学校事故
学校事故(がっこうじこ)とは、文部科学省の定義では原則として、登下校中を含めた独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令第5条第2項に定める「災害共済給付」の対象となる「学校の管理下」で発生した事故を言う。
なお、ここでの「学校」とは,学校教育法第1条に定める学校のうち、小学校・中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校を示す[1]。法令的には、独立行政法人日本スポーツ振興センター法においては「学校の管理下における児童生徒等の災害」と表し、災害とは負傷、疾病、障害又は死亡を指している[2]。
2023年12月、事故が起きた際の調査や国への報告が行われないケースが課題などとして学校の事故対応に関する指針の改訂案パブリックコメントが実施された[3]。2024年2月、文部科学省は教育委員会に対し、事故の発生後に学校がまとめる「基本調査」を、今後は文科省に報告を必須とすることなどを求める改正案を明らかにした[4]。読売新聞の調査では過去7年間の死亡事故の7割が文科省に未報告となっている[5]。
概要
編集学校内や通学中などで子どもが事故にあった際に、医療費や見舞金を給付する制度を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センターでは、ホームページ上で災害共済給付において平成17年度~令和3年度に給付した、総数8,797件の死亡・障害事例が閲覧可能となっている[6]。小学校・中学校・高校に通う子どもの99%が加入しているため、学校事故がほぼ網羅されている。この事故分析では、同じような事故が繰り返し起こっていることが専門家から指摘されており[7]、名古屋大学教授内田良は「コピペ事故」と評している[8]。
2022年度の学校事故の医療費給付は80万件であり、コロナで減少傾向にあると報道されている[9]。
また、文部科学省は、学校管理下における重大事故事例として次の事案をホームページに掲載している[10]。
文部科学省の定めた学校事故対応に関する指針は、有識者会議において検討を行い、平成28年3月に取りまとめられたものとなっている[11]。
なお、負傷については、「学校の管理下で起きている場合はもとより、負傷は学校の外で起きているが、その原因となった事実が学校の管理下で起きたことが明らかであると認められる場合を含む」とされる。「学校でのいじめ、体罰等が原因となったことが明らかな学校外での自傷行為による負傷などが該当する。ただし、教師の適正な指導、児童生徒の成績不振及び児童生徒の学校生活における通常の対人関係による不和を原因とする場合は含まない」と注釈がある[12]。
データーベース
編集- 独立行政法人日本スポーツ振興センターでは、ホームページ上で災害共済給付において平成17年度から給付した、過去の死亡・障害事例を公表している[13]。
学校管理下の災害
編集学校管理下で起きた大規模な災害には、2011年東日本大震災での石巻市立大川小学校津波災害がある[15]。また、2010年3月には栃木県高等学校体育連盟が主催した安全登山講習会で那須雪崩事故が起こり、引率教員と高校生が死亡している。同事故では2023年5月、宇都宮地方裁判所で栃木県に賠償命令が出された[16]。
学校管理下の事故
編集独立行政法人日本スポーツ振興センターが令和3(2021)年度に「死亡見舞金」「障害見舞金」「供花料」「歯牙欠損見舞金」を支給した全事例393件にのぼる。令和3年の死亡見舞金は42件、うち中・高校が各16件である。「学校の管理下の出来事に起因する死亡」とされた窒息死も複数含む[17]。過去における事故事例には次のようなものがある。
部活動事故
編集学校の柔道では、多数の死亡事故が起きており、中高1年生の初心者の頭部外傷に対して積極的に注意することで死亡事故が減少した実績がある。柔道技のなかでは大外刈による死亡が突出して多く、また事故は5月から8月の間に集中して起きていると分析されている。また、野球では、ボールが頭や顔に直撃する事故がコピペのように多発していることが、内田良に指摘されている[8]。
また、ラクビー、剣道、野球などスポーツ時またはその直後に熱中症を発症し、死亡また重大な後遺症が残った事案もある[18]。
2023年9月、千葉県市原市の中学校の陸上部の部活動中に中距離走の練習をしていた2年生の男子生徒が倒れAEDを使用後救急搬送されたが、およそ2週間後に死亡した事件が起こった。倒れた原因は急性心筋炎の可能性が高く、発症の予見は困難だったするで慎重に健康状態を確認すべきだったなどとする答申書が市でとりまとめられた[19][20]。
2024年4月、宮崎市の鵬翔高校のグラウンドに雷が落ち、遠征で訪れていた熊本県の鹿本高校のサッカー部員18人が搬送され、6月時点でも1人が意識不明の重体となった。雷事故では野球部の例では、2014年8月には、愛知県で当時17歳の男子生徒に雷が直撃し死亡。2016年8月には、埼玉県で当時16歳の男子生徒が死亡している。いずれも当時雷注意報が発令されていたと言う[21]。
熱中症による身体機能損傷で龍野高校テニス部熱中症重度障害事件のような重度障害を負う事故も発生している。日本スポーツ振興センターの統計では熱中症は部活動では野球、ラグビー、柔道、サッカーなどで多く起こり、学年では高校1.2年に集中的に発生していることが分かっている。屋外でも起こる。また時期は梅雨明けの急に気温が上がる頃に多く起こるが、夏以外でも、長時間にわたって運動を伴う学校行事等でも発生している[22]。2023年7月、中学1年の女子生徒が部活動後の下校中に山形県米沢市の路上で倒れ、熱中症の疑いで死亡した。市教育委員会は、小中学校の熱中症対応ガイドラインを見直した[23]。
体育授業における事故
編集プール飛び込み事故では産業技術研究所の北村光司主任研究員による分析では、平成26年度に日本スポーツ振興センターが補償を行った、小中学校と高校、それに幼稚園・保育園でのプール事故において「スタートや飛び込み時の衝突事故」は318件となっていた。小中高において現在は飛び込み指導は禁止されている[24]。 一例では、2016年に都立高校では、デッキブラシを越えて飛び込むよう指示された生徒が重度障害を負い2024年3月東京地裁で、都に計約3億8500万円の賠償命令が出ている。また指導教員も業務上過失傷害罪に問われ、21年に東京地裁で罰金100万円の有罪判決を受け確定した[25]。
2024年7月5日、高知市では市立小学校の水泳の授業に参加していた4年生の児童1人がおぼれて他の児童が発見して引き上げ、意識不明で搬送されたが翌6日死亡した。小学校のプールが機器の故障で使用できず高知市立南海中学校で授業を行っていた[26][27]。高知市では市立の小中学校で今年度水泳授業の中止方針を出した[28]。
当該事故でプールの貸し出しが行われた高知市立南海中学校は、1955年(昭和30年)5月11日に起こった日本国有鉄道(国鉄)の宇高連絡船紫雲丸による紫雲丸事故によって修学旅行中であった中学生28人の死者を出した学校であり[29]、その事故によって、プール施設がない当時、児童の水泳技能の向上を望む民意が拡がったともされる。(詳細は「紫雲丸事故」を参照)
事実、コロナ禍で水泳授業がなかった3年間溺死が増加に転じていると語る識者もいる[30]。今回、故障があって使用できなくなった小学校が水泳時間確保を急いだ理由としても、紫雲丸事故が念頭にあって泳力を子どもにつけさせたかったことが述べられている[31]。
一方、学校における働き方改革の進まず教員採用試験の低倍率が続き、大阪、受験者数は3年で25%減となったことなどから公立小学校の教員採用試験で、体育の実技を廃止する自治体が相次いでいる[32]。
プール事故では人は一瞬で溺れ、子どもは入射角の関係から大人より水深が浅く見えることが指摘されている[33]。
さらに、水中では水着の色により沈んでいることの発見しやすさが異なっており、アメリカのインストラクターは青の水着は水に同化するため買わないよう警鐘を鳴らしている[34]。日本では学校教育現場では水着は紺色で統一されている。しかし鳥取県米子市では過去に児童が溺れた教訓を生かし、30年以上前から学校指定水着には蛍光オレンジが採用されている[35]。
バスケットボール、跳び箱運動、サッカー・フットサルにおいても事故が多く、特に高額療養を要にする物には跳び箱の種目がある[36]。
学校行事における事故
編集運動会での組体操の本番や練習において、倒立や肩車でも年間400件以上の骨折事故が起こっていると報道されている[37]。
駅伝やマラソンでの心肺停止も発生しており、さいたま市立小学校での小6女児の2011年死亡事故を受け、さいたま市では遺族と市教委が自動体外式除細動器(AED)を活用した救命のマニュアルで女児の名前から命名した「ASUKAモデル」を策定して、緊急時の早期対応を図っている[38]。
校外活動行事における事故
編集修学旅行において、死亡事故が発生することがある。
- 1955年、瀬戸大橋の開通していない時代に岡山と香川間を結ぶ旅客船「紫雲丸」は大型貨車運航船と衝突して沈没し、乗船していた広島県の豊田郡木江町立南小学校の修学旅行生だった児童や教員、引率の保護者など、168名が死亡した[39]。(詳細は#紫雲丸事故)
- 1988年3月24日、高知学芸高校が修学旅行で中国の上海において、乗車の列車が対向の列車と正面衝突して1年生の生徒27人と教員1人が死亡した[40]。(詳細は#上海列車事故)
学校給食での事故
編集小学校1年生が白玉団子を[41]、小学校5年生が米粉パンを喉に詰まらせ[42]、また支援学校の高校3年生が食べ物を口に入れすぎてのどを塞がれ、死亡している[43]。2024年2月には、うずらの卵で小学校1年生が窒息死した。医師であるNPO法人「Safe Kids Japan」山中龍宏理事長は、小学校1年は乳歯生え替わりの時期でもあるとの危険性を指摘している[44]。
2012年、学校の給食でアレルギーを持つ児童に対し、母親の作成した禁忌リストに印がなかったこと、学校側作成の除去リストが担任の手元になかったことも相まって調布市立の小学校では誤って禁忌食品のおかわりを提供してしまい、アレルギー症状を発症したが本人がエピペンを打つことを「やめて、打たないで」と発言し教員が躊躇して取りやめ、その後失神後に打ったがアナフィラキシーショックにより死亡した事故が起こっている[45]。
日本小児アレルギー学会は、エピペン処方の患者に次の緊急症状の13項目に1つでも当てはまる場合には使用を推奨している。 ぐったり、意識もうろう、尿や便を漏らす、脈が触れにくいまたは不規則、唇や爪が青白い、のどや胸がしめ付けられる、声がかすれる、犬が吠えるような咳、息がしにくい、持続する強い咳き込み、ゼーゼーする呼吸、がまんできない持続する強いお腹の痛み、繰り返し吐き続けるが挙げられている[46]。
一方、食後の運動で発症する、食物依存性運動誘発アナフィラキシーショックを学校で初めて起こす場合もある[47]。三重県教育委員会でも食事後の運動で発症した事例や、食材誤認、誤配食などが報告されている[48]。
愛知県あま市の対応実例報告では、保護者が誤った食材の弁当を持参させたり、エピペンを入れ忘れたりするケースもある[49]。
アメリカでは、2013年11月に小学校・中・高等学校にアドレナリン(エピペン)常備を義務付け、かつ、研修を受けた教職員にその投与の権限があるとしている州を連邦の関係補助金において優先的に扱う法案が成立した。こうした投与を行う教職員は免責されている[50]。
なお、アドレナリン自己注射薬を誤射した3例の報告研修では、重篤な副反応は認められなかった[51]。
学校施設による事故
編集サッカーのゴールポストでは、毎年1300件ほどの事故が発生している。中でもぶら下がり事故による下敷きになった死亡例は後を絶たず2017年には福岡県大川市立川口小学校で小学校4年生の死亡事故が起こっている。また、強風やぶつかりによる事故、移動時の転倒も起こっている[52][53]。2023年には、札幌市内の私立高等学校での女子硬式野球部員1人が倒れてきた移動式の防球ネットの下敷きとなり重体となった事故が起こり、監督が業務上過失致傷容疑で地裁に書類送検された[54]。
学校の屋上にある天窓も、2010年霧島市の小学校で上に乗った子供が突き破って落下する事故があり同様の事故が絶えないが、落下防止柵や天窓を塞ぐ対応が取られることで解決するとの指摘がある[55]。
図書館の本棚にのり窓から転落した死亡事故など、転落事故も多数発生している[56]。足場になるものがあったり、窓際のカーテンで窓の開放に気づかず転落した事例が要因となっていることと報道されている[57]。2011年(平成23年)10月12日堺市立東深井小学校で発生した、児童が校舎から転落した死亡事故をきっかけとして、堺市では全校施設点検が行われ報告書が作成された[58]。
2024年8月には、武蔵野市立本宿小学校で、地域の宿泊行事に参加していた男子中学生が3階ベランダから転落し翌日死亡した。事件性はないとみられている[59]。
学校環境による事故
編集杉並区では、2023年4月に区立小学校の校庭で体育の授業中に児童が転倒した際に地面から出ていた釘によって、左ひざを切る大けがをした。続く区立全校点検では千本を超える釘が発見された[60]。全国でも目印に使用したと思われる新旧の釘が多数校庭から発見されている[61]。
子供同士の加害行為
編集2019年11月に愛知県半田市の市立小学校で、自作の矢を他の小学生に放って目に当て、後遺症が残った事件が起き、名古屋地裁は市に対し、教諭は弓矢を取り上げたり、注意喚起したりするなどの義務を怠ったとして国家賠償法に基づいて約3400万円の損害賠償を命じる判決を下した[62]。
いたずらによる椅子引きによって尻餅をついて、高校3年生で脊髄が潰れ半身不随になった事例がある[63][64]。
小学校5年生で友だちがバット代わりにして振った傘の柄が眼球を直撃し右眼人工的偽水晶体症、右外傷性散瞳になった事故もある[65]。
教職員による事故
編集1990年に神戸高塚高校校門圧死事件では、遅刻しそうになり学校への駆け込みをする生徒に対し教員が校門を閉めたため、はさまれた女子生徒が圧死した[66]。
登下校時の事故
編集警察庁の報告では、登下校中の交通事故で死亡したり重傷をおったりした児童(小学生)の数は5年間(平成28~令和2)で908人にのぼっている。登校時の集団登校で、大きな交通事故に巻き込まれる事案も起こっている[67]。
統計では、小学生では4月から交通事故が増え6月に1年で最も多く、事故にあう年代は小学1.2年生が全体の半数近くを占め、時間帯でみると下校中が最も多くなっている傾向がある[68]。
登校時に7歳児が水筒を左斜めに肩にかけていたが小学校内に入ったところでつまずき、首から提げていた水筒が地面とおなかの間に挟まって腹部を強打した。外傷性の膵すい損傷になり3回の手術が行われ、膵臓は半分切除され、脾臓の摘出が行われた[69]。なお近年ではランドセルタイプのリュックに水筒など収納できるものも発売されている[70][71]。
校内での感染症の感染拡大影響に関する裁判
編集2019年に広島県在住の白血病であった公立小2年の男児(8)はインフルエンザに感染し、全身性炎症反応症候群と脳ヘルニアを発症して死亡した。保護者は校内で感染が広がっていたインフルに起因するとして日本スポーツ振興センターに死亡見舞金を請求したが、2023年1月に「学校の管理下における感染と認めることができない」などとして不支給決定となった。保護者は3千万円の支払いを求めて広島地裁に提訴し日本スポーツ振興センターは請求棄却を求めている[72]。
補償
編集独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、学校の管理下における児童生徒等の災害に対して、災害共済給付を行う。災害共済給付は、「災害共済給付オンライン請求システム」により行われている。学校の管理下の範囲は次の通り。
- 学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合(保育所等における保育中を含む。)
- 学校の教育計画に基づく課外指導を受けている場合
- 休憩時間に学校にある場合、その他校長の指示又は承認に基づいて学校にある場合
- 通常の経路及び方法により通学する場合(保育所等への登園・降園を含む。)
- 学校外で授業等が行われるとき、その場所、集合・解散場所と住居・寄宿舎との間の合理的な経路、方法による往復中
- 学校の寄宿舎にあるとき
災害の種類・範囲は負傷・疾病・傷害・死亡に分かれている[73]。
同一の災害の負傷又は疾病についての医療費の支給は、初診から最長10年間継続して受けることができる[74]。
脚注
編集出典
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