厩火事
あらすじ
編集髪結いで生計を立てているお崎の亭主は文字通り「髪結いの亭主」、昼間から遊び呆けて酒ばかり呑んでいる怠け者だった。そんな年下の亭主と口喧嘩が絶えないお崎だが、しんから愛想が尽き果てたわけではなく、亭主の心持ちが分からないと仲人のところに相談を持ちかける。
話を聞いた仲人は、お崎にふたつの逸話を聞かせる。ひとつは、唐土の孔子の逸話。孔子の愛馬が、弟子の不手際で起きた火事で焼け死んでしまった。だが孔子は愛馬の死を咎めずに弟子たちの身を心配し、それゆえに弟子たちの信奉を得た話。今一つは瀬戸物を大事にするあまり、家庭崩壊に至った武家の話だった。これら二つの逸話を下敷きにして、お崎の夫が大切にしている瀬戸物をわざと打ち壊す。それを見た夫がどのように反応するかを見定めて、身の振り方を考えたらどうか、との提案だった。
帰った彼女は早速、夫の目の前で瀬戸物を打ち壊した。結果、夫は瀬戸物よりも彼女の方を心配した。感動したお崎が「そんなにあたしのことが大事かい?」と叫ぶ。
対する夫は「当たり前だ、お前が指でも怪我したら明日から遊んで酒が呑めねえ」
バリエーション
編集立川志の輔や春風亭小朝は、お崎が「麹町のさる武家」の部分で「麹町の日テレでマラソンを走っている間寛平」と、「学者の孔子」の部分で「役者の幸四郎」と現代風なツッコミを入れるようにアレンジをしている。
解説
編集この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
落語につきもののぐうたら亭主としっかり者の女房による喧嘩話、しかし心では亭主を愛している女房。そして亭主も・・と思いきや、期待を裏切るオチがこの噺の聞き所。
お崎の職業である「回り髪結い」は江戸中期に興った。文字通り客の家や店を回って髷を結う仕事であり、当時においては女性でも就業できる数少ない専門職だった。彼女のように腕の良い髪結いは、当時の庶民に比べて相当いい暮らしができた。
その他「あらすじ」欄では触れられていないが、お崎が仲人にマシンガンのように自分の不満をまくし立て、それに対するアドバイスにくだらないツッコミを言ったり、直前の自身の悪口と大きく矛盾するほど亭主を擁護し始めるところも、この噺の特徴でもある。