クコ
クコ(枸杞[3]、学名: Lycium chinense)は、東アジア原産のナス科クコ属の落葉低木。荒れ地などに見られ、夏から秋にかけて薄紫色の花を咲かせて、秋に赤い果実をつける。有用植物で、食用や薬用に利用される。北アメリカなどにも移入され、分布を広げている。別名、ウルフベリー、ゴジベリー。中国植物名は枸杞(拼音: )。
クコ | |||||||||||||||||||||
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クコ
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Lycium chinense Mill. (1768)[1] | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
クコ(枸杞) | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Chinese desert-thorn Chinese wolf-berry Goji berry |
名称
編集和名クコは、漢名に由来する[3]。漢名(中国名)で「枸杞」と書き[4]、中国の古書に「枸橘(カラタチ)のようなとげがあり、杞柳(コリヤナギ)のように枝がしなやかに伸びるので、枸杞と名付けられた」との記述がある[5][6]。
日本の地方により、アマトウガラシ[7]、オニクコ[7]、カラスナンバン[4]、カワラホウズキ[4]、キホウズキ[7]、シコウメ[7]、ノナンバン[4]などの方言名でも呼ばれている。
英名のゴジベリーの名が逆輸入され、日本の園芸店でもゴジベリーの名で流通することも多い。
分布・生育地
編集日本全域(北海道・本州・四国・九州・沖縄)、朝鮮半島、中国、台湾に分布する[8]。平地に分布し、山地には見られない[9]。
日当たりのよい原野、河川堤防、土手、海岸、市街地や農耕地帯の道ばたなどのやぶに自生しており[9][10]、人の手が加わりやすく、高木が生えきれない環境によく生える。ある程度湿り気のある水辺の砂地を好む[5]。庭などで栽培もされる[3]。日本では、土手や道ばたのやぶでよく見られるが[11]、かつて一時の漢方薬ブームで頻繁に採取され、見かける数が少なくなった[12]。
形態・生態
編集高さ1 - 2メートル (m) の落葉広葉樹の低木[3]。暖地では半常緑化している[7]。株元から茎が何本も立ち上がり、弓状に垂れ下がってやぶ状になる[9][13]。茎は細長く伸びて直立せず[10]、枝は長さ1 m以上、太さは数ミリメートル (mm) - 1センチメートル (cm) ほどで、よく分枝して細くしなやかである。3 - 4月ころに芽吹き[6]、枝には葉と[9]、葉の付け根に1 - 2 cm程度の棘が互生する[7]。葉身は、長さ2 - 4 cm程度のやや先が尖った楕円形から倒披針形で、革質で縁がなめらかで、数枚ずつ集まるように枝から出る[9][14]。垂直方向以外に地上にも匍匐茎を伸ばし、枝先が地に接すると発根して[10]、同様の株を次々と作って繁茂する[5]。
葉は、長さ2 - 4 cmの倒披針形か長楕円形の全縁で、束生して数個が集まり、葉質は厚く、軟らかで無毛である[3][10]。葉の付け根には、しばしばとげ状の小枝が生える[8]。
開花期は晩夏から秋(7 - 11月)で[6][8]、葉腋から1 - 4個の細い花柄を出し、直径1 cmほどの小さな薄紫色の花が咲く[10]。花は鐘形で[9]、花冠は5裂する[3]。花から5本の長い雄しべが出て、目立つ[11]。
果実は液果で[11]、花が終わると9月ころに結実し[6]、長径1 - 2.5 cmほどの楕円形で、晩秋に橙紅色に熟す[3][10][7]。果実の中に種子が20個ほど入り、一つの種子の大きさは2ミリメートル (mm) 弱ほどで、腎円形や楕円形で平たく、種皮は淡褐色で浅い網目模様があり、ざらつき感がある[11]。
性質は丈夫であり、5月ころに、しばしばハムシの一種トホシクビボソハムシ(Lema decempunctata)の成虫や幼虫が葉を強く食害したり、何種類かのフシダニ(クコフシダニ)が葉裏に寄生して虫癭だらけになったりするが[5][6]、それでもよく耐えて成長し、乾燥にも比較的強い。また、アブラムシがついたり、うどんこ病にかかることも多い[7]。
利用
編集非常に有用な植物で、葉や果実が食用、茶料、果実酒、薬用などに、また根は漢方薬に用いられる[15]。萌芽力が強くて剪定にも耐えるため、庭園樹や生け垣に利用されることがある[15]。挿し木や株分けで、容易に繁殖することができる[15]。
食用
編集赤く熟した果実には、ベタイン、ゼアキサンチン、フィサリンなどが含まれ[5]、強壮作用があり、乾燥させたクコの実をホワイトリカーに漬けこんで健康酒としてクコ酒にするほか[8][10][7]、生食やドライフルーツでも利用される[6]。薬膳として粥の具や杏仁豆腐のトッピングにもされる[16]。
また、柔らかい若葉も食用にされ、軽く茹でて水にとってアクを抜き、お浸し、和え物、油炒め、クコ飯、ポタージュ、佃煮や、生のまま汁の実、天ぷらに調理されたり[5][10][7]、サラダや料理のトッピングに利用される[6]。若葉の採取時期は、暖地が4 - 5月ごろ、寒冷地は5 - 6月ごろが適期とされる[7]。アク抜きの際に、水にさらす時間が短いと、葉の色が茶褐色に変色する[7]。若芽は茹でるとよい香りがして、コクのある味わいが楽しめる[7]。成葉は天日で干してお茶代わりにする[7]。
薬用
編集クコの果実は枸杞子(くこし)、根皮は地骨皮(じこっぴ)、葉は枸杞葉(くこよう)という生薬である[4][10]。ナガバクコ(学名: Lycium barbarum)も同様に生薬にされる。採取部により、三者三様の生薬名があるが、強壮薬としての効用は同じで、組み合わせで利用されている[10]。葉は6 - 8月ころ、果実と根皮は秋に採取して、水洗いしたものを天日で乾燥させる[4][10]。葉には、ベタイン、ベータ・シトステロールグルコシド、ルチンなどが含まれ、毛細血管を丈夫にする作用があるといわれる[5]。根皮には、ベタイン、シトステソル、リノール酸などが含まれ、果実とともに滋養強壮の目的で漢方薬に配剤されている[5]。
民間では、果実、根皮、葉それぞれ1日量5 - 10グラムを600 ccの水で半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[4]。果実は、食欲がなく下痢しやすい人に合わないことが多く、根皮・葉は冷え症の人に対して禁忌とされている[4]。
ワルファリンとの相互作用が報告されている[17]。食品素材として利用する場合のヒトでの安全性・有効性については、信頼できるデータが見当たらない[18]。
- 枸杞子
- 血圧や血糖の低下作用、抗脂肪肝作用などがある。精神が萎えているのを強壮する作用もあるとされている[10]。また、視力減退、腰や膝がだるい症状の人、乾燥性のカラ咳にもよいといわれている[4]。
- 地骨皮
- 抗炎症作用、解熱作用、強壮、高血圧低下作用[10]などがある。清心蓮子飲(せいしんれんしいん)、滋陰至宝湯(じいんしほうとう)などの漢方方剤に配合される。クコ茶としても親しまれる[3]。糖尿病で夜になると寝汗をかき、足の裏がほてる人によいともいわれている[4]。
- 枸杞葉
- 動脈硬化予防[10]、血圧の低下作用などがある。茶料としてクコ茶にする[10]。
食用
編集若芽、葉茎、果実のいずれも食用や果実酒とする[9][12]。春(4 - 6月)の若芽は、先端の10 cmを摘み取って、茹でて水にさらし、和え物やお浸しにしたり、生のものをよく洗って天ぷらや炒め物、汁の実として調理される[9]。夏から秋にかけての葉も食用にでき、茹でてお浸しや和え物、生のまま天ぷらにしたり、煮付けて炊いた飯に混ぜて、クコ飯にできる[9]。9 - 11月ころのよく熟れた果実は、よく洗ってホワイトリカーに漬け込み、果実酒にする[9][12][19]。葉や根は細かく刻んで乾燥させ、クコ茶として飲用する[12]。
脚注
編集- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Lycium chinense Mill. クコ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月22日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Lycium rhombifolium (Moench) Dippel ex Dosch et Scriba クコ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 229.
- ^ a b c d e f g h i j 貝津好孝 1995, p. 142.
- ^ a b c d e f g h 田中孝治 1995, p. 136.
- ^ a b c d e f g h 山下智道 2018, p. 43.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 金田初代 2010, p. 180.
- ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 261.
- ^ a b c d e f g h i j 田中つとむ・松原渓 2003, p. 54.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 馬場篤 1996, p. 45.
- ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 63.
- ^ a b c d 奥田重俊監修 講談社編 1996, p. 47.
- ^ 金田初代 2010, p. 181.
- ^ 金田初代 2010, pp. 180–181.
- ^ a b c 大嶋敏昭監修 成美堂出版編 2002, p. 154.
- ^ クコ:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
- ^ クコの実との相互作用によりINRが上昇した: 症例報告 (エーザイ)(PT-INR(プロトロンビン時間-国際標準化比)はワルファリン投与の際、高くなりすぎると出血の危険性が増え、低くなりすぎると血栓症の危険性が増えるため、適切な値にコントロールされる。)
- ^ クコ(クコシ/クコヨウ) - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所) 閲覧日2012-07-25
- ^ クコ酒 | 焼酎SQUARE
- ^ “粗悪品には注意が必要! 今年流行るスーパーフード9選は? | 女性自身”. WEB女性自身. 2020年3月11日閲覧。
- ^ “オーガニック ゴジベリー - スーパーフード|サンフード スーパーフーズ公式オンラインストア”. オーガニック ゴジベリー - スーパーフード|サンフード スーパーフーズ公式オンラインストア. 2020年3月11日閲覧。
参考文献
編集- 大嶋敏昭監修 成美堂出版編『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、154頁。ISBN 4-415-01906-4。
- 奥田重俊監修 講談社編『新装版 山野草を食べる本』講談社、1996年2月10日、47頁。ISBN 4-06-207959-3。
- 貝津好孝『日本の薬草』 16巻、小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、142頁。ISBN 4-09-208016-6。
- 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、180 - 181頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『増補改訂 草木の 種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2018年9月20日、63頁。ISBN 978-4-416-51874-8。
- 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、136頁。ISBN 4-06-195372-9。
- 田中つとむ・松原渓『日本の山菜』高橋秀男監修、学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、54頁。ISBN 4-05-401881-5。
- 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 フィールドベスト図鑑〉、2009年8月4日、229頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
- 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、45頁。ISBN 4-416-49618-4。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、261頁。ISBN 4-522-21557-6。
- 山下智道『野草と暮らす365日』山と溪谷社、2018年7月1日、43頁。ISBN 978-4-635-58039-7。
- 「川の生き物図鑑 鹿児島の水辺から」鹿児島の自然を記録する会編 南方新社 ISBN 4-931376-69-X
- フィールド総合図鑑「川の生物」 財団法人リバーフロント整備センター編 山海堂 ISBN 4-381-02140-1
関連項目
編集外部リンク
編集- クコ(クコシ/クコヨウ) - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- クコ葉中の抗菌活性成分 食品衛生学雑誌 39(6), 399-405, 1998-12-00
- クコ果実の多糖成分について 岐阜大学農学部研究報告 64, 83-88, 1999-12-27