[8]

活動内容

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文化財防災センターは、文化財情報のデータベース化や自治体との連携強化、修繕技術の改善に取り組む[2][1]。災害発生時には、文化財や博物館を救援するため、市民や研究者らによる各地の民間ボランティア組織、国や自治体、大学や研究機関が幅広く連携するハブ機能を担うとされる[3]。具体的には、どんな文化財が被災し、どんな資材が必要なのかを整理して専門機関につなぎ、時には派遣する人員や物資の差配もすると言われている[4]。また、東日本は東京文化財研究所、西日本は奈良文化財研究所が前線対策本部として対応にあたるとされる[1]

評価

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国際博物館会議の博物館防災国際委員会理事や、京都国立博物館副館長を務める栗原祐司は、幅広い関係機関を結ぶネットワークの核となる文化財防災センターの機能は海外からも注目されていると述べる[9]。その一方で「行政の対応はどうしても指定文化財が優先され、しかも時間がかかる」とも指摘しており、地域の歴史遺産の保全に即応できるのは、各地の被災した歴史資料を救出するボランティア組織「歴史資料ネットワーク」だと述べている[9]。また、東谷晃平は文化財防災センターについて『朝日新聞』上で「課題は山積している。構築中のデータベースに、未指定の文化財をどこまで取り込めるのか。自治体が備えや対応をまとめる地域防災計画には、文化財に関する記載は少ない」と指摘している[10]

脚注

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  1. ^ a b c 渡辺元史「文化財、災害から守る拠点 きょう、奈文研にセンター開設 【大阪】」『朝日新聞 朝刊』社会3面、2020年10月1日、27ページ。
  2. ^ a b c 文化財、激甚災害からどう守る 5年で被災急増2千件」『日本経済新聞』2021年5月4日。
  3. ^ a b 京都・奈良、歴史こそ地域の宝 サステナブルな伝承探る 都市の針路 魅力を見つめ直す(1)」『日本経済新聞』2023年3月12日。
  4. ^ a b 宮脇稜平「文化財修復、津波の経験後世に 陸前高田市立博物館、再開へ 被災11年8カ月、続く「レスキュー」」『朝日新聞 朝刊』社会1面、2020年10月30日、29ページ。
  5. ^ a b 今井邦彦「文化財被災、レスキュー活動に基金 即応に備え、寄付募る 文化財防災センター【大阪】」『朝日新聞 夕刊』大阪文化1面、2023年3月30日、2ページ。
  6. ^ 今井邦彦「文化財の被災状況、現地調査 17日以降、未指定物件も 防災センター /奈良県」『朝日新聞 夕刊』奈良全県地方1面、2024年1月13日、25ページ。
  7. ^ 久保智祥「被災の文化財、救出・復旧へ 派遣事業、県庁で初会合 /石川県」『朝日新聞 朝刊』石川全県地方1面、2024年2月18日、25ページ
  8. ^ a b 筒井次郎「能登地震、文化財にも深い傷痕 保存へ一刻争う状況「捨てないこと」」『朝日新聞 朝刊』文化科学面、2024年2月6日、24ページ。
  9. ^ a b 神戸発、歴史資料救出の輪 阪神大震災を契機に 時を刻む」『日本経済新聞』2022年1月6日。
  10. ^ 東谷晃平「(てんでんこ)街の余韻を捜す:5」『朝日新聞 朝刊』社会3面、2021年12月4日、37ページ。

外部リンク

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