マニラプトル類
マニラプトル類[1][2](マニラプトルるい、学名:Maniraptora、「手泥棒」の意味)は、コエルロサウルス類に属する恐竜の一群である。マニラプトラ類[3]、手盗類(しゅとうるい)[4]とも呼ばれる。
マニラプトル類 Maniraptora | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
後期ジュラ紀(前期からの可能性あり) - 現代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Maniraptora Gauthier, 1986 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マニラプトル類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
下位分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
概要
編集鳥類およびOrnithomimus veloxよりも鳥類に近縁な非鳥恐竜が含まれている。
主要な下位分類群としてはアヴィアラエ、デイノニコサウルス類、オヴィラプトロサウルス類、テリジノサウルス類が含まれている。アルヴァレスサウルス類が含まれる場合もある。姉妹群であるオルニトミモサウルス類とともに包括的な分岐群であるマニラプトル形類を構成する。マニラプトル類の最初の化石記録はジュラ紀のものであり(エシャノサウルス(Eshanosaurus)参照)、約1万種の鳥類という形で現在も生存している[5]。
特徴
編集マニラプトル類は長い腕と三本指の手(いくつかの系統では減少、癒合が見られる)および半月状手首の骨(手根骨)によって特徴付けられる。恐竜では唯一硬骨化した胸骨を持つ。2004年にトーマス・ホルツおよびハルツカ・オスモルスカは骨格の詳細に関して他に6つのマニラプトル類に独特の特徴があると指摘した。恥骨が前方を向いている他の竜盤類とは異なり、マニラプトル類のいくつかの分類群では鳥盤類の様に後方を向いていた。恥骨が後方を向いているのはテリジノサウルス類、ドロマエオサウルス科、アヴィアラエ、一部の原始的なトロオドン科である。後方を向いた恥骨がマニラプトル類の多様な分類群で見られることから、研究者らは進歩的なトロオドン科やオヴィラプトロサウルス類に見られる「原始的な」前方を向いた恥骨は逆戻りの進化をしたもので、これらの分類群は後方を向いた祖先から進化したものであると結論している[6]。
羽毛と飛行
編集現代の正羽や風切羽は進歩的なマニラプトル類の分類群であるアヴィレミギア(Aviremigia)で知られている。テリジノサウルス類(特にベイピアオサウルス)などより原始的なマニラプトル類では単純な綿毛状の繊維と独特の細長い羽軸の組み合わせが見られる[7][8]。羽毛はコンプソグナトゥスのようなより原始的なコエルロサウルス類でも見られ、鳥盤類のティアニュロング(Tianyulong)やクリンダドロメウス、果ては恐竜ですらない翼竜などより類縁関係が遠いものにすら存在していた可能性がある。このようなことから、少なくとも若い頃は全てのマニラプトル類に何かしらの羽毛もしくは綿毛状の外皮に類するものが存在したと見られる[9]。
系統内のどこまで遡れるかについては議論があるものの、マニラプトル類は唯一飛翔能力のある種を含む恐竜の分類群である。羽ばたき飛行もしくは滑空飛行はラホナヴィス(Rahonavis)やミクロラプトルといったドロマエオサウルス科のいくつかの種でも可能であったと考えられている[10]。他の分類群ではオヴィラプトロサウルス類の様に飛翔能力がある種が知られていないものの、一部の研究者により飛行していた祖先を持つと示唆されているものもある。グレゴリー・ポールはこの説を支持している。ポールはテリジノサウルス類、アルヴァレスサウルス上科(Alvarezsauroidea)、さらにはマニラプトル形類だがマニラプトル類ではないとも言われているオルニトミモサウルス類についてすら飛翔能力のある祖先を持つという説を提案している[11]。
食性
編集マニラプトル類は伝統的に祖先的には純肉食性、つまり鳥類以外の種は主に他の脊椎動物のみを捕食していると仮定されてきた。しかし、2000年代の多数の発見や、古い資料の再評価などからマニラプトル類は主に雑食性の分類群であり、主として植物、昆虫など肉以外の他のものを食べる分類群も含まれていることが分かって来た。加えて、系統関係の研究からは草食や雑食は以前考えられていたような単一の側枝ではなくマニラプトル類全体に広がっていることが分かって来ている。この分布からLindsay Zannoに代表される研究者はマニラプトル類は祖先的には雑食性であり、純粋に草食性の分類群(例えばテリジノサウルス類、原始的なオヴィラプトロサウルス類、およびアヴィアラエの一部)、非鳥恐竜では1つの分類群(ドロマエオサウルス科)のみが純粋な肉食に戻ったという結論に至っている。他の多くの分類群ではこの両極端な食性の間に入り、アルヴァレスサウルス科やアヴィアラエの一部では昆虫食、進歩的なオヴィラプトロサウルス類やトロオドン科では雑食性である[12][13][14]。
分類
編集マニラプトル類は最初1986年にジャック・ゴーティエにより命名され、オルニトミムス科よりも現代の鳥類に近い全ての恐竜というブランチベースの分岐群として定義された。ゴーティエはこの分類群が長い前肢と手により容易に特徴付けられることを特筆した。この特徴をゴーティエはものをつかむことへの適応と解釈した(これゆえManiraptoraという名は「握る手に」に関連して「手泥棒」を意味するものである)。1994年にトーマス・ホルツは手と手首のみに基づいたこの分類群の定義を試みた(子孫形質ベースの定義)。この特徴には長く細い指、弓なりで翼に似た前腕の骨、鍵となる半月状の手首の骨が含まれる。後のほとんどの研究ではこの定義は支持されず、ゴーティエのブランチベースの定義が好まれている。
ブランチベースの定義はでは一般に大きな分類群としてデイノニコサウルス類、オヴィラプトロサウルス類、テリジノサウルス類、および鳥類が含まれている[12]。他によくマニラプトル類に分類される分類群にはアルヴァレスサウルス類、オルニトレステスがある[9]。正確な分類上の位置は不明であるもののマニラプトル類に分類される分類群もいくつかある。例えばスカンソリオプテリクス科(Scansoriopterygidae)、ペドペンナ(Pedopenna) 、イークシャノサウルス、疑わしいブラディクネメがこれに含まれる。
1993年にPerleらはアルヴァレスサウルス科がアヴィアラエに属すると考え、アルヴァレスサウルス科と現生鳥類からなるMetornithes という分類群を創設した。この分類群の定義は1995年にLuis Chiappeによりモノニクスと現生鳥類の最も近い共通祖先とその全ての子孫として定義された[15]。しかし最近の研究ではアルヴァレスサウルス科と鳥類はPerleらが考えたほど近縁ではなく、この定義ではマニラプトル類と同じものが含まれるシノニムとなっている。
下記に示すクラドグラムはパスカル・ゴドフロワらによる2013年の論文に拠るものである[16]。
Maniraptora (=Metornithes) |
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別の解釈
編集2002年にCzerkasおよびはYuanは長く、後方を向いた恥骨、短い坐骨、貫通した寛骨臼といったいくつかのマニラプトル類の特徴がスカンソリオプテリクスには無いことを報告した。そしてスカンソリオプテリクスは真の獣脚類より原始的でありと考え、マニラプトル類は非常に早い段階で獣脚類から分岐したか、もしくは獣脚類以前の恐竜の子孫である可能性もあると仮定した[17]。 Zhangらはスカンソリオプテリクスと近縁もしくは同種であるエピデンドロサウルスの標本の記載論文の中で、CzerkasおよびYuanが述べたような原始的な特徴は全く報告しなかったが、肩甲骨に原始的な特徴が見つかったとした。この点があったものの、Zhangらはエピデンドロサウルスを確実にマニラプトル類内に配置した[18]。
記相
編集Holtz & Osmólska (2004)では以下の特徴に基づき分岐群マニラプトル類を識別している。 尺骨の肘頭突起が縮小もしくは消失している。 大腿骨の大転子およびcranial trochanterがtrochanteric crestに癒合している。テリジノサウルス上科、ドロマエオサウルス科、アヴィアラエ、および基底的なトロオドン科であるシノヴェナトルには細長く、後方を向いた恥骨を持ち、進歩的なトロオドン科やオヴィラプトロサウルス類の前を向いた恥骨は先祖返りであることが示唆される[6]。Turner et al. (2007)では7つのマニラプトル類を識別する共有派生形質を命名している[9]。
参照
編集- ^ ダレン・ナイシュ、ポール・バレット 著、吉田三知世 訳『恐竜の教科書 最深研究で読み解く進化の謎』小林快次、久保田克博、千葉謙太郎、田中康平 監訳、2019年2月22日、13頁。ISBN 978-4-422-43028-7。
- ^ マーク・A・ノレル 著、久保美代子 訳『アメリカ自然史博物館恐竜大図鑑』田中康平 監訳、化学同人、2020年12月10日、52頁。ISBN 978-4-7598-2051-5。
- ^ D. E. Fastovsky、D. B. Weishampel 著、藤原慎一、松本涼子 訳『恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─』真鍋真 監訳、東京化学同人、2015年1月30日、364頁。ISBN 9784807908561。
- ^ 冨田幸光、對比地孝亘、三枝春生、池上直樹、平山廉、仲谷英夫「恐竜類の分岐分類におけるクレード名の和訳について」『化石』第108巻、2020年、23-35頁、doi:10.14825/kaseki.108.0_23。
- ^ 鳥類の起源参照
- ^ a b Holtz, T.R. and Osmólska, H. (2004). "Saurischia." In Weishampel, Dodson and Osmólska (eds.), The Dinosauria, second edition. Berkeley: University of California Press.
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- ^ a b c Turner, A.H.; Pol, D., Clarke, J.A., Erickson, G.M., and Norell, M. (2007). “A basal dromaeosaurid and size evolution preceding avian flight” (pdf). Science 317 (5843): 1378–1381. doi:10.1126/science.1144066. PMID 17823350 .
- ^ Chiappe, L.M. (2007). Glorified Dinosaurs: The Origin and Early Evolution of Birds. Sydney: UNSW Press.
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- ^ Czerkas, S.A., and Yuan, C. (2002). "An arboreal maniraptoran from northeast China." Pp. 63-95 in Czerkas, S.J. (Ed.), Feathered Dinosaurs and the Origin of Flight. The Dinosaur Museum Journal 1. The Dinosaur Museum, Blanding, U.S.A. PDF abridged version
- ^ Zhang, F., Zhou, Z., Xu, X. & Wang, X. (2002). "A juvenile coelurosaurian theropod from China indicates arboreal habits." Naturwissenschaften, 89(9): 394-398. doi:10.1007 /s00114-002-0353-8.