働き蟻の法則 / 働きアリの法則(はたらきあり の ほうそく)とは、働き蟻[注 1]に関する法則である。パレートの法則(80:20の法則)の亜種で2-6-2の法則ともいう[注 2]

概要

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  • 働き蟻のうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。
  • よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。
  • よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働く蟻になり、全体としてはまた2:6:2の分担になる。
  • よく働いているアリだけを集めても、一部がサボり始め、やはり2:6:2に分かれる。
  • サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。

解説

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日本の生態学者長谷川英祐北海道大学)が社会生物学(進化生態学)の見地から詳しく研究し、一般向けの解説書を出している[8][8]。それによると、働く蟻と働かない蟻の差は「腰の重さ」、専門的に言うと「反応閾値」によるという。アリの前に仕事が現れた時、まず最も閾値の低い(腰の軽い)アリが働き始め、次の仕事が現れた時には次に閾値の低いアリが働く、という形で、仕事の分担がなされている。仕事が増えたり、最初から働いていたアリが疲れて休むなどして仕事が回ってくると、それまで仕事をしていなかった反応閾値の高い(腰の重い)アリが代わりに働きだす。

一見サボっているように見えるアリの存在が、コロニー (Colony (biology)#Social coloniesの存続に大きな役割を果たしている。仮に全てアリが同じ反応閾値であると、すべてのアリが同時に働き始め、短期的には仕事の能率が上がるが、結果として全てのアリが同時に疲れて休むため、長期的には仕事が滞ってコロニーが存続できなくなることがコンピューターシミュレーション (Computer simulationの結果から確認されている。閾値が高いアリはほとんど働かないまま一生を終えることもあり得るが、そのようなアリがいる一見非効率なシステムがコロニーの存続には必要である。

ここで言う「アリ」は「ヒト(人間)」に、「アリのコロニー」は「ヒト(人間)の共同体」にたとえられる。ここで言うサボっているのを言いかえれば、予備部隊(交代部隊)や独立要因に当てはまる。ながらく経験則に過ぎなかったが、近年は研究が進んでおり、例えば「働いているアリだけを集めると一部がサボりはじめる」という法則は長谷川らが証明し、2012年に『Journal of Ethology』(日本動物行動学会)に論文として発表された[9][10]。昆虫の社会を研究することで、生物のシステムにおける共同の起源に迫ることが期待されている。

フリーライダー(チーター)問題

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一方、閾値に関係なく本当に一生ずっと働かないアリもいる。これを、「公共財へのただ乗り」という意味で「フリーライダー: free rider)」、または、コミュニティをだまして寄生することから「チートする者(だます者、あざむく者)」という意味で「チーター(: cheater)」と呼ぶ。

日本の生態学者・辻和希琉球大学)が三重県紀北町で行ったアリ社会の研究によると、当地にいるアミメアリ女王蟻がおらず働き蟻が産卵も行なう)のコロニーには、たまに女王蟻のような大きな個体がいることが知られていた。辻は「アミメアリにも条件によっては女王が現れるのだろう」などと考えていたが、DNAの分析結果から、これがアミメアリの通常個体から生まれた女王蟻ではなく、通常個体とは別のDNAを持った、働かずに産卵だけ行うことが遺伝的に決まっている、言うなれば「フリーライダー」であり「チーター」であることが、2009年(平成21年)に判明した。なお、辻は、チーターのことを「(アミメアリの)社会の」「(アミメアリの)コロニーという『超個体』に巣食う『感染する社会の癌』」などと呼んでいる。

アミメアリのフリーライダーは、働かずに産卵だけ行い、フリーライダーの子蟻もフリーライダーなので、フリーライダーがいるコロニーはフリーライダーが増えて滅びるが、滅びたコロニーの跡地に新たに健全なコロニーが形成される。フリーライダーは別のコロニーに分散するので、アリの社会全体ではフリーライダーの数が一定に保たれている。フリーライダーの感染力が弱すぎるとフリーライダーは1つのコロニーと一緒に滅びて存在しなくなり、逆にフリーライダーの感染力が強すぎるとアリ世界のすべてのコロニーにフリーライダーが進出してアリが根絶してしまうが、健全なコミュニティが広がるスピードと、チーターが広がるスピードの釣り合いがとれているので、働くアリもフリーライダーアリも根絶せずに存続している。つまり、通常個体とチーターが「共存」することが可能になっている。

長谷川によると、すべてのコロニーにフリーライダーが感染してしまわない理由は、アリの社会が複雑であること、専門的に言うと「構造化されている」[11]ことが理由であるという。

なお、微生物以外の高等生物ではヒトだけに存在すると思われていた「公共財ジレンマ」(フリーライダー問題)がアリ社会にも存在したことは、辻和希(辻瑞樹名義、琉球大学)と土畑重人(琉球大学〈当時〉cf. )が率いる研究チームが解明し、2013年(平成25年)に論文として発表したものである[12]。論文によると、フリーライダーを養うために働き蟻が産卵を止めて外に出て働き、結果として生存率が低下し、言うなれば「過労死」していたという[12]。フリーライダー(チーター)が進化生物学的にどういう意味があるのか、なぜフリーライダーアリがいるにもかかわらずアミメアリの共同が維持されているのかは現在[いつ?]も研究中[13]

参考文献

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書籍
論文

関連文献

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  • 伊東佳彦「働きアリの法則」『寒地土木研究所月報』第789号、寒地土木研究所、2019年2月12日、2022年7月25日閲覧 

関係者

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脚注

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注釈

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  1. ^ 営巣育児索餌などの通常労働に従事する役回りを担当するアリ。職蟻。[5]
  2. ^ なお、パレートの法則そのものには当初から問題があり、パレート自身も認めていた[6]。現在では、所得分布についてのパレートの法則は局所的にのみ有効であるとされている[7]

出典

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  1. ^ a b 2-6-2の法則”. グロービス経営大学院. グロービス経営大学院大学. 2022年3月5日閲覧。
  2. ^ a b 柿沼英樹(青山学院大学大学院) (2020年1月). “組織モデルによる「2:6:2 の法則」の検討” (PDF). MAS. 構造計画研究所. 2022年3月5日閲覧。
  3. ^ a b Indeed キャリアガイド編集部 ((2021年6月15日作成)2022年4月25日再作成). ““262の法則”で心がラクになる【人間関係や仕事の成績で悩むあなたへ】”. Indeed. Indeed Japan株式会社. 2022年7月17日閲覧。
  4. ^ a b HRプロ編集部 (2022年2月25日). “「262の法則」とは何か? 組織のマネジメントや人間関係、職場などに活用できる対策も解説”. HRpro. ProFuture株式会社. 2022年7月17日閲覧。
  5. ^ a b 小学館『デジタル大辞泉』. “働き蟻”. コトバンク. 2022年7月17日閲覧。
  6. ^ 木村 2006, p. 119.
  7. ^ ピケティ et al. 2014, pp. 382–383.
  8. ^ a b 長谷川 2010.
  9. ^ Ishii & Hasgeawa 2012.
  10. ^ 北海道大学総務企画部広報課 (2012年12月7日). “働くアリだけのグループにしても働かない個体が現れることを証明 < PRESS RELEASE” (PDF). 北海道大学. 2022年7月17日閲覧。
  11. ^ 長谷川 2015, p. 166.
  12. ^ a b Dobata & Tsuji 2013.
  13. ^ 辻 瑞樹(辻 和希)”. 琉球大学 農学部 亜熱帯動物学講座. 琉球大学. 2022年7月17日閲覧。

関連項目

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  • 社会的手抜き(リンゲルマン効果) - ひとりの時は100パーセントの力を出すはずの人間でも、集団になると他のメンバーにただ乗りして手を抜いてしまう効果。
  • 傍観者効果 - ひとりの時は行動を起こすはずの人間でも、集団になると行動を起こさずに傍観者になる効果。
  • 公共財ジレンマ - 「囚人のジレンマ」の一種で、個人の利益(公共財へのただ乗り)と社会全体の利益(公共財の維持)が対立する現象。個人の利益を優先してただ乗りする人(フリーライダー)が増えることで、公共財が維持できなくなって社会が崩壊する「フリーライダー問題」を引き起こす。