リストカット
リストカットは、カッターナイフなどの刃物を用いて主に手首を傷つける自傷行為である[1]。リスカと略される。
腕を傷つけるアームカットや脚を傷つけるレッグカットという言葉も存在し、それぞれアムカ、レグカと略される。
顔を傷つけるフェイスカット、略してフェイカ。
用語
編集1960年代から、アメリカでリストカットが流行し、1972年にはRosenthalらが、wrist-cutting syndromeと初めて記載したとされる[2]。
日本では手首 (wrist) を切る (cut) ことからリストカットと呼ばれる。これを略して「リスカ」と呼ばれることもある[3]。リスカをする者の事は「リストカッター」または「リスカー」と呼ぶことがある[4][5]。
また、リストカットに関連して、顔を刃物で傷つける行為をフェイスカット[6]、 腕を刃物で傷つける行為をアームカット(略して「アムカ」)[3]、脚を刃物で傷つける行為をレッグカット(略して「レグカ」)という[3]。
概説
編集リストカットは、言語化できない鬱積したストレスの表現方法の一つである[1]という説がある。ストレスを言語化して相手に伝えられない場合、「行動化」や「身体化」という形でストレスを発露する。「行動化」には歌を歌ったりスポーツをすることなどが分類される。これらは健康な行動化とされる[1]が、その一方で犯罪や非行に走るという形での「行動化」もある[1]。一方で身体化は、円形脱毛症や自律神経失調症など、身体でストレスを表出することで発露する方法である[1]。
「誰かの気を惹くために」行われるアピール的な行動とみられることも多いが、実際のところはそのようなエビデンスは存在せず、むしろ96%以上の人間は自傷を一人きりで行い、誰にも告白せず、ストレスもろとも一人で抱え込むことが多いと指摘されている[7]。
リストカットをしていることの露見を強く恐れる者は、アームカットや腹部など基本的に露出しない部位に対して行うこともある。
リストカット自体の致死性は極めて低い[8]。松本俊彦による調査では、リストカットをする理由として最も多いのは「不快感情への対処」(55%)であり、以下「自殺の意図」(18%)「操作・意思伝達」(18%)「その他」(9%)と続く[8]。
実際、自傷直後に脳内における内因性オピオイドの分泌が急激に高まることを明らかにした研究があり、リストカッターがしばしば証言するように「切ると気分が落ち着く、すっきりする」といった感情的苦痛を変容させる効果があることが示唆されている[9]。
一方、小学校高学年から中学1、2年にかけての若年で始まるリストカットは「自殺の意図」であることが多い[8]。
治療
編集基本的には数多くある自傷行為と同じである。
援助の方針
編集心構えとして、"Respond medically, not emotionally" (感情的に対処するな、医学的に対処せよ) が重要となる[10]。
リストカットのような自傷は見た目のインパクトが強く、目撃者に強い感情を呼び起こし、怖がる、怒る、泣く、叱責するなどの行為を感情的かつ短慮に行ってしまいがちである。
こうした反応は自傷を悪化させ、二次的なアピールを目的としたリスカにすり替わるおそれもある。
そこで、まずは気持ちを落ち着かせ、冷静な外科医のように傷を観察・必要な手当てを粛々と実行し、自傷に至った原因を冷静に推測・分析し、これに対処しなければならない。
支援方法
編集支援者は、リストカットを否定することなく、本人の気持ちやリストカットに至った経緯に丁寧かつ共感的に耳を傾け、リストカットの引き金(原因となっている事柄)を分析していく[11]。そのうえで、信頼関係を維持しながら、原因となっている事柄への対処方法を共同で模索し、心理的苦痛の緩和をサポートする[11]。
自傷の治療法・参考文献
編集- 松本俊彦、「自分を傷つけずにはいられない!」『児童青年精神医学とその近接領域』 57巻 3号 2016年 p.409-414, doi:10.20615/jscap.57.3_409, 日本児童青年精神医学会
- もしも身近な人の自傷に気づいたら- yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
- 自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント -
出典
編集- ^ a b c d e 内田伸子 2006, pp. 202–203.
- ^ 角丸歩「大学生における自傷行為の臨床心理学的考察」『臨床教育心理学研究』第30巻第1号、関西学院大学臨床教育心理学会、2004年、89-105頁、CRID 1571417127112034944、NAID 110002558472。
- ^ a b c “自殺対策におけるSNS相談事業(チャット・スマホアプリ等を活用した文字による相談事業)ガイドライン”. 厚生労働省. 2024年6月5日閲覧。
- ^ 天野武「相互行為儀礼と処罰志向のリストカット」『ソシオロジ』第50巻第2号、社会学研究会、2005年、87-192頁、doi:10.14959/soshioroji.50.2_87、ISSN 0584-1380。
- ^ 金愛慶、金子尚弘、土川洋子、若本純子「小・中・高校における児童生徒の自傷行為への対応(I)」『名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇』第44巻第2号、名古屋学院大学総合研究所、2008年1月、65-76頁、CRID 1390290699726106880、doi:10.15012/00000425、ISSN 03850056。
- ^ 藤澤三佳「非行の親の会における自助グループ機能について」『社会臨床雑誌』第27巻第1号、日本社会臨床学会、2019年、14頁、doi:10.24698/shakairinsho.27.1_14、ISSN 21850739。
- ^ Walsh Barent W.、松本俊彦、渋谷繭子『自傷行為治療ガイド』金剛出版、2007年。ISBN 9784772409568。国立国会図書館書誌ID:000008469700 。
- ^ a b c 松本俊彦「インタビュー リストカットの基本的な知識と学校での対応」『月刊学校教育相談』第24巻第3号、学校教育相談研究所、4-13頁、NAID 40016910945。
- ^ Coid, Jeremy; Allolio, Bruno; Rees, L. H. (1983-09-03). “RAISED PLASMA METENKEPHALIN IN PATIENTS WHO HABITUALLY MUTILATE THEMSELVES” (English). The Lancet 322 (8349): 545–546. doi:10.1016/S0140-6736(83)90572-X. ISSN 0140-6736 .
- ^ 松本俊彦『自分を傷つけずにはいられない : 自傷から回復するためのヒント』講談社、2015年。ISBN 9784062193160。OCLC 905899176。国立国会図書館書誌ID:026089556 。
- ^ a b 松本俊彦『自傷行為の理解と援助』日本評論社、2009年、189-194頁。
参考文献
編集- 内田伸子『発達心理学キーワード』有斐閣、2006年。ISBN 4-641-05882-2。