マズルエネルギー
マズルエネルギーとは、銃口から発射された弾丸のもつ運動エネルギー。日本語においてはマズルエナジー、初活力、銃口エネルギー、銃口威力など呼称は様々。空気力学や重力を考慮せず、火器や実包の持つ破壊力を大まかに比較することができる。マズルエネルギーは弾丸の質量はもちろん、弾の速度が大きく影響し、重く速いほど破壊力も大きい。
運動エネルギー
編集運動エネルギーの一般的な算出式は以下の通り。
- v には弾速
- m には弾丸の質量を代入する。
マズルエネルギーには質量、弾速の二要素が関係しているが、弾速は二乗される。そのためマズルエネルギーの決定には、弾速が大きな比重を占める。速度をそのままに質量が倍増すれば、エネルギーは倍となるが、質量をそのままに速度が倍となれば、マズルエネルギーは4倍となる[1]。国際単位系で、質量の単位がキログラムで、弾速の単位がメートル毎秒であれば、上の式のEk はジュールとなる。
有名な火器と実包の、一般的なマズルエネルギー
編集口径 | 種類 | 弾丸の質量、 g (gr) | 弾速、 m/s (ft/s) | マズルエネルギー、 J (ft lb) |
---|---|---|---|---|
.22 Long Rifle | ライフル、拳銃 | 2.5 (38) | 300 (1,000) | 140 (100) |
.380ACP弾 | 拳銃 | 5.8 (90) | 300 (1,000) | 270 (200) |
.38スペシャル弾 | 拳銃 | 7.5 (115) | 270 (900) | 300 (220) |
9x19mmパラベラム弾 | 拳銃 | 8.1 (125) | 350 (1,150) | 494 (364) |
.357マグナム弾 | 拳銃 | 8.1 (125) | 460 (1,500) | 846 (624) |
10mmオート弾 | 拳銃 | 10.0 (155) | 386 (1,265) | 750 (550) |
.40S&W弾 | 拳銃 | 7.5 (115) | 360 (1,180) | 649 (479) |
.44マグナム弾 | 拳銃 | 12 (180) | 470 (1,550) | 1,150 (850) |
.45ACP弾 | 拳銃 | 12.0 (185) | 300 (970) | 523 (386) |
.45コルト弾 | 拳銃 | 14.6 (225) | 240 (800) | 340 (250) |
5.45x39mm弾 | AK-74ライフル | 3.4 (53) | 880 (2,900) | 1,327 (979) |
5.56×45mm NATO | M4、M16、AR-15系ライフル | 4.0 (62) | 991 (3,251) | 1,767 (1,303) |
7.62x51mm NATO弾 | M14ライフル | 9.3 (144) | 838 (2,749) | 3,304 (2,437) |
.308 Winchester | ライフル | 9.7 (150) | 860 (2,820) | 3,590 (2,648) |
.270 Winchester | ライフル | 9.7 (150) | 880 (2,900) | 3,798 (2,801) |
.30-06 Springfield | M1 Garand ライフル | 9.7 (150) | 890 (2,920) | 3,849 (2,839) |
7mm Remington Magnum | ライフル | 10.7 (165) | 900 (2,950) | 4,330 (3,190) |
.300 Winchester Magnum | ライフル | 12 (180) | 900 (2,960) | 4,700 (3,500) |
.300 Weatherby Magnum | ライフル | 12 (180) | 970 (3,190) | 5,430 (4,005) |
.375 H&H Magnum | ライフル | 19 (300) | 860 (2,830) | 5,783 (4,265) |
.458 Winchester Magnum | ライフル | 26 (400) | 752 (2,468) | 7,336 (5,411) |
.50 BMG | 重機関銃、対物ライフル | 49 (750) | 860 (2,820) | 17,952 (13,241) |
M829 (砲弾) | 対戦車砲弾 | 10,000 (150,000) | 1,600 (5,100) | 12,100,000 (8,900,000) |
マズルエネルギーは前述の要因に大きく影響されるが、弾速は弾丸が発射される銃身の長さにも左右される[2]。また、マズルエネルギーは標的に伝わるエネルギーの上限に過ぎず、銃創の効果には他複数の要素が絡む。上の一覧に掲載されているものは平均的な数値だが、市販弾の性能は製品によって様々。11.6gの弾丸が.357マグナム拳銃から発射されたときのマズルエネルギーは580ft lbだが、7.1gの弾丸を同じ銃で撃っても400ft lb程度にしかならないように、弾丸の製造業者によってエネルギー値は変わる。中には、上の表の平均的な値を遥かに超える1,200ft lbものマズルエネルギーをたたき出す.45コルト弾も存在する。
マズルエネルギーに関する法的規制
編集国や地域によっては、狩猟用途のマズルエネルギー最小値が規定されている。例えばデンマークでは、アカシカのような大型獣の狩猟用小銃弾は、100mの距離で9g以上の弾丸を用いて2700J/E100、10g以上の弾丸を用いるならば2000J/E100rという基準を満たさなければならない[3]。ナミビアでは狩猟用途の火器の最小マズルエネルギー値が3種類規定されており、スプリングボックなどには1350J、ハーテビーストなどには2700J、さらに大物には5400Jとなっており、全て7mm口径以上であることが求められる[4]。
ドイツでは、マズルエネルギーが0.5J以下のエアソフトガンは火器の法律の範疇に入らないが[5]、7.5J以下の空気銃は免許が無くても入手可能[6]。
関連項目
編集参照
編集- Edward F. Obert, Thermodynamics, McGraw-Hill Book Co., 1948.
- Mc Graw-Hill encyclopedia of Science and Technology, volume ebe-eye and ice-lev, 9th Edition, Mc Graw-Hill, 2002.
参考文献
編集- ^ a b Rhee, Peter M.; Moore, Ernest E.; Joseph, Bellal; Tang, Andrew; Pandit, Viraj; Vercruysse, Gary (2016-06-01). “Gunshot wounds: A review of ballistics, bullets, weapons, and myths”. The Journal of Trauma and Acute Care Surgery 80 (6): 853–867. doi:10.1097/TA.0000000000001037. ISSN 2163-0755. PMID 1586154 2018年3月3日閲覧。.
- ^ “BBTI - Ballistics by the Inch - Home”. ballisticsbytheinch.com. 2018年5月5日閲覧。
- ^ “Bekendtgørelse om skydevåben og ammunition, der må anvendes til jagt m.v.” [Hunting weapons and ammunition act] (Danish). retsinformation.dk. Miljøministeriet (2012年12月17日). 2015年3月10日閲覧。
- ^ “NAPHA - Namibia Professional Hunting Assiation: Hunting Laws& Rifle Importation”. napha-namibia.com. 5 July 2015閲覧。
- ^ “Ab welcher Geschossenergie fallen Soft-Air-Waffen unter das Waffengesetz?” [From which muzzle energy does Airsoft guns fall under the gun law?] (ドイツ語). www.bmi.bund.de. 2015年9月17日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “Waffengesetz (WaffG)” [gun law] (ドイツ語). gesetze-im-internet.de. 2015年9月19日閲覧。