化人幻戯
『化人幻戯』(けにんげんぎ)は、1954年から1955年にかけて発表された江戸川乱歩の長編探偵小説。明智小五郎シリーズ作品の一つである。
本作は1956年第9回日本探偵作家クラブ賞の候補作品に選出されている[注 1]。
概要
編集本作は『宝石』1954年(昭和29年)11月号、1955年(昭和30年)1月号から11月号に掲載された。名探偵・明智小五郎が登場する、いわゆる「明智作品」の一つ。本作および同時期に発表された『影男』(『面白倶楽部』1955年1月号 - 12月号)を最後に乱歩は成人向け作品に明智を登場させておらず、以後、明智は子供向けの「少年探偵団シリーズ」にのみ登場するようになる。
乱歩は本作について、次のように評している[2]。
還暦祝いの席で宣言して書いたのが『影男』と本作で、『影男』は戦前講談社の諸雑誌に書いたような怪奇チャンバラもので、しかもそれらよりも気の抜けた作品だったため一向受けなかった[2]。本作は『影男』よりもやや一所懸命書こうとしたものだが、どうしてもこれなら書きたいという筋が浮かばず、かと言って宣言した手前書かないわけには行かず、『宝石』にも日を決めて約束してあることから、そのとき浮かんできたうちの、いくらかましな筋を元にして書き始め、辻褄の合わないところを何とかごまかしながら続けたものである[2]。このような作品だから本作が一向批評されなかったのも無理はないと自作を評している[2]。
石羽文彦[注 2]は、本作を乱歩唯一の本格長編で第一級作品と称していいものだとしながら、犯人の性格を通して新しい殺人の動機を見出してはいても、ワキ役の登場人物たちは影の薄れたものとなっているとし、純探偵作家でも登場人物の性格を書き分けているというのに、10年間の雌伏は海外にも類の作品を生み出すかと期待していたが、探偵作家のホームグラウンドから踏み出そうとはしなかった、と批判している[3]。
なお、『出版ニュース』1955年11月下旬号[注 3]に掲載された「探偵小説ベスト3」のアンケート[注 4]では、9人が日本のベスト3に乱歩の作品を挙げており、そのうちの3人が本作を挙げている[4]。
あらすじ
編集父親の勧めで、犯罪や探偵小説、レンズや奇術を趣味とする元侯爵で実業家の大河原義明の秘書となった庄司武彦は、大河原の美貌の若い妻・由美子に恋心を抱く。大河原家には、大河原のお気に入りの2人の青年、製紙会社社員の姫田吾郎と製薬会社社員の村越均が出入りしていた。由美子に思いを寄せていた2人は、互いに反目しあっていた。
ある日、庄司は姫田から、差出人不明の白い羽根が送り付けられていることを相談される。秘密結社からの何らかの脅迫ではないかと恐れる姫田は、庄司の知り合いの名探偵・明智小五郎に相談してほしいと頼む。
しかし、忙しさにかまけて庄司が依頼をそのままにしたまま数日が過ぎ、熱海の別荘に大河原夫妻と庄司が逗留していたある日、双眼鏡をのぞいていた夫妻は、切り立った断崖から男が転落するのを目撃する。その男は姫田であった。
他殺を疑う捜査陣は、村越を容疑者として目をつけるが、彼もまた鍵のかかった密室の中で射殺される。
主要登場人物
編集- 庄司 武彦(しょうじ たけひこ)
- 本作の主人公。25歳。昨年大学の文科を卒業したが職に就かず、読書に日を費やす文学青年。銀座に店を持つ京丸株式会社重役である父親の勧めで、大河原義明の秘書役を務めることになる。
- 大河原 義明(おおがわら よしあき)
- 元侯爵、戦前は貴族院議員であった。現在はいくつかの産業会社の社長や重役を兼ねる実業家。探偵小説好きで、自宅の書斎に内外の貴重な書物を所蔵している。素人奇術クラブの会長。27歳の妻・由美子の倍以上の年齢で、目立つほど白髪が混じっているが、中肉中背のガッシリした体格で、色白で艶も良い。
- 大河原 由美子(おおがわら ゆみこ)
- 義明の若い後妻。戦争で没落した元大名華族のお姫様。27歳。美貌で社交性がある。
- 姫田 吾郎(ひめだ ごろう)
- 日東製紙会社の模範社員。27、8歳。睫毛が長く化粧でもしたような眼をしている、快活で人なつっこい陽性の好男子。
- 村越 均(むらこし ひとし)
- 城北製薬会社の優秀社員。27、8歳。無口で人付きの悪い性格だが、理知的でひきしまった顔をしている。
- 箕浦(みのうら)
- 警視庁捜査一課の古参の警部補。安井捜査一課長の部下。明智とは師弟のような間柄である。
- 明智 小五郎(あけち こごろう)
- 有名な私立探偵。50歳を超えているが、お洒落で非常に若く見える。
収録作品
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集外部リンク
編集- 化人幻戯 - 乱歩の世界