メリン変換
数学におけるメリン変換(メリンへんかん、英: Mellin transform)とは、両側ラプラス変換の乗法版と見なされる積分変換である。この変換はディリクレ級数の理論と密接に関連しており、数論や漸近展開の理論においてよく用いられる。ラプラス変換、フーリエ変換、ガンマ関数や特殊関数の理論と関係している。
定義
編集局所可積分な関数 f のメリン変換は
により定義される。 任意の小さな正の数 に対して、 のとき 、 のとき と評価できるならば、上の積分は絶対収束する。さらに、 は で解析的な関数となる。
また、メリン逆変換は
により定義される。記号は、複素平面上の縦軸に沿った線積分を意味している。ここで、 c は を満たす任意の実数である。 このような逆が存在するための条件は、メリン逆定理で与えられている。
他の変換との関係
編集両側ラプラス変換は、メリン変換を用いて
と表すことが出来る。反対に、メリン変換は両側ラプラス変換により
と表される。
メリン変換は、積分核 xs を用いた、乗法的ハール測度 についての積分と考えることが出来る。ここで は拡張 について不変であり、したがって が成り立つ。一方、両側ラプラス変換は加法的ハール測度 についての積分と考えられる。ここで は移動不変であり、したがって が成り立つ。
同様にフーリエ変換もメリン変換を用いて表すことが出来、またその逆も出来る。もし両側ラプラス変換を上述のように定義するなら、
が成立する。反対に
も成立する。メリン変換はまた、ニュートン級数や二項変換を、ポアソン-メリン-ニュートン・サイクルの意味におけるポアソン母関数と結び付ける。
例
編集カヘン-メリン積分
編集、 および主枝上の に対して、
が成立する。ここで はガンマ関数である。この積分はカヘン-メリン積分として知られている[1]。
数論
編集数論における重要な応用例として、単関数 に対し
が成立する、ということが挙げられる。
ゼータ関数
編集メリン変換を用いることで、リーマンゼータ関数 についての公式を得ることができる。 としたとき よって
L2 上のユニタリ作用素として
編集ヒルベルト空間の研究において、メリン変換は少し異なった方法で定められる。 (Lp空間を参照されたい)の関数に対して、基本帯(fundamental strip)は常に を含む。そのため、線形作用素 を
によって定義することが出来る。言い換えると、集合
を定義することが出来る。この作用素は通常 とシンプルに記述され、「メリン変換」と呼ばれる。しかしここでは、上での記述と区別するために を記号として用いる。このときメリン逆定理により、 は可逆であって、その逆は
と得られることが分かる。さらにこの作用素は等長であること、すなわち がすべての に対して成立することが分かる(この性質のために係数 が用いられている)。したがって、 はユニタリ作用素である。
確率論において
編集確率論におけるメリン変換は、確率変数の積の分布の研究によく用いられる[2]。X を確率変数とし、X+ = max{X,0} をその正の部分、X − = max{−X,0} をその負の部分としたとき、X のメリン変換は
として定義される[3]。ここで γ は、γ2 = 1 を満たすもの(formal indeterminate)である。この変換は、複素帯領域 D = {s: a ≤ Re(s) ≤ b}(ただしa ≤ 0 ≤ b)内のすべての s に対して存在する[3]。
確率変数 X のメリン変換 は、その分布関数 FX を一意に定める[3]。確率論におけるメリン変換が持つ重要な性質として、次が挙げられる: X および Y を二つの独立な確率変数としたとき、それらの積のメリン変換は、それぞれのメリン変換の積と等しい[4]。すなわち、
が成立する。
応用
編集メリン変換は、そのスケール不変性のため、計算機科学の分野で広く用いられている。あるスケール変換を施された関数のメリン変換の絶対値は、もとの関数の絶対値と等しい。このスケール不変性は、フーリエ変換のシフト不変性とも同様である。時間に関してシフトされた関数のフーリエ変換の絶対値は、もとの関数のそれと等しい。
この性質は、画像認識を行う際に役に立つ。物体の画像は、その物体がカメラに近づいたり離れたりするだけで簡単にスケールが変わってしまうからである。
その他の例
編集関連項目
編集注釈
編集- ^ Hardy, G. H.; Littlewood, J. E. (1916). “Contributions to the Theory of the Riemann Zeta-Function and the Theory of the Distribution of Primes”. Acta Mathematica 41 (1): 119–196. doi:10.1007/BF02422942. (See notes therein for further references to Cahen's and Mellin's work, including Cahen's thesis.)
- ^ Galambos & Simonelli (2004, p. 15)
- ^ a b c Galambos & Simonelli (2004, p. 16)
- ^ Galambos & Simonelli (2004, p. 23)
参考文献
編集- Galambos, Janos; Simonelli, Italo (2004). Products of random variables: applications to problems of physics and to arithmetical functions. Marcel Dekker, Inc.. ISBN 0-8247-5402-6
- Paris, R. B.; Kaminski, D. (2001). Asymptotics and Mellin-Barnes Integrals. Cambridge University Press
- Polyanin, A. D.; Manzhirov, A. V. (1998). Handbook of Integral Equations. Boca Raton: CRC Press. ISBN 0-8493-2876-4
- Flajolet, P.; Gourdon, X.; Dumas, P. (1995). “Mellin transforms and asymptotics: Harmonic sums”. Theoretical Computer Science 144 (1-2): 3–58.
- Tables of Integral Transforms at EqWorld: The World of Mathematical Equations.
- Weisstein, Eric W. "Mellin Transform". mathworld.wolfram.com (英語).
外部リンク
編集- Philippe Flajolet, Xavier Gourdon, Philippe Dumas, Mellin Transforms and Asymptotics: Harmonic sums.
- Antonio Gonzáles, Marko Riedel Celebrando un clásico, newsgroup es.ciencia.matematicas
- Juan Sacerdoti, Funciones Eulerianas (in Spanish).
- Mellin Transform Methods, Digital Library of Mathematical Functions, 2011-08-29, National Institute of Standards and Technology
- Antonio De Sena and Davide Rocchesso, A FAST MELLIN TRANSFORM WITH APPLICATIONS IN DAFX