マルマライ

トルコのボスポラス海峡を横断する海底鉄道トンネルにより、イスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を接続する事業、およびその成果たる鉄道路線

マルマライトルコ語: Marmaray)はボスポラス海峡を横断する海底鉄道トンネルにより、イスタンブールヨーロッパ側とアジア側を接続する事業の名称、及び鉄道路線。Marmaray の名称は事業区域のすぐ南にあるマルマラ海 (Marmara) と、トルコ語で鉄道を意味する ray のかばん語(混成語)である。

マルマライ
Marmaray
ロゴマーク
TCDD E32000(トルコ語版)(アイルルク・チェスメシ駅にて撮影)
基本情報
トルコの旗
所在地 イスタンブール県コジャエリ県
詳細情報
総延長距離 76.6km
駅数 43
軌間 1,435mm
電化方式 交流25,000 V英語版
架空電車線方式
路線図
路線図
マルマライの路線図。
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概要

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赤い部分が事業区間であり、点線部分がトンネルとなる。

イスタンブールは人口1300万人を抱え一大経済圏を形成し、またアジアとヨーロッパの境界という地理的な要因によって交通の要衝として栄える、イスラム圏最大級の世界都市である。そのイスタンブールにおいて都市形成に大きな影響を与えているのが、ヨーロッパとアジアを分断する全長約30kmのボスポラス海峡であった。

この海峡には第一ボスポラス大橋ファーティフ・スルタン・メフメト橋という2本の道路橋やフェリーなどの船舶があるものの、人口増加や経済発展に伴い深刻化するイスタンブールの交通事情のボトルネックとなっていた。そのため地下トンネルによって両岸を鉄道で結ぶ事で街の混雑緩和を図り、海峡で二分された街の一体化によって名実ともに“アジアとヨーロッパの結合点”として成長させる、トルコの国家を挙げての一大事業がマルマライであった。

計画自体はオスマン帝国時代の1860年に設計図が描かれて以降、何度も計画が立ち上がったものの、政治的あるいは技術的理由により頓挫した経緯を持ち、トルコ国内では“トルコ150年の夢”として国民の関心も高い[1][2]

事業区間はボスポラス海峡下を沈埋トンネル(ボスポラス海峡横断トンネル)によって横断する13.6 kmの区間と、既存設備を改良する63 kmの郊外区間に分けられ、ゲブゼ駅ハルカル駅間、計76.3 kmは高頻度運転路線となっている。日本大成建設と現地トルコのガマ重工業、ヌロール社の3社によるJV[1]、高度な技術を必要とする沈埋トンネル部分を主に大成建設が、近隣対策が必要な郊外部分を主にガマ重工業およびヌロール社が施工した。

トンネル

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海峡区間は、11個の函を組み立てた全長1,387mの沈埋トンネルにより横断する[3]。これらの函はもっとも深いところで海面下約60mの場所に置かれている。海水部分が55m、海底部分が4.6mである[4]。世界有数といわれる海流速(約2.5m/秒)という厳しい条件下での施工であったが、2004年5月に着工し、2008年8月には海中60mでの沈埋函接続を、2010年2月には海底トンネル(沈埋工法)とアジア側のアイルルクチェシュメから掘られた陸地トンネル(シールド工法NATM工法)との接続をそれぞれ成功させた。2011年2月にはヨーロッパ側のカズルチェシュメから掘られたトンネルとも接合され、トンネル全体が貫通した。

なお、海底トンネル沈設完了の公式セレモニーは2008年10月13日[5]、貫通記念セレモニーは2011年2月26日にそれぞれ執り行われた[3][注釈 1]

鉄道

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地下駅としてユスキュダル駅(新設)、シルケジ駅イェニカプ駅が建設され、37駅は改築あるいは改装された[6][7]。イェニカプ駅ではイスタンブール地下鉄およびライトレールと接続している[8][9]。郊外線の改良区間では3線目の線路が追加され、両方向とも輸送能力が 7万5000人/時に増やされた。ゲブゼ‐ハルカル間を104分で結ぶ[7]

2008年11月11日現代ロテムはこのプロジェクト向けの車両の供給を5.8億ユーロで契約したと公表した。現代ロテムは交通省が提示した440両の製造に関する競争入札において、アルストムCAFボンバルディアシーメンス・Nurolのコンソーシアムに勝利した。

全長 22m のステンレス車は5両編成または10両編成で組成される。現代ロテムとトルコの車両製造メーカーTÜVASAŞの合弁会社ユーロテム英語版により製造される車両もある。車両は3次に渡って製造され、最初の2011年には160両製造され、2014年に完了する予定とされた。

2013年8月4日に、試運転が始まり、トルコ共和国建国から90周年に当たる2013年10月29日に開業し、開業記念式典・開通式典には日本の安倍晋三首相も出席した[10]

この完成によってイスタンブールでの公共交通の鉄道利用率が3.6%から27.7%に上昇し、東京の60%、ニューヨークの31%に次いで世界第3位になるとされていた。従前フェリーで30分かかっていた海峡間の移動は、4分に短縮された[1]

工事

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遺跡の出土

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事業は2010年時点で、2年以上の遅れが発生していた。この遅れは海底トンネルのヨーロッパ側の終端予定地でのビザンティン帝国時代の遺跡の発掘が大いに関係している。(2005年に、4世紀のコンスタンティノープルの港「ポルトゥス・テオドシアクス(Portus Theodosiacus テオドシウス港)」の遺跡を掘り当てた[11]。)歴史上これまでに発見された中で唯一のビザンチン様式の海軍艦艇らしきものの研究者による復元のため、建設計画がフルスピードで実施されることを妨げている[要出典]。さらに発掘により、アンフォラを含む古器物加工品、陶器の欠片、貝殻、骨、馬の頭蓋骨、袋の中に入った9つの人間の頭蓋骨等、イスタンブールにおける定住の最古の証拠が掘り出され、紀元前5000年より前から人間がイスタンブールに住んでいたことが分かった[12]。建設工事の遅れによりトルコ政府は1日あたり100万ドルの収入が減るが、政府はその遺跡を破壊する余裕がない[要出典]

工事中の地震対策

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トンネルは北アナトリア断層から18kmしか離れていないため、その影響を懸念する技術者や地震学者もいる。1万人以上が死亡した巨大地震が知られているだけでも2桁は発生しており、30年以内にマグニチュード7.0以上の地震に見舞われる可能性が最大77%になると科学者により見積もられている[13]。トンネルが建設される場所の下の水を多く含み泥のような土壌は地震で液状化することが知られており、技術者は安定にするために海底下24mに工業用セメントを注入している[14]。トンネルの壁面は防水コンクリートと鋼鉄のシェルでできており、それぞれが独立して水の浸透を防ぐ。地震が発生した場合に、高層建築物のように曲がるように造られている。壁が壊れた場合には、函の接続部にある水門が閉まり、水を隔離できる[15]

建設工事を監督している国際コンソーシアム Avrasyaconsult のプロジェクトマネージャー Steen Lykkeはそのことを要約して「このプロジェクトに欠けているチャレンジは思いつかない」と発言している[11]

援助

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マルマライに対し、国際協力機構欧州投資銀行が主に援助している。2006年4月までに、旧国際協力銀行が1110億円の円借款を[16]欧州投資銀行が10億5000万ユーロを融資している。マルマライの総工費は約25億ユーロ(約4100億円)と見積もられた。

使用車両

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駅一覧

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駅名 駅間キロ (km) 累計キロ (km) 接続路線 所在地
日本語 トルコ語
ハルカル駅 Halkalı 0 0 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(ブルガリア方面、アンカラ方面)、  B2号線トルコ語版
イスタンブール地下鉄   M1A・M2A号線トルコ語版英語版(建設中)、  M11号線トルコ語版英語版(建設中)
イスタンブール県 イスタンブール キュチュクチェクメジェトルコ語版
ムスタファ・ケマル駅 Mustafa Kemal 1 1  
キュチュクチェクメジェ駅 Küçükçekmece 2 3  
フロリヤ駅 Florya 2 5   バクルキョイトルコ語版
フロリヤ水族館駅 Florya Akvaryum 1 6  
イェシルキョイ駅 Yeşilköy 3 9  
イェシルユルト駅 Yeşilyurt 2 11  
アタキョイ駅 Ataköy 2 13 イスタンブール地下鉄  M9号線トルコ語版英語版(建設中)
バクルキョイ駅 Bakırköy 1 14 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(アンカラ方面)
イェニマハレ駅 Yenimahalle 1 15  
ゼイティンブルヌ=フィシェカーネ駅 Zeytinburnu-Fişekhane 2 17   ゼイティンブルヌトルコ語版
カズルチェシュメ駅 Kazlıçeşme 2 19  
イェニカプ駅 Yenikapı 3 22 イスタンブール地下鉄   M1A・M2A号線トルコ語版英語版  M2号線トルコ語版英語版 ファーティフトルコ語版
シルケジ駅 Sirkeci 3 25 İETTトルコ語版  T1号線トルコ語版英語版
ユスキュダル駅 Üsküdar 3 28 イスタンブール地下鉄  M5号線トルコ語版英語版 ユスキュダル
アイルルク・チェスメシ駅 Ayrılık Çeşmesi 5 33 イスタンブール地下鉄  M4号線トルコ語版英語版 カドゥキョイ
ソウトリュチェシュメ駅 Söğütlüçeşme 1 34 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(アンカラ方面)
İETTトルコ語版  メトロビュストルコ語版英語版
フェネルヨル駅 Feneryolu 1 35  
ギョズテペ駅 Göztepe 1 36  
エレンキョイ駅 Erenköy 2 38  
スアディエ駅 Suadiye 1 39  
ボスタンジュ駅 Bostancı 2 41 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(アンカラ方面)
イスタンブール地下鉄  M8号線トルコ語版英語版
カドゥキョイ
キュチュクヤル駅 Küçükyalı 1 42   マルテペトルコ語版
イデアルテペ駅 İdealtepe 1 43  
スレイヤ・プレジュ駅 Süreyya Plajı 2 45  
マルテペ駅 Maltepe 1 46  
ジェヴィズル駅 Cevizli 2 48  
アタラル駅 Atalar 2 50   カルタルトルコ語版
バシャック駅 Kartal 1 51  
カルタル駅 Başak 1 52  
ユヌス駅 Yunus 2 54  
ペンディク駅 Pendik 2 56 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(アンカラ方面) ペンディクトルコ語版
カイナルジャ駅 Kaynarca 2 58  
テルサネ駅 Tersane 2 60  
グゼイヤル駅 Güzelyalı 1 61  
アイドゥンテペ駅 Aydıntepe 1 62   トゥズラトルコ語版
イチュメレール駅 İçmeler 1 63  
トゥズラ駅 Tuzla 3 66  
チャユロヴァ駅 Çayırova 4 70   コジャエリ県 ゲブゼ
ファーティフ-ゲブゼ工科大学駅 GTÜ - Fatih 1 71  
オスマンガーズィー駅 Osmangazi 1 72   ダリジャトルコ語版
ダリジャ駅 Darıca 1 73  
ゲブゼ駅 Gebze 2 75 トルコ国鉄  YHTトルコ語版  中長距離列車(アンカラ方面)
コジャエリ地下鉄M1号線トルコ語版(建設中)
ゲブゼ

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^ 貫通式典には同国のレジェップ・タイイップ・エルドアン首相など政府要人も駆けつけており、このプロジェクトの重要性が窺える。

出典

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  1. ^ a b c “ボスポラス横断トンネル、29日開通式典”. 建設通信新聞 (日刊建設通信新聞社). (2013年10月11日) 
  2. ^ a b 大成建設 | ボスポラス海峡トンネル篇CM
  3. ^ a b 大成建設 | プレスリリース - ボスポラス海峡横断鉄道トンネル貫通 2012年1月30日閲覧。
  4. ^ Smith Julian, "The Big Dig" Wired Magazine. Sept. 2007
  5. ^ [1]
  6. ^ Facts and figures Archived 2007年10月20日, at the Wayback Machine., web page at the Marmaray web site. 2007年9月24日閲覧。
  7. ^ a b Travel time and alignment Archived 2005年3月2日, at the Wayback Machine., web page at the Marmaray web site. 2007年9月24日閲覧。
  8. ^ Istanbul Archived 2007年9月25日, at the Wayback Machine., web page at urbanrail.net. 2008年9月4日閲覧。
  9. ^ Istanbul Metro and LRT Archived 2007年10月20日, at the Wayback Machine., web page at the Marmaray web site. 2007年9月24日閲覧。
  10. ^ “日-トルコ「友情のシンボルに」 首相、ボスポラス海峡横断地下鉄開通で祝辞”. MSN産経ニュース. (2013年10月29日). https://web.archive.org/web/20131029003815/http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131029/plc13102908410004-n1.htm 2013-10-29 Archiveurl=https://web.archive.org/web/20131029080412/https://sankei.jp.msn.com/politics/news/131029/plc13102908410004-n1.htm Archivedate=2013-10-29閲覧。 
  11. ^ a b Smith Julian, 前掲誌 p. 157.
  12. ^ Smith Julian, 前掲誌 p. 159.
  13. ^ Heightened odds of large earthquakes near Istanbul: An interaction-based probability calculation, web page at the USGS web site. 2008年9月6日閲覧。(日本語版PDFファイル
  14. ^ PowerPoint Slide (PDF file, p. 6), web page at the ita-aites web site. 2008年9月6日閲覧。
  15. ^ Smith Julian, 前掲誌 p. 158.
  16. ^ 2008年の政府系金融機関改組で円借款は国際協力機構に移管された。

外部リンク

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