レジオネラ (Legionella) は、レジオネラ属に属する細菌の総称であり、グラム陰性桿菌。レジオネラ肺炎(在郷軍人病)等多くのレジオネラ症を引き起こす種を含む。通性細胞内寄生性菌である。

レジオネラ属
Legionella pneumophila
分類
ドメイン : 真正細菌
Bacteria
: Pseudomonadota
: ガンマプロテオバクテリア綱
Gammaproteobacteria
: レジオネラ目
Legionellales
: レジオネラ科
Legionellaceae
: レジオネラ属
Legionella
学名
Legionella
Brenner et al. 1979[1]
(IJSEMリストに掲載 1980)[2]
修正 Saini & Gupta 2021[3]
(IJSEMリストに掲載 2022)[4]
タイプ種
レジオネラ・ニューモフィラ
Legionella pneumophila
Brenner et al. 1979[1]
(IJSEMリストに掲載 1980)[2]
修正 Brenner et al. 1988[5]
シノニム
下位分類(

本文を参照

重言であるが「レジオネラ菌」という表記もされ、厚生労働省などの文書にも散見される。

発見

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1976年アメリカ合衆国ペンシルベニア州米国在郷軍人会英語版の大会が開かれた際、参加者と周辺住民221人が原因不明の肺炎にかかり、一般の抗生剤治療を行なったが34人が死亡した。ウイルスリケッチア等が原因の候補に挙げられたがそれらしいものは検出されず、新種のグラム陰性桿菌が患者のから多数分離された。発見された細菌在郷軍人 (legionnaire) にちなんで Legionella pneumophila と名づけられた。種形容語の pneumophila は、本菌が肺に感染することから、「肺(ギリシア語でpneumōn)を好む (-phil)」を意味する。この集団感染事例は、在郷軍人会の大会会場近くの建物冷却塔から飛散したエアロゾルに起因していたとされている。

特徴

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レジオネラ属菌は2 - 5µm位の好気性グラム陰性の桿菌で、一本以上の鞭毛を持っている。

通常の細菌検査用培地では生育しないが、これはグルコースなどのを利用できない事に起因する。このため培養の際にはレジオネラがエネルギー源および炭素源として利用できるシステインセリンスレオニンなどの特定のアミノ酸を加える必要がある。特にシステインは必須である。脂肪酸により発育阻害を受けるためこれらを除去しなければならない。また、有機鉄も要求する。培養条件は厳しく、pHが6.7〜7.0でないと増殖せず、至適温度は36°Cである。分裂周期は数時間で、増殖には時間がかかり、バンコマイシン等の抗生物質を加え他の菌の生育を抑えて培養する。

環境中では人工培地とは異なり幅広い環境で生育可能である。主に河川などの水の中や、土壌に存在している自然環境中の常在菌の一種としても知られる。レジオネラは通性細胞内寄生性であり、これらの場所ではアメーバなどの原生生物など他の生物の細胞内に寄生したり、藻類と共生しており、これによってさまざまな環境での生育が可能になっている[6]。上記の人工培養条件下で必要とされる厳しい栄養要求は、当然のことながら他の生物の細胞内では容易に得られるものである。水中でも長期間( - 数年)生存できる。

ヒトの生活する環境においても、大量の水を溜めて利用する場所でレジオネラが繁殖する場合が知られている。特に Legionella pneumophila は、空調設備に用いる循環水や入浴施設においてよく見られ、しばしばこれらの水を利用する際に発生する微小な水滴(エアロゾル)を介してヒトに感染する。

レジオネラを含んだエアロゾルがヒトに吸入されると、レジオネラは肺胞に到達し、そこで肺胞のマクロファージに貪食される。しかし、レジオネラは通性細胞内寄生性であり、その殺菌機構を逃れてマクロファージ内で増殖することが可能である(→サルモネラのマクロファージでの増殖参照)。レジオネラはマクロファージに取り込まれる際に出来る食胞に作用し、食胞膜の性質を変化させてリソソームとの結合性を失わせるとともに、その変化した食胞 (LCV, Legionella containing vesicle) 内で増殖する。LCVは、粗面小胞体と同様にリボソームが表面に結合した、多重の膜構造を持つ小胞であり、この小胞を形成することでレジオネラは分解されることなく細胞内に感染することが可能だと考えられている。

 
肺線維芽細胞で増殖する L. pneumophila

人工環境では、レジオネラはしばしばアカントアメーバなどのアメーバ類に寄生していることが知られているが、この生活様式が衛生学上、レジオネラを除去しにくいことに関わっている。これらの自由生活アメーバは浴槽などの表面に形成されるバイオフィルムに付着して生活していることが多いため、循環式のろ過処理設備から逃れて増殖可能である。レジオネラ自身、単独でもバイオフィルムの形成が可能である。またバイオフィルムの存在と、アメーバの細胞内に寄生していることによって、レジオネラに対して消毒薬が直接到達しにくいため、消毒薬の効果が妨げられる。さらに自由生活アメーバの中には、生育環境が悪化するとシスト(嚢子、のうし)と呼ばれる、耐久型の構造を形成するものがあり、この状態では熱や消毒薬に対する抵抗性が増加するため、内部のレジオネラが保護される形になって完全な除菌が難しくなるという問題が生じる。

病原性

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レジオネラは環境中に普通に存在する菌であり、通常では感染症を引き起こすことは少ない。しかしながら感染しやすい環境に示すような環境下では、特に高齢者等抵抗力の少ない人々にとって、主にレジオネラ属の一種、L. pneumophila が、ヒトのレジオネラ感染症(レジオネラ肺炎およびポンティアック熱)の原因になる。

下位分類(種)

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レジオネラ属は以下のを含む(2024年9月現在)[7]

IJSEMに正式承認されている種

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Benson et al. 1991
Gorman et al. 1985
Shimada et al. 2022
Lo Presti et al. 2001
Wilkinson et al. 1988
Girolamini et al. 2022
corrig. (Garrity et al. 1980) Brenner et al. 1980
Wilkinson et al. 1989
Park et al. 2003
Pearce et al. 2012
Brenner et al. 1985
Thacker et al. 1989
La Scola et al. 2004
Lück et al. 2010
Adeleke et al. 2001
Brenner et al. 1980
Brenner et al. 1985
Thacker et al. 1991
Adeleke et al. 2001
Herwaldt et al. 1984
Dennis et al. 1993
Morris et al. 1980
Bornstein et al. 1991
Lo Presti et al. 2001
Brenner et al. 1985
Kuroki et al. 2007
Bercovier et al. 1986
Brenner et al. 1985
Cherry et al. 1982
Thacker et al. 1994
Dennis et al. 1993
McKinney et al. 1982
(Drozanski 1991) Hookey et al. 1996
Brenner et al. 1985
Crespi et al. 2023
Campocasso et al. 2012
(Garrity et al. 1980) Hébert et al. 1980
Wilkinson et al. 1989
Yang et al. 2012
Dennis et al. 1993
Rizzardi et al. 2015
Orrison et al. 1983
Brenner et al. 1985
Brenner et al. 1979 (Approved Lists 1980)
Wu et al. 2019
Dennis et al. 1993
Benson et al. 1990
Cristino et al. 2024
Adeleke et al. 2001
Brenner et al. 1985
Campbell et al. 1984
Brenner et al. 1985
Bajrai et al. 2016
Li et al. 2021
Verma et al. 1992
Brenner et al. 1985
Edelstein et al. 2012
Brenner et al. 1985
Lo Presti et al. 1999
Ishizaki et al. 2016
Thacker et al. 1990
Campocasso et al. 2012
Edelstein et al. 1983
Benson et al. 1996
Dennis et al. 1993
Kuroki et al. 2007
(Garrity et al. 1980) Brenner et al. 1980

IJSEMに未承認の種

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  • "Legionella clemsonensis"
Palmer et al. 2016
  • "Legionella donaldsonii"
Lo Presti et al. 1999
  • "Legionella indianapolisensis"
Relich et al. 2018
  • "Candidatus Legionella jeonii"
Park et al. 2004
  • "Candidatus Legionella polyplacis"
Rihova et al. 2017
  • Legionella pittsburghensis
Pasculle et al. 1980

参考文献

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  1. ^ a b DON J. BRENNER, Ph.D., ARNOLD G. STEIGERWALT, B.S., and JOSEPH E. McDADE, Ph.D. (the Bureau of Laboratories, Center for Disease Control, Public Health Service, U.S. Department of Health, Education, and Welfare; Atlanta, Georgia) (1 April 1979). “Classification of the Legionnaires' Disease Bacterium: Legionella pneumophila, genus novum, species nova, of the Family Legionellaceae, familia nova”. Annals of Internal Medicine 90 (4): 656-8. doi:10.7326/0003-4819-90-4-656. PMID 434652. 
  2. ^ a b V. B. D. Skerman, Vicki McGowan and P. H. A. Sneath (01 January 1980). “Approved Lists of Bacterial Names”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 30 (1). doi:10.1099/00207713-30-1-225. 
  3. ^ Navneet Saini 1, Radhey S Gupta 2 (1: Department of Biochemistry and Biomedical Sciences, McMaster University, Hamilton, ON, L8N 3Z5, Canada, 2: Department of Biochemistry and Biomedical Sciences, McMaster University, Hamilton, ON, L8N 3Z5, Canada) (21 April 2021). “A robust phylogenetic framework for members of the order Legionellales and its main genera (Legionella, Aquicella, Coxiella and Rickettsiella) based on phylogenomic analyses and identification of molecular markers demarcating different clades”. Antonie van Leeuwenhoek 114: 957–982. doi:10.1007/s10482-021-01569-9. PMID 33881638. 
  4. ^ Aharon Oren1 and George Garrity2 (1: The Institute of Life Sciences, The Hebrew University of Jerusalem, The Edmond J. Safra Campus, 9190401 Jerusalem, Israel, 2: Department of Microbiology & Molecular Genetics, Biomedical Physical Sciences, Michigan State University, East Lansing, MI 48824-4320, USA) (03 February 2022). “Notification of changes in taxonomic opinion previously published outside the IJSEM. List of changes in taxonomic opinion no. 35”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 72 (1): 5164. doi:10.1099/ijsem.0.005164. 
  5. ^ D J Brenner 1, A G Steigerwalt, P Epple, W F Bibb, R M McKinney, R W Starnes, J M Colville, R K Selander, P H Edelstein, C W Moss (1: Division of Bacterial Diseases, Centers for Disease Control, Atlanta, Georgia 30333) (1 September 1988). Legionella pneumophila serogroup Lansing 3 isolated from a patient with fatal pneumonia, and descriptions of L. pneumophila subsp. pneumophila subsp. nov., L. pneumophila subsp. fraseri subsp. nov., and L. pneumophila subsp. pascullei subsp. nov”. Journal of Clinical Microbiology 26 (9): 1695-703. doi:10.1128/jcm.26.9.1695-1703.1988. PMC 266699. PMID 3053773. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC266699/. 
  6. ^ 永井宏樹:レジオネラと宿主真核細胞の相互作用 日本細菌学雑誌 Vol.69 (2014) No.3 p.503-511
  7. ^ Jean P. Euzéby, Aidan C. Parte. “Genus Legionella”. List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature. 2024年9月14日閲覧。

外部リンク

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