名探偵が多すぎる

西村京太郎の小説 (1972年)

名探偵が多すぎる』(めいたんていがおおすぎる)は、西村京太郎の長編推理小説(三人称小説)。1972年昭和47年)5月に講談社から書き下ろしで出版された[1]

推理小説史に残る有名な名探偵が登場する、パロディミステリ『名探偵なんか怖くない』の続編(「名探偵シリーズ」4部作の第2作)。以下の4人の探偵が登場する(登場順に記載[2])。

  1. アガサ・クリスティエルキュール・ポワロ
  2. エラリー・クイーンエラリー・クイーン
  3. ジョルジュ・シムノンジュール・メグレ(退職後)[3]
  4. 江戸川乱歩明智小五郎

本作では、彼らにモーリス・ルブランアルセーヌ・ルパンが挑戦状を叩きつける。彼の協力者として、怪人二十面相が登場。

あらすじ

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明智小五郎の誘いで、「第2の3億円事件」(前作『名探偵なんか怖くない』)に関わったジュール・メグレ夫妻、エルキュール・ポワロエラリー・クイーン、そして警視庁の吉牟田刑事は、瀬戸内海を航行する観光船「あいぼり丸」に乗り込んでいた。神戸港発、別府港行きの定期便である。船旅を楽しむ一同だが、「エコー・ド・フランス新聞」の東京特派員アレン・セルパン(Aren Selupin)が現れ、「4人が何か企んでいるのでは?」、「そうでないとしても、事件が起きるのでは?」と質問してきた。

クイーンの財布が掏り取られたのを皮切りに、アルセーヌ・ルパンが挑戦状を送ってくる。折りしも「あいぼり丸」には宝石商の島崎が乗っており、彼は総額1億円相当の宝石類を持っていた。彼の宝石を狙い、予告状を送りつけるルパン。島崎は船長を通じ、4人の名探偵に解決を依頼。4人はこれを引き受ける。しかし、島崎は特等室の中で血まみれの死体となって発見され、室内には「この謎が解けるか?」と、ルパンの声明文が残っていた。密室殺人、しかも部屋の前では吉牟田刑事が頑張っていたにもかかわらず、である。それよりも、「血を流さない」のが信条のはずのルパンが殺人を犯すとは…?

事件は収束したものの、新たに船長室にある横山大観の名画「富士山」を巡り、ルパンとの再試合が開始される。だが、これに絡み、またしても殺人が。ルパンは対決を一時休戦し、4人の名探偵とは別に犯人を探索する。果たして犯人は?

最後に、ルパンと怪人二十面相の作り上げた「完全な密室」に4人と吉牟田刑事は閉じ込められてしまう。トリックのない密室からの脱出は不可能で、助かりたければルパンに降伏するしかない。4人の名探偵の決断は?

登場人物

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本作は観光船「あいぼり丸」(3000トン)が瀬戸内海を航行する最中の事件(クローズド・サークル)であり、以下は旅客もしくは乗組員である。ほぼ登場順に記載するが、都合によりジュール・メグレのみ繰上げている。

各名探偵の詳細については、リンク先の記述を参照。

ジュール・メグレ
フランスを代表する名探偵。パリ警視庁を定年退職した。本作で言及される階級は警部[3]
コーヒーワインも飲むが、世間の先入観があるので、外ではビールしか頼まない[4]
白鳥の首のエディス」("Édith au cou de cygne")事件を引き合いに出し、「ルパンは殺人はしない」と断言した。
メグレ夫人
のんびりと旅を楽しむつもりで、編み物をしている。別府温泉を楽しみにしている。
本作で最初に登場するキャラクターであり、最後に登場するキャラクターでもある。被害者の腕時計の遅れを見つけるなど、4人の名探偵以上の眼光を持っている。またポワロの内心を見抜いてからかうなど、ユーモアのセンスもある[5]
吉牟田刑事がジュヌビエーブを監禁して船長室に篭城した際、「殺人犯がルパンではない、と説明すれば人質を放すはず」と4人の名探偵に謎解きを迫ったが、「廊下で披露するのか?」と名探偵たちは内心では渋っていた。彼女はそれを見抜き、「暖炉とかサロンとかソファがなくては、あなた方は推理できないのですか?」と迫った。
第3作『名探偵も楽じゃない』以外の3作品で夫と共に来日しているが、前作『名探偵なんか怖くない』では別行動をしている(事件のために来日したので)。本作と第4作『名探偵に乾杯』では事件が予想されていなかったため、夫と行動を共にしている。
エルキュール・ポワロ
イギリスを代表する名探偵。本作まで「ポロ」、次回作から「ポロ」と表記。前作に続き、クイーンやアメリカ人に不快感を持っている(口笛を吹く点が、特に)[6]
マッチ棒を使って魚や城を作るクセを持っている[7]
アレン・セルパン(Aren Selupin
「エコー・ド・フランス新聞」の東京特派員、と自己紹介して登場した。「4人の名探偵の集合には、何かウラがあるのでは?」と、メグレ以外の3人にインタビューして回る(「事件や犯罪が名探偵を追いかける」という主張を披露)。
明智にインタビューした際は、「あの事件はルパンのニセモノか、架空の事件、という意見がフランスでは多い」と説明したが、「ルパンがシャーロック・ホームズを手玉に取った事件を、イギリス人は、どう思っているかな?」と返された[8](クイーンも「ニセモノという噂がある」と述べている[9])。
最初にルパンの名を出したのは彼である。また、その時に二十面相の名前も出した。
エラリー・クイーン
アメリカを代表する名探偵。鼻眼鏡を使用している。
登場早々、財布を摺られ、ルパンにからかわれている。
明智 小五郎
日本を代表する名探偵。『化人幻戯』(1954年)を最後に、事件から遠ざかっていた。「第2の3億円事件」(前作)で、久しぶりに人前に姿を現す。
アレンの「エコー・ド・フランス新聞」に対し、「ルパンの機関紙」と指摘した(クイーン、ポワロ、メグレ夫人は気がつかなかった)。この時、ルパンからの挑戦状を渡されている。
吉牟田 晋吉
前作から引き続き登場。50歳ぐらいのベテラン刑事で、明智と知り合ったのは『化人幻戯』事件。
前作では渋谷署の刑事だったが、本作では警視庁捜査一課に移っている[10]。次回作では警部補、第4作では警部に昇進している(ただし、第4作では言及されるに留まり、実際には登場しない)。
今回は明智に誘われて乗船したが、貧乏性のため、心から休暇を楽しめないでいる。真面目な人物だが、それが災いしてジュヌビエーブを傷つけてしまい、ルパンの逆鱗に触れ、4人の名探偵ともども絶体絶命のピンチ(完全な密室)に陥る。
セルニーヌ公爵夫人(ジュヌビエーブ)
30歳ぐらいの金髪美女。フランスの名門貴族、と旅客名簿には記載されている。
813』(1910年発表)に登場する女性と同じ名前である(クイーンに指摘された)。クイーンに対して「2人1役が得意でしたね?」と皮肉を述べたが、「あなたがルパンの弱点ですよ」と忠告された。
本人いわく「女友達の一人」だが、ルパンからのメッセージを名探偵たちに渡した。妊娠3ヶ月だった。
新井精一
「あいぼり丸」の事務長。流暢な英語を喋れる。
船長
小柄な体格をしている。30年ほど前に、海軍兵学校で英語を学んでいる。
島崎
大柄な中年の宝石商。特等2A室の旅客。
総額1億円相当の宝石類を所持し、ルパンから予告状を受け取る。密室で死体となって発見され、宝石類は見つからなかった。
若い男性
2等船室の客で、22歳ぐらいの東京のサラリーマン。水泳が得意、と大声でいってしまったため、トリックのために突き落とされる(見舞いの花と、1万円を対価として秘かに渡された)。
アルセーヌ・ルパン(Arsène Lupin)
フランスを代表する怪盗。4人の名探偵に挑戦する。
変装して4人の名探偵に個別に近づいた。3人には挑戦の前に接近したが、メグレには殺人の後で接触している(メグレには親近感を持っている[11])。
シャーロック・ホームズと戦ったことは認めている[12]が、明智に負けたことは認めていない(仮面を被って日本に現れたことすら否定している)[13]
父がアメリカで無実の罪で投獄され、獄死しているため、アメリカ人には好意を持っていない。クイーンは刑事の息子なのでなおさらであり、そのために財布を摺った[14]
ポワロはイギリス人なので、ホームズ以来の対抗心がある[14]
オオミヤ
誘拐された事務長(新井精一)を発見した乗組員。
怪人二十面相
日本を代表する怪盗で、明智小五郎のライバル。ルパンに今回の旅の件を教えた。
表立って活動するシーンは少なく、主に密室の設営に勤しんでいた。ルパンと違い、メグレ夫人に余り敬意を払っていない[15]

章題

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各見出しは、原典等をもじったものになっている[16]

番号 章題 原典 探偵 作家
1 ポケットに探偵を ポケットにライ麦を ミス・マープル アガサ・クリスティ
2 挑戦準備完了 殺人準備完了 バトル警視 アガサ・クリスティ
3 災厄の船 災厄の町 エラリー・クイーン エラリー・クイーン
4 何故メグレに頼んだか なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? ボビイ アガサ・クリスティ
5 特等2A室の秘密 ローマ帽子の秘密
(国名シリーズ)
エラリー・クイーン エラリー・クイーン
6 事務長殺人 アクロイド殺し エルキュール・ポアロ アガサ・クリスティ
7 そして誰かがミスをした そして誰もいなくなった - アガサ・クリスティ
8 ルパン罠を張る メグレ罠を張る ジュール・メグレ ジョルジュ・シムノン
9 Lの悲劇 Xの悲劇
Yの悲劇
Zの悲劇
ドルリー・レーン バーナビー・ロス

脚注

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  1. ^ 西村京太郎 『名探偵が多すぎる』 講談社〈講談社文庫〉、1980年、266頁(中島河太郎「解説」より)。
  2. ^ 同書8頁、14頁、14頁、19頁を参照。
  3. ^ a b 同書7頁。
  4. ^ 同書9頁。
  5. ^ 同書10頁。
  6. ^ 同書9-10頁。
  7. ^ 同書111頁。
  8. ^ 同書26-27頁。
  9. ^ 同書137頁。
  10. ^ 同書19頁。
  11. ^ 同書104頁。
  12. ^ 同書102頁。
  13. ^ 同書103-104頁。
  14. ^ a b 同書103頁。
  15. ^ 同書242頁。
  16. ^ 同書267頁(中島河太郎「解説」)。