弦楽五重奏曲 (ブルッフ)
概要
編集ブルッフは、同世代の有名作曲家ヨハネス・ブラームスとは対照的に室内楽曲を苦手としていた。「3曲の弦楽四重奏曲を書くよりも3曲の大きなオラトリオを書くほうが気が楽です」と出版社ジムロックに打ち明けているほどで、事実ブルッフは10代から20代前半にかけて何曲かを書いて以来、ほとんどこのジャンルを手掛けていなかった。
晩年の1918年から1920年にかけて、ヴィリー・ヘスとの交流を通じて2曲の弦楽五重奏曲と弦楽八重奏曲が書かれることとなった。これらは持ち前の美しい旋律が清新な響きとともにのびのびと発揮され、ブルッフの創作力の最後の輝きというのにふさわしい生気に満ちた作品である。また、ヘスとその生徒たちが合奏することを念頭において書かれたため、各曲の第1ヴァイオリンには主導的な立場が与えられているのが特徴的である。
なお、この3曲は第二次世界大戦の戦火によって紛失したと思われていたが、すべて後に発見され、出版されるに至った。
編成
編集ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやフェリックス・メンデルスゾーン、ブラームスの弦楽五重奏曲と同様の編成である。
弦楽五重奏曲 イ短調
編集1918年11月から12月にかけて作曲された。譜面はおそらくヘスに贈られたと考えられ、ブルッフの告別式でも演奏された記録がみられるが、その後出版されないままに自筆譜が紛失したため、前述の通り作品は失われたものと考えられていた。
しかし、ブルッフの義理の娘ガートルード・ブルッフ(長男マックス・フェリクスの妻)が筆写した総譜とパート譜が1988年にBBCの書庫から発見され、1991年に出版された。この筆写は3曲同時に1937年に行われたもので、ブルッフの生誕100周年に向けBBCで放送する作品を決定するための試演に使われたものと考えられている。
4楽章からなり、演奏時間は約25分。
- 第1楽章 Allegro
- 第2楽章 Allegro molto
- 第3楽章 Adagio non troppo
- 第4楽章 Allegro
弦楽五重奏曲 変ホ長調
編集イ短調の五重奏曲と同時期に作曲された。同様に長らく失われたものと思われていたが、ガートルードが筆写した譜面が個人の蔵書から発見され、2008年に初演と出版が行われた。
4楽章からなり、演奏時間は約19分(筆写譜の書き込みでは17分)。
- 第1楽章 Andante con moto
- 第2楽章 Allegro
- 第3楽章 Andante con moto
- ト長調、4/4拍子。複合二部形式、あるいは展開部を欠いたソナタ形式。コラール風の第一主題がひとしきり歌われたあと、クラリネットとヴィオラのための二重協奏曲の第1楽章から取られた第二主題が、ヴィオラのピッツィカートに乗ってロ長調で現れる。二つの主題がト長調で再現され、しめやかに終わる。
- 第4楽章 Andante con moto - Allegro ma non troppo vivace
参考文献
編集- "Bruch: Streichquintett in Es-dur"(Henle, HN 844)の解説(Christopher Fifield, 2008)
- Christopher Fifield(2005), Max Bruch: His Life And Works George Braziller, New York.