本稿では、ヨウ素の同位体について解説する。

概要

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ヨウ素(I)の同位体は、37種類が知られるものの、127Iのみが安定同位体であり、他は全て放射性同位体である。したがって、ヨウ素はモノアイソトピック元素の1つとして数えられる。しかし、宇宙線の影響や、地球上に存在するウランなどが自発核分裂を起こすことにより、半減期約1570万年の129Iが生成され続けている関係で、ごく微量ながら129Iも天然に存在する。また、近年はヒトが人工的に核分裂を起こしている関係で、放射性物質によって汚染された場所では、より高濃度に129Iが存在する。ヨウ素の他の同位体は半減期が短いため、通常は環境中に見られない。このため、標準原子量は126.90447uと、事実上127Iの質量と一致する。

129Iは、ウランなどの核分裂の結果生成される同位体の1つとして知られている。129Iは、半減期約1570万年でβ崩壊して129Xeとなって安定することから、核変換の対象として取り上げられることがある[1]

ところで、129Iには、36Clと類似点が見られる。36Clと比べると反応性に乏しいものの、129Iと36Clは、共に可溶性のハロゲンであり、主に吸着性のアニオンとして存在し、宇宙線と地球表面との相互作用によって生じることである。一方、36Clと異なる点もある。塩素全体の中の36Clの割合と比べて、ヨウ素全体の中の129Iの割合は極めて小さいこと。36Clの半減期が約30万1000年であるのに対して、129Iの半減期は約1570万年と長いこと。36Clと比べて129Iは生体親和性が高いこと。36ClがCl-となっていることが多いのに対して、129IはI-やIO3-など様々な形のイオンとなって存在することである。このことから、129Iは植物土壌乳汁動物組織などの生物圏に組み込まれている。

131Iは、半減期約8日の放射性同位体であり、β崩壊して131Xeとなって安定する。131Iは、ウランなどの核分裂の結果生成される同位体の1つとして知られている。半減期はわずか8日程度に過ぎず、129Iとは違って通常は環境中で見られることはない。

その他のヨウ素の同位体

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一覧の節などを参照。)

医療への利用

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ヨウ素の同位体の多くは、シンチグラフィ等の医療用途に用いられている。123Iや131I単一光子放射断層撮影(SPECT)に、124Iはポジトロン断層法(PET)に用いられている。これらは異なった画像品質となる[2]。また、125Iは前立腺癌に対する小線源治療に用いられる(小線源治療#適応を参照)。また、131Iは甲状腺機能亢進症甲状腺癌に対するRI内用療法に用いられる(RI内用療法#日本国内で保険承認されているRI内用療法を参照)。

一覧

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同位体核種 Z(p) N(n) 同位体質量 (u) 半減期 核スピン数 天然存在比 天然存在比
(範囲)
励起エネルギー
108I 53 55 107.94348(39)# 36(6) ms (1)#
109I 53 56 108.93815(11) 103(5) µs (5/2+)
110I 53 57 109.93524(33)# 650(20) ms 1+#
111I 53 58 110.93028(32)# 2.5(2) s (5/2+)#
112I 53 59 111.92797(23)# 3.42(11) s
113I 53 60 112.92364(6) 6.6(2) s 5/2+#
114I 53 61 113.92185(32)# 2.1(2) s 1+
114mI 265.9(5) keV 6.2(5) s (7)
115I 53 62 114.91805(3) 1.3(2) min (5/2+)#
116I 53 63 115.91681(10) 2.91(15) s 1+
116mI 400(50)# keV 3.27(16) µs (7-)
117I 53 64 116.91365(3) 2.22(4) min (5/2)+
118I 53 65 117.913074(21) 13.7(5) min 2-
118mI 190.1(10) keV 8.5(5) min (7-)
119I 53 66 118.91007(3) 19.1(4) min 5/2+
120I 53 67 119.910048(19) 81.6(2) min 2-
120m1I 72.61(9) keV 228(15) ns (1+,2+,3+)
120m2I 320(15) keV 53(4) min (7-)
121I 53 68 120.907367(11) 2.12(1) h 5/2+
121mI 2376.9(4) keV 9.0(15) µs
122I 53 69 121.907589(6) 3.63(6) min 1+
123I 53 70 122.905589(4) 13.2235(19) h 5/2+
124I 53 71 123.9062099(25) 4.1760(3) d 2-
125I 53 72 124.9046302(16) 59.400(10) d 5/2+
126I 53 73 125.905624(4) 12.93(5) d 2-
127I 53 74 126.904473(4) STABLE 5/2+ 1.0000
128I 53 75 127.905809(4) 24.99(2) min 1+
128m1I 137.850(4) keV 845(20) ns 4-
128m2I 167.367(5) keV 175(15) ns (6)-
129I 53 76 128.904988(3) 1.57(4)E+7 y 7/2+ 10-10~10-14
130I 53 77 129.906674(3) 12.36(1) h 5+
130m1I 39.9525(13) keV 8.84(6) min 2+
130m2I 69.5865(7) keV 133(7) ns (6)-
130m3I 82.3960(19) keV 315(15) ns -
130m4I 85.1099(10) keV 254(4) ns (6)-
131I 53 78 130.9061246(12) 8.02070(11) d 7/2+
132I 53 79 131.907997(6) 2.295(13) h 4+
132mI 104(12) keV 1.387(15) h (8-)
133I 53 80 132.907797(5) 20.8(1) h 7/2+
133m1I 1634.174(17) keV 9(2) s (19/2-)
133m2I 1729.160(17) keV ~170 ns (15/2-)
134I 53 81 133.909744(9) 52.5(2) min (4)+
134mI 316.49(22) keV 3.52(4) min (8)-
135I 53 82 134.910048(8) 6.57(2) h 7/2+
136I 53 83 135.91465(5) 83.4(10) s (1-)
136mI 650(120) keV 46.9(10) s (6-)
137I 53 84 136.917871(30) 24.13(12) s (7/2+)
138I 53 85 137.92235(9) 6.23(3) s (2-)
139I 53 86 138.92610(3) 2.282(10) s 7/2+#
140I 53 87 139.93100(21)# 860(40) ms (3)(-#)
141I 53 88 140.93503(21)# 430(20) ms 7/2+#
142I 53 89 141.94018(43)# ~200 ms 2-#
143I 53 90 142.94456(43)# 100# ms [>300 ns] 7/2+#
144I 53 91 143.94999(54)# 50# ms [>300 ns] 1-#

出典

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  1. ^ 長寿命核分裂生成物の半減時間を9年以下に短縮”. 東京工業大学 (2020年1月14日). 2023年5月25日閲覧。
  2. ^ Erwann Rault, Stefaan Vandenberghe, Roel Van Holen, Jan De Beenhouwer, Steven Staelens, Ignace Lemahieu (2007). “Comparison of Image Quality of Different Iodine Isotopes (I-123, I-124, and I-131)” (abstract). Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals 22 (3): 423–430. doi:10.1089/cbr.2006.323. http://www.liebertonline.com/doi/abs/10.1089/cbr.2006.323. 

参考文献

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外部リンク

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